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偽国戦記  作者: ブレヒトさん
魔晶戦争
55/131

渡河作戦 -誇りなどなく-

死にひんした際の感情の高まりを利用する大魔術、パンデミックにより、結界を汚染されたケルサス王国軍。

大国として負けられない彼らは、渡河作戦の実行を決意する。

 ドライ山地に日が沈もうとして、各陣には(かがり)火がともり始めた。

 秋の入り口にさしかかり、山はほのかに赤く色づいて、黄昏の西日を受ける。まだらに紅葉する森が照らされて今がまさに恵の季節なのだと実感させる。

 渡り鳥が宿を求めて木々を揺らし、獣が家路を急いで下草を駆ける。

 いつもと変わらない穏やかな光景が、戦争に明け暮れる人種を呆れたように見下した。

 そして、その美しさは、世界が彼らだけのものではないことを雄弁に語っていた。


****


 ヤーヘン軍は1個連隊、約2500名を残し後退していた。戦況を考えれば、渡河をこそ阻止すべきであり、それなりの戦力を投入すべきであった。

 しかし、彼らの選択したのは愚策にも思える兵の温存であった。

 連隊を除く5万の兵は後方のハイデンベルグ城とそれを取り囲む市街地に入っていた。

 他方、河をはさんだ岸辺にはケルサス軍4万が布陣していた。

 

 その河岸には、パンデミックを起こした敵兵の痕跡が流れ着き、血の匂いが立ち込めていた。

 実際は、二百やそこいらの兵であったから、大河にあっては血の匂いなどしなかったかもしれない。しかし、若いケルサスの兵達はそれを感じていたし、流れる血を見ていたのだった。

 そして、その中で兵達は飯を食い、来たるべき夜に備えなければならなかった。

 たとえ、血と食事の匂いが混ざり合って、耐え切れなくなった胃が顫動(せんどう)を繰り返したとしても。


 川岸で、敵軍から立ち上る煙を眺めていたケルサスの連隊長が鼻を鳴らした。


「のんきに食事の準備とは。なるほど、続きは明日、日が昇ってからというつもりか」


 脇には少佐の階級証をつけた魔術士が控えている。

 連隊長もその位階にしては若いが、彼もまた若かく、未だ二十前半というところであった。


「ティアーガ大佐、敵から複数の魔力源が飛び立ちました。使い魔の部隊でしょう。夜間の偵察と思われます」


「ばれていないと思っているのか?あるいは慢心か?結界を汚染した程度でケルサス相手に優位に立てるとでも?」


 少佐が連隊に合図を送る。

 背後に控えていた3000もの兵が青い燐光を放ち始める。

 異変を察知した使い魔部隊が騒がしくなり、敵陣から慌てて戦の準備を整える喧騒が伝わってきた。

 それを待っていたかのように、ケルサス本陣でも複数の魔力が発動し、急ぎ、川岸に展開した部隊に通信魔術が走った。彼らに伝えられたのは、使い魔の総数、種族、構成など。迷彩を施された使い魔たちであったが、魔力が乱れたためにほぼ全てのが情報が明らかにされる。

 それを可能にしたのは、何処の軍よりも質の高い解析兵とそれが持つ装備だった。わずかな魔力の乱れから迷彩結界を解析し、無効化する。ケルサスが大国と君臨し続けるのは、なによりも装備と人員個々の質、そういった理由が大きかった。


 通信兵から解析結果を受け取った少佐が苦笑する。


「どれも目ばかり良くてたいした攻撃手段を持たない種族ばかりです。舐められたものですね」


「まったく、安心しきって。パンデミックだと?はっ!それがどうした雑魚どもが。貴様らが相対しているのは何処の誰だと思っているんだ」


 慌しく臨戦態勢を整える敵軍のざわめきが風に乗り、川面を伝わって、魔術の波動がこだまとなる。


「動揺は悟られるな、そんなことは軍事の基本だろうになあ!!」


 ティアーガの小柄な体から魔力がほとばしった。

 彼、いや彼女の両手を軸にして魔法陣が回転しながら体積を増大させる。

 開放された魔力の波は火、水、土、風を示して七色に輝いて、質量を得る。

 軍帽が高く飛ばされ、逆立った赤毛が日の沈んだばかりの暗がりの中で、彼岸花のように狂い咲いた。


 彼女の背後の兵一人一人の軍服が発する光の強度が高まり閃光となる。

 それは、軍服に縫いつけられた魔石の輝き。

 ティアーガは口角を上げて、祝詞(のりと)を読む。


「唄え、我らが原初の唄を。

 命を守護する、救いの言葉を。

 寄せては高まる波頭のしぶき。白く染まりて、汚れを落す。

 ああ、波間に浮かぶ、あなたの楽園(パライソ)

 我らを導き、入らせたまえ」


 彼女の詠唱は解放の号令となり、戒めを解かれたセイレーンのように声高に歌声を響かせる。


永劫(えいごう)たる我らの旅路。

 耐え忍ぶ具足を求めん。

 ああ、アーティファよ。救いの巫女よ。

 貴女の愛に包まれて、我らは永遠への旅人となる」


 閃光が収束し、臨界点を突破して形をなす。

 重厚な鎧となって、非力なうつし身を包む。

 手甲から放射状に光りがのびきて盾となった。

 銃剣が、サーベルが、メイスが河とリンクされて水属性を帯びる。


礼拝(サラート)!!」

 

 そして、彼らは永遠の楽園への旅人となった。

 過酷な旅路に耐える具足をまとい、愛の女神アーティファがその夫とともに建設した原初の王国めざし、命を賭して大地を踏みしめる。

 

 ティアーガを指揮官として新設された重装魔術歩兵連隊。

 過剰な戦力を持った一軍が、ヤーヘンに向かい武器を掲げた。


 まともな軍ならば、夜に渡河を試みようとはしない。視界が悪いから、一歩間違えば川に足を取られて部隊に要らない損害が出るし、攻撃をうければ容易く混乱する。それでも、それが当然とばかりにケルサスは行動を開始した。

 勝機があるから、敵がいるから、国土奪還のために殲滅しなければいけないから。

 逢魔が時、王国の兵は微塵の油断も無く、愛国者達は河に入るのだ。


「少佐、通信は最小限に。先陣は第三歩兵大隊と共に私が勤める。非魔術兵の魔石コントロールは貴君が握れ」


 少佐が首を振る。


「・・・ミミ大佐、連隊長が一番槍を務めるなんて可笑しいとは思いませんか?」


 勢いよくメイスを掲げたティアーガ大佐、本名ミミが少佐をにらみつける。


「今度その名でよんだら、殺すぞ」


 少佐が肩をすくめて、部隊に振り返った。


「各部隊、聞け。大佐が先陣でお出になる。遅れを取るなよ。勝利を我らが御大将に。時代遅れの敵兵に、我らが大地の肥やしとなる栄誉を与えようではないか」


 薄い胸を張って、大佐が頷く。


「少佐、奴らに夜の闇なぞなんの障害にもならないことを教えてやれ」


 少佐はにこやかに敬礼を返すと、言霊をつむぎ始めた。

 魔術部隊が唱和し、空に巨大な魔法陣が展開される。


 炎熱が夜空を照らし、魔法陣から火の玉が空に放たれた。

 戦場を照らす太陽。

 敵襲に備えていたヤーヘン軍の誰もが手を止めて空を見上げた。

 パンデミックでケルサスが紫色に染まる空を見上げたように、それ以上の脅威を覚えながら、ヤーヘンは絶大な魔力の波動に包まれた。


 ―ばかな―


「そうだ、これがケルサスだ。思い出しただろう?我らの力は貴様らが及ぶべくもない。誰に歯向かったのか、ケルサスの力、改めてその身にたたきこんでやる」


 ティアーガの顔に魔力の兜が被せられる。

 腹に力を入れて、横隔膜を震わせて、小さな体からよく響く声が闇夜にこだました。


「総員、抜刀!!」


 部隊が河に入り、魔石が河の水と反応し、一歩進むごとに氷の足場が築き上げられていく。

 当然ながら、こんなことは世界史を紐解いても見られない。

 それには多くの魔術士を必要としたし、連隊規模で可能にするには魔力がいくらあっても足りはしない。

 ではなぜ可能だったか?

 それは技術の進化によるものに他ならない。

 小康状態で、とりあえず続く平和が各国に技術革新を促し、とりわけ資源が豊富で内戦でその必要性を強く感じたケルサスが先んじたのであった。

 しかし、資源大国のケルサスといえども、これほど大規模な部隊全員に、これほど強力な魔石を配ることは大きな負担であった。魔石は調整するのに時間と手間がかかり、おまけに使い捨てであったから、魔石を多く使うティアーガの部隊を攻城戦ではなく、ここで投入することはケルサスにとって一つの賭けであった。

 けれども、ケルサスはここでの使用を選択した。

 無視できない戦略上の理由があるからであった。

 通常、渡河作戦なるものは、落とされた橋の再建と遮るものが無い河上の戦いを強いられるため、大きな犠牲が出る。そのため、もし渡河戦において手間取ってしまい、犠牲が増えてしまえば軍全体の士気は著しく下がる。さらに、この戦争ではパンデミックのおかげで兵たちが動揺していたから、ケルサスにとって、さらなる士気の低下は致命傷になりかねなかった。だから、ケルサスは最大限の成功を収める必要に迫られていた。

 さらに、ヤーヘンが侵攻を決断したのは、商会から提供された技術というアドバンテージを得たからに他ならないから、それに勝る技術をケルサスが持っているということを早めに見せ付ける必要があった。

 つまり、ケルサスは敵軍や商会だけではなく、自軍にも強さを示さなければいけなかったのだった。


****


 河に作られていく氷の橋をみて、ヤーヘンの将は唇をかんだ。

 

(一個連隊約3000名をわたらせうる橋だと?)


 同盟国であっても、ケルサスが我が国ヤーヘンを完全に信じていたわけではないことは解っていた。

 有事に備えて、河になにか仕掛けているだろうことは容易に想像できたし、結界の汚染により迷彩がはがれた今では、それが明らかになっていた。

 結界に厳重に守られた魔力増幅の魔方陣。それを使用することによって軍全体に水上歩行を可能にする魔術をかける。鈍重な大砲や糧秣(りょうまつ)を運ぶために、ケルサスは魔法陣をこのナハル川に仕込んでいた。

 魔法陣の存在が明らかになると、ヤーヘンはそれの発動に神経を尖らせた。

 破術の魔具をかき集め、使い魔を飛ばして情報を集めた。


(それが、どうだ。そんなものを使わずとも、奴らは兵を送り込んできた。我らを混乱させるために、あえて戦力を見せ付けてきたのだ)


 急速な冷却により、川面が水蒸気に包まれる。


「将軍!」


 命令を待つ伝令の叫びで彼はわれに返った。

 そうだ、手を打たなければこのまま渡河を許してしまう。


「全部隊に砲の開門を伝えろ。その後に魔銃による一斉射撃を」


「水蒸気のため、敵が視認できません!」


「敵の迷彩ははがれているのだぞ、探索させろ」


「敵は連隊規模ではありますが、先陣は広く散開している模様。結界兵の居場所を掴むには、解析兵が足りません」


榴弾(りゅうだん)も使え。結界兵に当たる確率を少しでも上げろ。橋を落すには結界兵をしとめなければいかん」


 ―当たるはずがないじゃないか―


 走り去る伝令の後姿がそう言っていた。

 だからといって何もしないわけにはいかない。

私は見返さなければならないのだ。

 

 -ケルサスが渡河を試みた場合は、適当につつくだけでいいです-


 魔力を消耗するだけだから、と言う、商会の技術に心酔した総司令官であった王子の言葉に反対し、将軍は陣を敷いた。商会の都合に付き合って敵を消耗させるチャンスをふいにすることなど、軍人としてありえなかった。


 川岸に魔力の波動が伝わり、ケルサスの軍が迫りつつあるのが、将軍にもはっきりと感じ取れるようになった。

 攻撃魔術を受けて、空に展開していた使い魔たちが奇声を上げて堕ちていく。

 フィードバックを受けて主達が昏倒あるいは死亡したのか、衛生兵を呼ぶ声が幕内で聞こえた。


 渡河を阻止するには、岸にたどり着く前にどれだけの数を減らせたのかが重要だった。

 それが少ない場合は、魔銃や突撃でしとめれば良い。しかし多い場合は面倒なことになる。


 魔銃の射程に入ったのか、数百のはじける様な音が重なり合い、火薬の匂いが立ち込めた。


「視界が悪くとも、おおよその位置はわかるはずだ。残弾は考えるな。撃ちまくれ。魔術士は補助を怠るな」


「騎士は?」


 解析結果をさばきながら、参謀が問いかける。


「突撃の準備を」


 将軍は古い男だった。

 銃を握る平民、高射砲の弾丸に魔力をこめる魔術士の姿なんて見たくは無かった。

 戦争は魔術士、騎士の仕事であり、平民が参加する必要などないと信じていた。

 高まる軍備の世代交代による重火器の使用なんて言語道断。ただいたずらに戦闘参加者を増やして、国を背負うべき若者を戦場に送って不具にして母親に返す。

 まさに本末転倒。

 ばかげている。

 国を背負うのは、若者たち。

 国のために死ぬのは最小限でいい。そのために貴族がいるのだし、軍があるのだ。

 高まりつつある権利、誰もが国ために戦うなどという世迷言は唾棄すべきだ。

 戦争は残酷であり、しかし外交の最終手段でしかない。

 そこに宿命などありはしない。

 騎士が英雄譚で飾るのは、そうしなければ狂ってしまうからだ。


 そう理解していたから、彼は軍に居場所を失いつつあった。

 権利を主張して戦争に参加しようとする平民の若者は彼を憎み、技術に触れた若い将たちは彼を軽んじた。

 しかし、彼は確信していた。

 銃と大砲の限界を、そして魔力の可能性を。


****


 横陣を敷いたヤーヘンから乾いた音がして、魔力の甲冑に無数の弾丸が着弾する。

 魔術によって貫通力が増したはずのそれは、いとも容易く弾かれた。

 まるで小うるさい羽虫が飛び交っているかのように、重装歩兵達はわずかに身じろぎするだけ。

 彼らは、その気になれば大砲から射出された弾さえも受け止めるのだ。

 いかに魔術によって威力をました弾丸とてなんになるだろうか。


 ヤーヘンの張った魔術、物理によるトラップをものともせずに、嘲笑うかのように歩を進める。

 それでも狂ったように撃ち続ける敵兵の足掻きは止むことはない。

 やめることなど出来はしない。

 命令だからではない。

 認めたくないからだ。

 殺戮の法が支配する戦場において、自分たちが弱者であることを。


****


「さあ、行こうか」


 緊張をはらみながらも、軽やかな声でケルサス王国連合軍、カルブルヌス騎士団国軍筆頭騎士オーギュント・エンロケセール・デュルイは草むらから立ち上がった。

 彼の軍服に埋め込まれた魔石から光りがはじけ、紋章が背後に描き出された。

 それは、戦神アルファスと聖巫女アーティファが作り上げた大帝国の聖具であった「アルファスの戦斧」を模す。

 カルブルヌス騎士団国の戦場旗にして、敵軍にとっては地獄へのみちしるべ。


 木々の間から濃密な魔力がこぼれだして、戦場の死神たちがゆらり立ち上がった。


 エンロケセール、狂気の名を冠した王子は、殺戮の舞台を演出する超一流のアーティスト。

 軽やかに、どこまでも冷酷に、踊るように首級を挙げるのだ。

 出演者に選択権は与えられない。

 死神たちとともに、事切れるまで死の舞踏を踊り狂うのみ。


 仮面をつけた死神たちが薄く(わら)った。

 

 -戦神の名の下に、薄汚い侵略者どもに苛烈なる死の鉄槌を-


 カルブルヌスの騎士、戦こそが彼らの安住の地。太平の世に彼らの居場所は存在しない。

 ならば、国土回復、正義に燃える御敵は彼らの存在理由そのものだった。


 殺戮を義務とし、最強を約束された剣鬼オーギュントは、今、殺戮の許しを得た。


 強化歩兵連隊の築いた氷の橋から、彼らは敵軍に踊りかかった。

 秩序など無い。

 ただ獣が獲物に襲い掛かるように。


 ****


 部隊のあちこちで、悲鳴が上がる。


「なにが起こっている!!」


 しかし、意味をなす報告はもたらされない。


「落ち着いて報告をまとめろ!各騎士、結界兵を補足し、安全を確保しろ。解析兵、敵は迷彩をはれないのだ。報告が上げられている場所ごとに精査しろ!」


 連隊の混乱を抑えるべく、声を張り上げた。


「急襲、騎士によるものと思われます!各大隊の騎士、魔術士が狙われています。報告によれば、攻撃方法に統一性はありません」


 半狂乱になりながら、伝令が駆け寄ってきた。


「馬鹿な!河から距離がありすぎる。結界はどうした!!」


 伝令兵が、次の瞬間、火炎に包まれた。

 見ると、仮面をつけた薄着の女が魔法陣を背に空中から見下ろしていた。

 一際大きい悲鳴がした方では、同じく仮面をつけた大柄な男が人の丈ほどもある大剣で部下たちを切裂いていた。


 敵を押しとどめるために編成され、結界で防御を固めた本陣の精鋭が紙くずのように切裂かれていく。

 そこかしこで兵達は切り刻まれ、燃やされ、氷漬けにされて、盲目の家畜のように無様な鳴き声を上げる。


 -なんだ、これは-


 こんなことが、許されて良いはずが無い。

 ここにいる誰もがケルサスに打ち勝つべく強固な意志を持って集ったつわものたちなのだ。

 こんな簡単に、まるで虫けらのように殺されていい理屈は無い。


 将軍は今まさに両断されようとしていた若い兵の手を掴み、引き寄せた。

 彼の僅か数センチ先を剣が軌跡を描いて振り下ろされた。


「無事か!?」


 叫び、問いかけた将軍の、しかし腕の中で若い兵は血しぶきを上げた。


「ああああああああああああ」


「こうか。よしっ!カイが言ったのはこういうことだったんだな!真空の層をまとわせるか。なるほどなるほど。あいつ上手いこと言うな」


 絶叫した先に、あどけない笑顔を浮かべた青年が立っていた。

 背に大剣を背負い、手には薄いサーベルを下げて、独り言を言っている。


 腰をぬかしてしまって、彼を見上げた。

 他のものとは違って彼は仮面をつけていない。

 深みのある青い瞳に、ライトブラウンの髪。

 視線を下げて、軍服に刻まれた紋章を見た。


 そして、脱力した。


 ―カルブルヌス、その王族―


 ならば、敵はその近衛部隊。


 目が合った。

 自分が泣いているのが分る。

 どうして?

 死ぬからではない。

 ああ、そうだ、どうしようもなく誇らしいのだ。


 脳裏に騎士と魔術士が支配する戦は終わったのだと、彼に告げた王子の顔がよぎった。


 ―王子よ、貴方は間違っています―


 次の瞬間、彼は切り離されて、血しぶきを上げる己の体を見た。


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