金は天下の回り物
ユウトたちは昨日訪れる予定だった歓楽街を歩いている。地域住人や旅人でごった返し、活気に溢れ過ぎているようだ。初めて来た人間なら、何かの祭りがあるのかと勘違いしそうなほどだ。
(すげーな)
雑踏で身動きがとりにくく、喧騒で気が遠くなるようだ。あまりの状態に、ひょっとしたらあそこよりもすごいんじゃないか、と思った。狭い所に密集しているからこうなっているのだろうか。もうちょっと広い所に行きゃいいのに。
人口密度がハンパではないのでそれだけで疲れてしまう。そんなユウトを守るようにレイラ、ルーギ、カレンが周りを固める。身動きがとれないからとか、はぐれないように彼を目印にしているとかでは断じてない。
朝、レイラたちと合流を果たすと昨日は回りきれなかった場所の観光に出かける。物資調達は前日になんとか済んだので観光だけに意識を向けられる。確かあの時レイラの言う通り片づけてしまってよかった。俺だけだったら絶対やっていない。夏休み終焉の一週間で終わらせるタイプだ。
やるべき事が終わったので穏やかでいられる。
もう一つ理由がある。視線がないからだ。
昨日ひと騒動起こす原因となった陰からの視線が今日はない。どこからも感じられない。そりゃ通り過ぎ様や前方を向く、目だけで見られたりはする。そういう当たり前のものではなく、悪意のある視線は感じられないということだ。念のために。まぁルーギが騒いだから若干嫌な目は向けられたけど。
何度かレイラに聞かれたが、異常はない、と安心させるように言った。その言葉に素直に頷く。疑うことなく受け止めてもらえるのは嬉しいものだ。信頼されていると感じる。
合流する前から気になっていたカレンも何事もないかのようにしている。つい前日死ぬところだったのに、だ。さすがに各地を旅しているだけはあるか。慣れっことまではいかないだろうが、思ったよりもたくましい。
だったら身を守る術の一つや二つ持っておけ、というのはナンセンスだぜ。その方が使命感に燃えるだろ。俺がやらなきゃって気分が高揚するし、やる気がドカンと出てくる。きっと普段以上の力を発揮出来る。庇護欲が刺激されて、なんというか……男の役目みたいな。今の時代には合わないとか言われそうだが、何かを護ろうとするっていうのは大事だと思う。自分を奮い立たせる意味でも。それに古臭いとか言われてもここなら関係ないもんね。
俺は護りたいんだ。
レイラに対してもそう。できれば傷つくことはしてほしくないのだがそうも言えない。だから美しいのだろうし、輝いているのだろう。魅かれたのだろう。せめて最小限に抑えるぐらいは気をつけてほしい。まぁそのために俺がいるわけだが!
今こうして歓楽街を歩きながらも気配や視線の確認は怠らない。あれもやってこれもやって、外部からの刺激にもさらされる。けっこう大変だ。だがレイラたちの協力、そしてこういう場にある『陽』の気分を刺激するようなエネルギーのおかげか気分が回復するようだ。
やがて密集地帯を抜け、少し道幅が広い所に出る。そのおかげか身動きが楽にとれるようになった。周りを見る余裕が生まれると、様々な人たちがいるのがわかる。
自分たちのような旅人や、地域住民と思しき人、揃いの衣服を身につけた団体さんなどだ。
そういういわゆるマトモな人たちばかりならいいのだが、そうじゃないところが常なわけで。
向こうでいう不良っぽい連中や力を誇示するために武器を担いだり、幅をとるバカ共、無駄に威圧や恐怖を与え自分が一番だと思っている…等々。
はっきりいって俺はそういう連中が大っ嫌いだ!
自分が中心かのようにふるまい、ムードメーカー(うおぇ!)だという勘違い、一人じゃ何も出来ないので必ず集団になる。どこへ行くにも何をするにも必ず誰かと一緒。もう、お友達と一緒!だ。
用を足すぐらい一人で行けよ。一人じゃ何も出来ないの、ちゃんと出来るか見てて?離れないで!怖いのほぉ…。とかなってるくせに群れた途端増長し、怖いものなんかない、オレたちが主流だ、いいだろ、かっこいいいだろ……挙げればキリがない。その思考の元動き、感じをバシバシ出す。絶対思ってるし。
そして何故か、本当に疑問で仕方がないがそういう連中は女子と絡むのが上手い。いっそむかつくぐらい。とはいっても、もはや人種の違う、似たような女子の場合が多い。もちろんそうでない時もあるが。類は友を呼ぶ……?のだろうか。その女子も男子に話しかけ、女子の中では主流派を語っている。そういった連中がいわゆるカースト上位と呼ばれる。盛大な勘違いというか良い御身分だ。あごだけで生きてるような人間が。
バカ共同士騒ぎ、女子と普通に話ができる。寸分違わずこちらのムカつきポイントを狙ってくる。一体どこまでイラつかせるのだろうか。人をイラつかせる天才だな。あのハエ共は。本当どっか消えてくんねーかな。
はっきりいって毛嫌いなんてもんじゃないくらい嫌いだ。なんならヴァーカ!と叫びたいくらい嫌いだ。視界にも入れたくない。
それ自体は今も同じなのだが、奇妙なことに別の思いも上がってきた。ただいきがってるようにしか見えず、大きく見せようと必死になっているようにしか思えず、ほほ笑ましい。少しかわいらしく見えた。この俺がだぞ。
自称カースト上位(笑)、自称ムードメーカー(爆)、自称主流(死)撲滅委員会委員長のこの俺が。……まぁ活動なんてしてないし、委員も俺一人しかいないんだけどさ。
なんというか妙なものだ。まったく別の感情を抱くとは。向こうでも同じになるのか?……なりたいようななりたくないような。
人が多いということは活気があるといえる。だが同時にトラブルも起きやすい。特にああいうチリ共がいると確率は跳ね上がる。その他にも血の気の多い、自信過剰、値切り…、トラブルの種はあちこちにある。
例に漏れず今もその種が芽吹いた。
少し先に人が固まり何かを見ている。あまり大きな騒ぎになっては困るのでユウトたちも近づくことに。人が多く、距離もあるため全部は見えないが、胸ぐらを掴み合い、怒鳴っているようだ。聞こえてくる話によれば肩がぶつかっただの、装備が邪魔だの些細にも程が、実にくだらない理由だった。
ああいう連中はどこにでもいるものなんだな。何をしたいのか、何を思っているのかまったくもって理解出来ない。したいとも思わないけど。なんというか……ガキだな。
呆れているとついに殴り合いが始まった。
(あ~らら、やっぱりか)気に入らない相手、イチャモンをつける、睨み合い、怒鳴り合い、とあれば最終的には殴り合いしかない。話し合いなんて出来る奴らじゃないし。それにこんなに観客がいるんだからやらないわけにもいかないよな。見世物としては悪くないし。俺だったら御免だけど。
観客の存在や飛び交う野次、続々と集まる野次馬に本人たちを含めヒートアップし、祭りのようになる。アマの格闘技の。
「…まずいな」
これ以上の騒ぎになるのは避けたいので、止めにいこうとするレイラ。しかしユウトは型に手を置き制止させた。
「ああやって暴れさせた方がストレス発散になるから放っておけ」
「周りに被害が出るかもしれないぞ」
「無関係の奴に殴りかかるよりマシじゃねぇの?同等の奴同士ぶつけた方が互いの為になるし、俺たちの為にもなる」
「私たちの?」
「アイツらが因縁つけてきたら面倒だろ?その気力や体力を勝手に削っていってるんだから助かるってもんだ」
「ふぅむ…そういうものか…」
「あと他の奴らへの牽制にもなる」
「牽制?」
「自分はこれだけの力を持ってる、もし攻撃してきたら無事じゃ済まないぜ、って意味だな」
尋ねてきたカレンに解説する。
「だからヘタに逆らわない方がいいっていうアピールと、あとは単純に見せつけてるんだろうな」
「なるほどねぇ~!」
感心したように頷くカレンとレイラ。冷めてると思いきや鋭い洞察、やはりこいつは凄いな。
「まぁそれと今回とはまったく関係ないんだけど」
「…え?」
あっさり先ほどまでの意見を切り捨てた。その清々しさというか変わり身の早さに目が点になる。
「だって奴ら見てみろよ。そんな高尚な戦略とは無縁なバカっぽい顔してるだろ?っていうかバカなんだけどさ。全体の感じからしてもこう…わかるだろ?」
ズバズバ言ってくる内容に驚くが、残念なことに同意できてしまった。もしかしたらあれもワザと演じてる…とも思えなかった。あれは素だ。戦略家とは程遠い。良くて鉄砲玉とかパシリとかそのレベルだろう。
「単細胞というか脳筋タイプのアホだからこのままにしとけ。関わるだけバカバカしい」
冷たく言い放った。
レイラは思った。この男がここまで感情を表に出しているのは珍しいと。付き合いが短いので驚いたといっても許してくれそうだ。この感じからして文句は言うような気がするが。良くも悪くも新たな一面を見られたというのはいいが、過去に何かあったのだろうか、と勘繰りたくなる。かなり嫌っているのは誰の目から見ても明らかだ。…いや、人には誰しも過去がある。それは良いものばかりではない。聞けば答えてくれるかもしれないが、それは違う気がする。気になるがこいつから話してくれるまで待っていよう。ただし、
「被害が出てからでは遅いから警戒だけはしておくぞ」
渋々ながら頷いたユウトだった。
そうこうしているうちにもますますヒートアップしてくる。当人たちも周りも。野次が飛び交い物も飛び交う。そろそろ本当にまずいんじゃないかと思いユウトを見るが動く気配はなし。もう既にかなり騒ぎになっている。早くしないと保安隊が駆けつけてくるのではないか。そうなると余計な負傷者を出してしまう。それでは遅すぎる。
「ユウト」
「まだだ」
しかし許可を出さない。こいつならわかっているはずなのに。
「今ここで止めてもまたどこだでぶつかり合う。それなら遺恨残さずやらせた方がすっきりする。それに周りを見てみろ」
レイラたちの周りもはやし立て、「ボディだ!」「アッパーいけ!」など一緒になって盛り上がっている。まるで格闘技の観戦のような異様な空間がそこにはあった。
「ああやって日ごろの憂さを晴らしてるんだ。カレンも言ってたろ?ガス抜きはしなきゃいけないって。奴らにとってはこれがそうさ。ここには否定する奴らはいねぇ。みんな楽しんでるよ。悪趣味かもしれないがそれを奪っちゃいけない。怒りの矛先がこっちに向かってくるなんてアホらしいし、嫌だろ?」
説得力のあることを言ってくる。ついそうだなと納得してしまいそうになるが、
「…それはお前が面倒くさいだけじゃないのか……?」
動きたくないから色々理屈をこねているような。
「ばれたか」
悪びれもせずあっさりと白状した。その様子に思わずため息が出た。
「心配すんな。本当にやばくなりそうだったらやる。それまでは観戦者だ」
「……それまで動くつもりはないんだな」
ジト目を向けるレイラなのだった。
中心の二人は激しく殴り合い、衣服も乱れ、肩を大きく上下にさせている。しかし止めるという選択肢はないようで、ギラギラした眼光をぶつけあっている。
きっかけはなんだか覚えちゃないが、今は目の前のコイツをぶちのめす。そうしなけりゃ治まらねぇ。
男は近くに落ちていた水筒ほどの筒を対戦相手に向けて、ブンッ!と音がするほど勢いよく投げた。至近距離からだったにもかかわらず、一瞬硬直しただけで自身の反射神経を活かし見事避けた。
目標物を失った筒は誰にぶつかることもなく、勢いそのままに観衆の間を飛んでいった。
ガツン!あろうことかそのままユウトの額に命中した。
「だ、大丈夫か?」
驚きとともに心配するレイラ。しかし本人はかなり大きな鈍い音がしたというのに一切動じていない。それがポーカーフェイスなのか本当に効いていないのか。はたまた当たったと思ったのは勘違い…?しかしよく見れば赤くなっている。とりあえず当たったのは間違いないようだ。ともかく無反応無表情なのだ。
心配するのは間違っているのか…?不安になってくる。
そう思っていると再び何か飛んできた。先ほどより勢いも重さもないカップが右側頭部に当たってしまう。まるで、コンッ、と音が聞こえてくるようだった。中身が入っていなかったのがせめてもの救いか。
このとばっちりを受けたユウトは、レイラが止める間もなくズンズン観衆を押しのけて進んでいった。そして二人の姿がはっきりと見える距離までノンストップで近づくと、
「テメェラ何してけつかんねん!ゴラァ!!」ターボをかけ、怒鳴りながら突進していった。突然の事に対処しきれていない二人にこれ幸いとばかりに殴りかかる。そして約二分後、地面にはボコボコにされた二人が倒れていた。
この乱入者に周りは大盛り上がり、指笛が響き、拍手喝采となる。
ユウトは靴の裏にへばりついたガムを見るかのような視線を二人に向け、「調子のんじゃねぇよ、クソが」怒りが静まりきっていないのか吐き捨てた。そこで周囲が騒がしいことに気がついた。
(…ヤベー……やっちまった…)
我に返ったユウトはとても気まずい。ここまでやるつもりはなかったのだが、つい勢いにのってしまい制御しきれなかった。完全に悪目立ちだ。誤魔化しようもない。
(どーすんだこれ…どうすりゃいい…)
こんなことならずっとボコボコにしていればよかった。そうすればこんな気まずくならなくていいのに。だが向けられる視線に浴びせられる拍手、歓声。それらが自分に対するものだと気づくと自然と手をあげ、応えていた。ますます盛り上がる周囲。やってしまったことは変わらないが、今はそれ以上に心が晴れやかだ。俺という存在を認められたようで。主役になったようで気分が良い。
こういう雰囲気は好きだ。とはいっても今まで味わったことはないので、想像でしか語れないのだけど。だから戸惑いもある。色んな感情がごちゃまぜになり、フワフワした気持ちになる。
もっとここにいたい!俺に向けてくれ!俺を見ろ!そんな風に思う。だけどいつまでもここにはいられない。そろそろ夢の国とはおさらばして、本来のところに戻らないと。
最後にもう一度片手をあげて応えるとレイラたちの元に戻ろうとした。すると観戦していた中から一人の男が進み出てきた。続いてもう一人、更に一人…、計五人の男が乱入し、挑発し、勝負を挑んできた。どいつもこいつも頭の悪そうな、血の気の多い、喧嘩っ早い連中だ。
なかなか返事をしないユウトに彼らの短い気が持つわけもなく、「何してんだよオラァ!」「早くしろや!」「ビビッてんのかぁ!?ああ!?」
安い挑発だ。そんなもんにのるのはお前らみたいな程度の低い同レベルの連中だけだ。
「騒ぐんじゃねーよカス共。お前ら待ってるって出来ねーの?」
ビキビキッ!
「慌てなくてもちゃーんと折りたたんでやるから。それとも肉屋に吊るされる方がいいか?まぁ廃棄処分確定のゴミクズだろうけど」
ブチィ!!
「上等だゴラァ!!」「死ねやぁ!!」「ハイキソブンはテ#$%※△!!」
ユウトの挑発に簡単にのった男たちは殴りかかってくる。それを躱し、殴り、蹴り、叩きつけ、ものの一分もしないうちに積み重なっていた。
ますます盛り上がり勝負を挑まれるが連戦連勝。結局八回までやってしまった。人数にいたっては覚えてない。というより数えられない。一体一じゃないんだから。乱戦のようなもので一体どうやって数えろってんだ。
今までにないぐらいノッてるのだが全員の相手は出来ない。そして忘れていたわけではないが、頭の片隅に追いやっていた事をそろそろ優先させなければならない。
勝負を挑んでくる男たちから隠れるように素早く観衆たちの中に姿をくらませた。回り道をして追手がいないことを確かめると、レイラたちと合流し急いでその場を後にした。
「酷い目に遭った」
喧騒から離れると、はぁ、と一息。
「お前(アンタ)が言うな」
レイラ、ルーギ、カレンの三者からツッコミを入れられる。
「お前とんでもねぇことしてたな!ってかすげぇ!」
「本当よね。わたしたちには関わるな、とか、観戦者までにしておけとか言っときながら…。自分はなに?思いっきり当事者になってるじゃない」
「言ってる事とやってる事が違ぇーよってな!」
「あれぐらい派手に矛盾するなんてルーギも真っ青ね」
「オレもあそこまではやらねぇぞ。ってか出来ねぇ」
「アンタを超えるバ…アホがいるとはね」
「おい?」
「あれ?なんかオレに向かってる?」
「ルーギも見倣えよ?」
「お、おう」
「いや、見倣わなくていいから」思わずユウトもツッコみ、カレンと重なった。
「それにしても意外というか…驚いたな。お前がああいう事をするとはな」
「したくないってだけで出来ないわけじゃないからな」
「散々渋り、面倒くさがってたというのにな。まったく奴ら以上に暴れて……」
「それは…すまんとしか言いようがない……」
おかしくなっているのには途中で気づいたのだが、止められなかった。
「まぁ、あのとばっちりを受けたのだからな」
派手に暴れるタイプには見えないので余計に衝撃を受けた。しかしあれは怒るのも無理はない。ただ、やはりというか……、
「途中からのはいらなかったな」
憂さ晴らしというか、テンションが上がり過ぎた末の行動にしか見えない。もしくはサービス。
そこはユウトも自覚しているので若干顔色を変える。しかし理由はあるという。
「あれも牽制だよ。あの場にいた連中への」
「ヘタにやらない方がいいのではないか?こういってはなんだが、あの程度の連中とやったところで…」
「傍から見りゃな。けどあの中にいた何人かは違う。奴らは相手がどうのなんて理由で、目を曇らせも判断を鈍らせもしない」
「…何者だ?そいつらは」
「わからない。ただ間違いなく手練れだな」
身の程知らずを成敗していた時だ。こちらを見つめる好戦的な視線、闘いを見てうずうずしているようだった。強い者を見ると闘わずにはいられないという純粋な気持ちの者がほとんどだと思う。だが何人か纏う雰囲気が違う者たちがいた。鋭い目で見つめ、何を考えているかわからず、観察し、こちらの実力を計っているような。どこかの組織の一員か、それとも個人か。
何もないということは恐らくない。どのタイミングかはわからないが、どこかで関わってくる。あの感じからしてそう思えてならない。
「どう関係してくるかわからないが、何かされても困るからな。一応牽制しておいた。とりあえず簡単に手が出せる相手じゃないってぐらいはわかったはずだ」
「そうだったのか……」
そんなことになっていたとはまったく気づかなかった。だがあの大衆だ、何人かそういう連中がいてもおかしくない。自身の目的や命に関わってくるのだから、情報収集や戦力解析は常に行っていなければならない。ただやり過ぎたようには感じる。というかあれだけ見れば何も考えずにやったと思えてならない。
正体不明の傍観者、か。心配は拭えそうもない。どれだけの効果があったのかはわからないが今はユウトを信じるしかない。
「何が起きても大丈夫な気構えは持っていなければならないが、深く考え過ぎるのはよそう」
「そうだな。無駄に不安をあおってもしょうがねぇし」
いざとなったら俺がなんとかすればいいだけの話だ。
「だよな。考えてもしょうがねぇよな。なるようにしかならねぇ」
その通りなのだが何故だろう。
「ルーギが言うと不安ね……」
まさにその通りだ。
「でもわからなくはないから、あれは盛り上がり過ぎた催し物ってことにしない?」
「それがいいな。おもしろいものも見れたし」
そう言ってユウトをチラリ。
「ん?」
「いや、私たちにあれこれ言って止めておきながら、自分は率先して動くという素晴らしい矛盾が見れたなぁと」
「…蒸し返さないでくれ……」
面目ないというしかない。レイラに言われて思ったが、ちと派手に暴れ過ぎたか?キツクやってはないが心配だ。以前残虐な一面を見せたことを思いだし、幻滅されたかと不安になる。本性はそちらではないかと。
だがそれはまったくの杞憂というもので、「人間らしくて良いと思うぞ。むしろ普段の方が表情や感情が乏しく、何を考えてるかわからない。…ちょっと不気味だ」。などと言われてしまった。
褒められてんのか貶されてんのか。…どっちもか。どうしたら良いのかわからないのと、遠慮していただけだったのだが、逆効果だったようだ。レイラだけでなく、ルーギ、カレンも同様だったが、この男は違った。
「あまり目立つ行動をすると相手に気づかれる。それだけでなく、余計な騒動に巻き込まれる。お前一人なら構わないが今は違う。もっと慎重に行動しろ。旅の目的を忘れるな」
鋭い目で釘を刺された。
「…すまん」
好きではないとはいえフラッツの言う事はもっともなので反論出来ない。たとえ理由があったとしても。
二人の考えをわかっているのでレイラも、
「次からは私もなんとか止めるが、自分でも気をつけてくれよ?」
茶化すように言った。
おかげで空気が軽くなった。こういう気遣いみたいなのが出来ると良いんだけどな、と思いながらレイラを見た。
大衆酒場に入り一息つく。だが人が多く賑わっているのでただの小休止といった感じだ。酒場という名前らしくアルコール飲料の提供を多くしている。昼夜問わず。そのため現在も泡立つ黄色の液体が入ったカップを持つ者が何人もり、既に酔っ払いもいる。酒というのは夜飲むというイメージがあったので不思議に感じるが、どうやら関係ないようだ。
ユウトが暴れたため、噂が静まるまでどこかで身を潜めようということになった。ここを選んだのはフラッツだ。曰く『人を隠すなら人の中』らしい。こんな奴がひと気のないところにいた方がよっぽど目立つとか、レイラに頼まれ協力した、という裏話があったりする。
今のところバレてる様子はない。それにはとりあえずホッとする。あそこまでの騒ぎになるとは思わなかったのだ。有名人はこんな気持ちなのかと思ったり。
そしてもう一つホッとしたのが酒を飲まなくてもいいということだ。酒場だと飲まなければならないのではないか、と内心ビクビクしていたが、必ずしもそうではないらしい。年齢制限があるのかわからないができれば守りたい。少なくとも向こうの基準は守らないと。
注文をするためにルーギ、カレン、フラッツが席を立つ。奥の壁にメニューが貼ってあるのだがよく見えない。ユウトも同行しようとするがレイラに止められる。
「お前が行ってはバレる」
そうなっては全てが台無しだ。申し訳ないと思いながらカレンにレイラと同じものを頼んだ。
非常に賑わい、店内の内装といい、雰囲気といい、気に入った。ただ初めての場所で浮かれてるだけかもしれないが。
「こういうところには来たことがあるのか?」
物珍しそうにしているユウトに尋ねた。レイラもまたバレる心配が少ないとはいえ有名人であるため留守番だ。
「あんまりないな。でもけっこう良いところじゃん。仲間とか関係なく一緒に盛り上がれるそうで」
当然出来るかどうかは別問題だ。
「確かに需要はあるな。それなりに利益になる時もあるが…」
「まぁ騒がしいな」
それには苦笑しながら頷く。
気に入ったがそれは内装から作りだされる雰囲気だ。バカ騒ぎしている奴らや大声を出している連中がいるので居心地は悪い。騒がしすぎる。
「けどそれが俺たちの気配を消してくれるんだから複雑だよな」
「まったくだな」
こうしてレイラと二人でいるのは久しぶりだ。いつもフラッツがいたり、フラッツがいたり。最近は俺にもルーギやカレンが付いてくるのでゆっくりと話も出来ない。今もゆっくりとは言い難いのだが。
こういう時は静かな方が良いんだけどなぁ…。…いや、普段の俺じゃなくなりそうだからいいや。
改めてレイラを見てみるがやっぱり美人だ。男顔負けのこともするが、そこも引き立たせ、魅力となっているのだろう。あるキャラの台詞を引用すれば『じゃじゃ馬姫』か。乗りこなすのは難しそうだ。
同行者のカレンはかわいい系だ。違う魅力を持っているが俺は美人系が好きなようだな。って何様だ。偉そうに評価してるなんて。ってか大真面目にこんなこと論じてるとかどうかしてるだろ。
カレンと距離が縮まったというのに、ここまで平然としていられるのも我が事ながら驚きだ。向こうだったら浮かれまくってるだろうに。そうならないのがここでの俺なのか、それとも心に決めた人がいるからなのか。
「ど、どうした?」
「ん~?どうしたって?」
「さっきから人の顔をじーっと見て。…何かついているのか……?」
「まぁそこに」
「えっ!?」
慌てて顔をペタペタと触り確かめる。
「ど、どこだ!?ここか!?と、とれたか!?」
矢継ぎ早に尋ねてきて、焦っている姿に思わず吹き出し、声を上げて笑ってしまう。
とても普段からは想像できない。こんなおちゃめな姿など。
笑われたことにキョトンとするが次第に顔を赤くしていく。
「わ、笑うな!」
レイラに怒鳴られてもしばらく治まることはなかった。
「あ、悪ぃ、悪ぃ」
目尻に溜まった涙を拭いながら言う。そこにはまったく心がこもっておらず、口だけといった感じだ。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないか……」
「悪ぃ。あまりに必死だったからつい」
「むぅ…」
なんだこの反応。可愛すぎる。
「拗ねるなよ。俺はいいと思うぜ。素の感情出すっていうのは。人間味があっていいよ。むしろいつもの方が何考えてるかわからなくて不気味だな」
「お前には言われたくないんだが…。というより私がお前に言った事じゃないか」
「そうか?じゃあ二人とも同じような感じなんだな」
「…似た者同士か」
悪くないという風に笑みを浮かべた。
あまり素顔を見せないのは職業柄だろうか。それとも長くいたから出せなくなってしまったのか。後者だと俺には難しい。一緒に能面になるぐらいしか出来ない。
笑顔や崩れた表情というものをもっと見せてほしいが今はまだ無理そうだな。焦らずじっくり信頼関係を築いていくしかないのだろう。…俺の苦手なやつだ。意識的にやろうとするからいけないのだろうか。
「そういう訳だ。俺の間でぐらい楽にしてていいぞ」
面と向かって笑顔を見せてくれと言えるほど勇気はないし、そういう人間でもない。これだけ言うので精一杯だ。直接言ったところでなるとも思えない。逆の立場で考えればわかる。ならば遠回しだがこれがいいだろう。徐々に距離を詰めて、そして最終的には―――。
ユウトの思惑など知る由もないレイラは、「そうさせてもらうよ」口角を上げた。
「そういえば取れたのか?」
思いだしたように言う。
「なにが?」
「…顔に何かついていたのだろう?それを見て笑ってたくせに」
「正確にはその反応を見て、だけどな」
「うるさい。…それでどうなんだ?」
「ついてねぇよ。つーか最初からない」
「……は?」
「あれウソ」
呆然とするレイラ。あれだけ大騒ぎして何もなかったんだから当然か。もう少し早く言うつもりだったが、反応がおもしろくてつい言いそびれた。ああいうのを見たいわけよ。
言った事が理解出来るとレイラは顔を赤くし、ドカッ!ユウトのすねを蹴った。
「んがっ!」
あまりの痛みに悶絶する。ぶつけたことはあるが蹴られたことはない。しかもけっこうな威力で。少し種類の違う痛みに呻く。
「ヘンなウソなどつくからだ」
いい気味だと言わんばかりだ。
「まったく…、人の顔をじっと見てくるから何事かと思ったぞ」
「そりゃおめー美人だなぁと……」
「……え?」
「……あ」
その瞬間痛みなど吹っ飛んだ。俺今なんつった?どさくさに紛れてやべー事言わなかったか?意識を別のところに向けててとんでもねー事言った気がしたぞ。
レイラを見ると何やら惚けている。ユウトと目が合うとパッと視線を逸らせ、落ち着きをなくす。
ヤベェェェぇぇぇ!!とんでもねー事しちまったぞぉぉぉォォォ!!どうすんだこれ、どうすればいいんだこれ!こっからどうしろってんだこれ!こっからの気の利いたひと言なんて俺には無理だ!誤魔化す?もっと無理だ!あと腐れなく、上手くやるという意味ではこちらの方が難しい。こんな場面に一度も遭遇したことがない俺では、高等戦術は無理だ。傷つけるだけだ。それに何より本音だし。かといってこのまま放置もできねぇ!なんとかしねーと気まず過ぎる!つーかあいつらまだ戻ってこねぇのかよ!この際誰でもいい!この空気をぶち壊してくれ!
喧騒が焦燥を加速させる。
何か、何か言わないと!
「そ、その~…あの~…え、ええ~…」
ダメだ!何も出てこねぇ!ヤッベぇぞ!
「じょ、冗談…とかだろ…?そんな…」
ようやくレイラが言葉を発した。そうだと言えたらどれだけ気が楽か。それが切り抜ける一番良い方法なのはわかっている。でも出来ない。だって本当のことなんだから。
「…冗談で言えるほど軽い奴じゃねぇよ…」
そう言えば目を泳がせ、そわそわし、顔も心なしか紅い。
なんて事を言ってしまったんだろう。もう逃げ出したい。自分で穴を掘ってでも潜り込んで化石になるまで隠れていたい。恥ずかしすぎる!だってこれ告白したも同然だぞ?こんな予期しない、わけわからんタイミングでする気はさらさらなかった。もっと向こうになると思ってたよ。大体俺はするよりされたい派なの。男らしくない?ほっとけ。その方が想われるじゃねーか。
だがこうなっちまった以上は仕方がねぇ。扉は開かれている。飛び込んで、行けるところまで行くしかねぇ。…怖ぇーな。かなり予定が早まったが後には退けない。せっかくのチャンスだ。ぶち抜けていくしかない。告白なんてしたこともされたこともないけど、ここまできたらやるしかねぇ。
「レイラ…俺は…」
ユウトが覚悟を決めた時だった。
「混んでたなぁ~!」
「でかい所だからな。時間がかかるのも仕方がない」
「ごめんね~二人とも。おまたせ!」
タイミングが良いのか悪いのか。注文をしに行っていた三人が戻ってきた。手にはそれぞれ頼んだ料理があった。
慌てて何事もないかのように振る舞う二人だが、漂う雰囲気を敏感に感じ取ったカレンは、「お邪魔だったかな?」と茶化した。
遅れて気づいたフラッツはおもしろくなさそうにユウトを睨み、レイラの前に皿を置くと彼女の隣に座った。心なしかいつもより距離が近いように思える。
こうなることを予期したわけじゃない。あの時俺は完全に思いの丈を叫ぶつもりだった。どうなるかわからないまま。この状況では言う気は起きないし、そういう時でもない。助かったような残念なような。こういうところは、漫画ならびに創作物のお約束というか、様式美だな。もっと良い時と場を用意しておくから待て、ということなのだろう。
今も恥ずかしいしモヤモヤしているが、同時に心が少し晴れやかだ。この妙な達成感は一体何だろう。その答えがわかるのはもう少し先。
頼んだ料理?ピラフみたいなやつだよ。まぁ良かったよ。ちょっと濃いけど。
その後カレンの追及などがあり、照れくさいような触れないでほしいような微妙な空気が流れる。
来てくれとは願ったが、流れを良い方向にするためだ。まさか裏目に出るとは。これでは二人の方がまだ良かったかもしれん。これ以上はボロが出る。
誰かぁ!何でもいいからきてくれぇ!もしくはしてくれ!ルーギ!お前には期待してるんだ!ギャグの一発二発ぶちかましてこの場を凍りつかせてくれ!誰でもいい!流れを変えてくれぇ!
願いは再び叶った。またも悪い意味で。
けたたましい音をたて、数人の男が店に飛び込んできながら、慌ただしく叫んだ。
「大変だ!強盗事件が起きたぞ!」
「けっこうな騒ぎになってるぞ!負傷者も多いらしい!ここまで広がってくるかもしれねぇ!」
「ホントか!?お前場所は?」
「アランパ地区だ!」
「…近けぇじゃねーか!」
先ほどまでとは違う意味で騒がしくなる。男たちの話を聞き、どこのテーブルでもたった今もたらされた事件の話で持ち切りだ。
それはユウトたちも例外ではなく。
「行くぞ」
すぐさまレイラが立ち上がり号令をかける。先ほどまでとはうって変わった見事な切り替えだ。それに従う三人も同様だ。ここで生きているだけはある。
ではユウトはどうかといえば。
「ほら、ユウトも」
「俺はいいよ。お前らだけで行ってきて。もうすぐ保安隊が来るだろうから、邪魔にならないように待機してる」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!ほら!」
レイラに腕を掴まれ立ち上がらせられると、カレンに背を押され無理やり現場に連れていかれた。
事件発生からそれほど経過していないのか現場は騒然としていた。家屋は破壊され、陳列されていたであろう商品は見るも無残な姿になり、散らばっている。負傷者も倒れたままで発生当時の惨劇が目に浮かぶようだ。
「ヒデェな…」
救護を叫ぶ声が響くなか呟く。あまり直視したくない状況に立ち眩みを起こしそうになるが耐える。向こうだったら俺も倒れてるだろうな。よくて何も考えられなくなっているだろう。
ユウトたちが到着して少し経ってから救護班による処置が行われ始める。しかし全貌が明らかになっていないせいもあり、人手が足りない。動かさない方が良い人たちを除き、一か所に運んだ方がいい。ということでユウトたちも手伝う。動かさない方が良い人は救護の人間を呼んでくるが、あちらもこちらもという状態で非常に忙しない。予断を許さぬ人たちもいるのでどうしても彼らを優先させる。すると他が放っておかれてしまう。そしてそういった人たちから命を落としてゆく。
わかってはいるがどうしようも出来ない。医療人の手が足りな過ぎる。そもそも絶対数としても多くはないが、その現実がこうして突きつけられると歯がゆい。自分たちではどうしようも出来ない。こういう時わずかでも何か出来たらいいのだが。
その時ふと思いだした。
「カレン、確か医療的な手当てって出来たよな?」
ともに運び出しをしていたカレンに尋ねる。
「う、うん。応急手当てぐらいなら」
「なら救護班の方を手伝いにいってくれ。多少なりとも出来る奴がいれば助かるはずだ」
「わかった。それならフラッツも連れていくよ。その方が詳しいし、適切だし」
「アイツならレイラと向こうにいると思う。こっちは任せておけ」
そう言ってカレンを送り出した。
フラッツの影に隠れているが、カレンも多少は出来るのだ。負傷シーンではルーギの手当てをしたり、フラッツの手伝いもしていた。
ならばこんな事をしてる場合ではない。こんな事は誰でも出来る。今は一人でも多くの人間を助けなければ。
運び出しを続けていると偶然レイラと合流する。レイラの性格的にも真面目に取り組んでいたことがわかる。
「どんな感じだ?こっちは?」
「大方終わったところだ。住民や協力してくれる者たちと取り組んだおかげで、思ったよりも早く出来たよ。そっちは?」
「こっちも似たようなもんだ。他にいないか探してたらここに来たって感じだ」
「そうか。そういえば先ほどカレンが来たぞ」
「俺が言ったんだ。その方が絶対いいだろ」
「そうだな。フラッツも納得していたぞ。私もその通りだと思ったよ」
「本当なら俺も出来れば良かったんだけどな…」
「気持ちはわかるが…、…そこは仕方がない。誰でも得手不得手、出来る出来ないがある。出来るようにするのは大事だが、それ以上に出来る事を精一杯やる方が大切だと思うぞ。己の役割を全うすることが彼らへの一番の手助けになる…と私は思う」
「…役割分担か」
「だから自分を卑下することはないぞ。今、私たちに出来ることをしよう」
穏やかに笑った。
こんな風に言えるのはかっこいいな。飾り気も、奇をてらったわけでもないので、直接心の奥に入ってくる。いや、だからこそ、かな。
異性に対しかっこいいと思う日が来るとはな。女子が憧れる女子というのはレイラみたいな存在なのかもしれない。…レイラに対して女子って合わねぇな。いや、悪口ではなくて。
レイラと共に他を回る。処置をしたり、運び込む者、むせび泣く人たちを見ると痛ましい気持ちになる。レイラも同じなのか苦い顔をする。
やがてルーギと合流する。今回ルーギは一人で別のところにいたのだ。
ルーギの話を聞くと、負傷者はほぼ運び込まれたそうだ。
では役目を終えたのかといえばそんなことはない。また別の役目が出てくる。自分たちも手伝いにいくか、それとも他の事をするか。
「他の事って?」
「事件の捜査だ」
ユウトの答えにルーギの目が輝く。
「そうだよな!そいつらがいなきゃこうはならなかったんだし。オレたちで捕まえんのか?」
「可能であればな。ただ何もわかってない状況でそれは難しい」
「だからまずは情報を集めるんだな」
レイラが言葉を引き継いだ。阿吽の呼吸というのだろうか。理解してくれてるとありがたいし、気持ちが良いものだな。
「その通り。ただ、できれば捜査って言ってほしいんだけど」
正確には言わないのだろうが、ちょっとこだわりたい。
「それはすまない。だが保安隊と鉢合わせになったら少々面倒だな」
「そしたらこっちが持ってるもん提供すればいい。少しは警戒心も薄れるだろ」
「逆に怪しまれねぇか?」
「その時はそうでもいずれわかるだろ。俺たちは犯人じゃないんだから」
「なるほどな。だからオレたちで捕まえようってんだな!」
「…まぁな」
その言い方だと無実の罪を晴らすために活動するみたいな感じになってるけど。説明するのも面倒だ。
「だからな、ルーギ。軽はずみな行動したり、暴走するんじゃねぇぞ」
「ルーギもお前には言われたくないだろうな」
レイラの厳しいひと言には苦笑するしかなかった。
捜査をするとともに被害状況の把握をしていく。
破壊された家屋や商品を見る限り気性が荒く、乱暴だったことがわかる。血痕や先ほどまで自分が関わっていた負傷者、なかには命の危機に陥っている人もいた。
死人が出ても構わないという横暴さに憤りを覚える。一刻も早く捕まえて解決しなければならない。もちろんどうにでも出来るからといって油断はしてはならないが。
現場だけでなく周辺も見ていく。被害状況は当然のことながら現場が一番酷く、そこから徐々に減っている。かなりの範囲で頑張ったようだな。
よくわからないのだが、こういのは現場だけに絞るのではないだろうか。結果的に広がってしまったというのならわかるが。
わざとやったのなら逃げ切れる自信があるのか、もしくは単純に暴れたかっただけか。
後者なら俺がボコボコにしてやるのに。相手にするのは面倒だが、関係のない人を巻き込んだのは許せない。関係者や同族の連中同士なら構わない。そいつらの間でやってろよ。そこで抑えておけよ。
無関係の人を巻き込んだのだから、無関係の人間にやられても文句は言えまい。なんだかんだ許されるはず。別に暴れたいわけじゃない。あれだ、成敗っ!だ。そういうのは公的権力の役目とか固いことは言いっこなしだ。言おうにも見当たらないんだから仕方ない。
現場および周辺を見終えたユウトは合流地点へ向かう。
そこにはもうレイラがいた。待たせたことは申し訳ないが、もう一人来ていないことにどこかホッとする。
「戻ってきたか」
「待たせて悪かったな」
「気にするな。私も今来たところだ」
このやり取りだけみると、なんかデートみたいだな。普通は逆のように思うが。
「だったら良かった…のかな。それでどうだった?」
「私は現場を中心に見てきたのだが…。酷いものだな。ああいうのは何度見ても良い気はしない」
怒りをにじませる。俺のような一般論でさえそうなのだから、レイラはそれ以上だろう。
「なら頑張ってとっ捕まえようぜ。そんでキツ~イお仕置きでもくらわしてやろうぜ」
「…そうだな」
今の俺たちの役目の一つでもあるだろう。力に対抗力を持っているのだから。それが義務とはいわないが、これ以上被害を出さないようにするためには有効な手段だろう。
「それで、そちらはどうだった?」
「俺は現場をもちろんだが周辺を主に見てきた。そこも残念ながらというか被害が出てた」
「私も少し見てきたが…そうだな。狙いは質屋なのだからそこだけで済めばまだマシだったのかもな」もちろん襲撃した事自体許されるものではないが、と付け加える。
「同感だな。ただ妙なところがあったんだ」
「妙なところ?」
「質屋の近くが一番酷いのはもちろんだが、その先まで大なり小なり被害が出ている。それも当然かもしれない。こんだけ密集してんだから。飛び火したってしょうがねぇし。そう考えるのが妥当かもしれない」
「不運…というべきなのか…」
「傍から見りゃそうかもな。巻き込まれた方は堪ったもんじゃないだろうけど」
「そうだな…」
二次被害というか、とばっとりというか。いずれにしてもいい迷惑だろう。
「ただそれにしちゃ規則的っていうか、少しずつなんだ」
「…どういう意味だ?」
「現場からこう…」
「お~い!」
詳しく説明をしようとしたところ、ルーギがやってきた。手を振りながら走って。遅れているわけではないのだが、二人の姿があるということもありさすがに急いでいるようだ。
「悪い!待たせた!」
「私もユウトも来てそう時間が経っているわけではないから安心しろ」
「そうか?最後の一人になるとは思わなくてよ。でもその分いい話も聞けたから期待していいぞ!」
「……今回は…か?」
「今回もだ!」
ユウトのセリフに素早く反応する。意外といいかもな。
ルーギは主に聞きこみをしてきたらしい。犯人たちは揃いの黒装束を着ており、逃げた方向なども話してくれた。それらのことから皆口をそろえてこう言った。
「荒野の連中だ!」
逃げた方向である北東には荒野が広がっており、そこを根城にする強盗団たちがいるという。強盗団といっても実態はならず者らしい。通る際通行料と称しカネ、もしくは物品を要求する。渡さなければ身に危険が及ぶので、ほぼ全ての人間が何かしら渡している。というより取られている。怖がられていると同時に嫌われている。
「大した小悪党だねぇ」
「まったくだな」
自分たちより弱い者、抵抗できない者たちにのみ横柄で高圧的な態度をとり、武力をちらつかせる。いや、そういう人たちにしか出来ない。本当は弱いから、強い者が来たらこびへつらうのだろう。所詮雑魚連中だ。
「だが決定的だな」
「そうだよな。そいつらが犯人だろうぜ、きっと」
揃いの黒装束の集団が質屋を襲撃、金品強奪。近辺の店や人を襲い負傷者や被害を広げた。目的を達成した集団はアジトのある荒野、北東方向へ逃走していった。犯人は荒野を根城にする強盗団である可能性が非常に高い。
三人の情報をまとめるとこのような形になる。
レイラもルーギも納得し結論づける。
ユウトもそれについては異論はない。起こった出来事や目撃情報からすれば妥当な判断だ。通常であれば俺もそう考える。
だが引っかかる。
第一に周辺への被害の広さだ。まるで通ったところ全てに被害を出したような。どこが本命かわからなくするためにはニ、三軒同じように襲えば十分のはず。ヘタに手を出せばそれだけ証拠を残すというのに。被害が出た最後の方はいってみればついでに手を出してみたレベルだ。人はぶつかった、店は屋根の布が破れたり、商品を置く樽を転がしたなど、被害といえるか微妙なものだ。
第二に襲撃後だ。目的を達成してすぐさまアジトに戻るだろうか。それでは自分たちがやったというようなものだ。揃いの装束、荒野を根城にしている強盗団、その方向へ逃走、これだけ見て疑うな、という方が無理な話だが。
第三に度胸だ。強盗団などと名乗っちゃいるが、きちんと組織されたものではない。所詮ならず者の寄せ集めだ。旅人や通行人は襲っても、わざわざ町に来て騒ぎを起こすだろうか。
もちろん何事にも例外はある。そもそも人間は型にはめられるようなものではない。その時の感情によって動くことも多々ある。気分が高まったから攻撃した、捕まえてみろという挑発と挑戦、あえて期待を裏切ってみた…ということも考えられる。
これらのことを踏まえて考えると違和感が出てくる。何の根拠もないのだが。
レイラたちの下した結論は間違いではないと思う。そこに不自然さはない。しかしそれが逆に不自然だ。あまりに流れが自然だ。
「どうした?」
黙り込んだユウトを不審に思いレイラが声をかけた。
「ん?何が?」
「考え込んでいるようだったが…何かわかったのか?」
わかったといえばわかったし、わからないといえばわからない。ただおかしな点はある。答えたところで不安をあおる結果になるだけかもしれない。不確かな現時点では言わない方が良いだろう。
「いや?特には」
「そうか…。気づいたことがあれば何でもいいから言ってくれ」
「あったらな。それでこれからどうするんだ?」
「それを今話していたんだが…、まぁいい。このままそいつらのアジトに行こうと思う。場所はルーギが知っているそうだ」
「任せとけ!」
ドンと胸を叩く。なぜだろう、不安になる。
「いきなり行くのは危ないぜ?何があるかわからねぇ」
「もちろんわかってる。だがそいつらが事件を起こした可能性は極めて高い。少なくとも何かしら関わってるとみて間違いない。ならば行かない手はない。危険だとわかっていても」
「自分の力を過信しすぎるなよ。お前だって死ぬんだぞ」
「わかってる。だからユウト、私と一緒に行ってくれ」
力強い目で懇願する。そこには信頼があった。
別に行きたくないわけじゃない。レイラと同じように行かなければならないと思っている。絡んでくるのは間違いない。アジトに行けば何か証拠はあるだろう。
ただ先走り過ぎてはいけない。怪しいと思えばすぐでGO!では相手によっては危険過ぎる。何とかなると思っているなら大間違いだ。己の力の過信、思いあがりというものだ。それがまかり通っているというのがなかなかに我慢ならない。
どうにか出来る者がいるとすれば、絶対的な力を持つ者、最後には勝つことが約束されている者だけだ。
つまり俺だ。
「しょうがねぇな。つーか断る理由はねぇよ。どのみち行くつもりだったし」
それにあんな目で見られたら断れない。
「ありがとう。頼りにしてるぞ」
「任せとけ」
このやり取りが嬉しいしむず痒い。しかし良い。これを望んでいた。寄せられる信頼がとても気持ちいい。
何が起きてもレイラは俺が護る。
誓いを新たに、信頼を確認し、不安を抱え、ユウトたちはアジトに向かった。




