意外といけるもの
草木が所々に生えデコボコした道、転がる岩、見渡す限りの殺風景。人の姿も建物もなし。遠くには連なるような岩山が見える。
ファンタジーや西部映画でしか見たことがないような景色にも随分慣れたものだ。初めはそれだけでテンションが上がったものだが、今では当たり前とでもいうように落ち着いている。
精神静養を終えたユウトはこの世界に戻ってきた。もしかしたら、二度と踏み入ることはないかもしれないと思った先日からすれば何やら感慨深い。少し違うと感じたこの空気も今ではすっかり馴染んでいる。むしろこちらの方が合い、元気になるようだ。
深く息を吸う。身体の隅々に流れ込み、壊れた箇所が修復されていくようだ。無意識の内に求めていたのだろうか。
ここで状況を整理してみる。あまり変化が見られない景色、人の気配も近くにない。後ろを振り向けば鳥居らしきもの。
いつもそうだがここを出る時は一人だ。案内役のカムゴと共に出てきた試しはない。まだ中に留まっているのか、それとも一足早く出ているのか。今度聞いてみるか。
今更だが鳥居そのものでなくてもいいんだな。それらしい形であれば。材質は木でなくても…あ、石材もあったか。ということは大切なのは形なのだろうか。
あと場所。これもそうだが、いつも町外れや目立たないところというように人目に触れにくいところに出る。出てきた瞬間人がいたらお互いビックリするし、説明も面倒だ。そして戦場のド真ん中に出てしまっては危険極まりない。到着直後戦闘開始状況把握困難危険即抜刀有。まったく余裕がない。すぐさま命の危険にさらされるのは流石に御免被りたい。
ここではいくら精神が強く動じないといっても毎回それでは寿命を縮める。だから設置場所には気をつけているのか。そもそも設置してあるのか、あるものを門として利用しているのか疑問がいくらでも出てくる。
疑問も謎もたくさんある。だが、一つ確かなものもある。それは俺にとってここは必要なところだ。改めて確信する。ここにはレイラがいる。だったらやるべきことは決まってる。
レイラに会いに行こう。でなけりゃ何のために来たのかわからん。
どこに出たかわからないがそう遠くにはいないだろう。どこかを歩いているか一休みしているか。その二択だろう。
だが合流したら何と言おう。どう思われているのか、それがわからないと対処できない。
その場しのぎは出来るが得意じゃない。ぶっつけ本番は苦手でしかない。何事も事前にシミュレーションして、なるべくそれに沿うように進めている。
最低三パターンは考える。
今回は、用事ができた、怪しいヤツがいたから戦ってた、見慣れないものがあったので気になった、の三つだ。
一つ目は汎用性が高い。二つ目は余計な心配をさせるか怒られるか。三つ目は何かバカにされそうな気がする。とすると一番無難なのは一つ目か。これなら深く突っ込まれる心配はない。相手の事を考えるなら尚更だ。
よし。決めるとレイラたちを探し始める。
しかしいつまで経っても着かない。影も形も気配もない。そう遠くにはいないというのは思い違いか?
さすがに変わり映えしない景色が続くと嫌になってくる。だけど確かに近づいている。一歩進めばそれだけ目的地までの距離が縮むという理屈ではない。ただわかるのだ。確実に近づいており、進めた足の先にいると。
俺とレイラには見えない特別な何かがあるのか。そうであってほしい。そう感じているのは俺だけじゃないと願いたい。
やがて緑も少しずつ見られるようになり穏やかな景色になってくる。道端にちょこんと生えている程度だが、それでもずっと似たような景色の中を歩いてきたユウトにとっては大変目の保養になる。緑を愛でる日が来ようとは。
そんなユウトの気持ちに応えるように緑が増えてくる。樹が乱立して自生する中、一際大きな樹が目に入った。まだ少し距離があるので見えないが、そこにいると確信した。その証拠に一歩踏み出すごとに気配が濃くなる。
いる。
歓喜に胸が高鳴る。向こうにとってはわずかな時間だろうが、こっちにとっては久しぶりの再会だ。突然姿を現したら驚くかな。何を話そうか。何を言ってくるか。それらを足を進めながら考える。よし、大方いけるだろ。
何やら気配がする。誰かが近づいてきているのか。精神を研ぎ澄ましてみると勘ではないことがわかった。どうやら一人のようだ。敵意は感じられないがかなりやりそうだ。そんな雰囲気が感じ取れる。
ちらりと仲間を見てみると誰も気づいた様子はない。カレンはともかくルーギ、お前は気づかないといけないだろ。仮にも戦士なんだから。だがそういうものに非常に弱いことをルーギ自身も自覚している。それがないから戦えるのかもしれないが、と、穴だらけの強さに内心苦笑する。
ここは俺がやるしかないのか。フラッツは身構えた。
「そのクセ、少しは直したらどうだ」
レイラが苦笑するように言う。フラッツはビクッとなり、動きを止める。気づいていたのかと声をかけようとするが―――
「やっぱり気づいてたか」
それは阻むように別の声が入ってきた。そちらを見ると忌々しい、何を考えているかわからない、けど強い、しかしそれが気に入らない、そんな同行者がそこにはいた。
「これでもばれないようにしてたんだけど」
「どこがだ。それではドッキリにもならないぞ」
当たり前のように受け入れたレイラに複雑になり、受け入れられたユウトにイラ立ち更に身構える。それを見たユウトはこの程度ならまだマシかと思う。そんな風に思う自分を喜んでいいかわからないが。
「今度はどこまで行っていたんだ?性懲りもなくまたフラッとどこかにいって」
「ん?ああ、ちと野暮用でよ」
「そうか。なら手早く頼む。お前なら出来るだろ?」
そのセリフは信頼しているからに他ならない。久方味わってなかったがやはり良いものだな。
「任せておけ」
自信を持つように言った。その言葉が嘘にならないように。
レイラの反応に特に不審な点は見られない。特別何かを気にしてる様子もない。大丈夫だ。こう言っておけばこれ以上は何も聞かれない。聞かれても押し通せる。
何かしら聞いてくることは予想していたので予定通りに答える。やることはこれだけ。決して難しくはないが内心ドキドキだ。上手くいくとは限らないし、逸れたり、アドリブだって出てくる。そんな心もこのポーカーフェイスでばれてないようだな。
にしても便利だな。「ちょっと用事で」。何にでも使えるテッパンフレーズだ。欠点は多用できないところか。
「ユウトも帰ってきたことだしそろそろ行こうか」
「俺のせいで待たせてたのか?だったら悪いな」
「まぁな」
否定されなかった。そりゃそうか。少しばかり心苦しい。どこに行ったか、いつ戻ってくるかもわからない相手を待っているなど。苦痛以外の何物でもない。
これは嫌われても仕方ないわ。以前といい今回といい申し訳ない。しかもどちらも本当の理由は明かせないのでたいへんもどかしい。ぼかしてでも話せればなぁと思うがそんな器用な真似は出来ない。ならば何も言わずふらっと出て戻ってくる。そういう人間だと思わせればいいのでは?いや、それも申し訳ない。はた迷惑なヤツと思われるのがオチだ。これがレイラでなくカレンならばまだよかったかもしれない。自分ひとりのために全体の動きを止めることはない、とは言い切れないがまだ可能性はある。
レイラが最優先で最重要なのは変わりないが、だからといって他のメンバーが嫌いとかどうでもいいとは思ってない。最低限協力し合いたいと思っている。誰だって居心地の悪いところにはいたくないだろ?そう考えるとレイラを選んだのは少々危ないかもしれない。
レイラは口では若干責めるようなことを言ったが、表情というか雰囲気は柔らかい。本心ではなく軽い冗談のようだ。暗い思考に陥っていたユウトも遅まきながら気づいた。レイラの心遣いを無駄にしないように自分を殺した。
「戻ってきたばかりだがお前は大丈夫か?」
レイラは今気づいたように言った。
「ああ、全然問題ない」
体力的にはだ。精神的にはちょいとキツイが待たせた手前それは言わない方がいいだろう。
そうか、とレイラは特に気にした風もなく、他のメンバーも出発する準備を始めた。
手持ち無沙汰なユウトはどことなく居心地が悪い。とりあえず樹にもたれかかって少しでも休む。
顔には出ていないと思うが内心驚いていた。というよりも拍子抜けしていた。ビックリするぐらい何も聞かれないからだ。準備してるとはいえ根掘り葉掘り聞かれてはボロが出るので助かったといえばそうなのだが。
もしかしてどうでもいい?それは傷つく。だがそういう風にも見えない。なんというか信頼されてるから、何かしらの理由がある、受け入れられている、そんな風に感じる。だから何も聞かれないと。都合の良い話だとわかっているけど。
それともカムゴの力か?違和感がないように上手く調整してくれたのだろうか。だとしたらとてつもなくすごい。まるでちょっと離れてただけというように違和感がない。
何が本当かはわからないが、今後も再会時はこのようにスムーズにいってほしい。
やがて準備が整ったようでレイラ号令の元、出発した。
歩き始めて少し経つと緑が少なくなり、イヤというほど見た荒野が姿を見せる。もう勘弁してほしいのだが、元々この辺りは荒野が広がっているのだそうだ。むしろああいった緑がある方が珍しいという。風土といわれれば納得するしかない。荒巻の嫌がらせではなかったか。
先ほどまで一人で歩いていた時はもううんざりした。気を紛らわすものもなく、ただひたすら歩くだけだったので退屈でしかなかった。ところが今は、話しをしないのは同じだが随分気が楽だ。誰かがいるというだけでこんなにも心持ちが違うものか。不思議なものだ。一人だと不安で誰かとつるみたくなる気持ちもわかる。レイラといるからか、そんなことを思いながら先行く背中を見る。
しばらく歩いているとちらほらと人の姿が見えるようになった。
純粋に人に会えた安心と喜びのユウトとは違い、レイラたちは冷静だった。特に何もしないで歩いてる人は何かの密命を受けているか、企んでいるか、人を観察していたり、下見など、ひとことで言えば危険な輩だ。必ずしも喜ばしいことばかりではないという。だがある程度の姿が見えるというのは近くに町や集落がある目印らしい。
このように常に疑い見極めなければならない。それはとても疲れるだろう。常に気を張っていなければならないのだから。だがそうしなければ生きられないのだと考えると、この世界も過酷なものだな。なんて考えてるのがわかったら、お前が言うな、と、言われそうだ。
そしてレイラたちの話し通り町が見えてきた。正確にいえば出入り口となるアーチだが。出迎えるように立つアーチは紅白に装飾されとてもやかましい。ひとことで言えば、
「派手だな」
「派手だね」
「派手ね」
ユウトのセリフに同意するように何人か頷く。
「なんだよこの色使い。もっと大人しくできないのかよ」
「あんたがそれ言う?気持ちはわからなくはないけど」
ルーギとカレンの会話に内心頷く。
これは………もうちょっとどうにかできなかったものか。岩や大地の茶色の中に一際異彩を放ち、存在を主張しすぎるようにドーンと立っている。「オレがシンボルだ!」というように。環境との調和など「何ソレ?おいしいの?」という状態だ。もうちょっとどうにかできなかったものか。しかしよくよく考えればわからないでもない。
「まぁあんまりこき下ろさないでくれよ。これはこれで良い、というか意味があるんだ」
「こんな周りの迷惑を考えないヤツが?」
「だからあんたが言わないの。それでどういう意味があるの?」
「意味というか、まぁ紅白ってのは縁起がいいとかおめでたいときに使われるんだ」
「紅白ってこれ?」
「…これが?」
訝し気にアーチを見上げる。
「何でかは知らないけどな。俺の生まれたところではおめでたいときとか祝い事には必ず紅白柄が一つはあったんだ」
「へぇ~」
そんな中にいたらおかしくなりそうだ。もしかしたらその反動で何を考えてるかわからない人間になったのではないか、と、かなり失礼なことを考えるカレンだった。
「これも前祝いというか。これから人がたくさん来てほしいとか、大きく発展するっていう願いがあるのかと思ってよ」
「ふ~む。同じものでも地域によって意味や捉え方が違うものなんだな」
「そうだな。それもおもしろいとこだよな」
「他にはあったりするのか?」
「あ~…あるにはあるけど、それは別の機会にな。あっとこっちには何か意味とかしきたりがあるのか?」
アーチを見上げながら言う。カレンたちの反応を見て気になったのだ。
「これのか?いや?その紅白?というものには特に意味はなかったと思うが…」
「そうなのか」
「…知っている限りでは聞いたことがないな。だからお前には申し訳ないが私も派手な色合いだとしか。あ、もちろん今はお前の言うこともあるときちんと理解してるぞ」
「気を遣わんでもいいよ」
不快になっていないので軽く流す。むしろどこにそんな要素がある。レイラの言う通りなら二人の反応も納得だ。意味がわからないのであれば中々派手だし、それ以上の感想はない。強いて言えばもうちょっとどうにかできなかったものか、だ。
ものすごく周囲から浮いてるものを見れば誰でもそうなる。知ってる俺でもそうなんだから。他の連中は推して知るべしといったところか。こういうのもいいな。自分の知ってることを話して感心してもらえるの。
そうして自己主張の激しいアーチをくぐり町に入った。ルーギがこんなものを通りたくないと抵抗したのは余談だ。
見知らぬ土地や町に行くのはドキドキワクワクする。そこで何が待っているか、運命的な何かに出逢えるのではないか、期待に胸が膨らむ。だが実際に訪れるといたって冷静で、いや、それを通り越していっそ冷めてるとさえ自分でも思う。結局どこに行っても俺は俺なんだなと諦めの境地だ。
では今はどうか。八割そうで二割違うといったところか。蕎麦なら一番美味い。
理由はいくつかあるが一番大きな理由はこの世界だからだろう。文字通り世界が違う。そこを歩いているのだ。そして曲がりなりにも知り合いと各地を転々としているからというのも挙げられる。拠点は別世界にあるが、違う所を歩き旅をしてる気分になる。いや、旅だろう。どう考えても。
見知らぬ土地を仲間と共に歩き、町を訪れ、出会い別れを繰り返しまた別の町へ。これを旅と呼ばずして何という。ここでぐらいいつもとは違う自分でいさせてくれ、と変わらぬ表情で思うユウトだった。
町は人も多く栄えている印象を受ける。想像通りの願いが込められているとしたら半分ぐらいは達成されてるんじゃないか。
思うにアンポ―ジほどではない。あそこはかなり大きかった。残念ながら混雑具合はわからなかったけど。知ってるかわからないがそこを目指しているのか?ただ地理的条件からいえば難しいだろう。向こうは地方の境界であるのに対し、こちらは内陸に近い。わざわざ通らなくても他の町に行けてしまう。それならば寄りたくなる何かを売り出した方がいい。と評論家気取りだが口には出していないので問題ない。
町の名前はボンマリ、やや乾燥地帯にある町(オアシス)として近年注目されているという。特産品はタカラナ、パリシュト、という過酷な環境でも育つ作物だ。特にここのような地域ではよく栽培されているそうだ。町の歴史は三十年と浅いが勢いがあり、これからますます発展していく町だ。とフラッツが解説した。
「それなら本当にあのアーチにはユウトの言った意味があるのかもしれないな」
「ありえなくはないよな。自分で言うのもなんだけど」
「もしかしたら同郷かもしれないぞ?」
「だったらぜひ会ってみたいものさ」
冗談めかして言った。それがまさかあんな事態になるとは……とかなったらおもしろいか?
実際にやってみなきゃわからない。世の中そんなものだろう。それは人に対してもいえる。最初のイメージと実際とでは印象が違っていることなどよくある。かけ離れている場合も往々にしてあるとも。俺は幸いにも経験することはなかった。
ついこの間まで。
そして今まさに。
コイツがそうだ。
どちらが本性か、どういうヤツなのかわからなくなってしまった。何せ原作とかなり印象が違う。主に俺に対して。性格的な話もそうだが役割としても。ちょっと医療の心得があると思っていたが、それだけでなく、説明キャラでもあったんだなと思い出した。
事前の情報は知っていたはずなのだが、本人を前にすると吹っ飛んでしまった。必ず一人はいるよな。読者にやさしいというか。その読者の味方が実は…、負の一面を知ったら幻滅するだろうな。そんな日は永久に来ないが。
「いつも思うけどスゲェよな。どこでそういう情報仕入れてくるんだよ」
「それは内緒だ」
自身の唇に人差し指を近づけ、意識しているかわからないが女なら惚れるだろうやや好戦的でミステリアスな笑みを浮かべた。もっとも向けた相手が男だったので影響も意味もない。
ルーギは教えろよーと食い下がりカレンに諌められていた。
そのカレンがまず宿を探しましょと提案した。前回の町からは遠く長旅だったので疲れたからだという。そんなに遠かったのか。途中参加のためよくわからない。だが確かにそれぞれの顔には疲労が浮かんでいた。
異を唱えるものは誰もおらず、ユウトも断る理由はないので向かうことにした。
旅人がよく訪れる町や大きな街には宿屋街というものが整備されている。
これは旅人が情報や物品を与え、良くすればいい情報を流し集客につながるからだ。一般の宿よりも割安なので旅人には重宝されている。また裏情報が手に入る場合もあるので利用しない手はない。
互いにメリットがあるので自然重要性、必要性が出てきて、そこを利用し活性化させようとする町が最近増えているという。
ユウトたちもそちらへ向かう。宿屋街の始まりとなる宿に到着すると『空き有り』という看板が出ていた。
「珍しいな」
レイラが看板を見ながら言う。
「珍しいって?」
「こういう境目のような場所は繁華街にも奥にも行きやすいから、何かと都合がいいんだ。だからすぐに埋まってしまうんだ」
「境目って、宿屋街のか?」
「ああ。明確な線引きがされてるわけじゃないんだが雰囲気が違うだろ?」
レイラの言葉通り町の住人たちが暮らしている場所とは違い、どこか冷めたようなピリピリした印象だ。
「それに向こうは宿屋の看板や張り紙が多いだろ?」
「そうだな。それで境目か」
「そうだ。そういう場所が空いているのは珍しいんだ」
「変えてないだけじゃね?」
「そうかもな。いずれにしても一度聞いてみよう。いつまでもいては邪魔だし、本当に空いているならそれに越したことはない」
レイラの言葉に頷くと五人は入っていった。
「いらっしゃい」
入るとすぐに三十代後半ぐらいの男がやや無愛想に声をかけた。
「表の看板に空きがあると書いてあったが、本当か」
「ああ、空いてるよ」
「どのくらいだ」
「…二人部屋が二部屋だな」
冊子を確認しながら答える。
彼にしてみれば聞かれたことに対し答えただけなのだが、それはレイラにとってうれしいものではなかった。
「どうする?」
振り向き尋ねる表情は曇っている。
「ここで決まればそれが一番いいだろ」
何を小声で、というようにフラッツが答える。
「それはそうだが、考えてみろ私たちを」
改めてメンバーを見渡す。レイラを含め五人。つまり一人余ってしまう。ここで彼女の言いたい事がわかり、じゃあどうするか、と思ったところで、
「俺はいい。別のところにいく」
いち早く意思表示したのはユウトだった。
「そういうわけにはいかないだろ」
「平気さ。まだ他にもあるんだから一人ぐらいどっか空いてるだろ」
「それはちょっとかわいそうだろ。オレは狭くても全然いいぜ。なんなら床でも」
「そういう問題じゃないんだよ」
ルーギに言うとフラッツをちらり。
「そういう問題じゃないって…すぐに動けるところにいた方がいいだろ」
「そうだな。バラバラでは意味がない。五人で行動してるんだから」
と説得されたり、全員で移ろうと言われたが、それはフラッツが制し、ユウトも許さなかった。
結局ユウトが固辞し、彼一人が別の場所を探しに行くこととなった。
いつかこうなると思っていた。いや、もうなってたな。
五人という奇数ではバランスが悪く、誰か一人が余る。
その余りが俺だ。
ここだけじゃない。いつでもどこでも。奇数の時は必ず俺が余る。もはや規則になっているように。
全員自分(てめぇ)のことしか考えず、自分さえよければという発想の元動いてるからこうなる。
余りの末路は無理やりルールをねじ曲げ、侵入を許さない岩盤を抉じ開け、ねじ込まれる。その居心地の悪さったら…ねぇ?
経験のないものがいくら頭を振り絞っても想像も理解も出来るものではない。申し訳ないやら情けないやらみっともないやら。あの苦しみは経験した者でなければわからない。なんと残酷なことを言うのだろう。二人組作って、なんて最凶最悪悪魔の呪文を。
お前は血の通った人間か?テメェらの血は何色だ?本当に人間か?一度徹底的に問い詰めたい。
あれがどれだけ危険で絶望を与えるものか、知っていればできない。それに一体どれだけの罪なき命が奪われ、その身を滅ぼし、犠牲になっていったことか。
これは俺だけではない。彼らの無念を晴らすためにも勝たにゃならん。あ、これ違う漫画だ。
奇数は割り切れないから縁起が良いのだというが、逆にいえば割り切れるものは縁起が悪いとなる。縁起は良いが余る、縁起は悪いが余らない。この二択なら俺は迷わず後者を選ぶ。
いつだってそうだ。頼まれたわけではないのに気がつけばそこが指定席。俺はどこの世界でもこうなる運命(さだめ)なのか。
たとえ余っても一時間ぐらいなら何とか耐えられる。居心地の悪いあの地獄の中よりは百倍マシだ。
だが今回は違う。
部屋という逃げ場のない空間でフラッツと一緒にはいられない。誰だって嫌いなヤツとはいたくないだろ?狭い空間で、更に一晩を共にするなんて…うぅわ…!考えたくねぇ…。寒気がするわ。今は遠い日となった時を思い出した。
自身の宿を探し始めて少し経った頃、何やら後ろで声がした。誰かを呼んでいるようだ。俺たちと同じように旅人だろうな。人もたくさんいるしな。
ユウトー!
俺と同じ名前か。まぁ珍しい名前じゃないしな。
ちょっと待ってくれ!
はいはい待ちますよ~。…ってあれ?何かどこかで聞いたような声……。そう思った瞬間勢いよく振り向いた。
その先にいたのは…レイラたち四人だった。小走りでこちらに駆けてくる。一名とても不機嫌そうだが。
「呼んでいるのだから振り向くぐらいしてくれてもいいじゃないか」
「いや、別のヤツかなぁと」
拗ねたように言うレイラにあっけらかんと返す。しかし内心は驚きとともに困惑がある。
「それで…どうしたんだ?」
冷やかしにでも来たか。お前らは決まったから。あんまバカにすんじゃねぇぞ。レイラといえどぶっ飛ばすぞ。
「せっかくだから同行しようと思ってな」
「同行って…」
宿探しのか。んなどっかのテレビ番組じゃあるめーし。つまんねーだろ。
そんなユウトの考えがわかったように、
「大丈夫だ。散策のついでにな」
と、ほほ笑んだ。
そんな二の次くらいに言われればいつもなら、「じゃあいい」、と突き放しているだろう。だが今はその言動がこちらに配慮した結果だとわかる。それにこうして追いかけてきてくれたことは素直に嬉しい。忘れられておらず、気にかけてくれたから。それだけで十分だ。ユウトは知らずに笑みを浮かべた。
ただ、と。全員で来る必要あるか?ついでだといっても宿探しの。本人以外興味も意義もねーだろと。嫌々なら来なくていいのに、一名を見て思う。レイラがいるから来たのか、無理やり連れてこられたのか。
「その……な。気持ちは嬉しいんだが…俺としては誰か一人でいいんだけど…来るとしたら」
やんわりと抗議してみる。嬉しいが、自分のために時間を使わせるのは申し訳ない。それ以外に理由はない。誰と指定もしていない。だから一名がそんなに睨む理由もわからない。
「言っただろ?散策ついでだと」
まるで気にしていないというように先ほどのセリフを繰り返した。
「それに私たちもこの先がどうなっているか見たいんだ。お前が気にすることは一つもない」
安心させるようにほほ笑んだ。
「そうか」
不安が和らげられた気がした。もちろん全てではないし、疑ってはいるが、これ以上はレイラにも他の奴らにも申し訳ない。粘っても意味はないので何も言わなかった。そうして表面上は納得してみせ宿探しを再開させた。五人で。
宿を探すためにあちこち見て回る。なるべく近くの方がいいということで四人が泊まる場所を中心として探す。しかしそこは境目ということもあり、空いていることが奇蹟なのだ。空いていなくて当たり前。その常識をこの十数分で無理やり再認識させられていた。
今回聞いたところも例に漏れず。
一部屋ならまだしも、二部屋というのは天文学的確率だったのだろう。ちょっと前に出たばかりだったのか?親切なところは満室と看板が出ているが、そんなところばかりではない。聞かなければわからないので、入っては聞いて、ダメで。それをひたすら繰り返していた。
もう何度行ったかわからず、さすがに精神的に疲れてくる。そんなユウトとは対照的に、ルーギとカレンはテンション高くユウトに取って代わり、突撃していた。自分たちが泊まるわけではないのに。
何故そんなテンションが高いのか、何があったのか気になるが聞かない方がいい気がする。そんなユウトを見かねたのか、レイラが少し休むか、と尋ねた。
「いや、大丈夫だ。自分のためじゃないのにやってるんだから、俺が休むわけにはいかねぇよ」
「あれは好きでやってるからいいと思うぞ。出来る奴がやった方がいいだろうし」
確かにそう見える。
俺は人とコミュニケーションをとるのが上手くない。それどころかはっきり言ってド下手だ。コミュニケーション能力というものが欠如している。まともに会話も出来ないダメ人間だ。知らない人に話しかけるなどまず無理だ。それはここでも変わらない。少なくとも内面は同じだ。
しかし何故だろう。
苦労はしているがそれが出来ている。満点とはいかないが。
それはこの世界だからではないだろうか。何かあってもどうにかできる、という自信がそうさせているのか。
これらからも自分で出来なくはないと思う。ただ結果として俺の代わりにやってくれているので放って休むということはここでも出来ない。疲労を滲ませながらも二人に付いていく
早く決まってくれれば、という気持ちを無視するように満室ループは続く。レイラの思いとは裏腹に離れてゆく。宿が決まらないのはよくあることだが、今回は少し事情が違う。早く近い場所などそう都合よく見つかるものではないな。とりあえずどこかないか、二人は思った。
何やら気配を感じユウトは立ち止まった。そんなユウトに、どうした、と声をかけ視線を追う。その先にはこじんまりしているが確かに宿があった。本通りから外れているため気づかず通り過ぎてもおかしくない。目敏いというか鋭いな、レイラは感心した。
「よく見つけたな」
「大局だけが全てじゃないってな」
などとかっこよく返したが、実際は偶然のようなものだ。人が多い所や大通りは好きじゃないので細かい所に目がいっただけの話。あとひとつ挙げるなら、路地や裏通りにある店こそ本当の名店だ、というのを思いだしたのだ。何かのテレビだったか。
そんなことなど知る由もないレイラは、流石だな、と笑みを浮かべた。感心させられたようなので良しとしよう。
人通りの少ない道は名店が多いかもしれない。だがそういったところはどこか不気味でトラブルに巻き込まれやすいといった、近寄りがたく危ないイメージがある。身の安全を考えるのであれば入り込まない方が無難だ。どうしてもというのなら明るい時間帯が賢明だ。そのことを考えたうえで行くか迷っていた。だが危険探知センサーには引っかかってこない。向こうならいざ知らず、こちらでは誰よりも優れていると自負しているので、これについては信頼している。仮にトラブルに巻き込まれても切り抜ける自信がある。
「とりあえず行ってくるわ」
なんだかんだ心配事がなくなったのでのんびり言う。しかしそれを制したのはカレンだった。
「…ねぇ、ユウト。…やめた方がいいんじゃない?何か危なそうだし……」
雰囲気や外観だけを見ればそう思われてもおかしくない。
「そう言われると……確かにな。人目につきにくいところで営業してる店は曰く付きだと相場は決まっているからな」
レイラも同調した。さっきまで直接ではないが褒めてくれていたのに。あれか。見つけたことに対してか。
「何かしらあるって思った方がいいよね」
口々に言われるセリフはユウトを心配したものだった。あまり言われたことがないので嬉しくなってしまう。それだけ俺のことを考えてくれている証だから。
反対されるほどやりたくなるとか、敢えてそっちにいくという考えではない。危険な感じがなく、俺としてはここみたいな大通りや、そこにある店に入るのと同じ気持ちなのだ。
だから、
「平気さ、俺なら」
自信家のように言った。
過信しているんじゃないか。そんなことを思うが、こいつなら言葉通り平然と解決してしまいそうだ。たとえ何があったとしても。
「大した自信だな」
しかし警戒を怠るわけにはいかない。言わなくてもわかっているだろうが、それでも伝えたかった。そのせいで皮肉交じりになってしまったが。
知ってか知らず、適当に返事をするとやや怪しげな雰囲気のする宿に向かった。
ちなみに先ほど反対しなかったのは二名。片方はどうでもよかったから。もう片方は「別にいいじゃん」、と、ひどく気楽に言っていた。深い洞察があったわけではない。思わず、こいつはもうちょっと何かを考えた方がいい、と同行者を心配するユウトだった。
店内に入ると不躾だとわかっているが、きょろきょろと物色してしまう。変色した机に軋む床、剥げた壁…、お世辞にもキレイとはいえない。ひとことで言えばオンボロだ。何か出てもおかしくなさそうな典型的な曰く付き物件だ。普段ならまず近寄らない。だが今はそんな気持ちは起こらず、むしろ受け入れていた。
ここでようやくユウトは、カウンターにいる主人とおぼしき男性に目を向ける。白髪交じりの線の細い人物で、歳は五十代前半といったところだろう。
「さっき近くを通ったらここに宿があるのを見つけまして。突然なんですが今日泊まれますか?」
本来の通り泊まる本人が尋ねた。まったく恐れる様子はなく平然と。
ここまでの出来事から空いてなくても仕方がないと思っていた。そしたらこれまで通りまた別の場所を探しに行くだけだ。
「もちろんですよ」
あら?聞き間違い…ではなさそうだな。
この瞬間あっさり決まった。さっきまでの苦労は何だったんだと感じるくらい拍子抜けしたのだが、決まるならそれでいいか。
その後簡単な説明を受け、部屋の鍵を受け取った。
主人は一人で泊まることに対するイヤミや営業スマイル、悪意はまったくなくユウトを歓迎してくれたので彼だけでなく、レイラたちにも好印象だった。
「わざわざ付いてきてくれたとは、良い仲間じゃないですか」
途中の話でレイラたちを褒めた。どうせなら俺だけの方が良いのだけど。だが悪い気はしなかった。自分に関係があるものを褒めるのは交渉を有利に進める常套手段だが、ユウトには本心から言っているようにしか見えなかった。
「料金についてですが、出立される当日で結構です」
これにはレイラたちが驚いた。聞けばすぐに出発できるよう、また、確実に徴収するためにも前払いが普通なのだそうだ。
ユウトはすぐに出たので知らなかったが、彼女たちが泊まる宿でも手続きの一環として既に支払っている。それを聞けば変わってるというかズレてるというか。
前払いの潮流に逆らい、全体の世界観、商売人にも拘わらず金儲けを考えていないなど、どうにもこの世界に似つかわしくない。どこかダミルを彷彿とさせた。
後払いがルールならそれで構わないし、拒否する理由もないので従う。
「よかったな」
「ああ。気になるところも…特にないし。穴場を見つけた気分だ」
「そうだな。私もここにしようか…」
本気か冗談かわからず、ユウトたちを慌てさせたのだった。
ギィ、と錆びた蝶番が悲鳴を上げる。空気はじめっとし薄暗い。古ぼけた机、椅子、簡素なベッドという必要最低限のものしかない殺風景な内装。だがカビたり傾いていないだけマシか。そう思った瞬間苦笑がこぼれる。
よくもまぁここまで神経ズ太くなったものだ。こんなものでもあるだけ上等なんて考えられるんだからな。思った以上に順応出来ているようだ。
腰に巻いた剣付きベルトを外し机に置くと、自身はベッドに仰向けに倒れた。
ギシィ!とても嫌な軋みを上げた。ゆっくりやった方がいいな。まったくバウンドしなかったベッドに対して思う。背中を打った気がするのは気のせいか。
無事にユウトの宿も決まったのでその場で今後の予定を話していた。まずは町を見ようというレイラの提案に反対するものはいなかった。散策ついでだと言っていたが、準備は出来ていなかったらしく荷物を置いてくることになった。
また、足りないものの確認をしなければならないので一旦解散とし、少ししたらユウトの宿に集合するという段取りとなり現在に至る。
何だかあっという間だったな。向こうからここまで来るの。あんだけボロボロになってぐーたらしてたというのにもうスリリングで刺激溢れるここにいる。太鼓持ちもびっくりの変わり身の早さだ。
時を同じくして向こうとはまったく違う世界が存在していて、そこにいる。夢の国ならいざ知らず、一つの世界として存在している。もしかしなくてもすごいよな。ここが俺にとっての夢の国なんだろうな。
もちろんそれはそれで望んだのだが、ただ危険なだけのところに誰が来たいというのか。俺スゲェ―!あいつスゲェ―!と思われたい、思われるからだ。そしてここを望んだのはレイラがいるからだ。
レイラに会いたかった、認めてもらいたい、必要とされたい、頼りにされたい。あわよくばその身に触れたい。そのために時間をかけてでも来た。何とか自力で立ち上がって。初めて来た時と同じ感動を胸に会いに来た。
口数が多いわけでも、尻叩き女房という感じでもない。ただいるだけで安心する。心が安らぐ。
「お前なら出来ると信じている」。そう言われれば勇気が湧いて何でも出来る気がしてくる。
「お前を信頼している」。力強く背中を押される。立ち上がれる。キャラクターではなく、レイラという一人の人間だから心に響き、戦えるのだろう。
会った瞬間不安など吹き飛んでしまった。もう怖くない。もっといたい。
ここに来たことは間違いではない。
確信すると目を閉じた。
「お!あっちなんか珍しいものがありそうな予感!」
「こら!走らないの!」
「お兄ちゃん、これどうよ?安くしとくよ!」
「おお…!これはなかなか…しかし…」
活気あふれる町に賑やかな声が響く。それぞれ興味のあるものを見て楽しんでいる。
こうやって観光するのって前もあったよな。とても昔のように思える。その時は俺がルーギみたいだったっけ?なるほど、子供だな。ほほ笑ましい目で見られたような気がしたが、あれは仕方ないな。てゆうか、お姉ちゃんを通り越してお母さんだな。
「お前はいいのか?」
隣を歩いているレイラがからかうように言う。いつぞやと似たような目をしているのはあいつに対してだと思いたい。
「俺は落ち着いてゆっくり見たい派なんだよ」
以前を思いだしごまかすように言う。あの時はおかしなテンションになっていただけで、こっちが本当なのだ。だが最初に見たものが、普段とは違う好奇心旺盛で子供のような顔だったので信じてもらいにくいだろう。なんとかしないと俺のイメージが…!
「そういうことにしておこうか」
楽しそうに笑う。ダメだった。どうやら俺のイメージはアレで固定されているようだ。
レイラたちと合流し町に繰り出していた。勢いがあるという話通りとても賑わっている。
こういう雰囲気は好きだ。馴染めるかといえば難しいが。やがてフラッツが、カレンに引きずられたルーギが戻ってきた。
「それじゃあ全員揃ったところでいつものようにするか」
「そうね。限界っぽいのが一名いるし」
ルーギを見るとカレンは持っていたカバンから袋を出した。それに続くように全員小袋を出す。
「オレは2シンク5ペンサ…ってこんだけか!?」
「自分で驚いてどうする。私は6シンク1ペンサか」
「ちょっと多めか?俺は5シンクきっかりだ」
それぞれコインを数えるとカレンに伝えていく。
何をしているかわからない。単位とおぼしきものに見慣れないコイン。
それから察するに通貨ではないだろうか。以前も金がないから受け取れないと一悶着起こしたことがあった。その時単位はおろか通貨も何もわからないので必要になったらどうしようと、しばらく金がないことに大変怯えていた。幸いにも使う機会がなく、使う前に離れたのでよかった。金がないから貸してくれなんて恥ずかしくていえない。
そういえば原作でルーギが無駄遣いしてカレンに怒られていたな。その時も通貨のことを言っていた気がする。
思いだしてきた。カレンが怒ったのも彼女がこのパーティの財政を担当しているからだ。それなら他のメンバーに比べて一回り大きな袋を持っていることも納得だ。それを裏付けるように何事か言いながら渡していく。俺はすぐにいなくなったのでわからないが、前にも同じことが行われていたのだろう。
「カレン、その~…もう少し…あの~…え~……融通?してもらえると大変ありがたいと思っている次第なんだけど…はい」
「いいけど、どのくらい?」
「できれば4シンクほど…」
「…けっこうね」
「…だよな。その~薬を買いたいと思ってな」
「薬?」
「ああ。知名度は低いから知らない人も多いんだが、一部ではかなり評判がいいんだ。やけどによく効くらしい。他にも切り傷擦り傷、まぁ基本的に何でも使える。それがここにあるって聞いたんでな」
「そうだったの。なら全然いいわよ。ってゆうかそれを早く言ってくれればすぐに出したのに」
そう言うと、先ほど渡したものに希望通りの金額を上乗せする。フラッツは何度も感謝の言葉を述べた。
コイツホントにフラッツか?フラッツという名の、もしくは見た目が似てるだけの別人じゃないか。そう思ってしまうほど普段からは想像できない変わりようだ。俺とはエライ違いだ。どんだけ嫌われてるんだ、俺は。といってもあの時ほどではないか。
「ありがとな」
「いいって。必要なものなら出すって言ってるでしょ?それにいつもお世話になってるんだしこのぐらいはね」
「自分で言っといてなんだけど、あんまり使わないようにしようぜ。できれば使うことがないように」
「そうね。でもいざという時は頼りにしてるよ?」
「…ああ」
わずかに笑みを浮かべると自身の小袋に仕舞う。
「金庫番から許可が下りてよかったな」
成り行きを見守っていたルーギが双方をからかう。
「まぁな。けどダメ元だったんだぜ?財布のヒモ固いし」
「そうだなぁ…オレもメッチャ怒られたんだよな…。未だにトラウマだし」
「そうは見えないけどな」
「過去は振り返らない、前だけ見るからな。オレって」
「二秒前に言った事を思いだせ。おもいっきりホコタテだから」
「そうか?う~ん…まったく覚えてねぇや!」
「お前な…」
「ま、それはおいて。メチャクチャ下手に出てたよな?怖かったか?やっぱり怖いよな?」
「怖くねぇよ。恐ろしいんだよ」
「まさかのランクアップか!?」
そんな会話する二人を見かねて、
「必要なものはきちんと許してくれるぞ。そんなに怖がらなくても。それにあれはルーギが過ぎただけで」
カレンを擁護するレイラ。しかし、
「まぁ確かにアレは怖かったが…」
「結局レイラも!?わたしに味方はいないのぉ~!?」
そこで視線が留まった。ユウトだ。そうだ、この人はまだあの時いなかった。つまりアレを知らない!いける!まだいける!諦めるにはまだ早い!わたしの味方はここにいたぁ~!
「ほ、ほら、あんまり変な事言うとわたしが怖いってイメージになっちゃうでしょ?全然そんなことないのに」
「元々怖ぇじゃん」
冗談か本心かわからないルーギをひと睨みで黙らせる。
うん、かなりだわ。これは怖い。
この瞬間カレンに味方はいなくなった。それを知らないカレンは、先ほどのことなどまるでなかったかのように笑顔を向けると、
「わたしってやさしいんだからね?見てわかると思うけど。この人たちがおかしな勘違いしてるだけなんだよ?」
「そ、そうなんだ」
「そうなの。困ったことがあったら言ってね?わたしもあなたの味方だから」
その笑顔に言い知れぬ恐怖を感じたのは俺だけじゃないはず。紙面でさえ怖いと思ったのだ。実際に受けた、その場にいた者は恐怖を感じたに違いない。俺いなくてよかった。
この中で最恐はカレンではないか。
「そういえばあなたはどうなの?」
「何が?」
「欲しいものとかはない?っていうか、どのくらい持ってる?」
先の話しから察するに所持金のことだろう。そういえば今までスルーされていたし、俺が使った場面がなかったからな。財務担当としては把握しておきたいのかもな。
ちょっと待って、と言いおきゴソゴソあさり出す。財布なんかないし、そもそも金も持ってない。これだって探してますよ、という一種のポーズだ。この後をどうやって乗り切るか考えないと。ってかよく考えなくても俺すげぇ度胸だな。文無しで宿に泊まろうってんだから。それだってなんとかしないとな。
「金かねカネって、どんだけがめついんだよ」
「べ、別にがめついとかじゃないわよ!ただ今知ってれば多少手助けできるかなとか、新しく何かあるんじゃないかなって思っただけで」
「傍からはそうは見えないけどな」
「黙りなさい」
ないと心配で仕方がないが、使う機会がないとそれも薄れ、やがて意識しなくなる。それでもある程度は必要だよなぁ、と思いながら上着のポケットに手を入れると何やら硬い感触が。
口を広げて見れば彼らが持っているものとは違うコイン。今まで着ていたがこんなものが入っていた感覚はない。突如として現れたとしか言いようがないが、『コレ』を使う以外にこの状況を打開する方法はない。
「これしかない」
そう言って披露したコインは陽の光を浴び、金色に輝いた。
何でもないように見せたユウトとは対照的に、カレンたちは驚愕の表情を浮かべて固まった。何かと騒がしいルーギも静かになり、反発するフラッツも目を見開いている。
ユウトが見せたコインは金貨というもので、富裕層の証でもあるからだ。
何故持っているのか、どうやって手に入れたのか、ひょっとしたら偽物ではないか、など疑問が頭に浮かぶ。ただ全員に共通しているのは、この人(コイツ)は一体何者なのだろう、という素朴であり重大な疑問だった。再燃したといってもいい。同行者の正体がますますわからなくなった。
だがこれまでの不可解な行動、何かあるような言動、無邪気な姿、プロフィールを明かさない理由がなんとなくわかった。簡単に首を突っ込んではいけない、気軽に話せるような代物ではないのだろう。
とある地方に某国でかつて繁栄し王家の寵愛を受け、国民に多大なる影響を与えた一族がいた。
信頼が厚く、領地の一部地域の自治権を認めた。王の予想通り見事なまでにその手腕を発揮し、他国からの移民も増え、国は栄えていった。一つ予想外だったのは自国領地からも移住が移住が相次いだことか。
事実上一つの国と化していたが独立する考えは微塵もなく、あくまで領地の一部であり、自治を認めていただいたという姿勢を崩さず、一貫した主義主張だった。
国のため、民のため働き、横暴な真似はせず。おごらず、謙虚で親身なのでとても評判が良く裏表なく誠実なことも珍しいと評された。
城内への出入りや移住を勧められたり、特権、内務全権委任など破格の条件で熱烈に歓誘された。しかし自分たちはあくまで貴族、国政に参加する資格はないと断っていた。その対応にますます惚れ込み、だからといって諦めるわけもなく、相談役や外部顧問として登用され、王を支えた。そのおかげか国王以下王家に絶大な信頼を寄せられ、外遊には必ず同行せよ、と直々に命を受けた。
国家運営も安定して行われ、双方の民から尊敬され、愛され、国王よりも人気があり、誠実で、悪い噂が一つもないという異例の一族であった。
しかしそれを妬ましく思う者も当然いる。王家や一族の敵対勢力だ。特に一部の貴族は、彼らのやることなすこと全てが気に入らず、とにかく憎み、破滅させたいと常日頃から考えていた。
国を牛耳り利益をむさぼっている、他国に売り渡し自分たちだけ甘い汁をすすろうとしている、戦争をしかけようとしている、危険な考えを持っている、など、不利になる噂を流した。そしてその責任を取らせようと画策したり、妨害工作をし失脚させようとした。しかしどれも上手くいかず。そればかりか王家や民から「根も葉もない噂を流すなゴミ野郎!」「もうちょっとマシな嘘をつけ!ゴミクズ!」「お前らがやってるんじゃねぇのか!ゴミ虫!」など反感を買い、取り潰しの警告を食らうほど立場が危うくなった。
このままでは没落する、築き上げてきたものが全て消えてしまう、かつてない危機に身を焼かれた。このままでは全てが無くなるのは時間の問題だ。足場が崩れ去ってしまう前に頂上まで駆け上がらなければならない。そのために手軽で、一度は誰もが考え、さらに古今東西で行われ、そして最終手段である武力による制圧、クーデターを企てた。
そして国王不在の時を狙い実行に移したのだった。
傭兵を雇い、ならず者と手を組み、政権を取るために手段は選ばなかった。
例の貴族はもちろん国中、王家をも襲い、国を恐怖と大混乱に陥れた。
当然治安部隊が反乱を鎮めるために動くが、まるで歯が立たず。なぜなら治安部隊とは名ばかりの素人集団のようなもので、武力というものをほとんどもっていなかった。軍もあるがそれも形だけのもので、役立たずもいいところだった。
武力に頼らない世界初の国家として運営し、平和の先駆けとよばれていたので最低限の、それこそ形だけのものだった。そのため鎮圧どころか一日と待たず逆に壊滅してしまった。
首都は陥落し王宮は軍事制圧されて国が乗っ取られてしまった。
乗っ取りに成功すると、例の貴族の自治権を剥奪し、領地、民を破壊し歯向かえないようにし、独裁政権を築いていった。
例の貴族は数人を残し処刑、使用人たちは奴隷として扱われるようになった。
この悪しき一族が国王暗殺、国家転覆を企てたため未然に防いだ。彼らが悪であり、我らこそが正義であると喧伝をした。
「そんなわけないですよゴミ神様」「自分たちがやったことじゃないのですか真正のゴミ殿」「勝てば官軍とはよくいったものですね。ゴミ王」逆らえば処刑されるので心では貶しながら、表面上は崇めていた。そうするしかなかった。
例の貴族を国の端に追いやり、貧しい生活、家畜の世話を当時の服装のままさせ、他貴族や民に対する見せしめ、けん制とした。その後も浄化作業と称し王家、反乱分子を粛清しトップに君臨した。外部との連絡の一切を禁止、脱出も出来ない陸の孤島にして抵抗する力を完全に失わせた。
このままでは未来はない。国王への伝令と救援を求めるために、粛清を免れた生き残り、元自治領民が協力し合い、一人の少年を代表として何とか国外へ脱出させた。
困難に直面しながらも無事に謁見にこぎつけると実情、惨状を報告、このまま亡命することを進言した。
国王は苦渋の決断だっただろうが承諾。そして父である当主と共にある命を下した。
諸国を回り、様々な経験を重ね力をつけよ。来るべき王国と一族の再興のために尽力せよ。その時はお前が中心となり、率いるのだ、と。使命と激励を受け旅に出た。必ず取り戻すと誓いを立てて。
「ユウト、お前、すっげぇ大変な思いしてきたんだな」
「は?」
「つらかったろ。苦労もしただろ。どうしようもない時もあっただろ。オレだったら無理だぜ」
「あの…」
「皆まで言うな!わかってる!誰が何と言おうとお前はすげぇ!これからも色々大変だと思うけどお前なら乗り越えられる!安心しろ!オレは味方だ!何かあったら力になるぜ!」
一人盛り上がるルーギに置いていかれるようにポカーンとなる四人。特にその思いをぶつけられているユウトは本気で困惑している。
気づいてるとは思えない。別の何かと勘違いしているんだろうが、とんと見当もつかない。何か言おうにも人の話を聞きゃしない。まるで暴走だ。何が関心を引いたかのかわからないが放っておくのが無難だろう。
「なぁ、ルーギはどうしたというんだ?」
「俺に聞かれても。付き合いの長いお前らの方がわかるんじゃねぇのか」
「それがまったく。聞いてるとお前がどうの、と言っているが」
「俺もさっぱりだ。あいつにしかわからない何かがあるとか」
「それはないわよ、バカだから。落ちてるモン拾って食べたんじゃない?」
「…否定できないな」
「ひでぇ言われようだな。そんな犬みたいに。ま、放っておけばそのうち戻るでしょ」
「…そうだな」
その後もしばらくルーギは闘志を燃やしたり、協力するとあまり変わらぬ状態だった。
ルーギの対応はレイラたちに任せて、ユウトは手の平のものについて考えていた。
いつ、どこで、どうやって手に入れたのか、ポケットに入っていたのか、わざわざ金貨だったのかまったくわからない。
レイラたちとは違う理由で驚いていた。選ばれし者だけが手に入れられるとか、かっこいい理由だったらいいのだが、恐らく違う。
俺がこの世界の支配者だからだ。望めば手に入ると都合の良い話も聞かされた。だがそれは本当に必要で、心の底から強く望んだ時だけではないか。そのぐらいの制約がなければさすがにチートすぎる。もしくは支配者たる俺に惨めな思いをさせられないという思いやりだろうか。
無意識か、生きるために必要だから、はたまたお節介か。
「ユウト、それを使うとかなり目立つから、欲しいものや必要なものがあったら私かカレンにいえ」
「子供みたいだな」
苦笑が出る。小さい頃に押し問答に駄々こねの末おもちゃを買ってもらったことがある。いい歳してまたああなるとは思いたくない。
あるのに使えないのは不自由だが、俺の心配をしてくれているからだろうな。欲しいというのは恥ずかしいし、買ってもらうというのもみっともない。何より申し訳ない。それは最終手段にしておこう。
そこでふと疑問に思った。この世界の通貨はペンサ・シンク・ガラオンの三つ。そしてガラオンという金貨が一番価値が高い。それはいい。だが俺の心配とは何か。漠然としたものか、金貨を使用することによって生じる何かか。
俺が知っているのは先に上げた通貨価値、この程度だ。それ以外のことはわからない。違いや意味など他の理由があって、それによって生じる不利益があるのだろうか。
「コレってすごいのか?」
レイラたちの反応を見て気になり、尋ねていた。一番価値があるのはわかったが、それだけで驚くとは思えない。それとも金貨を俺が持っていたという単純な理由か。…そっちの気がしてきたな。
ユウトの疑問など知る由もないレイラたちはまたもや驚く。だが、「何故そんなことを聞くんだ」、などと野暮なことは聞かず、「金持ちとはそんなものか」、と思い簡単に説明する。
通貨は三種類、しかし広く流通し日常的に使用されているのは二種類。
「それがペンサ・シンクという硬貨だ。多く出回っている分必然的に使うことになる。といっても不都合があるわけでもなく、この二つで充分やっていけるんだ」
「へぇ、じゃあこれは何のために?まさか飾りなんていわないよな?ちゃんと使えるよな」
「もちろんだ。だが場所によるな」
「場所って…ギャンブル場でなきゃ通じない金かなにかか?」
「似たようなものだな。ここで使っては潰しかねない」
「…店をか?」
「ああ。簡単にいえばガラオン金貨は富裕層の間で流通している通貨なんだ」
そんなものがあるのか。金持ちの間だけで通用する金なんてものが。だがこうして現物があるし、レイラも他の奴らも否定をしない。…本当なんだな。そんなものを出されりゃ潰れるという話もあながち嘘ではないのだろう。十万円札と同じ理屈か。
管理や持ち運びが楽になるので、ある程度まとめたお札の導入が検討された。だが一部(カネ持ち)しか恩恵がなく、それ以上に害にしかならない。釣りが用意できないとか却って細かくなるという反発の声が殺到し見送られたという話だ。
この世界は独裁的に国家運営しているところが多いのでさもありなん、というか実際あるのか。
「金持ちのための金…ってやつか」
無駄でしかないだろ。そんなもの己の権力を誇示したいだけじゃねぇか。だがあまり深く追求したり改善しようなどと思わない方がいいだろうな。難しくて出来る気がしない。
「ひとことで言うなら富裕層の証…だな」
「へぇ…これが、ねぇ…」
手の平に転がっている硬貨を眺める。一番馴染みのない呼ばれ方だ。間違っても金持ちなんていえないんだけどなぁ。家も大きいわけじゃないし、金のかかりそうなものもない。あ、でもあいつらには財布見られると金持ちっていわれるな。ただ使ってないだけだっていうのに。
その時ユウトはあることを思いだした。それはとある授業だ。といっても授業そのものではなく、余談というか雑談のようなものだが。古文の笹川さんが海外旅行に行ったとき円高?とかの影響でちょっと豪遊が出来たと自慢げに話していたな。実感なんか湧くわけないし行きたいとも思わなかった。そんな話をするぐらいなら土産の一つでも買ってこいや。大して美味くない一箱二十個入りのお菓子とかそんなんでいいから、と思ったのは記憶に新しい。それと似たような感じか?
ここに来る直前まで持っていた金が自動的にこちらの通貨に交換されたのか?事実スティックが剣になったことを考えればよほど現実的だ。
どのくらい持っていたか定かではないが、かなり持っていたと思う。それが一枚の硬貨になってしまったのは哀しい。たとえ富裕層だとよばれても。だとしても金持ちなのだ。これで宝くじが当たったらとんでもない大富豪になれるだろう。ここならマジで一生遊んで暮らせそうだ。いつかやってみたい。
そんなことを思っているとレイラが口を開いた。
「そんな訳で何かと問題が生じやすい。使ったり、できればあまり見せないようにしろ」
「はいよ」
まるで見せつけるようにしていた金貨をポケットにしまう。そのぞんざいな扱いに本当にわかっているのかと不審を抱いた。
ようやく妄想の海から帰ってきたルーギは良い笑顔を浮かべて何度も頷く。自己完結しているので当然ユウトもレイラたちもわからない。なおも言い募るので、とうとう頭がおかしくなったかと思い、カレンにいたっては医者に見せた方がいいんじゃないかと真面目に心配した。
金の分配、そして珍事も終わり一行は町の散策に入る。
店も軒を連ね、多くの人が集まる。遠くから来た人もいるのだろう。見慣れない格好や民族衣装をまとっている者たちもいる。
ちょっとした祭りみたいだな。寂しさを助長させられるので好きではないのだがワクワクする。雰囲気は嫌いじゃない。浮かれているヤツや人間模様が嫌いなだけで。
五人という大所帯で回っているので幅はとるわ進みにくいわ、却って良くないんじゃないか。
「なぁ、やりづらくね?」
効率重視人間ではないがそれぞれ興味が違うので進行ペースは遅い。それがなかなかに耐えがたい。
「観光だからそれでいいじゃないか」
そうじゃないんだけどなぁ、俺が言いたいのは。
「情報収集や物資調達ならいけないのだろうが、せっかくの機会だしな。どうせなら全員で回った方が楽しいだろう」
「そうだぜ。息抜きも必要ってもんよ」
「あんたは抜いてばっかだけどね」
とがめるように言うカレンにごまかすように笑うルーギ。苦笑するレイラ。良い雰囲気だな。
「それもそうか」
表面上は納得したように返事をする。内心仲の良い者同士ならな、と付け加えて。
その後はレイラの言葉通り土産物を見たり町並みを眺めたりと観光を楽しんだ。格好を除けばただの観光客にしか見えない。これに揃いの格好で知らない土地を回る、更にバスか人力車があれば修学旅行だな。
やがて、グルグルグー!轟音が響いた。音の出どころはルーギ。まったく気にした様子もなく、
「ハラ減っちまったぜ~」と、明るく言う。
その豪快さというか遠慮のなさに苦笑を浮かべる。
「じゃあどこかで食事を摂るか」
ルーギの腹時計を考慮してレイラが提案する。皆も同じ気持ちだったのか頷く。もちろんユウトも。
食事処を探すが昼時なのかどこも人がいっぱいだ。さらに何軒か回りようやく決められた。
店主と簡単なやり取りをするとテーブル席に案内される。年季の入った店構え、壁に張られた変色気味のメニュー、漂う油のにおい。よく出てくる大衆酒場のようなところではなく、こじんまりした町の中華料理屋、といった感じだ。雰囲気は好きなのだが常連が行くイメージだったので、向こうでもあまり入ったことはない。こんなところもあるのか。
「良さそうなとこじゃん」
興味深そうにルーギは見回す。
「そうだろ?意外とこういう方が良かったりするんだ。それにガチャガチャしてるのはあまり好きじゃなくてな」
「じゃあルーギも嫌いだな」
「…少し」
「ちょっと待て!オレ関係なくね!?とばっちりじゃん!」
「黙れ存在ガチャガチャ」
「景品は出ねぇぞ!ってかマジでその呼び方するつもりか!」
どこかで見たようなやり取りに妙に親近感を覚える。どこでもいじられ役というか似たようなことをやるもんだな。
「といっても珍しいんじゃない?こういうところに来るの」
「単純になかっただけじゃねぇの?小さい町なら酒場の方が多いし」
「…あんたが気づいてわたしが気づかないとは。情けないわ……」
「オレどんだけバカだと思われてたん?ねぇ?」
「まぁそういう時もあるさ」
レイラ、追撃してどうする。四面楚歌でバカにバカって言えばバカでもバカなりにバカみたいに傷つくぞ。いや、バカなら気にしないか。だってバカだから。
「しまいにゃ泣くぞ」
「はいはい元気だそうぜー。泣かれると面倒だから」
慰めているような、いないようなフォローをするフラッツ。お前も否定はしないんだな。
「まぁそれはさておき、必要なら苦手でも行くさ。人が多く集まればそれだけ情報も集まる」
「聞き耳立てなくても自然と入ってくるしな」
「ああ。席を囲んで情報交換もするし、そういった事がやりやすいところではあるな」
「今じゃ貴重な情報源の一つだし。それを目的に営業してるところもあるっつー話だ」
豆知識を披露しながらレイラとフラッツは会話していく。フラッツはアナウンス係なのでわかるが、レイラもすごいだろう。言ってる内容についていけるんだから。いや、理屈ではなく実体験としてって感じだな。
苦手であっても必要ならやる。頭ではわかっていても実際やると難しいだろう。大変だろう。
俺には出来そうもないな。
ここだけに限った話ではないが情報というのは使い方によっては一国を滅ぼせるほどの力を持つ。ある意味最強の兵器だろう。情報一つが即命の危険ということもある。だからこそ日常的にアンテナを張り巡らせて収集する必要があるのだろう。そうしなければ生き残れない厳しい世界。そこにいる以上俺も染まるべきだろう。危険にさらさないためにも。ただ、今は、
「堅苦しい話はなしにしようぜ。せっかくの料理が不味くなる」
「…そうだな。つい真面目な話になってしまう。これでは休憩にならないな」
「それも良いところだと思うから気にするなよ」
そう言えばフラッツは不機嫌になる。ユウトの言う事がわかるので余計気に入らず睨んだ。
俺もレイラと似たようなものだ。つい答えを出そうとしたり真面目になってしまう。口ではああ言ったが、じゃあどんな話題が、と聞かれれば返答に困ってしまうのだけど。
「でもよぉ、まだ食ってなくね?」
そういうことじゃないんだよ!三人は同時にツッコミをいれた。こいつがいれば多少の問題は無いに等しいな。
腹減りルーギが急かしたおかげか料理が運ばれてきた。肉が中心のガッツリメニューといった感じで、いかにもスタミナがつきそうだ。立ち上る湯気に空腹を感じ、鼻をくすぐるにおいに食欲が刺激される。美味そうだ。
山盛りメニューというのはテレビでしか見たことがない。結構な量だがこれを一人で食べてしまうというのだから化け物だな。こっちではそう珍しいことでもないのか?
テーブルに置かれるとすぐにルーギは手を伸ばした。行儀が悪いとカレンにたしなめられるがどこ吹く風。肉の塊にかぶりつく。
ユウトはお隣のルーギとは対照的に手を合わせ何かつぶやくと手をつけた。
食事中の小休止をとってると、向かいに座るレイラが話しかけてきた。
「ユウト、さっきのあれは何だ?」
「?あれ?」
「食べる前に何かしていただろう?」
はて?何かしていただろうか。興味を引く特別なことはやってないと思うが…
「宗教とか何かの儀式か?こうやって…」
見よう見まねでユウトと同じようなことをする。その動作が示すところは一つしかない。
「ああ、あれか」
ユウトは遠い昔に聞いたことを思いだしつつ話し始めた。
「あれは『いただきます』っていう食事前のあいさつだ。まぁ儀式…ともよべるか」
「食事前のって、誰に対してだ?作った者に対してか?」
「それもある。それ以外にも食事になったものたちに対してだな」
「食事になったもの…」
つぶやくと手元の肉塊に目を落とす。
「こいつらもこうなるまでは動いて生きていた。だが俺たちの食事のために犠牲になった。その身を捧げてくれて、それで俺たちは生きていられるんだ。生かされているんだ」
「犠牲…か」
「彼らの身を余すことなく利用するという鎮魂と、生かされているという感謝の気持ちが込められてる。命をいただきますってな」
命をいただきます…か。
考えたこともなかった。
当然だとは思っていないが、あること、食べられるというありがたみで止まっていたような気がする。しかも特別なことがない限り意識しない。
彼らの命のある前提など思いつきもしなかった。食事は動植物の犠牲で成り立ち、生かされている。
命の大切さ、尊さ。それを常に意識して理解しているから、ああ言ったのだろう。
『投げ出すような命に価値はない。簡単に捨てようとするな』と。
「…そうだな。ありがとう」
ユウトに倣いレイラも手を合わせ、いただきます、と呟いた。口に運んだ料理は先ほどより美味しく感じられた。
店を出た五人は今後の予定を話し合う。特段急ぎの旅でもないのですぐに出発しなければならない理由もない。
「なら明日もここにいて、今日はゆっくり体を休めようぜ」
「さんせ~。今回ちょっと長かったから疲れちゃったよ」
「さっきも遊んでたじゃん」
「あれで回復しないわよ。あんたじゃあるまいし」
「ま、それはおいて。回りたい人は回るっていう風にしない?」
「それもいいが、それだと明日が慌ただしくなるだろう。幸い陽もまだ高い。疲れてるところすまないが、必要物資の調達は早めに済ませておかないか?手分けすれば早く終わる」
「…そうね。心配事は早めに済ませた方がいいよね。後が楽になるし、考えなくていいし」
疲れたというカレンも同じ考えになったようだ。その切り替え素晴らしいな。
「それにまた外に出て回る手間が省ける」
苦笑しながらレイラが付け加えた。
「単純にメンドウなだけじゃん」ルーギはつっこみ、
「意外とメンドくさがりなんだな」
ユウトは小突き笑った。
以前と同じくここからは手分けして回ることになり、役割分担をしていく。前回一人だけ何もせずプラプラしていたユウトはカレンに用事はないか聞く。少し思案した後、携帯食料などの保存のききやすい食糧の調達を頼まれ金をもらう。金貨騒動でうやむやになり分配してもらっていなかったのだ。
「これだけあればいいかな?足りない分は出しといてくれる?後で払うよ」
それに対しユウトは金貨を見せることで返事をした。
「…そうだったね」
思わず苦笑い。ではどうするか。
「三人で回ったらどうだ?それならあまり心配しなくてもいいと思うぞ」
レイラに提案される。それなら余計なことを考えなくていいし、都合が良い場合も多いだろう。しかし、
「俺はいいや」
あっさり断った。その話を受けるつもりはなかった。
「限られた中でなんとかするのも必要な能力だろ?旅をするんじゃとくに」
「確かにそうだが…」
「それに俺は仰せつかった使命を全うする義務がある」
舞台俳優のように芝居がかった動作、お辞儀をカレンにする。突然の奇行もとい行動に向けられたカレンは戸惑うが、満更でもなさそうだ。
「…おかしなやつだな」
レイラは穏やかに笑った。
そうしていつかと同じように三手に別れ、行動を開始した。
一人になったユウトは用事を済ませるべく足早に物色する。そして二組の姿が完全に見えないことを確認すると、
「ああぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
頭を抱え悶えだした。
「なんだ…!何をやってるんだ俺は…!」
あんなことをするなんて…!
いけそうだな、とか、やりたい、とか、出来そうな雰囲気だったわけじゃない。ヘンなテンションになったわけでもない。もちろん何かのパクリでも。ごく自然に口をついて出て流れるように体が動いた。
「だから厄介なんだろうが……!」
無意識であるため止められない。言ってから初めて気がついた。
ノリやテンポの良い作品のように出来たらいいな、とは思った。そうすれば中心になれるし楽しいだろうと。でも口は動かないし、練習したらかみまくる。おまけに強烈にブレーキをかけているので実行したことはない。
向こうではまずありえないのだ。恥ずかしいというのはもちろん、もし実行したらバカにされ嘲笑の的になるのが確実だからだ。だからいつも脳内補完で済ませている。それを女子にやったらどうなるかなんて考えなくてもわかる。
うおぉぉ…!今になって急激に恥ずかしくなってきた…!だが後悔はしていない!むしろ清々しいくらいだ!
「…へへへっ、やってやったぜ…!やったぜ…!」
怪しい笑みがこぼれる。
念願かなってようやく出来た。いつもは強靭な理性で抑えつけているので顔を覗かせることはない。これが自分の意思で出来たのなら尚良かったのだろうけど。
この世界で本当に良かった。向こうじゃ絶対出来ない。やりたい事が出来る。願望が叶えられるのがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。ある意味こういう世界に来たよりも嬉しい。
羨むだけじゃなく俺が出来る。思うだけじゃなく実行できる。それを受け入れてもらえる。
(俺のための世界…なんだよな)ここでなら俺を見せられるかも。全部ではないがもう少しはっちゃけてもいいかな。ずっと我慢してきたんだしこのぐらいは許されるよな。タイミングは見計らわないといけないが。そんな事を考えている時点でダメじゃないか。ってかあれ?結局やりたいって思ってたんじゃ…。泥沼にはまりそうになるがすぐに切らないといけない。
レイラの提案を断ったのは彼女たちに言った理由もあるし、ヘンに気を遣いたくないというのもあった。だがそれだけでなくもう一つ理由があった。
人通りの少ない路地に入り中ほどまで進む。少しずつ緊張が高まってくる。そしてゆっくり振り向いた。
そこには……………誰もいなかった。
「…俺はゼロかよ……」
至極残念そうに、呆れたように呟いた。
じゃあ他の奴らか。距離的に考えればあいつらの方が近い……か?二人が向かった先と町の地図を思い浮かべ一つ頷くと現場に急行した。手遅れにならないことを願いながら。
叫び声や金属音がどこからか響いてくる。どうやら現場は近いようだ。
気配を探りながら路地を覗き込んだ。
若干の後目的の人物たち、ルーギとカレンの姿を発見する。しかしその姿は十数分前とはうって変わり緊迫感が発せられていた。理由は俺の前にいる男たちだろう。どう見ても穏やかな雰囲気ではない。ちょっと道を聞きたいんだけど、という遠慮や友好的な雰囲気がしないのは誰から見ても明らかだ。堕道を聞きたい、暴行しない?ならわかる。むしろそちらの方が納得だ。違和感がない。だって一人倒されてるし、それぞれ得物を担いでいるし。
とりあえず戦闘は始まったばかりのようだ。何とか間に合ったことに安堵する。
こういう事があるかもしれないと思っていた。きっかけは前回、街に向かう道中で盗賊くずれにからまれたからだ。
こういう世界では小競り合いやいさかい、もめ事などは日常茶飯事だ。それはこれまで見てきた書物(マンガ)、映像(アニメ)でもわかる。それでも当事者になってみれば驚いたし少なからず慌てた。いくら考えていても実際に体験してみるのと疑似体験では差がある。しかし芯から動揺することはなかった。ここでの力のおかげだろうか。
そのようなことがあったので今後も絡まれるだろうし、人の多い所ではまずあると思っていた。案の定だった。こんな予想が当たっても嬉しくない。
今回の騒動が起きると思った決定的な理由は視線を感じたからだ。五人で散策を始めた時からだったので間違えようがなかった。
俺以外に気づいている人間がいなかった。また、来ないのではないかという希望的観測があった。それに何よりせっかくの穏やかな空気を壊したくない、余計な心配をさせたくないという親切心もあった。適当な理由をつけて抜け、一人で対処するつもりだったのだ。
知らないままでいい。何も知らずに楽しく過ごしてくれれば。しかし残念ながらその機会に恵まれず散開となってしまった。こうなってはどうしようもない。
ならば何が目的で誰を狙っているのか、それを判別するために三手に別れた。そして自分を追ってきた連中を捕まえて吐かせようと思っていたのだが…。その目論見は見事に外れた。
信じられなかった。誰も追ってきてないことが。
愕然としてしまった。
五人で行動してるところを見ていて、そして仲間だとわかっているんだから誰か一人ぐらい寄越すだろ。監視としても。それをまったくの放置って……おい、大丈夫か。敵ながら心配だぞ。常識的に考えてありえないだろ。アドバイスしたいくらいだ。
よほど意識されていないのか、敵と判断されなかったか、視界にすら入っていなかったのか。狙われないならそれが一番良いだろうに、なんだ、この疎外感というか複雑な感情は。だがここに来るまでの経緯や出来事から考えれば知られていなくても当然だよな。一行に加わったのはつい最近だし。
争いは好きじゃないし、好んで戦おうとは思わないのでいいのだが、どうにも釈然としない。誘い込むつもりで路地に入り、いると思って振り向いたら誰もいなかった虚しさとか寂しさといったら…。お前わかる?あ、ヤベー、思いだしたらなんか泣きそう。かまってちゃんか、俺は。
そんな思いを振り払うように少々の手助けと怨みを込めて加勢しようと一歩踏み出した。しかし少し考えると何を思ったか先ほどの位置に戻った。
そういやぁこいつの闘いを見るのは初めてだよな。生では、だ。紙面では何度もあるがイマイチよくわからない。最終的には勝っているので強いのだろうけど。それにレイラが認めるくらいだし。発展途上とは言っていたが、それでも多少はやるはず。少なくてもこんなチンピラのカスみたいな奴らにはやられはしないだろう。
ここでやられるようでは話にならない。これから降りかかる災厄の対抗勢力として考えてもいいか、それを見極めるために戦闘を見守ることにした。
(数に位置に周りの状況、……逃げるのは無理そうだな)
そう判断し剣を手に取った。思えば追い立てられるようにこんなところに入ってきた。コイツらが仕組んだのか?闘えるのはオレしかいない。オレがカレンを守らないと。でも本気でやる必要はないって言ってたよな。ちょっと力を見せて相手に撤退させればいいって。かつてレイラに言われたことを思いだす。
ルーギとしてもそのつもりだった。しかしそれが出来なかった。予想が当たったのか、何か思惑があるのか攻めてこず、こちらの問いにも答えず睨み合いが続いた。しびれを切らした一人が襲いかかってきたが、落ち着いて返り討ちにする。
続けて二人、三人と襲いかかってきたが何とか持ちこたえる。作戦変更をしたのか勝機とみたか、続けざまに攻撃してきた。最初は何とか反撃もしていたが、次第に防戦一方になっていく。
自分でやっているとわからないが、人の姿を見ると全然なっていないな、と棚上げに思う。自分と同じ事、いいと思っている事を他人がやってると、それじゃ無理だと思うから不思議だ。どうやら自分については鈍感みたいだな。逆に他人についてはよくわかる。ルーギを見て思った。
隙をみて脱出するか、暴力的な意味で圧力をかけて退散させようとしているのだろう。倒すつもりならもっと本気でやってるはず。必要以上に攻撃しないのはそのためだろう。それが相手の戦略によって徐々に崩れ、相手に向かっていってる。だが相手も退かず数で押し切ろうとしているので動かない。いや、状況が変わらないどころか悪くなっている。
当初の作戦に固執しすぎて現状が見えておらず、何とかそっちにもっていこうと躍起になっている。そしてそれが出来ずイライラしている。まるで自分を見ているようだ。
こうしたいという気持ちが強すぎて、こうしなければならないと思いこみ、軌道修正が出来ず突っ走る。なるべく近づけたい、離れたくない、形だけでも同じにしたい。何故か。それしか見えておらず、自分の思い通りにしたいからだ。却下されれば存在そのものを否定されたように感じる。
間違ってはいない。ゼロから作るより元に近づけた方が楽だし修正が早い。また派生もしやすい。だが根本が間違っては意味がない。正反対の作戦を一つずつ考えて持っていればどちらかは当たる、近い方を採用というように幅が広がる。少なくても自滅は防げるはず。
人の振り見て我が振り直せとはよくいったものだ。
ルーギの現在の状況は非常に良くない。計画通りに進めようと自分自身で足止めをかけている。それでは相手の思うつぼ。
実力的には全員まとめて相手にしても勝てるだけの力は充分ある。だが満足に動けない狭い路地、守りながら、予定通りにいかずイライラ。そんな状況、状態ではまともに戦えない。三割も出せていれば上出来だ。
考察通り苦戦し押されていってる。それは隙を生む。自身の危険も他者の生命という意味でも。
一人が防戦一方のルーギを越えた。
向かう先にはカレン。
突如標的が自分になったことに対処できずカレンは固まってしまう。
ルーギはもちろん気づいているが、邪魔をされて動けない。早く倒して向かいたいのだが、焦れば焦るほど剣筋は乱れ、動きは単調になってゆく。それで倒せるほど相手も弱くない。
(もうすぐアイツがカレンに…。戦う術がないカレンでは……!あの剣がつらぬい…クソッ!どうしようも出来ねぇのかよオレには!せめて、せめて!)
「カレン!」
その名を叫んだ。せめて逃げてくれれば!
しかし願いも空しくカレンは動けない。未だに飲み込めず立ちすくんでしまう。目線は動かず相手の剣を見ていた。あと一歩に迫り、手が伸びてくる。そして―――――。
ボガァ!小さいタルが飛んできた。カレンのすぐそばを通り過ぎ、男の足元に落下した。タルは破片をまき散らし、無残な形になった。
突如の出来事に全員動きを止めた。
男たちは前を向いて驚いた表情をする。
つられるように二人も背後、飛来してきた方向を見て目を見開いた。
そこには先日仲間になった、ほとんどが謎に包まれているがその一端は壮絶な過去を持ち、どこかズレていて、だが強く、頼りになる。そんな男ユウトが立っていた。
不敵な笑みを浮かべ、手には投げたものと同じだろうタルを遊ばせて。
本当は見てるだけのつもりだった。ルーギの戦い方を見たかった。雲行きが怪しくなってきてもそれは変わらず、この状況でどう動くのか楽しみにしていた。
自分たちで切り抜けられれば間違いなく一段も二段もレベルが上がる。それは結果としてレイラを護ることにつながる。だからできれば参戦したくなかった。
直前まで迷った。しかしこのままでは間違いなくカレンは敵の手に堕ちる。最悪目の前で殺されてしまう。いずれにせよこれ以上遅くなれば取り返しのつかない事態になるのは明らかだ。ならば放っておくなど出来るはずもない。わかっていて無視できるほど冷酷ではないし、非情にもなれない。たとえ仲間でなかったとしても。
念のためカレンの様子を見るがこれといって外傷はなし。強いて言えばタルの破片がかすっただろうか。護りに出てきたのに自分で傷つけちゃ世話ねぇや。かっこよく登場するだけじゃ足りなかったか。後で謝ろう。
男たちを見据える。恐怖は感じているが取るに足らない程度だ。
突如現れた乱入者に男たちは動きを止める。
「おい、なんだお前」
「邪魔しないでくれないかねぇ」
「半殺しで済ましてやるから安心しろ」
邪魔をされ怒っているようだ。
だが男たちの威嚇を涼しい顔で受け流す。それに更に怒りを刺激されたのか、圧力を加えるようにユウトとの距離をゆっくり詰めていく。
「次はどこに当ててほしい?」
まったく意に介さず足元に置いた小タルを踏みながら言う。
度重なるユウトの挑発にキレた男たちは怒号を上げて突進してくる。先頭の男が暴言を吐きかけたが最後まで言う事は叶わず。蹴り上げた小タルで崩れてしまった。しかしそれに怯むことなく、ますます怒り狂った男たちが迫り武器を振り下ろす。あえて近づいて躱すと、通り過ぎ様に襟を掴み地面に引き倒した。意表を突かれた男たちは仰向けに倒れた。顔をしかめ起き上がろうとするが、そのすぐ横に勢いよく剣を突き立てた。
「まだやるか?」
睨み低い声で脅しをかける。まだやるなら容赦しないぜ、と凄みを効かせて。
男たちは悔しげな表情を浮かべると、一拍の後捨て台詞を吐き走り去っていった。序盤にタル攻撃を受けた男もフラつきながら立ち上がると「覚えてろ」、と、言い捨て二人の後を追った。
「コイツら見捨ててくんじゃねぇよ…」
呆れたようにため息を吐くと刀を鞘にしまう。とりあえず無事追っ払えて何よりだ。
自分より前に対峙していた、本来の相手であった二人を見る。特にカレン。先ほども確認したし、相手が俺になったので意識が向くことはなかっただろうが、万が一ということもある。できるだけ女の子にはケガはさせたくないしキレイでいてほしい。かわいい娘なら尚更だ。男はどうでもいい。自分でなんとかしろ。傷だらけになっても命を張って護るべきだ。そこで負った傷というのはちょっとした勲章みたいでかっこよくないか?
「あの…ありがと…」
まだ恐怖が消え去ってないのかぎこちない笑みでお礼を言う。
「無理しなくていい。大したことしてないし。それよりケガもしてないようでなによりだ」
「あなたが来てくれたおかげだよ」
「そうだよな。もしいなかったら、なんて…」
「それは言うな」
ルーギのセリフを遮った。
「理由はどうであれカレンは助かった。それで十分だろ?」
ユウトのおかげなのは間違いない。でも本人はそれを気にしていないし、助かったのならそれでいいと言う。
本人がそう言ってるしカレンは助かった。だったらそれでいいじゃないか。これ以上はユウトに失礼か。
「サンキュ」
改めて感謝の念を示した。
正直にいってしまえばむず痒いが、もっと尊敬され感謝を口にしてほしい。それが俺だから。褒められれば有頂天になる。感謝されれば嬉しい。それが女子、かわいい娘なら言わずもがな。何でも出来る気がしてくる。もっと!もっと!とおかわりを欲しがる。だがそれも状況による。
カレンは命の危機だった。ならば優先すべきは彼女を安心させること、彼女が安心することだ。俺への感謝などは二の次三の次でいい。そこまで自己中ではないし直接言うようなバカはしない。
もしもなんて考える必要はない。俺がいてカレンは無事だった。それでいい、それが全てだ。
ユウトが思っている以上に二人は素直にお礼を言い、信頼してくれているようだ。
言えねぇな…様子を見てタイミングを窺ってたなんて。理由はあるのだが、「早くしろよ!」と怒鳴られかねない。それは嫌だなぁ。
常に手を出すのがいいわけではない、自分がやっては誰かの役目を奪い潰してしまう。するとやるはず、やるべきものをやらず、強くならず、おいていかれ、弱体化していき、やがて殺される。
今回でいえばルーギだ。本来は彼だけで切り抜けなければならなかった。それが試練だ。だが状況が状況だったので俺が加勢した。結果をいえば俺が解決してしまったが。
ピンチを自分で切り抜ければ強くなるし自信になる。追い込まれれば潜在能力が顔を出し、思いもよらぬ力を発揮する。また真の力が解放され覚醒する。と、何かで言っていた。強くなるには何らかの試練を乗り越えなければならない。
その理論に則れば手を出すべきではなかった。ルーギの成長を妨げてしまったかもしれない。将来的にいえば害になるかもしれない。だが名目上は仲間、しかも女子が窮地に陥っている状況で見過ごすなど出来るはずもない。力があるのであれば尚更。だとえ誰かにとって乗り越えるべき必要な試練だとしても。
俺は人を育てるには向かないな。我慢が出来ないというか、自分でやった方が早いと思うとつい動いてしまう。
優先すべきは身の安全だろう。不確かな未来より確実な現在を選んだ。どちらが正しいかなんてわからない。でも感謝され安心した顔を見ると、これで良かったんだろうと思える。何にせよひとまず解決だ。
「…ねぇ、レイラたちは大丈夫かな?」
ようやく落ち着いてきたが、またも不安になりながら言う。
「レイラなら問題ないっしょ」
「なんでアンタってそうノーテンキでいられるの」
まだ解決していなかった。
そういやぁまだいたな。陰からの視線を思いだす。感じたのは七つ、一度にではなく数ヵ所で。特有のものなので向こうならいざ知らず、こちらでは間違えようがない。残念ながらグルかまではわからないが、一小隊ならありえる人数だ。
「こういうことはよくあるのか?」
「…珍しくはない……かな」
なるほど。なかなかスリリングな日常のようだ。
「でもわたしたちが狙われるのは……そう多くはないかも」
「大体レイラが狙われるよな」
「そうね。合流したら襲われたって話もしてるし」
「そうなのか。初めて聞いたぜ」
「仕方ないよ。あなたが来てからは一度もないし、わたしたちも話してなかったもん」
そういうと説明をしてくれた。
レイラは女剣士ながらとても強い。そこら辺の男よりもよっぽど。また治安や平和維持に対し貢献をしている。ある場所では英雄とよばれ、名前が独り歩きしているのだとか。それらの功績が認められギルドからの信頼も厚く、様々な依頼をされるのだそうだ。一介の剣士がこれほどまで重用され、認められるのは珍しいという。その一つの大きな例としてギルドの特別戦闘員にならないか、と破格の待遇で勧誘をされたというのだ。
特別戦闘員というのはギルドに直接所属する戦士のことで、状況によって己の判断で一つの国を動かせるほどの権力を持つ。一般戦士の憧れともよべる地位で、強さはもちろん人格的にも素晴らしい人間でなくてはならない。厳しい試験を経て入隊するのが通例である。もしくは上役、現役の推薦で入隊することもあるがこちらは極稀。そのような者は滅多にいないからだ。収入も保障されており、誰でも一度は夢見る。入隊出来る事は最大の誉れだそうだ。
そんなすげーところからスカウトされるってよっぽどだな。だけどあいつの性格から考えれば魅力は感じないんだろうな。選択肢にも入らないのかもしれない。それよりも大事にしたいものがあるから。事実断ったというのだ。
しかしそれは噂になる。いや、断った方が逆に噂になる。それで更に有名になってしまった。異例ともいえる勧誘、待遇を蹴ったのだ。憧れている、夢に見ている者たちからすればおもしろくない。それどころかふざけるなと言われても仕方がない。狙われる理由はそれだけでもいい気がする。だが狙われる最大の理由は、
「レイラが賞金稼ぎだからでしょうね。しかも凄腕の」
そりゃそうだろう。話を聞くだけでもそんな凄いところから勧誘されたのだから。ただ、
「なんかイメージと違うな。もっとギラギラした、殺して力を見せつけるような感じだと思ってたけど。賞金稼ぎって連中は」
「そういう人たちもいるみたいだけどね。それにレイラは専門にしてるわけじゃないから、そう見えなくても仕方ないと思うよ」
これまで多くの賞金首を捕えており、一躍その名を轟かせたのは、様々な強盗殺人を犯した強盗団、チェントのリーダーイムシの捕縛だ。盗みに入った城の人間を皆殺しにしたところをレイラと数人の協力で捕えたという。その他にもビアット王国国王の暗殺を実行したデスタ、犯罪王子と恐れられたグリッチなどが代表的だ。
「まぁ有名どころが…」
詳しく知ってるわけではないが同調しておく。そんな奴らを捕まえりゃ目に留まるのは必然か。とはいえ、
「ついでに捕まえられちゃたまんねぇよな」
中には依頼されたものもあるだろうが、たまたま出先で見かけたり、事件が起こり見過ごせないといったものがほとんどではないか。本業ではなく、それでも危険人物を捕まえてしまうのだから確かにすごい。だが尊敬される一方疎まれたり怨まれはしないか。同業者にも、賞金首にも。
「そうね。そのせいかわからないけど、そういう人たちには結構嫌われてるみたい」
凄腕の賞金稼ぎであるので、賞金首および犯罪者には恐れられていると同時に憎まれている。そのため噂ではレイラ暗殺を目論む連中が暗躍を始めたという。
「もしかして…」
顔色を悪くするカレンになんと言ったものか。
ある意味当然だろう。
彼らにしてみれば。
脅威を取り除くという選択肢は。
いつまでも逃げ、恐怖し、悩ませられ続けるより、狙ってくる相手を消してしまった方が安泰だ。鬼ごっこだって鬼を動けなくすれば逃げる必要はない。かくれんぼも鬼を潰してしまえば隠れる必要はない。それと同じだ。ルールによって守られているかいないかの違いだ。そしてこちらでは守る必要はない。そもそもあるのかどうかも疑問だ。
ありえない話ではない。だがまだそうと決まったわけではない。ならばここで話をしてる暇はない。
やる事は一つ。
「行こう」
カレンの背を押した。
頷くと三人は急いでレイラの元に向かった。
カレンの案内でレイラたちが向かった店に急ぐ。だがもう店にはいないだろう。買い物は済んだはず(と思われる)だし、時間経過的に戦闘が始まっていておかしくない。戦うとなったら人が寄り付かず、周りに被害が及びにくいところを選ぶだろう。
たとえば町外れや路地など。それらを中心に捜索していく。二人が目についたところ全てチェックしていくなか、ユウトは一直線に走っていた。
(こっちにいる!)直感としかいいようがないが、それを頼りに向かう。先ほどよりも気配が強くなった。
やや入り組んだ路地に入り、そっと様子を窺うと一人の男が倒されたところだった。
「お前たちが誰かはわからないが、狙われる理由は察しがつく。だとしてもこれ以上争う必要はないだろう。無駄な戦いはしたくない」
暗に退くように訴える。
男はどう考えても不利な状況、結果は見えていると悟り、捨て台詞を吐き走り去る。だがそれはすぐに破れた。
最初の角を曲がった直後に何者かに肩を掴まれてしまった。
振り向くと背の高い男が見下ろしていた。
突如現れた男に相手はもちろんレイラも驚いた。
「ユウト…」
ユウトはちらりとレイラに視線を向けるとすぐに男に戻した。
「よぉ、お前か?気持ち悪ぃ視線を不躾にぶつけてきやがったのは」
男の返事を待たずに続ける。
「テメェら何モンだ?いつから狙ってた?どうやって居場所を突き止めた」
「………」
「答えないっつー選択肢はないぜ」
肩を掴む手に力を入れる。
男は観念したかのように口を開いた。
「…何モンでもねぇよ。偶然見かけたから尾行ただけだ」
「ただのチンピラか。狙いはレイラか?」
「そうだ。だが他にも仲間らしき奴らがいたからついでに様子見してたらしい」
ユウトの眉がピクリと動いた。だが男は気づかず続けた。
「その後別れてくれたから個別に監視しやすかったそうだ」
「お前はやってないのか」
「ああ。何人か監視の連中がいて待ち伏せする。全員じゃない」
男の話したことが本当かはわからないが一応わかる。これで陰からの視線の持ち主と同一、つながりがあることがはっきりした。そして他にも仲間がいたという予想も当たった。恐らく本当のことを話している。
大方予想通りだったのでそれはそれで満足している。だが一つどうしても納得できない。
「俺はゼロだったんだけど」
威圧をかけ更に力を込める。
「は?」
「俺のところには一人も来なかったんだけど。何あれ?意味わかんねーよオメー」
怒りやうっぷんを晴らすように指が食い込む。
「オメーさ、五人で行動してるとこ見てんだから、俺がいるの知ってんだろ?別れたのもわかってんだから誰か一人ぐれー寄越すだろ。それを何?あいつらは付けて俺にはナシって。なに?あれか?アウト・オブ・眼中か?興味ゼロか。興味無くても寄越せよバカヤロー。カスでもいいから向かわせろよアホタレ。それともあれか?脅威とはみなされなかったとか?オメーその気になりゃ町に投げ捨てるくれー出来るぞコノヤロー。オメーらもうちょっと周りを見やがれボケタレ。判断下すには早すぎだろ、もうちょっと我慢しろよ。でなきゃ女の子に嫌われちまうぞ。って誰が早いだコノヤロー」
「知らねぇよ!」
「オメーわかる?いる気満々、殺る気満々、ついでに年中ヤル気で振りかえったら誰もいなかったんだぞ。かっこつけた挙句の空振りとかオメー…恥ずかしいったらないわ!周りに誰もいなくてよかったわ!この時ほど人がいなくてよかったこたぁねぇわ!」
「何の話だ!」
ギャーギャー騒ぎだす二人。
お~い、相手敵だぞ。そんな仲良くしていいの?と傍からは思うほどじゃれ合いというか楽しく喧嘩してるように見える。本人たちはいたって真剣だが。
まぁ、とりあえず落ちついて、とレイラがなだめる。
「今回は仲間外れにされてよかったじゃないか」
ピキ。
レイラからすれば親切心というか、ある意味当然のことを言ったのだが、なにぶんタイミングが悪かった。
あらくれハートの荒んだユウトにはトドメの一撃だった。視線を戻すと同時に腹部に凄まじい勢いで拳を叩き込み気絶させた。そして犠牲となった男を引きずり、他の男たちのところに投げ捨てると何も言わず立ち去ってしまった。
「え、えっと…」
張本人たるレイラには何が起こったのか、何故そうしたのか、どうなっているか、まったくわからず戸惑うばかり。いっそ憐れと思うほどオロオロしている。
「な、なぁ?ユウトはどうしたんだ?」
もうここにはいない彼と一緒にやってきたカレンに尋ねる。そのカレンはどう言ったらいいか悩み、やっちまったなという表情をする。
「と、とりあえずここを離れましょ」
誤魔化すことしか出来なかった。レイラが自分で気づくことを祈るしかない。
それもそうだと納得するとユウトの去っていった方向に向かった。
日が暮れた頃、ユウトは宿に戻ってきた。
剣等の装備を机に置くとベッドに倒れる。数時間前の教訓は忘れずに。それでも大きく軋み、何か折れたような音がした。
(やっちまったか…?でもボロいからなぁ…)故意でなければ問題ないと納得すると仰向けになった。天井の板はくすみ、染みのようなものもあるが元々気にならない。さすがに腐って崩れてきたら困るが、そこまでは滅多にないだろう。泊まれただけありがたいとこの世界の住人思考になる。
(本当に向こうじゃ考えられねぇな)改めて思い苦笑する。いや、一日ぐらいなんとかなるか?
その他にも風呂もなく水道も使いにくいがどうにでもなった。大抵の宿には程度に差はあれ風呂があるらしい。しかしここにはなかった。別になくても少しの間は構わない、と、住人思考になったが、女性陣がいる手前避けた方が良い、という異界思考に切り替えた。調べたところ簡易浴場があるとわかったので先ほど行ってきた。夜風にあたり髪も乾いた。気にせず振る舞えればそれが一番良いのだがそれが出来ない。異性といるのだから当然のエチケットやマナーだろう。それが好意を向ける相手ならば尚更だ。
これでいつものように後は寝るだけという姿勢になる。そのためか眠気が襲ってきた。やはり疲労は溜まっていたようだ。
(慣れないこともしたし、色々あったからな…)
ぼんやりし始めた頭で、昼間レイラ助太刀に向かう前、カレンと話していたことを思いだした。その内容はズバリ収入源についてだ。
レイラはいつの頃からか名の知れた賞金稼ぎになった。本人にしてみれば自覚も専業にしてるわけでもないが、結果としてなっているし、周りからの評価もそうなっている。事実カレンが仲間になってからも直々に依頼されることも、賞金首を捕縛することも何度もあった。そして達成すれば差はあれ、一定の金額が入ってくる。カレンたちが協力する時もあれば、レイラが一人で行ってしまう時もある。
しかしレイラは金銭にはあまり興味がないので、前者はもちろん後者の場合もほとんど受け取らない。そのためその懸賞金がパーティ全体の資金となり大部分を占めているのだという。
その他にも旅先や道中で手に入れた物や情報を売るという方法もあるそうだ。情報伝達網が世界的に整備されているわけではないので、遠くの出来事や情報は特に入って気にくい。だから各地を転々としている行商や旅人というのは何かしら情報を持ち、彼らから得られる情報というのは重宝される場合が多い。また物についてはこの地方ではありすぎて価値のない物が、別の地方では貴重だったり高級品として扱われる事例もあるという。
何の変哲もないそこら辺に咲いている花が条約を締結させたという話もあるぐらいだからわからないものだ。ところ変われば品変わる、というやつだろうか。
「マニアやコレクターならわかるんだけどな」
と、言ったところその単語の意味がわからないと言われてしまったので、説明に苦労した。向こうと同じと考えたらダメだな。どこで違いがあるかわからねぇ。地雷を踏むのだけはごめんだ。
そういった事をしながら旅人は資金繰りをしているらしい。やはり無視は出来ないものだな。ここに関しては金の心配は他よりしなくていいだろう。なにせ有名な賞金稼ぎがいるのだから。これで足りないというのなら高額賞金稼ぎになるしかない。
しかし…なぁ。パーティ全体の主な収入源がレイラ一人によってまかなわれているとなると、あいつのことだから気にかけるんだろうな。私がやらなければならない、とか思ってより危険に身を突っ込み、辞めたくても辞められない時もあるだろう。ここでも重責を負っているのかい。
懸賞金をかけられるというのはテロリストだったり、凶悪だったりと、危険で一筋縄ではいかない連中ばかりだろう。金目的ではないにしろ、そんな連中を相手に、しかも進んでするというのだ。正義感が強いというかバカというか。怒りさえ湧いてくる思いだ。もっと自分を大切にしろ、と、24時間365日言ってやりたい気分だ。それでもいざという時には動くのだろうが。もはや病気じゃないか。
一人で矢面に立つレイラの負担をどうにか減らせないものか。まどろんできた頭で考える。好きでやってるんだからやらせておけ、痛い目に遭えばわかる。気持ちはわかるがするつもりはない。どう考えてもやりすぎだ。わからないから困る。いや、わかってても動くだろう。たとえ死んでも。おっと、もうやっていたか。バカは死んでも治らないというか、何度死にかければ気が済むのだろうか。
それがレイラだから、などと言い訳をつけて諦めるつもりはない。命がけの無茶をするのが主人公特権だというのならただの勘違いだ。それを何度も繰り返させている仲間も同罪だ。主人公を思うのならボコボコにしても止めるべきだ。どこかに閉じ込めても行かせてはならない。世界の危機なら全員で立ち向かえ。
ここまできて考える。狙われる理由が十分すぎるな。もう二、三個あってもまったく驚かない自信がある。
やっぱり俺が四六時中一緒にいて止めるしかないか。一緒にいられるのは嬉しいが、理由が理由だし、アイツも付いてくるとなると考えてしまう。辞めろとも言えないし。
正義感が強すぎるってのも害になるよな。
そしてユウトは眠りに落ちていった。




