第七班結成!始動!そして再び…
本日も聖白凪学園は多くの生徒が登校してくるので大変賑わっており、特に正門は登校時間ともなれば生徒の波が途切れない。その光景だけを見れば普通の学校と何ら変わりはないのだが、ここは少し特殊だ。魔法という夢の力を扱う術を学べる場でもあるのだ。
そんな学園の正門をある女子生徒が通過する。
AM7:40分、おおよそいつも通りに三篠久美は登校してきた。優斗と同じく1―3の生徒で、優斗が来るまで特に変わった出来事も大きな事件に巻き込まれることもなく平穏に過ごしていたのだが、彼がここに来たことによってそれは変わった。
出会ってから自己紹介する暇もなく巻き込まれ、彼が学校に来てから一週間も経っていないにも拘らず様々なことをやらかし、そのほとんどに巻き込まれている。
不運といえば不運なのだが、彼女の性格の明るさや前向きさもあってむしろ楽しんでしまっている。元々退屈や変化のなさは苦手なのでありがたいとすら思っているのは内緒だ。
あいつといたら面白いことが起きそう、今日は何があるのかな、と久しく感じなかった思いを抱き、ワクワクしながら今日という日を心待ちにしながら本日も学園生活をスタートさせようとしていた。
しかし一年生用の昇降口に向かう途中である一点に目を奪われ、足を止めた。
「…アンタ何してんの…?」思わずそう声をかけた。
そこにいたのは件の人物なのだが、妙なことに手には箒を持ち、久美に声をかけられる直前まで熱心に掃き掃除をしていた。
「ああ、三篠。おはよう」久美に気づくと手を止めてそちらを見る。一日の始まりに相応しい、見る者に元気を与えるさわやかイケメンスマイル!………とはいかなかったが。
「あ、うん…おはよう…。で、アンタ今何やってんの?」
「なにって…掃除だよ」
「そんなの見れば分かるって。じゃなくて何でアンタがやってんのって話」
「何でもなにも…やらなきゃいけなくなったからさ」
「…罰掃除?アンタまた何かしたの!?」
「失敬な、またとは何だまたとは。そうじゃなくてほら、いつぞやの訓練の時の」
「訓練…?」そう言われ少し考えて、一番最初の出来事だったと思いだす。
「ああ、あれね。で、それがどうして?」
「やりすぎた罰だとよ。あるとは言われてたんだけど今まで決まってなくてさ、このまま決まんなきゃいいな~なんて思ってたらついこの間だよ。ホント迷惑な話だぜ」オレが悪いんじゃねーのによーと小声でぼやく。
「ふ~ん、なるほどね。まぁやり過ぎたといえばやり過ぎたのかもしれないけど。学校中逃げ回って、教室吹っ飛ばして、挙句の果てに柊先生倒しちゃったんだから」
「いや…まぁその通りなんだけどさ…」
「まぁアタシはおもしろかったから別にいいんだけどね」
「当事者じゃないからそう言えんのさ。マジで怖かったぜ!スパイみたいで見つかったらアウトだったし」
「ぜひその時の姿を見たかったよ。相当緊迫感あったんだろうしね」
「やめてくれ、あんなのはもう勘弁だ。ま、そんな訳でやらされてるんだ。柊ならともかく校長に言われたら逆らえんぜ」
「校長まで出てきたの!?それはまぁ…随分大騒ぎというか、アンタホント何したんだというか…」と話していると「しっかりやっているようだな」様子を見に来たらしい柊がいた。
「あ、先生おはようございます」
「…どーも」行儀よくきちんとあいさつする久美と、まるで呪いをかけてやるとばかりの視線を向けて一応あいさつらしきことをする優斗。対照的な二人の反応に内心おかしく思いながら久美にはきちんと返す。
「ああ、おはよう。…ふむ、少々気がかりだったが思いのほか真面目に取り組んでいるようだな。いやぁ感心感心」
「アンタならともかく校長に言われちゃね。それにこれが終わったら一応今日は報告にいかなきゃならないんで」
「そのようだな。まぁ自分の行いを反省し、しっかり取り組むことだな。校内をきれいにしていくとお前も感じるだろ?汚れと一緒にお前の中のその不浄な心や醜い汚い穢れている心が浄化されていくのを…」
「どこのお掃除マスターっすかそれ、そんな性癖オレにはないんで。それに問題はそっちにもあるだホガフガ…!」優斗の台詞を遮るため慌てて口を塞ぐ。
「バカ野郎!他言無用だと言ったはずだ!死にたいのか!」顔面を突き合わせるように近づけ、久美に聞こえないように小声で、しかし本人にははっきり聞こえるように言う。
「お前が自爆するのは構わないが、お前だけで済む問題ではないんだ!お前が口を滑らせれば俺たち二人はそこで終わりだ…!それは決して忘れるな…!どんな状況であってもな」いいな、と念押しする柊にものすごい勢いで頷く。その様子を見て大丈夫だと判断したのか手を放した。
「ぶはぁ!!はぁ…!はぁ…!し、死ぬかと思った…!」荒い呼吸を繰り返しながら、無理矢理に鎮めようとする。しかしその視線は柊に向き、恨めしそうに見ていた。
「では俺はそろそろ戻る。大村、しっかりやれよ。それと三篠、こいつがサボらないよう見張っておいてくれ」
「え…は、はい…」久美が動揺しながらも答えると、その場を後にした。残された二人の場には衝撃の傷跡と、どういう言葉を発したらいいか分からない沈黙が入り交じった何ともいえない微妙な空気が漂っていた。
「……あとで呪詛魔法一覧でも見るか…」
「えっと…大村?大丈夫…?」
「あんまりだいじょばないけどなんとか」そう言うと落としてしまった箒を拾い上げた。
「じゃあ再開するか。あ、三篠は別にいなくてもいいよ。もし何か言われたらオレがセクハラするからとか言ってくれていいし」
「いや、別に迷惑では…。てかなに?アンタそういうこと言うの?」
「嫌でしょ?やられんの」
「嫌だけど…。そうじゃなくてアンタそう言うタイプには見えなかったから意外というかちょっとビックリしちゃったよ」
「真面目、誠実、真摯の塊みたいな感じだけど、今年の抱負は新しいオレを周りの人に知ってもらって一歩上のステージに立つことだからさ。大村優斗大村優斗!あなたとともにこれからを歩む、皆様に笑顔をお届けする大村優斗をよろしくお願いいたします!」
「選挙じゃんそれ!方向性間違ってるよ!」
「それではこれから班編成についての説明をしたいと思います」クラス内の視線を一手に受けながら一人の女子生徒が前に立ち説明を始める。
本来なら授業中の時間なのだが現在教員の姿はなく、生徒だけの空間となっている。いわゆる自習だ。
自習=遊び、休み時間という認識が多い中、全員が真剣な面持ちだ。それもそのはずでこれはあることをするための特別な時間で、今後を大きく左右する可能性の高い非常に重要な意味合いを持っているのだ。そのために自習にしたという経緯がある。
「みなさんもご存じの通りもうすぐ魔法力試験があり、例年通り班ごとに別れて挑むようになります。そのためこの班編成はとても大切になってきます。
仲の良い者同士で組み団結力を武器にするのも良いですし、トップを狙うために実力のある者同士で組み有利に進めるのもありですが、各々の得意苦手を自覚し、それを補い合えるメンバーにする方が攻略しやすくなると思います。
なお本当はこの時間内に決めたいのですが、大事なことですので今日の放課後までなら問題ありません。決まり次第私のところまで来て下さい。
繰り返しになりますがこの班編成いかんによって結果を左右することも大いにあり得るのでよく考えて編成するようにしてください。それでは始めてください」
それを合図としたように途端に教室内が騒がしくなる。とりあえず近くの人に声をかけて確保する者や、遠くからわざわざ来ようとしている者、とりあえず男女ごとに組み後をどうするか相談している者など様々だ。始まって間もないがもう決まりかけているところもある。
しかしその中で誰にも声をかけられずにポツンと座っている者がいた。優斗だ。
正直誰とでもいいと思っている部分もあるが、人見知りなため自分からは行けず待ちの姿勢を維持してしまっている。
こういうの苦手なんだよな。『二人組を作って』『仲の良い者同士で適当に組んで』、という呪文ほど殺傷力のあるものはない。あれはオレのような人間にとっては拷問、刑罰、死刑宣告と同じだ。その仲の良い奴が既に誰かと組んでしまった時の絶望感といったら…。そいつらに対し憎しみや怒りが出てくる。それで結局残り物同士で組むのがお決まりになってしまい、その残り物も大体いつも同じメンバーだ。
自分から行くのは恥ずかしいし、みっともない。そいつにも他の奴らにも『どんだけ必死なんだよ』『友達いねぇのかよ』とか思われたくないのでいつも来るまで、強制的に最終手段を取らされるまで待ってしまうのだ。
向こうから来る方が慕われてると思うし、認めてもらえてる、友達だと思ってくれている。向こうから来る方がある種の優越感を感じられるという思いがあるのかもしれない。
そんなこともあって待ちになってしまう。誰が好きで一人であぶれているもんか。けどそれを認めるのは悔しい。
まぁどっかしら足りなくなるだろうし、選ばなければ入れるのだができればそれはしたくない。だが仲良いも悪いもほとんど知らない人たちばかりなのだ。もう一ヵ月近く経っているのである程度グループも出来始めていてもおかしくない。その中に何食わぬ顔して入っていく度胸はない。
こんなところで転校生という称号が足を引っ張ってくるとは思わなかった。転校生といったら男女に関係なく珍しいはず。ちやほやとまではいかないがその物珍しさから向こうから声を掛けてくるのが当たり前だと思っていたのだが、そんなことはなかった。まぁオレの場合は他の転校生たちとは状況が違ったので仕方がなかったが完全に誤算だ。
まずいな…。徐々に決まりつつある空気を感じてそう思う。どうしようか一人悩んでいると「ねぇ大村」いつかと同じように三篠が声をかけてきた。その後ろには愛花と魅子もいる。
「またアンタ一人で佇んでるの?ホントぼっち好きだね」
「好きでなってるわけじゃねぇよ。なんか声かけにくくてさ」
「まぁそうかもね。みんなこの時期は目の色変えてやるみたいだし、より上に行きたかったらこの段階でマジにならないとね」
「そういうもんなのか…。なんかあんまり実感ないな」
「アンタは特殊だからね。身が入らないのも無理ないかも。でもそうじゃなかったらアンタどうすんの?もっと自分からいかないとロクなヤツが残んないよ?」
「残り物には福があるってね。配られた手札で何とかするのが勝負、人生と同じさ」
「自分で選んだのと、仕方なく残ったものとじゃ意味合いが変わってくるけどね」
「う…」グサリと心に刺さる言葉だった。
「まぁそれは置いといてどう?せっかくだからアタシらと組まない?どうせこのままじゃしばらく決まんないだろうし」
「そんな憐みはいらねぇー」オレにも一応プライドはある。
「ふ~ん…そう…それでもいいよ。じゃあ最後の一人になるまでいつ来るかも分からない助けが来るのを待っているんだね」
「すいませんでした三篠様。ぜひこの醜い私めを入れて下さいお願いします」土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。それには目を丸くするが
「じょ、冗談だよ!そんな本気にしないで!お互い助け合っていこうぜ、ね?愛花?ミーコ?」
「そうだよ!小川さんも言ってたけどカバーしあって一緒に乗り越えよう?」
「助けられる方が多いかもしれないけどね」
「そ、そうかもね…あはは…」
少し気持ちが軽くなった。自分から選んだわけではないが、声をかけてきてくれたということは自分が必要だから、必要としてくれているからなのだろう。まだまだ選択肢があるにも拘らずオレという選択肢を選んでくれた。まぁ多少なりとも知っている者として放っておけなかったお情けの部分もあるだろうが。
ただそれとは別にして純粋に嬉しかった。日常の中で必要とされるのは別の嬉しさがある。ましてやそれが女子グループからのお誘いだ。どこにも入れず仕方なく組み込まれる、強制的に女子グループに入れられるのとはわけが違う。
上手くやればお近づきになれるかも……なんて変な気も起きるが今は素直に感謝しよう。
「ありがとう…よろしく頼むよ」
「気にすんな!」
そう言って明るく笑顔を向けてくる久美に自分は上手く笑みを返せただろうか。
「ところでさ、何でアンタのところには誰も来なかったんだろうね?有利にしたいっていうんならアンタほど適任はいないと思うけど」
「そういえばそうだよね。大村くんゴールドなのに何でだろうね?」
「アンタの性格の問題?」
「実力と天秤にかけても組みたくないって思われるほど性格悪くないと思うんだけどなぁ~。人見知りだしあんまり喋らないけどそんなの大して気にならなくない!?」
「まぁね。いい結果残したいんだったら実力ある人と組むのは当然だし、性格なんてそんなに気にならないっていうかそんなの気にしてるヒマないっしょ?少なくてもアタシはアンタをそんなに悪く思ってないし」
「…それって褒めてるんですか?どうせなら全然とかつけてほしいんだけど。けど三篠に言われるとそうか…何でだろうな?」
「聞いた話だけど大村くん疑惑があるんだってさ」
「オレに?」
「うん、ゴールド疑惑。本当にゴールドなのかって」それを聞くと三人の間にある意味納得できるようなできないような空気が漂った。
「…この前のアレが原因か」
「…たぶんね。アレで噂が広まってどうしようか様子を見ようってなってるみたい」
「…まぁあれだけの騒ぎになったからなぁ」
「いくら自分の目で見たものが信じやすいっていってもそれだけで決めるのはなぁ…。アタシは納得できない」
「で、でもわたしたちはちゃんと知ってるよ!?大村くんがすごいって!」
「ま、分かってくれる人がいるならそれでいいよ。むしろオレの力だけ見られて求められても嫌だし」
「何でだろ…アンタならそう言いそうだと思ったんだよね」
「疑惑の人より友達と組んでチームワークで勝負っていうのが流れなのかな?わたしはそれもいいと思うけど…」
「どうだろうね…。どっちにしろ大村くんならどこでもやっていけそうだけど」と四人が話している「オーイ!」優斗の背後から貫志がやってきた。
「あれ岡田?」
「大村、お前さっきから呼んでんのに何で反応してくれへんのや…」
「…何か言ってた?」
「言うてたわ!さっきからずうーっと『大村!大村ぁ!ちょっと待っとってくれぇ!』ってあそこら辺からずうーっとな!」と言って指で示すがどの辺りなのか…。
「…いや全然」
「んなアホなぁ!お前らはどうなんや!?聞こえてたやろ!?」
「あれだけ騒いでればね」「うん…聞こえてたよ?」「うるさかったから無視してた」
「ひどっ!」
そう言われれば何か言ってた気がしなくもないが盛り上がってるだけだと思ったし、何より自分には関係ないと思っていたのでまったく気にしていなかった。
「あー…まぁええわ」一頻り騒いで落ち着いたのか貫志が優斗に向き直った。
「大村、オレと組んでくれへん?お前とならテッペン取れるんや!!」拳を握って熱く語る。
「…オレはいいけど皆は?」
「アタシは別にいいよ」「特にこだわってるわけじゃないからね…」「うるさいのは勘弁」
「それはノーっちゅうことか?けどオレは譲らんぞ!何がなんでも大村と組む!ま、そのせいでこっちに来るのが遅なったんやけどな」
「あ~何かメッチャ誘われてたもんね」
「そやろ?けど妙なこと聞いたな。大村がゴールドやのうとかなんとか…」
「まぁ信じられないのは仕方がないさ」
「で、岡田はなんて?」
「おう!ばっちり言うてきてやったで!分からんて!」ズコーッ!そんな効果音が聞こえてくるようなリアクションを取ってしまった。
「堂々と言うことじゃないでしょ!否定しなさいよ!」
「仕方なかったんや…これも大村を守るためやったんだし…」
「オレを?」
「そや。お前色んな奴に声かけられるん好きやないやろ?大村なら引く手数多でどこも欲しがるやろうけど、結局お前が自滅しそうな気がしてな」
「自滅って?」
「皆にええ顔して自分が犠牲になって誰も傷つかんようにするとか、誘いを断るのに変な嘘吐いて罪悪感に押しつぶされそうになるとか、何とかしよう思って色々やって無理したりとかやな。何となくそんな気がするんや。何をそんなに気にするんや、もっと遠慮しないでドーンとぶつかってったらええねん!」
「オレは繊細なんだよ」
「アンタはもう少し大人しくなろうね」
「ぬぐ…!」返す言葉がなかったのか悔しそうな顔になる。せっかく良いこと言ったのにこの落差である。 見ていて飽きないかも。
「ま、まぁそんな訳でオレも入れて欲しいんやけどどうや?」
「…いいんじゃない?」
「よっしゃ!おおきに!」魅子の許可が下りたことにより貫志加入が決定した。
「ほならさっさと委員長のとこ行こか!早くせえへんとコイツ狙う奴が他にもおるやろうしな」
「そうね、じゃあ行こっか」
そうして各地で色々ありながらも時間内に全員班編成が終わり、優斗たちは第七班として結成した。
「なんだ…!これは…!」ショックを受けているような、不穏なものを感じているようなとにかく衝撃を受け目の前に書かれているものが信じられない表情で柊は一枚の紙を見ていた。
「なにって…班編成表ですけど…」その迫力に心底怯えているように答える。
「そんなことは分かっている!」バン!と音を立てて机に叩きつける。
「なぜ平原(姪)とあのバカ(大村)が同じ班になっているんだと聞いているんだ!」
「そ、そんなこと言われても~!」
舌打ちをすると「大村を呼んで来い!」
「どうしたんすか~…!」
「テメェ…!愛花に関わったらタダじゃおかんと言ったよなぁ…!ああ!?」ヘラヘラと入ってきた優斗を待ち受けていたのは鬼の形相をし、拳に炎を纏わせた柊だった。心なしかその拳が大きく見える。
そのあまりの殺気だけで戦意喪失する者がいてもおかしくない迫力だ。
「ちょっと伯父さん!」見かねて一緒に来た愛花が間に立つ。
「学校では教師と生徒でお願いって言ったじゃない!あ、あんまり干渉してこないでくださいよ!」
「愛花…!」(つーかお前は呼んでない)
「そ、それに誘ったのはわたしたちの方からなんだし」
「いいか、愛花。お前には付き合う友達は選びなさいといつも言っているだろう?」
「きちんと選んでます!わたしの交友関係にまで口を出さないでよ!」
「愛花、お前は優秀なんだ。こんなバカと関わってたらお前まで…」
柊には信じられなかった。幼少の頃より知っている、実の娘のように思っている子がここまで自分に対し反抗し、意見を言ってくるとは。だがもう高校生、自我も確立し始め意見を主張してもおかしくない、おかしくないが…「伯父さん寂しい!愛花ちゃんにはいつまでも可愛い俺の娘でいてもらいたい!でも愛しい愛花ちゃんの意見を尊重してあげたい!ああ!!俺は一体どうすればいいのぉ~!?」
「………」
「ちょ!ちょっと大村くん…!ぶふっ!!」
「こうして子供は親元を離れ大空に羽ばたいていくものなんですよ」ポンと柊の肩に手を置き、そして「あと親バカにつける薬はないんですよ。オジサン」グッっと親指を立ていい笑顔を向けた。その瞬間壁に服を縫い付けられ、体の線に沿って寸分の狂いなく氷柱を刺され磔にされた。
「どこから斬り落としてやろうか…まずはその無駄なことをペチャクチャくっちゃべるところからだな」そう言う柊からは冷気が漂い、手にはやたらトゲトゲしい身の丈はあろうかという巨大な斧を担いでいた。
「お、伯父さん!」
「柊先生!落ち着いてください!」
「でぇぇい!止めてくれるな!あのヤロウには上下関係をきっちり叩き込んで…!」
愛花や近くの教員たちが止めに入るものの暴走は止まらず、結果事態が鎮静化しまともに話せるようになるまでに三十分近くかかってしまった。
「失礼しました~」
「し、失礼しました…」ようやく柊から解放され職員室から出られたことで安堵する。
落ち着いてからも中々認めてくれず、平原さんがいなければ絶対にオレは外されていたと断言できる。あの時断らないで着いてきてもらって助かった。本当に助かった。
「いや~ありがとね、平原さん。おかげで助かったよ」
「ううん、こっちこそごめんね。わたしが絡むとああなっちゃうみたいで…。でもああ見えて家ではやさしいんだよ?」
マジかよ、あれでか。まったくイメージできねぇ。
「まぁそれは平原さんだけじゃなくてオレがいたのも原因だろうし」
「それは…うん…そうかもしれないね。伯父さん大村くんが関わると更にムキになっちゃうみたいで」
「愛されてるんでしょ?」
「え!?そ、そうなのかな…?」
「そうに決まってるでしょ?鬼の柊が姪の前じゃ形無しだって言われてるくらいだし」そこへ久美が合流した。
「あれ久美?どうしたの?」
「いや~大村が呼び出されたって聞いて心配になってさ。それにアンタが一緒になってればこうなるって予想できたのにね。ゴメン、アタシのせいだね」
「久美が謝ることじゃないよ!」
「そうそう、平原さんがいたから場が治まったようなもんだし、ぜ~んぜん気にすることはないよ。むしろ感謝してるし。あ、平原さんにも改めてお礼言うよ。ありがとね」
「いいよ、気にしてないし」
「てかやっぱり何か起こったんだ」
「う、うん…!あれ…!ププッ…!だ、だめ…!思い出しただけで…!」
「え?何?何があったの?大村、アンタ柊先生になにしたの?」
「要は溺愛し過ぎてんのが問題だって話。チルコン?だから三篠はな~んにも気にしなくていいの」
「え~…」無理矢理まとめたことで何かごまかされた気もする。気になるがそれは後で聞けばいいかと思い追及を止める。
「大体あの顔でチルコンっておかしいでしょ、ギャップありすぎ。それに…」更に続けようとしたところで突如背後のドアが勢いよく開き、中から殺気を放っている柊が現れた。
久美が来たことで忘れていたのだが、ここは職員室の出入り口だった。
「何をしているんだ?せっかくだから俺も交ぜてくれよ…!」
「ま、間に合ってるんで…!それじゃ」小声で二人に呼びかけると即座に退散した。
「いやぁ~怖ぇわやっぱり」職員室から離れた廊下、ここまでくれば大丈夫と判断し背後を振り返る。
「そりゃね。アンタも勇者だね、あそこまでやるなんて」
「やられた分をやり返してるだけ。さすがに正面からやり合おうと思わないからそれなりに加減は…ね」
「そんな先生も家じゃ…なんでしょ?」
「といっても普通だよ?他の家と同じくらいだと思うけど」
「ぜひ一度見せてもらいたいね」
「アンタが行くのだけは止めておきなさい」そう言って笑い合うと教室に向かって歩き出す。
「あ、そうだ。それで思い出したんだけどアンタ柊先生と闘ったんでしょ?」ふと思い出したように久美が尋ねた。
「潜入作戦実行中にな。偶然もあるだろうけど一応勝った」
「そうだったよね。でさ、アンタに一つお願いがあるんだけど」
何故だろう、嫌な予感がする。次に久美が言うことがなんとなく分かるがいい逸らし方が思いつかない。こんな時に柊が出没してくれれば…!この時ほど思った事はない。
予想と違ってくれ…!そう願った。
「お願い!アタシに魔法教えてくれない?」しかしそれは外れることはなかった。何となく予想出来てたため驚きはしないが、落胆した。どいつもこいつも…!
しかし岡田と違ってグイグイ押してくる感じはない。あくまでもオレが良ければという低姿勢のように思う。今だってほら、可愛く両手合わせてウィンクしてる。あざといと言えばあざといのだろうが、三篠の性格からは考えにくい。小首まで傾げて、ね?お願い?何て言われた日にゃ断れるはずもない。
こちらのツボを心得ている。
「えっと…何でオレ?オレより先生たちに聞いた方がいいと思うけど…」しかしすぐにイエスと言うのも嫌なので抵抗はしてみる。
「先生たちには訊きにくいじゃない、それに頼みにくいし。知ってる先生で頼める人って言ったら柊先生なんだけど…ねぇ…?」
「なるほど、そりゃ確かに頼みにくいわ」親戚の平原さんの前で悪いと思うが凄まじく納得できる。オレだから余計にかな…?
「初めての試験ですごい不安でさ。もうそんなに時間もないんだけど少しでもレベルアップさせたいし、なるべく不安を失くしたくてさ。アンタには悪いと思うけど他に頼める人もいないしさ。試験の間まででいいからお願い!ちょっとでいいから付き合ってくれない?」
落ち着けオレ。付き合ってくれない、は特訓とか修行が前に付く。テレビならカッコで表示されている部分だ。断じて交際申し込みなどではない。だから落ち着け、落ち着くんだオレ!静まれオレのハート!
岡田の件でも思ったし言ったけど教えるのは得意じゃない。教えられるものはまったくないわけではないがどうやって教えたものか、まったく自信がない。しかしアドバイスぐらいならどうか…。何だかんだ出来てたような気がする。自分で言うのもなんだけど。
それにこんなチャンスは滅多にない。日々の中では距離の縮め具合はちょっとでゆっくりだ。しかし今回のようなイベントがあれば一気に親密度を上げられるはずだ。まぁそれはあくまでもオレが上手くやればという前提があった話なのだが。
とにかくこのチャンスを手にしないわけにはいかない。こちらから言うには恩着せがましい気もするが、向こうからの申し出なのだ。それに乗るだけ、何を躊躇する必要がある。それによく考えなくても先生たちより友達や知り合いの方が頼みやすい。ましてやそれがプレートレベルは自分たちより上、実力は先生たちに引けを取らず、クラスメイトであり同班にそういう奴がいるのならば頼まない方がおかしいといえるだろう。
内心暴走したり葛藤しながらも一通りそれらも終わると「…分かった。簡単なアドバイスくらいなら出来ると思う。それで良ければ」
こういうイベントは特に大事にしないとな。それに無下に断れるほどオレは冷血漢にはなれない。
「やった!ありがとう!」満面の笑みで答える。それを見れただけでも引き受けた甲斐があった。しかし続く久美の一言でそれは消え失せかけた。
「せっかくだから愛花も見てもらいなよ!」悪気はなく純粋に友達を思って言ったのだろうが、あまりにも優斗にとって破壊力があった。…今なんと…?
「愛花アタシより心配してたでしょ?せっかくだから一緒にやろうよ!いいでしょ大村!」
「え、えっと…」さっきまで舞い上がっていたオレを殴りたい。三篠は特訓に『付き合って』とは言ったが『二人で』、とは一言も言ってない。
なんてことはない。つまりオレが三篠と二人きりだと勝手に思い込んでいただけだった。
手取り足取りやさしく教えて心も体も距離を縮めてあわよくば…。ムフフ…などと妄想していた自分が恨めしい、憎い、殺してやりたい…はオーバーか。それに三篠は魔法のスキルを少しでも試験までの間に上げようと必死なのだ。こんな下心があっては上手くできないし、何より三篠に失礼だろう。
「えっと…大村くんが迷惑じゃなければ見てほしいかなって…」控え目ながらもそう主張する。
彼女もまた必死なのだろう。親戚が教員であるならば周囲からの目もある。できて当然、優れていて当たり前という風に思われることもあるだろう。自分が弱ければ伯父である柊にも迷惑がかかる。その期待や重圧というのはオレには理解出来るものではない。
だから「もちろんいいよ。平原さんも自分で言ったように一緒に頑張ろう!オレもできる限りはするよ!」元気づけるように言った。
「うん!ありがとう!」心底安心したように愛花は答える。少しでも力になれるのであれば協力してあげたい。変な下心や打算はなしに純粋に思えた。
「せっかくだからミーコも誘おうよ!いいよね大村?」もはや拒否権などオレにはない。というより三篠も岡田と大して変わらんなこりゃ。
「望むところだ!全員まとめてかかってこい!」こうなりゃやけだ。やってやる!こうして魅子の参加も決まった。
「ついでだし班メンバー全員で大村に面倒見てもらわない?岡田も誘ってさ」
「ちょ、ちょっと待って!」たった今全員と言ったが、それとこれとは話が別だ。アイツが来たら特訓にならないんじゃないか?わざわざ特訓しているところは内緒にしてほしいと言ってきたのだ。ならばいないところでもそれを尊重してあげないと。
それに男という生き物は基本的にかっこつけたがりの見栄っ張りで、いつもすごい自分を見てほしいものだ。努力しているところなどは絶対に人に見られたくない、女子の前でなら尚更だ。
一応は貫志を思って庇うが女子は強い。優斗の意思とは裏腹に本人に直接聞きに行く流れになってしまい、放っておけるはずもなく着いていく羽目になった。
優斗は心の中で謝った。――――すまん、岡田。オレじゃ止められない。
ほどなくして教室に戻ってきた一行は岡田の元へ交渉、優斗はある意味彼を守るために向かった。教室にいたおかげで、また何人かで固まっていたので探す手間が省けた。
「岡田!」
「お?なんや皆して?オレに何か用か?」
「さっき大村と話してちょっとだけ魔法を見てもらうことになったんだけどアンタもどう?」
「え!?オレもか!?」
「大村は岡田にも都合があるからって言ってたんだけどせっかくだしさ」
「えっと…なぁ…。それは…」歯切れ悪く言うと優斗を見た。優斗も貫志を見てしばしアイコンタクトを取り合う。
そして無言の会話が終わると
「…分かった。ほなオレも世話になるわ」こうして貫志も含めて七班メンバーの特訓を見なければならなくなった。
まさか本当に全員になるとは。でも岡田は昨日ちらっと見たからいてもいなくても既に全員だったか?思わぬ人気ぶりだった。あまり嬉しくないが。
「いいな~!オレも見てくれよ~!」
「そうそう、ついでだからオレたちも…」
「何言うてるんや!大村はオレらの班やぞ!お前らまで見る義理ないわぁ!」
「そうよ!虫が良すぎ!」
「大村!こいつらまで見る必要ないからな!悔しかったら大村と組んでみな~!できるもんならな!」
「うぜっ!」
「けど何も言い返せない!でもウザい!」
「何とでも言え!大村、もし変なこと言われたらオレに言え!そしたらオレがみっちり教えたるわ」
「お前に教わるもんなんてねぇよ!」
久美と貫志が庇ったこともありこれ以上人数が増えるという事態は回避できた。それは良かった。けど岡田はいいのか?
ちょっとした騒ぎがありながらもこうして第七班は始動した。
えーっと…、ここはどこだ?確か昼休みに三篠に頼まれて特訓をすることになったのは覚えてる。場所を変える必要があるのも分かる。しかしここはどこだ?
優斗の目の前には城が聳え建っていた。白茶色のレンガで建てられ、グレーの三角屋根が帽子のようについている。テレビとか何かの雑誌で見たような西洋の城がなぜかここにあった。背後の山のせいで分かりにくいが、優斗たちのいる校舎の倍はあろうかという大きさだ。
なぜここに来ることになったのか。時間は少し遡りおよそ四十分前。
放課後になり早速始めようという三篠たちを愛花がまず許可を取ってからだと制し、柊の元へ。何言か言葉を交わしていると柊がこちら、というより優斗を威圧の籠った、そしてものすごく嫌そうな顔で見た。
その後、愛花と一緒に柊の元へ行った魅子曰く『あんなに嫌そうに渋々応じた人初めて見た』そう。
特訓だと熱くなって何か壊す恐れもあるので一応これからやりますよ、という許可を取りに行ったのかなとその時はその程度の認識だった。まさかここの使用許可とは思わなかった。
「いや~ごめん。ここの説明するの忘れてたよ」以前校内案内をした久美が笑いながら言う。
「この周り見た時も思ったんだけど、どんだけ広いんだよ。敷地内に山二つあるって。おまけにこの城かよ」
「この山は白凪にとって大切な神体山?とかで保護の目的もあって学校の所有物にしたんだってさ。それも大昔にね」
「山だけじゃなくて森も川もあるけどね」そう言って魅子が左方向を指すが、全体的に緑色なのでどこら辺が森で川があるのか分からない。
「へぇ~、まぁ学校にこんなものがあるんじゃ何か言われるだろうし、外部の目につきにくい所に建てるのは分かるけど」
「まぁ魔法学校らしくてええんとちゃう?普通の校舎ばっかりじゃ何か気分もノリにくいしな!」と目の前の城を見上げながら言う。
それに内心同意しながら優斗も見上げる。ここなら多少は暴れても大丈夫そうかな。
「といってもそんなオブジェみたいなもんじゃないけどね」
「ここじゃないと魔法使えないしね」
んん?今何と…?久美と魅子の言葉が気にかかった。
「なに?ここじゃないと魔法使っちゃいけないの?」
「授業以外ではね、あれ言わなかったっけ?勝手に魔法使っちゃいけないって」
言ってない。けど聞いたような気はする。
「でなきゃここまで来ないよ」苦笑しながら言う久美に納得する。
なるほど。授業以外で使ってはいけないのなら特訓もできないから上達はしない。だからといってあちこちで魔法を使われては危険だ。そのためこういう場が必要なのだろう。ガス抜きの意味合いもあるのかな?問題が起きなきゃいいけど。
「だから面倒でもちゃんと言わなきゃいけないよ?緊急時とかは別だけど、ここ以外で勝手に魔法使ったら罰則受けちゃうし」
瞬間戦慄した。愛花の言葉に優斗だけじゃなく貫志も。本当ならやってはダメだったらしい。だがよくよく考えたら当たり前の話だ。誰も彼も好き勝手魔法を使えば秩序が保たれないし、普通の学校より遥かに高いレベルで、早さで学校崩壊が起こる。無法地帯、常に戦場だ。危険なんてもんじゃない。
見つからなかったから良かったようなものだが、もし見つかっていたら…。特に柊には何を言われるか分からない。
あれ?じゃあ朝は良かったのかな?ここに来なかったけど、と疑問が浮かんだところで愛花に促された。まぁ近くにいたから良かったのかな?
そして古びた、しかし威厳のある城、もとい修儀場へ入っていった。
内部は薄暗く、ひんやりした空気が体を包む。カビの生えた臭いが鼻を突き、居心地の良さを感じない。
外見から想像した内部とそこまで違いがない。一言で言えば不気味だ。何も聞かされないまま連れて来られたらここはどこかの牢獄だと思っても不思議ではない。
石畳の床は歩くたびにコツコツと音がし、通路に反響するのでより不気味さや不安を煽られる。いつもより緊張感や警戒心が強くなっていくのが自分でも分かる。一人で行けと言われたら全力で抵抗する。正直五人で歩いている今も不安はなくならない。
どこからか炸裂音や鎖を引きずるような音、腹に響くような低い唸り声が聞こえてくる。
自分たちと同じように特訓しているのだろうか。
やがて一つの木の扉の前で止まる。やはり暗くてよく見えないが相当古いものだと気配だけでも感じ、そのため若干朽ちているようにも感じる。
分厚そうなその扉を貫志とともに押し開けるが中は真っ暗で何も見えない。あまりの暗さに女子三人が尻込みしているが無理もない。あの騒がしい岡田でさ顔を引きつらせていて、言葉も少なめだ。ここに来るまでに発した言葉は優斗に促され扉を開けるためにした『おう』という返事だけだ。
優斗は一歩中に入り壁を向き手を翳した。すると燭台に固定されていたロウソクに火が灯り足元を照らした。反対側も同じようにすると部屋の出入り口は二つの火が照らしたが、そこだけしか照らされていないので却って不気味さが増した。
一歩足を進めると部屋を見渡し掌を上に向け、指先を自分とは反対に向けてふっと息を吹いた。するとほど近いロウソクに火が灯った。その火に両手の人差し指を向けると、左手を少し奥に、更に奥に、左にとあちこち動かすと部屋にあったロウソク全てに火が行き渡り、十の火だけが部屋を照らした。
広さは優斗たちのいる一般的な教室の三倍はあろうか。横長なので自然と彼らも横一列になる。
「岡田はよかったのか?オレたちと来て」女子たちから少し距離を空けて緊張や不安が入り交じったどこか落ち着かない様子の貫志になるべく声を落として尋ねる。
「…しゃあないやろ。あの状況でオレだけパスっちゅうわけにもいかへんし。却って良かったっちゃあ良かったと思うで。それにお前に言われたら断れへんし」
「いや、オレ来いなんて言ってないけど…」
「ウソ言いなや。お前目で『オレもやるからお前も来い』って言うとったやないか!」
「オレは『バレたくないなら来ない方がいいんじゃないのか?』って言ったんだよ。言ったっていうかそういう意味で」
「なんやと!?ほならオレ来る必要…」
「ないと言えばないな」
なんということだ。いや、確かにこいつが来るって言った時は驚いた。けどそれはこいつがそれだけやる気があるからだと思ったからだ。その気持ちを削ぐような真似はしたくなかったのでその場では言わなかったが、今にして思えば確かめるべきだった。そうすればもっと早い段階で意思疎通が出来ていないことに気づけたのに。…とまぁ今言ったところでどうしようもない。
「まぁあると言えばあるから無駄にはならないと思うよ」
「…そうか。あ、あるといえばお前さっきのは何や?息を吹いたと思たら火ぃが点いとったし」
「あれは炎エネルギーをそれっぽく飛ばしただけ。火炎玉より簡単だし、火炎玉ができればあのぐらいは簡単さ」
「ほなオレでもできるんやな。なんや今までで一番ビックリしたかもしれん!」
「魔法っぽかっただろ?」
「せやな。あれが魔法やな」お互いニヤっとすると、ほな頼むわ先生、と貫志に言われ四人の前に移動する。慣れないので緊張する。強張った表情になるが勘弁してほしい。こんなことは初めてなのだ。
「それじゃあ始めようと思うけど、まず最初に皆に質問。魔法には何が一番大事だと思う?魔法を扱う際にって言った方が分かりやすいかな?答えがあるわけじゃないから思った事を言ってほしいな」
優斗の問いに皆黙って考え始める。真剣な顔つきで考えている様を見ると自分が教員になったように少しだけ思う。こんな感じなのだろうか先生たちって。
「じゃあ岡田から聞こうかな」
「オレか!せやな…やる気やないかな?」
「なるほど。確かにやる気がなかったら強くなろうとは思えないからね。じゃあ三篠」
「アタシは努力かな。努力しなきゃいくら才能があったってそれ以上強くなれないし」
「うん、努力しなかったら目指すところにはいけないし、持て余すし、それどころか腐らせるからね。非常にもったいない!…何か三篠らしい答えだな」
「それどういう意味!?」
「いやなんでも。それじゃあ平原さん」
「わたしは…センスかな。センスとか才能とか…」
「おおう…中々厳しいところを突いてくるね。…それもあるね、うん。認めたくないけどそう言った部分が占める割合っていうのはあると思うし、手に入れようとしても得られるものじゃないからね。…悔しいね。あ、いや別に平原さんを否定してるわけじゃないよ!今のはオレの話だったからごめん、関係なかったね。じゃあ最後に仁礼さん」
「私は知識だと思う。色々知ってればいざって時に役立つと思うし」
「それはあるな。同じ状況で思いつく作戦が一つといくつかだと勝ちが見えやすいし有利になるし。そういった差が生き残りの差につながってくる…とこれはいいや。
なるほど~、皆それなりに考えてるんだね。すごいわ…オレとは大違い」
「それでアンタはどうなの?」
「その前に。多少意見言わせてもらうと皆精神的な部分とか持って生まれたものって考えてるんだなって思った。仁礼さんは別だけど。最初に言ったように正解があるわけじゃないからそれでいいと思うよ。皆が信じるものを胸に突き進んでいくのがもしかしたら一番いいのかも。迷いがないって意味ではね。
で、三篠の問いに答えるとオレが一番大事だと思うのは魔力だと思う」
それを聞いて久美はハッとした表情になる。
「魔力のコントロールの方がいいかな。魔力は魔法のエネルギー源。それがなきゃ何もできない。
いくらやる気があって、努力して、才能があって、色々な知識があっても魔力がないと魔法は使えない」そんな奴はいないけど、と笑いながら続ける。
「だから皆にはこの『魔力のコントロール』を身につけてほしい。それともう一つ、オレは魔法は教えない」
四人に混乱の表情が見える。そりゃそうか。魔法試験に向けてんのに教えないとは何を考えているんだと思われても当然だ。明らかに動揺が広がっている四人に自身の考えを伝える。
まず最初にできれば学校の方針を尊重したいという点。
次にそれぞれ先生たちにもやり方や授業の進め方があるのでその妨げはしたくない。不用意の発言で誤解や混乱が起こるのを避けたいことも伝える。
そして知識面においても教え方も自分はとても敵わない。得意不得意はあるがそれでも一定以上のレベルで教えてくれる。自分は偏り過ぎてるから向かない、何より間違ったことは教えないという理由を挙げた。その際にそれじゃあ面白くないんだけどな、と明るめに言い静まり返った、また真剣に聞いている四人をリラックスさせた。
「だからオレからはあれやれこれやれなんて言えない。その分助けになることや補足的な部分は言うけど。その一つでもあるんだけど魔力のコントロールはある程度出来てた方が魔法は覚えやすいし、扱いやすくなるから長い目で見ればそっちの方がいいと思う。
いつぞや三篠には言ったと思うけどオレは元々魔力が少ない。けどそれができればこのぐらいまでにはなる。皆がすごいと思ったこのレベルぐらいはね。
いずれはできるようになるけどそれなら早い方がよくない?それにブロンズ?クラスの時にできていれば差を感じやすいし、評価も良くなるんじゃない?こいつ違うな!みたいな。
そういう基礎の基礎って大事だとここに来てから思うよ」
「それってアタシたちを見て?」
「それもある。まだしょうがないって思う半面もったいないなって思う。そこをもう少しこうしたらいいのに!こうしたら良くなるのに!ああ!もったいない!って」
「まぁ、お前からしたらそうやろな」
「それはオレの貧乏センサーに引っかかってる部分もあるけどね」
「魔力に貪欲だから?」
「うるさいよ。けど気になるっていったのはそこだけじゃないよ。魔力、そのコントロールの重要性を知ってるはずなのに何で言わないのかなって。まぁ今言うのは酷というか早いのかな…?」
「…難しそうだもんね。普通の魔法を覚えるだけでも大変なのに」
「オレの考えになっちゃうけど平原さんみたいな考えが主流になってる気はする。もちろんそれも一つのやり方だろうけど、もっと言ってもいいと思うんだけどなぁ…。あ、平原さんを責めてるわけじゃないからね。お願いだから親父殿には言わないでね。あと仁礼さんは呪わないでね、怖いから」
「ご所望とあらば必ず小指をぶつける呪いをかけるけど…?」
「地味だけどけっこう嫌だねそれ!」話が脱線し始めたので、コホンとわざとらしく咳払いをして注意を引く。
「レベルの高い魔法覚えてバンバン使って活躍して名声が欲しい、目立ちたい、モテたいってたぶん誰でも一度は思うし、そういうのは憧れるよ。そこまでいくのは大変で、魔法を覚えるのはキツイけど楽しい部分もあるから耐えられるし、その過程すら楽しめる自分がいるのかもね。
一方魔力のコントロールっていうのは同じぐらい大変なんだけど、ぶっちゃけクソ地味なんだ。そりゃキラキラした方に目がいくよね。耐えられるものがないんだから。
けどオレはそこが一番大事だと思ってるし、それが前提になるから最初にある程度まで出来てた方が後が楽。
だからゴールドクラスの人間に特訓してもらえるんだからすごい魔法教えてくれるんだろうなとか、色々魔法見せてもらってそれらを習得させてもらえて強くなれるんだろうなって期待してたら悪いけど、オレはそれはできない」
個人的に聞いてくる分には構わないけど、と付け加える。
ほぼ一方的に優斗が喋っているせいで皆口を挟まない。いや、挟めないのだ。脱線しながら少しふざけながらではあるが、語っている内容は恐らく彼がこれまで歩んできた道のりの中で得てきた経験値、それを話しているのだと彼らが認識しているからだ。
同学年ではあるがキャリアは圧倒的に優斗の方が上。そんな謂わば先輩の経験談。多くを見てきたわけではないし、正規の方法で学んできたわけではないことは本人から少しだけ聞かされているが、クラスメイトという身近な存在から明かされた情報や経験というのは、時に目上の人間から教えられるより受け入れやすく、理解しやすい。
「教えるなんて大層なもんじゃないけど、オレがやるのは魔力のコントロール。嫌な人はオレじゃないほうがいい。オレからも頼んで他の人に見てもらえるようにするから」
やや言いにくそうにしながらも言い切った。
場に沈黙が漂うが「何言ってんの」と久美が取り払うように言う。
「アンタに頼んだ以上ってわけでもないけど、今の話聞いてても納得できたし、その方がいいなってアタシも思うよ。随分不人気でマイナーみたいな言い方だけどアンタが言っちゃダメでしょ。もっと自信もちな!アタシはアンタに付いてくし、みんなもそうじゃないかな?」
「三篠の言う通りや。ここにおる以上オレはお前のやり方で強くなるつもりや。まぁ正直色々魔法教えてもらえるんちゃうかなって期待してたとこはあるんやけどな。
けどお前が間違うとるとはこの場におる全員だ~れもおらんし、そもそも来たりせえへん」
「そうだよ!何かわたし感銘受けちゃったし!」
「授業聞くよりよっぽどタメになったしね」
久美と貫志の言葉に愛花と魅子も頷く。皆優斗を信頼しているのだ。この人なら大丈夫と。
自分を認めてくれるとは、受け入れてくれるとはこんなに嬉しかったのか。失くしてしまった何かを思い出せたような気がする。
こうなったらしっかりやらねぇとな。その信頼に応えられるように。
「…分かった。オレの得てきたものや考えをすべて伝授するつもりでやる。そこから自分なりのものを手に入れるための踏み台くらいに考えてくれればいいから。大変だけど一緒に頑張っていこう!」
そう言えば力強い返事が返ってくる。それだけで嬉しくなる、勇気が湧いてくる、元気になれる。責任感も感じるが今は楽しみの方が大きい。
――――そういえば皆の得意な魔法は?炎?近接?傀儡?召喚?回復?
それがなんや?なにか問題でもあった?
いや、なんでも。
………大丈夫か?
オレンジ色に染まりつつある町外れを一人歩く。その表情は多少の疲労は見えるもののこれからを楽しみにしている様子がにじみ出ている。
こうして一人静かに歩いていると、先ほどまでの出来事が遠い日のように感じ、自分たちがやっていたという実感がない。
特訓とは言えないかもしれないが一通り方針や考えを伝え、少しだけ特訓(笑)を行った。こちらに長くいると当たり前なのだが、実際は皆すごいことをしている。掌から炎の球体を出したり、どこからともなく武器を取り出したり、指一本で動きを封じたり、傷を治せるのだ。普通だったらありえない。自分でさえ自身の力に驚き、魔法を使えることに実感がなく、現実味がない。時折感覚がずれてきている気もする。
あまり染まり過ぎるのも良くないと思うが、ここにいる以上は皆と同じにならなければならないという思いもありジレンマを抱えているのが実情だ。どうにかならないものか。
………なるようになるのかなと思ったところで前方にいる人に気づき足を止めた。
見た目ジェントルマン、いや、見た目だけではないのだろうが正装をしているカムゴがいた。カムゴは帽子を外すと丁寧に一礼した。
「久しぶり…なのかな?ついこの間のような気もするし…妙な気分なんだけど」
「そのように仰っていただいても差し支えないかと」そう言って最後に会った時と同じように少々堅苦しい、しかし嫌味を感じさせない言葉遣いと雰囲気だった。
「まずはご無事に着けたようで何よりです。私も一安心しました」
「ああ、多少心配だったけどな。でもそれ以上に驚いたのが目を開けたらお前がいないわ、いつの間にかこれ着てるわでしばらくその場から動けなかったよ。状況把握するのに必死で」
「私がいると大村様のご気分を害されるかと思いましたので。それに私の役目は大村様をここに連れてくることでしたので」
「次からは一言ぐらい言ってからどっか行ってくれ」
「承知しました。それでどうでしたか?今までこの空間で過ごしてみたご感想などは」
それに一呼吸間をおいて
「…悪くなかった」やや口角を上げて答えた。
「紙面に載ってるものが実際に目の前にあったり、キャラクターたちがそこにいて普通に接してるっていうのはまだ慣れないけど、ああいうのは楽しいし、その後の展開は分かっててもその場にいると感じ方がまるで違ってドキドキするし。少しの間だけだったけど嬉しいって思うことは多かったし、何より楽しいな。…まだもっと色々やりたいって思う」素直な感想を伝える。
恐らくこいつはここまでの出来事をおおよそ知っていて、俺の行動も大体把握しているので変に隠したり誤魔化したりしない方がいい。そうすると常に行動が筒抜けになって監視されているようであまり気分は良くないが。
「大村様がそのように思ってくださっているのなら私も嬉しく思います」それを聞くとカムゴも笑みを浮かべた。
「助けてくれる人がいたり信じてくれたり、認めてくれる人がいるヤツらを見るとうらやましかったりムカついたりしたけど、自分にそういう人がいるとやっぱり嬉しいな。心強いっていうか拠り所っていうか。今までいなかったから余計にそう思うのかも」それをアイツら当たり前のように常にいるんだからズリィよな~とぼやく。
「私から見ましても良いご友人方だと思います。大村様の欠けている部分を補い、満たし、強くする存在となっているのでしょう。それが仲間であり友人であると思います。あの方たちは大村様を満たしておられるのでしょう。自分たちが意図しないところで」
「あいつらもそう思ってくれてるんなら嬉しいかな」そう言って久美たちを思い浮かべる。
「それでお前が俺の前に来たっつーのは、もう時間が来ちまったのか?」
前回聞きそびれてしまったのだが、もしかしたら滞在できる時間に制限があるのかもしれない。そうすると強制的に戻されてしまうのではないかと疑問があった。それを告げるために、また戻るために姿を現したのではないかと。
しかしカムゴは「そうではありません」と否定した。
「時間制限というものはございません。強いて言うならば大村様の寿命がそれになるかと。ですのでご心配される必要はあまりないかと。
私はなるべく干渉しないように努めておりますが、時にアドバイスや大村様のお気持ちを伺う場合がございます」
「…じゃあ今回はそれだと?」
「はい。大村様が入ってから121時間が経過しました。慣れてきた頃合いかと思いますがずっとこちらに留まるおつもりはないかと思いましたので、今後どうしていくのかそのお気持ちを伺いに参りました。
「お気持ちって…」
「まだこちらに留まるか、もしくは一度お戻りになるか、それとも…また新たな空間へ行くか」
そう告げたカムゴはどこか楽しそうに見えた。
どうするか…。もう少しこちらにいたい気持ちはある。ここからがようやくスタートであり、メインになってくるし、おもしろくなってくる。イベントも盛りだくさんだ。そして更に仲良くなり、楽しく過ごしいずれは…とも思う。そう答えた場合また後日俺の前に来るだろう。だがまた新しく…という気持ちもある。そこでしか得られないものもあるはずだ。
しかし懸念があった。前回訳も分からず別の世界に行って戻ってきた時には大分遅くなってかなり怒られた。今までここが楽しくすっかり忘れていたのだがカムゴに会ったことで我に返り、その心配が急激に膨れ上がってきた。
一度戻った方がいいな。そう結論づけると
「一度戻るわ。色々心配だし」と告げた。
「かしこまりました」返事をすると優斗から見て右側にある鳥居の前に立つ。
「お時間はどのようにいたしましょう?」
「時間?」あ、そういえば多少の調整はできるとか言ってたな。あれ?じゃあ戻らなくてもいいんじゃね?しかし今更撤回しようとも思わず
「………ここに来た時で頼む」そう言うとカムゴの肩に手を置く。もう一度かしこまりましたと返事をすると何事か呟き、二人は輝き出した鳥居をくぐった。
そして次に優斗が目を開けた時にはここ数日で急に見慣れた景色となった風景が広がっていた。背後にはくぐってきたばかりの鳥居があり、その向こうには昼間でも薄暗い境内がある。それを見ると戻ってきたのだと実感し、安堵している自分がいた。
記憶は定かではないのだが部活終わりにここに来たため少し遅かった気もするが、まだ周りがはっきりと見えるほど明るかっただろうか、…そうだったんだろうな。とにかく一度戻ろう。
カムゴにすぐ戻ってくる旨を伝えると家に走って戻った。そして約十分後小走りで戻ってきた。その手には深緑色の細長い包みを携えていた。
「…すごいわ、お前…」少々息が乱れたままカムゴに言う。前回の嵐が嘘のように何もなく、ただ単に帰宅した時と同じだったからだ。
「お褒めにあずかり光栄です」その意味が分かっているのか不明なのか読み取れない表情で返した。
「じゃあ早速なんだけどいいか?こっちの準備はできてる」と言って左手に持っているそれを少し掲げる。
その意味を理解したカムゴは「かしこまりました。それでは念じ、大村様の思いを高めて下さい」と指示した。
優斗は前に出るとカムゴに並び目を閉じて念じ始めた。そして想像を始めた。カムゴもまた何事か呪文を呟きながら右手を前に出す。
鳥居の向こうに何か見えた気が直後、一際強く光った。
やがて光が消えると完了しました、と告げ優斗は目を開けた。いつもと変わらないように見えるが、何か新しい力が宿っているような気がする。
この向こう側に新しい世界が広がっているのか。そう考えただけでワクワクドキドキする。こんな気持ちもここ最近までとんと味わっていなかった。
早く行きたい。はやる気持ちを抑えきれずに一歩踏み出そうとすると「あの…大村様…」カムゴが言いにくそうに声をかけた。
「どうした?あ、ありがとうな。また力貸してくれて」
「いえ、それは構わないのですが…。よろしかったのでしょうか?」そう不安げに尋ねてくるカムゴに大丈夫だ、と安心させるように言い笑みを浮かべる。カムゴの言った意味は分かっている。しかし俺はそれでもそこに行きたい。どれだけ危険であってもそこに求めるものがある限り。
しかし心配は拭いきれないのか「くれぐれもお気を付けください」と言った。
それに頷くとカムゴの肩に手を置き、再び輝き出した鳥居の中に足を踏み入れた。




