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次元の魔法   作者: キート
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渡された信頼とオレの嫌いなヤツ

「これがオレの…」まじまじと見つめる。

 プレートは専用と思われる箱に鎮座しており、とても貴重そうで、どこか凄みや存在感を感じた。果たして気軽に触れていいものなのだろうか。

「どうかしましたか?」なかなか手を伸ばさない優斗を不審に思い、しかし焦らせる様子は見せずに尋ねた。

「いや…これが自分のだって思ったらなんか緊張しちゃって」

「ほう、お前みたいな阿呆でもそれの価値が分かるのか。おまけにお前みたいな能天気なヤツでも緊張なんかするんだな」

「な~んか言いましたかぁ?」

「いや、別に」二人の間に少し悪い空気が漂い始めるが、校長が上手く流した。

「緊張なんかしなくていいのですよ。これはもうあなたのものですのでどう扱おうとあなたの自由。それに、早く慣れた方が何かと便利ですよ。といっても大村くんには不要なものかもしれませんが」

「そうっすか…。あ、そうだ。聞きたいことがあるんすけどこれって他のとどう違うんですか?この間知り合いに見せてもらった時大分違うみたいだったんで」

「それについては俺から説明しよう。………なんだその不満そうな目は」

「さぁ?気のせいじゃないっすか?」

「…まぁいい。まずプレートには三種類あってそれぞれに段階がある。ブロンズ、シルバー、そしてお前がこれから持とうとしているゴールドプレート。おそらくお前が見たのはブロンズプレートだろう」そう言って部屋の左端にある一画を指差す。

 気づかなかったがそこには先ほど柊が説明した三種類のプレートがそれぞれ額に収められ、飾られていた。その内の一番左が久美が持っていたプレートと同じ色をしていた。

「ああ、そうですね」

「だろうな。一年のこの時期ならほぼ全員がブロンズだからな。

聞いたかもしれんが、基本的には全員があれからスタートする。そして条件を満たせば次のシルバーに上がり、より実戦的で難易度の高い魔法を扱えるようになる」

「でしょうね。で、その条件ってのは?」

「早い話が実力か学校にとって有益になることをしたかのどちらかだな」

「それって戦って強さを示せとかボランティアっすか?」

「ああ。前者の方は少し先だが魔法力試験と呼ばれる試験がある。そこで一定の基準をクリアしたら、というものでこちらの方が上がりやすい。まぁこれはそのためにやっていると言っても過言ではないが。

一方後者はポイント制で規定率に達すれば上がる。だがやる内容によってポイントに差があるため溜まりにくい。おまけにポイントは自分では確認ができないようになっているため、あまり有効ではないようだが」

「そりゃそうでしょ。やっても分からないんだったらやる気だってなくなるし、よっぽど奉仕精神がなきゃそこまでできないですって」

「だろうな。まぁそういう方法もあると提示したまでだ。もっとも二年になったら大半の生徒は忘れているがな。だがポイントが溜まりやすい奴らもいるがそれはまた次だ。

とりあえずこの二つが主な上げ方だな」

「なるほどね。あと今のなんすけど、なんで自分じゃ分からないようになってんすか?」

「ポイントを集める為に活動するのは違うと思ってな。ボランティアが例えにしやすいがそれで賃金が発生するわけではない。それはもはやボランティアではないからな。まぁ礼に飲み物等をもらえる場合もあるが、それも許容範囲内だ。

礼は言われるがそれ以外でもらえるものは基本ない。しかしそれでも労をいとわず活動する精神そのものが尊いと俺は思う。それを少しでも反映させてやりたくて、しかし本来の目的を分からずにポイント目当てに行われても困るのでな」

「苦肉の策ってやつっすね」

「まぁな」

 柊の言いたいことは分かる。しかしポイントが目当てになるのは間違いない。自分で確認できないといってもせっかくの夏休みなのにいつもと変わらない時間に起きて、かったるいラジオ体操やって意味のないスタンプ集めするよりは意味があるだろうけど。だがいくらポイントがもらえると分かっていても結局やらないヤツはやらない。だったらもっと全面に押し出してもいいのでは?

『春の大ポイント祭り!!』~学校もきれいにしてポイントもたくさんゲットしちゃおう!目指せゴールド!~

 とかやったらおもしろそうだけど。

「まぁ了解しました。で、その上がるっていうのはプレートの色がですか?」

「最終的にはな。さっきも言ったようにプレートにはランクがある。

ブロンズなら5、シルバーなら4といったようにな」

「そうなんすか」そう言われれば昨日三篠に見せてもらった時なんか数字があったわ。

 確か…えー…1だっけ?

「じゃあみんなブロンズの1なんですか?三篠のはそうなってましたけど」

「全員ではないが大体そうだろうな。誰とは言えんが今年はB3がいる」

「やっぱりそういう優秀なヤツっていうのはどこにでもいるもんですね」

「そうだな。今回それを大幅に更新したわけだが」じっと優斗を見た。

「ん?オレっすか?」

「ああ。三年の前半でゴールドになった者なら知っているが一年で、おまけに最初からは初めてだ」

「なんかイマイチすごさが分からないんすけど…」

 それを聞き深くため息をする。

「校長、本当によろしいのでしょうか?」

「もちろんです」

 二人のよく分からないやりとりに目をパチクリさせていると柊が向き直った。

「さっきの話に戻るがランクの上げ方というかゴールドになるためには他の二つとは明らかに違う点が三点ある。

まず一つ目、誰でも受けられるわけではない。

二つ目、内容は完全非公開。

そして三つ目、判断材料がその時点までのすべての経歴だ」

「すべてっすか…」

「ああ、いつ入学してどのくらいの早さで上がっていき、どんな魔法を得意とするか。またそれまでの試験時においての課題解決までの過程や手段、タイム等々あらゆるすべてを見られる」

「なるほど…」今までピンと来ていなかったが、今の説明だけでもどれだけ大変なのか少し分かる気がする。

 それだけゴールドになるのは大変で、ある意味命がけなのだろう。それをどこから来たのかもよく分からないぽっと出の人間がゴールドならばいい気はしないだろう。学年が上がれば尚更だ。

「だがそれはゴールドになるためには、だ。なってからも更に上を目指すためには避けては通れん」

「あ、そうだ。それも聞きたかった。数字がランクを表しているんならオレは何なんすか?描いてないから分かんないし、てか何で描いてないのか…」

「ゴールドになるための方法、その先、そしてランク。これらはゴールドプレート、もしくは限りなく近い者にしか明かされない。後ろ二つはゴールドのみだがな」

「それって理由があるんすか?」

「早い話が先はまだあるから現状で満足するなと言えば分かるだろう」

「ああ、なるほど」

「別枠で試験があったりと何かと別格扱いされるが、根本は変わらん。真面目にしっかりやれ、そして精進を怠るな。魔法でも何でもそうだが終わりはない、一生修行だ。

しかしながらどうしてもゴールドは存在感や影響力があり、事実他に比べあらゆる意味で優れている。それに従い大きな責任が付きまとう。皆の規範となるべき存在だ。

だから何度でも言うぞ。ゴールドだからといって驕るなよ」

「分かってますよ。これまで通りしっかりやります」そう言って校長に一礼すると全ての生徒が求め、憧れ、しかし入手は非常に困難で、だからこそ一目置かれる。そして大きな責任が伴うであろうそのプレートを手に取った。

 これがオレのプレートだ。

 それを見ると「よし、では表を向けて前に出せ」と言い、自身も内ポケットから取り出した。

 表ってどっちだよ、と思っていると文字が描いてある方だと若干呆れられながら言われ、言われた通り『G』と描かれている面を柊に向けた。

「ゴールドにしかそのランクは明かされないと言ったが、ゴールド同士ならその確認が可能だ」そう言いプレートを近づける。

 すると『G』の横に優斗は1、柊は3と浮かび上がった。

「これがランクだ。お前は受け取ったばかりだからと考えれば納得するだろ」

「う~ん…上があるならもっと行きたいんすけどねぇ…。これを上げるためにさっき言ってた特別な試験を受けるんすよね?それって今はできないんすか?」

「ノーコメントだ」その反応を見るに教えてくれなさそうだと判断し校長に視線を向けるが「今は日々をしっかり過ごし、向上心を忘れずに励んでください。その時になったらまた詳しく説明させていただきますので」とやんわり断られてしまった。

 あまり先を見過ぎても良くないよな。それこそ柊センセイが言ったように足元掬われるか。それでも先を見て上を目指すのは人の性というもの。向上心なくして成長はなしだ。

「ま、アンタみたいな偏屈がなれるんだからオレだってできますよ。それにオレだけじゃなくて他の奴らもすぐにコレになりますよ。だってアンタみたいな偏屈がなれたんすから」

 しかし素直に従うのは癪に障る。少しぐらい挑発的になってもいいよね?

「…お前には今度みっちり指導してやる。まずはそのふざけた口の利き方からだ」

 今にも魔法を発動しようかという迫力で優斗を睨む。しかしそれを華麗にスルーし、校長に同意を求める。

「そうですね。柊先生が偏屈かはともかくとして、一人でも多くの方がゴールドプレートになれるよう我々教職員一同一丸となって指導に当たっていきます。ねぇ柊先生?」

「…そうですね。特にこいつにはしっかり行う必要がありますね」もう一度ひと睨みしておく。それを適当に笑ってごまかすと

「じゃあ…えっと…これで終わりですか?」

「本当はまだあるがそれは今でなくてもいいからな。とにかく俺の言ったことを忘れるなよ」

「…承知しました」

 では、校長と挨拶をすると一礼し、改めてお礼を言う。そして二人の視線を受けながら静かに退出した。

 あー息苦しかった。と、やっと解放されたことに安堵していると「おい大村」扉から半身を出した柊に呼び止められた。終了直後で少し気が緩んでいたせいか予想以上に心臓が跳ねた気がした。

「言い忘れていた。明日6時に学校に来い」

「……朝のっすか…?」

「当たり前だ。学校に来ないつもりなのか」

「確認すよ。てか行かなきゃダメっすか?朝苦手なんすけど…」

「いいから来い。いいな」

 本当に朝は弱いのでなるべく粘ろうとするが、これは異議を受け付けてくれそうにない。柊の態度からそう判断し、分かりました、と力なく返事をしていた。

 …起きれるかな?今はその心配だけだ。



 そして優斗がいなくなった校長室では。

「まったくアイツときたら…」

「ふふっ、いいじゃないですか。先が楽しみです」

「私もある意味楽しみですよ。どう転ぶか」

「そうならないようにきちんと見てあげてくださいね」

 それには返事をせず、少しの間沈黙が流れていた。やがて柊が険しい表情を浮かべたまま口を開いた。

「…本当によろしかったのでしょうか?」

「何がでしょう?」

「事実を伝えなくて」

「…いずれ知る時が来ますから、その時に改めて伝えれば良いかと思います。あまり最初の内から重荷をかけてばかりでは若い芽を摘みかねませんから」

「校長、貴方はアイツを買い被りすぎてるとしか私には思えないのですが…」

「そう思われても仕方ありませんね。しかし彼の実力は本物です。ならばそれに見合ったものでないと」

「それが無理をして前例がなかったとしてもですか?」

「前例がないからできなかった、諦めさせた、そんな歯がゆい思いを私もあなたも何度もしましたよね?でしたら今度は予め前例を作っておけば今後の運営もしやすくなる…とは思いませんか?」

「確かに一理ありますが…、かといってむやみやたらに…」

「もちろん私も人は選びます。それだけでなく様々な観点から考察し判断します。そうでなければ…とてつもない負担を強いられてしまいますから」

「ではアイツはそれにクリアしたと?」

「ええ、彼なら問題ないと私は思います。いつの時代でも変革に抵抗や嫌悪は付き物です。だからといって止めてしまえば時流に乗り遅れ、変化に対応できず、優秀な人材を逃し、衰退の一途をたどってしまう。そうなる前に少しでも…というのが本音でしょうかね。それに前例という言葉自体よほどの時でない限り使いませんからね」

「……前例というより異例と捉えたほうが良いかもしれませんね。しかしむやみやたらに言わない方がいいかと。アイツの性格だと天狗になりそうだ」

「気を付けましょう。それでは柊先生、あとはお願いします」

「…分かりました」





















 そして翌朝6時、ひと気のない校内に優斗はいた。

「ったく柊の野郎こんな早く呼ぶとか…」不満を口にしながら大きな欠伸をする。

 まだ数えるほどしかここには来ていないが、登校時間には多くの生徒で賑わう。そのためこの静かすぎる空気が異様に感じ、どこかさみしく思えた。

 最初に来た時はただ圧倒されていたが、こうして見るとなんだか神聖な場所であるような気がする。この静寂もそれに一役買っているのだろう。

 だけどこういうのも悪くないかもな。なんだか一人占めしているような気分になるし、何をやっても今ならバレない。ちょっとした高揚感もある。…まぁ何をするつもりもないんだけど。

 そんな風に考える部分も少しはあるが、ほとんどは眠いという感情が占めていた。


 …どこに行けばいいんだ?柊には学校に来いと言われただけで、どこに来いとは指定されていない。

 しばらくの間寝起きで鈍い頭を何とか動かし考え、まぁ教室にいけばいいかなと思い昇降口に向かって歩き出す。

 そしてもう間もなくたどり着くところでどこからともなく現れたロープが優斗に巻きついた。とっさの出来事のため対応しきれず、抵抗すらできずにそのまま勢いよく引っ張られてしまい、一気に屋上まで上げられてしまった。

「ぬごっ!?」したたかに地べたに叩き付けられた痛みに耐えていると「ふん、時間通りに来たな」魔法がかかっているだろうロープを手元に戻しながら柊が言った。

「っっっっっっの野郎ぉ!!!いきなり何しやがんだよ!!危ねぇじゃねぇかこの野郎!!」

「なんだ、この前はうまく対処できていたと感心したというのに。この程度なんでもないと思ったが」

「起きたばっかであんなのできるかっ!!ケガしたらどうすんだよ!」

「そんなヘマするか。お前と違ってな」

 コイツ…!

 柊の自信満々な言葉に更に怒りのボルテージが上がっていく。

 今のオレなら柊はもちろん賢者たちも倒せる気がする。

「さて、ではそろそろ本題に入るか」そんなことを思っていると柊が口を開いた。

 そこでようやく頭が切り替わった。少しだけ。

「で、何の用っすか?こんな朝早くに。まさか特訓でもしようってんじゃないっすよね」

「ほぅ、察しがいいな」

 マジで?早朝と深夜は特訓の定番みたいなものだが、それが自分に当てはまるとは思わなかった。

「そろそろ本格的に魔法の授業が始まる。その前に少しだけ現在のお前の力を見ておこうと思ってな」

「…へぇ~、じゃあこの前みたいにアンタをぶっ飛ばせばいいんすね?」

「やれるもんならな。むしろその方が分かりそうだし、お前には合っているだろ」

「そうっすね」

 これをやってみろとか、ここでキープさせておけとかそんなやり方ではそれができるという事実があるだけで、扱えることは示せない。発動させられるのは重要だし、そこから始まるのだが、それをどうやって扱うか、扱えるかのほうが重要だと思う。特に魔法では。

「つっても全力でやるわけにはいかないっすよね?」

「まぁな。とりあえず基本の四属性がどのレベルか見たいから、それらを使え」

「了解。けどなんで今それやるんすか?」

「言っただろ、これから一年生は本格的に魔法の授業が始まると。そうなればお前が教える場面も出てくるだろ。仮にもゴールドだからな。その時に苦手だから全く扱えない教えられないでは話にならんからな」

「はぁ~なるほど。大変っすね」やはりそれだけ責任があるのだろう。

 だが得意な魔法も教えられる自信がないのに、苦手な魔法って…。どうすりゃいいんだ。

「あとは…お前の力に少々疑問を感じてな」

「はぁ」

「なんでも発狂したとか」その瞬間、先日の一件が鮮明に脳裏に浮かびあがった。

「な、なんで知ってんだよ!!」恥ずかしさのあまり声を荒げる。まさか知っていたとは。

「当り前だろう?一応俺はお前の担任なんだからな。それにしても…」プッと吹き出すのを必死に堪えようとしているが抑えきれず、クックック…!と笑いが漏れている。

 その柊を見て怒りや憎しみなどの負のエネルギーがすさまじい勢いで膨れ上がっていくが、事実であるだけに言い返せない。

「しょうがねぇだろ!!幻覚には耐性がなかったんだからよ!!」

「そのようだな」ようやく治まったのか、普段通りに返す。

 覚えとけよ…!いつかぜってぇーやり返す!

「だがプレートの重要性を身をもって知れたのだからいい機会だったろ」

「あれでこれが何の役に立ったんすか」

 そう言いながらプレートを取り出す。

 昨日もらったばかりの真新しいプレートはゴールドだからというだけでなく、輝いているように見えた。

「いつぞや説明したようにプレートは身分証にもなり、強さを表す指標でもある。だがそれだけでなくもう一つ、魔法補助の機能も備わっている」

「魔法補助…ってなんすか?」

「読んで字の如く。魔法を発動させるには魔力が必要、そして属性魔法はプラス属性エネルギーが必要になる。プレートは後者の方を取り込みやすくする。特にブロンズ期間中は世話になるだろう」

「へぇ~便利っすね」裏返したり下から見たりと様々な角度からプレートを眺めまわす。

 そんな機能がついているとは素直に便利だと思う。それなら確かに発動させやすくなるのかもしれない。使ったことないから分かんないけど。

「といってもあくまで補助として考えなければならないだろう。基本的には自分でコントロールしなければならないがな」

「ま、そうっすね」そうでなければ頼り切りになってしまうから当然だろう。プレートがなければ発動できないとは笑えない話だ。

「そしてお前のケースに当てはめると、実はこれ自体微弱ながら魔力が備わっていて、レベルの低い魔法生物の魔法ぐらいは無効化できる」

「えっ!?」マジか、そんなことができるのか。そう言えばあの時そんな話をされた気がしないでもない。だからオレ以外幻覚にかからなかったと。

 じゃあなんでオレは?耐性が低くてもその機能があれば大丈夫そうなんだけど。

「その身をもって体験したように、お前が昨日まで所持していたプレートにはその機能はないぞ」

「なんで?」

「形だけの緊急発行用のものだからだ。

プレートの紛失は本来あってはならない、しかし全くトラブルがないとは言い切れない。そこでやむを得ない場合に限り緊急措置としてあれが発行される。といっても回数は限られるがな。そしてそこでの目的はプレートの重要性の再認識と再発防止だ」

「再認識はまぁ分かりますけど、再発防止って?」

「紛失、および破損のだ。特に一年生は重要性を認識していない生徒が非常に多い。しかし無くなって初めて魔法が発動しにくくなったり、何かの魔法に対処できなかったりして気づく場合が多い。そうなったらどうする?」

「オレっすか?自分のやり方が悪いのかなってあれこれ試したり、色々見直しますね」

「そうだな」

「けど、プレートが関係しているとは思わないっすよ」

「お前はまた例外だ。ほとんどの者はこういう場で最初に学ぶ。そしてここでは魔法の弱体化の原因探しをまずプレートの有無、状態の確認から始める。そこで初めて気づく、とまぁこんな具合だ」

「なるほど」

 確かに誰かに指導してもらったり、指摘してもらう方が上達は早いし、原因も突き止めやすい。また補助器具なんてものがあればやりやすいし、魔法を習得しやすい環境が整っていれば同じ魔法を習得するのに正しい方法で、且つ時間を短縮できる。

 そういう意味ではこのプレートも重要な役割を担っている。それを理解すればきちんと管理するだろうし、戦いの場においても何がなんでも守ろうとするだろう。

 一度その重要性を身をもって知ったのならば尚更細心の注意を払う。

 オレもそうだ。これがあればあんな目に遭わずに済んだのかと思うと……もっと早く欲しかった。

 だがそうなるとプレートは強みであると同時に弱点にもなり得る。取り上げたり破壊してしまえば大幅な戦力ダウンも可能ではないか。

 プレート死守が勝負のカギになるかもしれない。

 まぁそれも最初の内だけだろうけど。

「というわけで、お前は身をもって知ったと同時に他の生徒の良い見本になったわけだ。俺が説明する手間が省けた」

「反面教師として役立ったのなら光栄デスヨ。ま、オレには魔法補助はあんまり必要ないっす」

「だろうな。だがあるなら使っておいて損はない…と、お喋りはこのぐらいにしておくか。とりあえずどれからでもいい、やってみろ」

「本当はあんまりやりたくないんすけどね。手の内明かすみたいで」

「いいからやれ」少々怒気の籠った声で指示されてしまい嫌々ながら従う。

「で、何をやれば?」

「そうだな…、各属性玉でいいだろ。それをここに撃ってみろ」

 そう言って柊が右手を出すと水色の膜のようなものが現れた。

 それを見ると優斗は右手を向け、力を込める。そして

「ふっ!」気合と共に青色の玉を発射した。

 ドォン!!轟音が響き、衝突地点には煙が発生しどうなったか見えない。やがて晴れていくと、柊が作りだした魔法の姿はどこにもなかった。

「そんなんじゃ意味ないっすよ」

 発射時と同じ姿勢のまま挑発的な笑みを浮かべる。

 決して見くびっていたわけでも侮っていたわけでもない。完全とは言えないがその力の一端は垣間見、その僅かなものからでも実力の高さに内心驚愕した。

 先日の一件でも、咄嗟の出来事にも慌てる様子はなく落ち着いて対処できていたので、口には出さないがその力は認めざるを得なかった。

 それを踏まえたうえでの判断だったのだが、その予想を軽く上回った。もちろん僅かしか見ていないので、ただ目算があまかっただけとも言えるが、それを差し引いても認識を改めなければならないのかもしれない。

「お前にはこのぐらいでいいと思っていたが、少々物足りなかったようだな」

 しかし気に食わない。状況ぐらいは判断しろ。

 あまりつけ上がらせるのも教師としての沽券に係わる。こいつには一人の魔法使いとして接したほうがいいかもしれんな。

 素早く右手を向けると、今度は優斗に向かって魔法を繰り出した。しかしそれを先ほどの柊と同様に青い膜をを作り出すと、柊の魔法から自身を守る盾とした。

 柊の魔法が衝突しても壊れることはなく、その向こうで優斗は不敵に笑った。

「それに少々実戦的にと言ったのは俺だったからな」表情を変えずに言うと再び力を溜めはじめ、今度は優斗も迎撃するために力を集中させる。

 そして両者は同時に水色と青の玉を互いに向けて発射した。







「な、なんや!?」一人の男子生徒が慌ただしく周囲を見回すがそこには誰もおらず、特に変わった様子もなく、いつも通りの風景が広がっていた。

「…気のせいか?なんや音が聞こえたと思ったんやけど…」疲れてんのかな、そう呟きながら荷物を校舎の隅に置く。

「誰か特訓でもしとるのかと思ったけど、こんな朝早くからやるヤツなんておらんか。いるとしたらよっぽどの落ちこぼれか、熱心なヤツか。

あとはオレみたいに陰でこうやって特訓して言われた時にパッと使えて『すご~い!』とか『かっこいい~!岡田く~ん!』『貫志でええよ』とかやりたいヤツやろうなぁ~!……あかん、誰もいてへんよな?こないなの聞かれたら…」再びキョロキョロ見回すが先ほどと特に変わりはなくホッとする。

「しっかし魔法っちゅうのはすごいけどてめぇん家でできないのが欠点やなぁ。それができりゃもっと練習できるし、難しい魔法も会得しやすくなるのに…ってそれじゃあアドバンテージにならんか」そうボヤキながら欠伸をかみ殺し、準備運動を始める。

「まだ本格的な属性使った魔法はやっとらんからな。ここで少しでも先に進んで強くならんとな。まだ火炎玉すら上手く発動できひんからな」

 気合を入れ両手を前に突き出す。するとドォン!!どこからか轟音が響いた。

「おわぁっと!?」突然の轟音に驚きながらも音の出処を探していると、ふと視界の上端に何かが映った気がした。

 顔を上げて確認すると「はぁ!?」自身が必死にやってようやく発動できるようになったものとは比べ物にならない熱量の赤い玉がこちらに向かって飛んできている。

 それだけだったらまだいい。更に驚くべきことにその後ろから人が飛んで来るではないか!

 その人物は貫志の姿を捉えると、即座に右手から青い玉を発射して貫志に向かっていた火の塊を破壊した。そして着地するために着地点に横長の青い膜を作り出すと、トランポリンのように何度か跳ね、無事に地に足を着けた。

「ふぅ~…」危なかった。こんなに朝早くだから自分たちだけだと思っていたが、まさか他にも人がいるとは思わなかった。だからといって魔法を降らせていいわけではないか。

 やっぱりこれはあんまり得意じゃないな。つい先ほどの出来事を思い出す。

「わりぃ、大丈夫だったか?」危うく自身の魔法の被害者になるところだった男子生徒に声をかける。破壊時の爆風で転がってはいたが、恐らく大丈夫そうだ。これでケガでもしてたら申し訳ないが、その一端はアイツにもある。

「あ、ああ…なんともない…」そこでようやく貫志は目の前の人物が誰かを理解した。

「お、お前転校生やろ!ウチのクラスの!」

「ああ…一応そうだけど。…えっとキミは?」

 オレのクラスは1-3、そしてオレは転校生で間違いない。ウチのクラスと言うのだからコイツも1-3のはずだけど…。こんなヤツいたっけ?オレがそういうのが苦手なのは置いといて。

「ああ、そういやこうやって喋んのって初めてやな。オレは岡田、岡田貫志っていうんや。お前は大村…で合ってるよな?」

「おお、大村優斗だ。同じクラスだったんだな」

「まぁな。しっかしお前凄いな!最初のアレもそうやったけど、今のも!」

 アレと言われると先日の一件しか思い浮かばない。クラスメイトだから知っていても当然かもしれないが、できるだけ話題には出してほしくない。ぶっちゃけトラウマだ。

 しかし貫志が言うアレとは優斗が想像しているものではなかった。

「なんやあの訓練?やったっけ?あの時お前ウチの教室に来たやろ?で、柊先生の魔法防いだやろ?」

「……ああ!それか!」先日の一件があまりに衝撃的過ぎたせいですっかり忘れていた。そういやそんなこともやってたわ、オレ。

「それもすごい思たし、今のも何が何だかよう分からんけど、とりあえずすごいっちゅうのは分かったで。で、なんやったんや今の?」

「特訓してたらコントロール利かなくて飛んでっちまったんだ。この時間なら誰もいないと思ってたんだけどな。焦ったわ。ケガしてないか?」

「転がって砂埃被っただけでなーんともあらへん。っていうか確かお前ゴールドやろ?それなのに特訓しとるんかい」

「ゴールドだからって特訓しちゃいけないわけじゃないし、むしろゴールドだからこそやらなきゃダメだと思う。それに満足してあぐら掻いてたらせっかく手に入れた魔法も腐っちゃうし。

ゴールドとか関係なしにそれにどれだけ向き合ったか、注ぎ込んだかが大事じゃねぇかな」

「…ほぅ~!さすがやなぁ!お前が言うと説得力あるわ!」

「ま、それほどでもあるけどな」

「なんやムカつくなぁ~!けど嫌味に聞こえんわ。お前おもろいな!」

 そんなことを言っていると柊が上を指しているのが見えた。どうやら戻って来いというようだ。

「じゃあそろそろ戻るわ。途中だったし」そう言うと着地の際に利用した青い膜に乗り、ジャンプの準備に入る。

「あ、ちょっと待った!」しかし貫志が呼びかけたためストップして振り返る。

「お前今日の放課後空いてるか?」

「…別に予定はないけど」

「なら良かったらなんやけど、ちょっと特訓に付き合うてくれへん?せっかくの機会やし、オレとしては是非頼みたいんやけど」

「…いいけど教えるのは下手だぜ?」

「じゃオレの魔法見て何かアドバイスだけでもしてくれへん?どうも自信なくてな」

「まぁそれぐらいなら」そうして了承すると今度こそ戻る為に足に力を込める。そして一際大きく屈み、飛び上がろうとした瞬間「あ!あともう一個!」再び遮られバランスを崩し、落下してしまう。

「なんなんだよ!一回で済ませろや!」ものすごい形相で近づく優斗の顔には細かい石が張り付いていた。

「ス…スマン…」その剣幕に圧され思わず謝っていた。

「で、どうしたって?」

「えっとな…オレが朝こうしてんの内緒にしててくれへん?」

「あ?まぁ言われなくたってベラベラ喋ったりはしねぇよ」

「おおきにな」

「で、それだけか?他にもあるなら今言っとけ。また邪魔したらさっきの火炎玉直接お前にぶつけっから」

「それだけは勘弁してくれ!!もうないわ、すまんな」

 それを聞くと今度こそ飛び上がり、屋上に戻っていった。

「はぁ~すごいな…。ゴールドになったらあんなんもできるようになるんやな…」

 いや、できるようにならんとな。あいつを上手く利用できれば相当有利になるんやないか?色んな意味で。

 貫志がそんなことを考えている一方で屋上では優斗と柊による口論が繰り広げられていた。

 ちったぁ手加減しろよ!黙れヘタクソ。















「ってなことがあったんや~!すごない!?」

「はいはい、すごいすごい」

「また作り話かぁ~?相変わらずセンスねぇな」

「ウソやないで!オカンに聞いてもらえば本当やって分かるで」

「お前のお母さんに会ってまで確かめようとは思わないわ」

「それに確か家族の証言は証拠にならないんじゃ…」

「…マジで?」

 授業中とはうって変わって昼休みの教室はとても賑やかだ。昼食を食べてリフレッシュして午後に備えようという気持ちの面からでも、他の休み時間とは違う雰囲気がある気がする。

 その雰囲気を味わいゆったりと過ごしたいのだが、それは難しいようだ。

 先ほどから貫志の声がずうっと聞こえてくる。特に聞こうと思ってるわけではないのに、勝手に耳に入ってくる。

 休み時間中も、昼を食べている時も、そして今も。他の生徒がいるにも関わらず絶えず聞こえてくるのは何かが特徴的という以上に単に声がデカいだけだ。

 あれだけ喋ってよく疲れないな、これからアイツはお喋りマンと呼ぼう。オレの中で。

 などととりとめもないことを思いながら、頬杖をついたままその一角に視線を向ける。

 オレが最初にここに来た時以降今日まで風邪で休んでいたらしい。だから朝の時点が初めましてといってもいい状態だ。それはつまり例の一件を直接見ていない。それについては助かった、本当に助かった。

 あの人間スピーカーにかかったら一日の間に全校生徒にオレの醜態が知れ渡っていただろう。そうしたら今頃めちゃくちゃ居づらくなっていたに違いない。今日だってほら、どこか腫れ物に触れるかのような雰囲気があったし、居心地は正直良くなかった。まだ転校してきて日が浅いからというのも理由の一つかもしれないが。

 それに実は朝から気になっていたが、クラスメイトなのに顔や名前はおろか存在すら知らないのはどうなんだろうと。まだ仕方がないのかもしれないが、いくら覚えるのが苦手といっても、一度お互いに自己紹介をしたにも関わらず覚えていないというのは失礼にも程がある。しかしその時にはどうしても思い出せなかった。けれどあれがほぼ初めてというのであればあまり問題ではないだろう。

 心配事の一つはなくなったが、もっと大きいものが残っている。直接見ていないにしてもアイツの耳に入るのは時間の問題だろう。それについて聞かれたらどうするか…?とりあえず脅しとくか。

 そんな物騒な結論を出した時、貫志グループがまたドッと沸いた。

 ああいう風に騒いで何が楽しいんだろう。そんなに騒げて幸せですね。

 バカにしているわけではないのだがどうもくだらないと思ってしまう。だから交ざろうという気持ちにならずにこうして一人でいるのだ。…別に群れないオレかっこいいとか、ああいう連中を冷めた目で見て大人びた雰囲気出そうとか、他のヤツらとは違う空気を出して独自の路線貫こうとか思っているわけじゃない。

ただ単に友達がいないだけじゃねぇの?とか言ったヤツ。あとで便所に来い。

 つーかうるせぇ、他の連中のことも考えろよ。自分たちが楽しければそれでいいってどうなんですか。特に岡田。ああいうヤツは必ずクラスに一人はいるが、あの手の輩が嫌いなためできるだけ距離を置き、なるべく関わらないようにしてきた。

 どうなろうと知ったこっちゃない。ぶっちゃけ落ちこぼれてくれと思ってきたし、ヤツに関してもそう思っている。

 今日も行きたくないのだが、流れとはいえ約束してしまった以上断るわけにもいかない。こうなったらちゃっちゃと終わらせよう。

 だがわざわざ頼んできたというのはやはり強くなりたい気持ちがあり、実際にそうやって動いている。それを考えるとどうも非難しにくい。

 最近巷ではギャップ萌えとかいうものが流行っているらしい。一件チャラそうな見た目のヤツが実は真面目。そんなギャップがいいのだとか。アホかと言いたい。そんなのに引っかかるのはバカだけだ。

 内面が外見に影響しているのであれば、目に見える情報がその人間すべてと言ってもいい。つまり真面目ならそういう外見になるし、逆もまた然り。

 だが既存の枠に当てはまらない者が出ればどうしても注目せざるを得ないし、興味を持つのは仕方がない。もしかしたらオレだって気持ちが行ってしまうかもしれない。そしてあとは真面目(必ずしもそうでなくても、風)な言動や態度を一つ二つとればギャップの成立だ。これは見た目が悪い(ブサイクという意味ではない)人間ほど効果があるらしい。そうして今もそんな男に騙されて暗黒面に堕ちてゆく娘がいるのだと思うと腹立たしい。全魔力を振った最強の魔法を本気でぶつけてやりたい。

 それでは真面目に誠実にやっている人間があまりに可哀想ではないか。

 今まで積み上げてきたものをふと横から現れて、そんなチート紛いで超えられてしまっては慰めの言葉も見つからない。そんなやるせなさを一体どうしたらいい。

 彼って見た目は怖いけど本当はやさしくてアタシのことすごい大切にしてくれてるの~。バカ丸出し。こういう女は死ねばいいと思う。オレが同じようにしても同じセリフを吐けますか?…モテないからって僻んでるわけじゃない。言いたくても言えない、表舞台には出てこない同志たちの気持ちを代弁しているだけだ。

 つまりオレが言いたいのは岡田、お前は努力とか真面目とかとは無縁であれ。バカであれ。そうでないとオレの観念が壊れてしまう。悪は悪であれ。バカはバカであれ。そこから一歩でも外に出たら許しません。けどそれを受け入れられても腹立つな…。愛すべきおバカキャラ…とはちょっと違うかな。などとますます深みに嵌っていってしまうところで

「やっほ」救世主が現れた。

「ん?おお三篠か」意識がどこかに飛んでいる間に愛花や魅子たちと教室に戻ってきたようだ。そう言えばさっきから見てなかったっけ。

「どうした?何か用?」

「いや、せっかくの昼休みなのにぼっちでさみしそうなあんたが可哀想に思えてさ」

「オレに釣り合う奴がいないからな。力あるが故の孤独…といったところか」

「…あんたそんなキャラだったんだ…」

「中二…?」

「やめて!なんか仁礼さんに言われるとすっごい傷つく!オレだってたまにはボケてもいいじゃん!オレから始めてもいいじゃないか!」

「あ~ハイハイ、悪かったよ」

「あの…大丈夫だよ…?」

「何が!?」先ほどまでの暗く陰険で、どこにぶつけたらいいか分からない憤りを延々と心の中で叫んでいた時とはうって変わって久美たちと会話に興じる。

 こっちの方が楽しい。

「あ、そうだ。一つ訊きたいんだけどあそこにいる…えっと…岡田だっけ?アイツってどんなヤツ?」

「岡田?う~ん…一言で言うならムードメーカーかな?」

「ちょっと苦手かな…ああいうタイプは…」

「うるさい」

 三者三様の答えに「ああ…そう…」思わずそんな声が出た。仁礼さんにいたってはなかなかの酷評、一言でバッサリ切り捨てていた。

 ついさっきまで似たようなもんだったけどそう言われると味方したくなってくるから不思議だ。

「けどどうしたの?急に岡田がどうのって」

「初めて見たから気になったんだよ。どんなヤツかなって」

「…そう言われればあんたが来てからあいつは休んでたっけ?愛花?」

「…だったと思う。あの訓練の時以来…なのかな?」

「だね。あの後一段とうるさかったからね~」

「特に久美にね」

「ああでもしないと黙らなかったんだからしょうがないでしょ。大体あいつが悪いんだし。『三篠!!なんや今の!誰や今の!なんやったんやあの魔法!』…もううるさいったらなかったわ」

 どうやらこっちはこっちで大変だったようだ。本当は色々聞きたいけど止めておいた方がよさそうだ。藪蛇なんてごめんだ。

「元を言えばあんたの所為だけどね」

「オレ!?そりゃいいがかりってもんすよ~三篠さぁ~ん。マジ勘弁してくださいよ~。オレ関係ないじゃないっすか~」

「冗談よ。てかどこのチンピラ?」

 思わぬところから飛び火してきたが助かった。とばっちりなんて誰が好き好んで受けるか。

「けどアノ時にはいなくてよかったね。大村くん」

「…ナンノハナシデスカ」どうやらオレは仁礼さんにはいつまでもあのネタでいじられるらしい。

















 生徒の姿もまばらになってきた放課後、適当に時間をつぶしていた優斗はそろそろ頃合いか、と思い待ち合わせ場所に向かう。

 別に最初から一緒に行ってもよかったし、というよりその方が早く始められて早く終わらせられるのでむしろ好都合なのだが、当人がそれを望まなかったため、その意向に従いこうして時間を空けているのだ。オレといると変に勘繰られそうだ、そうなっては意味ない的なことを言ってたような。まぁ気持ちは分からんでもない。

 これが女の子だったら良かったのに…っといかんいかん。

 ほどなくして到着すると既に待ち人がいた。

「悪い、待たせたな」

「ええって、気にせんで」そう返す貫志は上着を脱ぎ、やる気十分といった面持ちだ。

「むしろこっちの方がすまんな。付き合わせてしもて」

 本当だよ。思わずそう言いそうになってしまったが何とか堪え「別にいいさ」と返した。

 そうして改めて貫志を見る。

 これまでの様子を見るにかなり騒がしいヤツだというのは分かった。それだけでもかなりやりずらいが、それはもうしょうがないと割り切るしかない。

 同級生ではあるが立場上はこちらの方が上なため、嫌でも面倒をみなければならないらしい。ましてやそれが強くなりたいという気持ちがあり、尚且つ実行している者は支え、導かなければ逆にこちらが罰を受ける。みたいなことを言われた気がする。断る理由が嫌いだから、ではどうなるかは言わなくても分かる。

 それはまぁ良しとしてだ、問題はそこではない。

 少しだけ見るにしてもあまりに雑なことはできない。そのため性格的な部分も把握しておいた方がいいかと思い、何人かに訊いてみた。

 確か三篠はムードメーカーって言ってたっけ。

 オレははっきり言ってその存在も、単語も、響きもありとあらゆる面において大嫌いだ。嫌いな存在ランキング8年連続堂々の第一位になるぐらい嫌いだ。その単語をこの世から消し去りたい。そのためだったらなんでもやる。

 理由の一つ目、うるさい。仁礼さんじゃないけど。その場に居る全員が騒いでいるんだったら苦手だけどまぁ我慢できる。けど一人や数人から広がっていった、またそいつらが中心となってうるさくなっているのは嫌い。また中心になってる、空気を作っているという勘違いが嫌い。そんな存在はただの勘違い野郎だ。自分たちが主流だとでもいうような。誰がそれを認めた、暗黙の裡に認められてるとでも思っているのか。このバカモン共が!自分たちがやっていいか、認められたいのなら国民投票でもやりな。反対票742票ぐらい入れて成立させなくしてやる。

 あとソイツが何をやっても許されてしまう、笑いで済まされるのもそうだ。それと成功しようが失敗しようがとりあえず騒ぐ。やっている最中も。早くやれ!と何度叫ぼうと思ったか。オレはそこらへんの分を弁えているからやらないけど。そんな勘違い野郎、おめでたい頭だから何をやってもネタになると思われ、親しみやすいという誤解が生まれる。だから女子ウケも悪くないし、警戒心も持たれにくい。

 ついでに言うとその存在も、その空気も許容している雰囲気も嫌いだ。生温かい目で見守ってあげましょう。そうすればいつか彼らも気づくでしょう。自分たちの行いがいかに愚かなのかを。というようにするのが正しい対処法か。

 そういった連中は共通した雰囲気を持っていると思う。それにそういう人種が嫌い、とまぁざっと挙げただけでもこれだけある。まだまだある。

 とにかくそういう存在が大嫌いなんだオレは。見ると消し去りたくなる。不慮の事故を装って闇に葬ってしまおうか。

「な、なんや?」徐々に自分を見る視線や表情が険しくなっているのを感じ、たじろぎながらも声をかけた。

「…いや…なんでもない…」その表情のまま答えた。

 …どうしよ、オレが嫌いな人種じゃねぇか。なんかやる気なくしちゃったな。

「そ、そうか…何でもないっちゅうヤツの顔やないけど…」とブツブツ呟く。

 とりあえずちゃっちゃと終わらせよう。

「んじゃ始めるとしてオレは何をやったらいい?つーか岡田は何ができる?」

「お前にはオレの火炎玉見てほしいねん。それで何かアドバイスを思てな」

「了解、じゃあ…」そう言うと足で地面を叩く。すると五mほど先の土が盛り上がり、あっという間に横長の壁が出現した。

「あれに向かって撃ってみ」

 貫志は開いた口が塞がらなかった。その壁は縦も横も自身の二、三倍はありそうだ。そんなものを自分の目の前で十秒もかからず造りだしてしまったのだ。現実味がない。

 こんな魔法初めて見た。やっぱりこいつに目ぇつけたんは間違ってないわ。

「よっしゃ!」気合を入れると両手を前に突き出し、力を溜め始める。

「はぁぁぁぁぁ…!でやぁ!!」一際の気合とともに貫志の掌から炎を纏った球体が発射され、壁に激突した。

「よっしゃあ!」

「おお~!すごいすごい!」思わず拍手する。正直一発目でできるとは思ってなかった。

「いや~それほどでも!まだ成功率はそんなに高くないねんけどできてよかったわ。どんなもんや!」

「驚いたよ。じゃあ次は自分ができる最大パワーでやってみて。なんならあれ壊しちゃってもいいから」

「え?ああ、よし!」優斗の指示に従い再び力を溜め始める。そして十分に高まり発動しようとした瞬間「ア、アカン!」

 ボォン!爆発した。

 結構な勢いだったと思うがヤツは無事か?どこかケガしていてほしい半面、そうなったらオレの所為でもあるのでなんともなくいてほしい。面倒だしな。

「大丈夫か?」

「…アカン…失敗してもうた…」大の字に倒れた貫志が弱々しく言うが、目立った外傷はない。所々焦げているけど。

「やっぱまだ上手くできひんな…。もっと特訓してはよできるようにならんとな」

「発動できるだけ今はいいんじゃない?と思うけど」

「んなわけあるかい、魔法は上手くできてなんぼや。せやないと意味ないやろ。まぁええわ。で、どこがダメやったと思う?」

 1.まず力みすぎ。あんなに力入れなくても、気合入れなくても発動できます。

 2.見た目の割に威力がない。それは失敗を恐れてかなり力を抑えているせいだろうな。

 3.発動させるまでに時間かかりすぎ。あんなに時間かかってたらいい的だ。実戦じゃとても使えない。

 あとコントロールがあまい。発射した後だけじゃなくてその前、魔力のコントロールの時点で。

 とまぁざっと挙げただけでもこれだけあるが、これらはすべて時間と共に自然と改善されていくのでそんなに焦る必要はないし、今言ったところで直ぐにどうこうできるものではない。説明したとしても今の時点では理解しにくいし、ハードルが少し高い。

 さっき本人に言ったように発動できるだけ凄いと思う。けどそれじゃあ満足していないのだからそれは見習うべき点かもな。

「大村?」

「ああ、わりぃ、ちょっと考えてた。まぁ改善点はいくつかあるけどそれはどうとでもなるからそこまで心配しなくてもいいと思う。

オレはよく分かんないんだけどまだ属性魔法の扱いは始まってないんだろ?」

「ああ、せやからその前に少しでもと思ってな」

「だったらまず発動できるっていうのを自信にした方がいいんじゃない?他のヤツらができない魔法をオレはできる!って思えばモチベーションも上がるだろうし」

「せやけど、やっぱり上手くなりたいやんか」

「まぁね。けど初めから上手くなんてできないし、できなくて当たり前。それを受け入れるところがスタート。そこから練習して、たくさん失敗して、何度も暴発させて、少しずつ上手くなって扱い方を体で覚えて…っていうしか結局のところ方法ないんじゃない?

自主練やるにしても自分だけより誰かにアドバイスもらったり、実際に見てもらってっていうのをプラスすれば更に早くなるんじゃない?ここには優秀なる教師陣がいらっしゃるわけだから指導を仰げば…ね」

「なんやトゲがある言い方やな…。けどやっぱりそれしかないか。いや分かってはいたんやけど認めたくないっちゅうかもっとガァーっと一気に強くなる方法がもしかしたらあるんちゃうかなと思てな」

「そんな方法があるなら是非教えてほしいよ。そうすりゃ全員ゴールドも夢じゃないだろうし」

「せやな。あと訊くっちゅうのもやっぱり大事なんやな」

「それができるならそうした方がいいさ。でないとオレみたいになっちゃうし」

「え?」

「おっとなんでもない」

 別に隠しているわけじゃないが人は選ぶ。そうしないと後々面倒になるからだ。

 貫志も特に追求せず、先ほどの優斗の言葉を反芻していた。

「さっきお前どうとでもなる言うたけど、それってやっぱりダメな部分があったんやろ?」

「ダメな部分っていうか…もうちょっとこうした方がいいとか。まぁ最初は誰もが当たるところだな」

「例えばどんな?」

「誰の目から見ても分かるくらい力んじゃってる。コントロール、威力とかまぁそんなところ。けど何度も言ってるようにやっていく内に自然に改善されていくからそんなに心配しなくていい。

でも今の段階で少しでも改善したいって言うならそれよりも前、100%火炎玉を発動できるようにするのが準備段階かな」

「100%成功させんのか…」

「できない状態であれこれ言ってもしょうがないし、何より岡田にとっても良くない。どんな状態でもいいからほぼできるようになってた方が覚えもいいし、やりやすいと思う。逆にそうなってないとあんま意味がない」

「…そうか。今大体五回に二、三回ってとこなんやけど」

「じゃあそれを四回で。あとコントロールどうのって言ったけど最初は勢い、これ意外と大事よ」

「勢いって…そんなんやったら暴発するやないか」

「じゃあその前に撃とう。なんでもそうだけどノリと勢いとタイミングっていうのは結構大事だし、意外とそれでなんとかできる場合が多い。

ただそうやってできるようになったのを今度は自分の意思でしっかりやっていく、っていうのが次の段階でここからがコントロールどうのって話になってくる」

「………ほぉ。なんやよう分からんけどとりあえず勢いに任せてやればいいんやな?」

「オレはそう思うよ。発動できるっていうのが重要だと思うし」

「勢いに乗るんやったら任せとけ!ほなら特訓あるのみっちゅうこっちゃな!あとなんかはぐらかされてる気がするんから聞くんやけど、ぶっちゃけオレのどう思った?」

「え?う~ん…」

 なぜ蒸し返した。なんとか直接的な表現は避け、このまま何事もなく終わってくれれば、と思っていたのに結局こうなるのか。しかしそれはある意味当然なのかもしれない。

 上手くなりたい、強くなりたいと思っているのであれば、人からの率直な意見や評価というものは聞きたいのだろう。オレは聞きたくないけど。

 さて何て答えよう。あんまり適当に答えるわけにもいかなくなったし、かといってあまり真剣に言うのもガラじゃない。

 本音で言ってしまえば、あんなカスレベルの火炎玉吹けば消えるわクソが!だがそれを言うわけにはいかない。でも心の中でぐらいなら実害はないので問題ないでしょう。

 油断すると本音が出てしまいそうだ。だからこういうのは得意じゃないって言ったろ。

「別にはっきり言ってくれてええで?変に気ぃ遣ってうっすいこと言われても気分悪いし。なんやボケコラカスゥ!お前ヘタクソなんじゃドアホ!ぐらい全然いいで?」流石に才能ないから辞めろ言われたらヘコむけどな。と悩んでいる優斗を気遣ってかテンション高く言う。

 それに少しだけ感謝しながらじゃあ少し、と話し出す。

「とりあえず…見た目の割に威力がないっていうのが個人的には気になったかな」ほら、と貫志を促し壁へ向かう。

「ええっと…どれだ?…これか?ああそうだ、ここ見て」そう言って指し示す部分に注目する。

「ここがどうしたって?」

「他のところに比べて若干焦げ付いてるだろ?岡田の火炎玉はここに当たったのさ」

「…言われてみればそうやな…。けど見た目全然分からんわ、言われてようやっと気づくレベルや」食い入るように見ると違いが分かる。

 しかしそうしなければ判別できないほどパワーがないということだ。それには落胆する。

 もうちょっと大きかったと思たけどな…。こんなもんやったか…。痕っちゅうよりも点やないか。

「この痕が一番力がかかってた部分、中心部付近だな」当たった衝撃で力が逃げたな、と解説する、

「時間かかってもとんでもない威力の火炎玉が出せるならまぁいいんだろうけど。でも何度も言ってるようにこれはやっていけばどうとでもできるし、ならない方がおかしい。発動できるだけすごいよ」

「それは分かんねんけど…」どうにも納得しかねるといった様子だ。そりゃそうか。

 誰だって強く、上手く発動させたいものだ。先ほど貫志も言っていたように。これで納得しろと言う方が土台無理な話かもな。むしろこれで納得して調子に乗ってひけらかしたらそっちの方がよっぽど心配だ。

「せや!なら手本見せてくれへん?実際どういうもんなのかっちゅうのは見たことないんや」

「オレもそう思ってた。…え?実際は見てないって?」

「ああ、教科書見ながらそのやり方でやって、そこにある絵や図とかで確かめながらやっててん。せやから本物を見てみたいと思ってたんやけど先生には頼みにくいし、かといって周りで出来るヤツもおらんし」

 すごいな…。教本を参考にしながらとはいえ、誰に指導されるわけでもなく自分で発動できるところまでくるなんて。思ったより能力高いか…?

「分かった、確かに実際に見た方が参考にしやすいし、イメージしやすいからな」貫志の提案を受け入れ、早速行うために先ほどまでいた場所まで戻る。

「じゃあまず最初、岡田がやったやつ」言うが早いが壁に向かって放つ。

「危なっ!!」慌てて飛び退く。

「危ないやろっ!急に撃ってくんな!心臓止まるかと思ったわ!」

 それに悪びれずに返事をする。

「今のがさっき岡田が撃った火炎玉と大体同じ威力。見てみ」そう言われ見れば微妙に焦げたような痕、というか点が二つあり、右側にある方が若干濃い気もする。こっちが大村が撃った方か。

「で、これがさっきより中身が詰まってる火炎玉」今度は離れとけよと忠告し、それを見計らうと一直線に放つ。

 すさまじい音の後傍に駆け寄ると、先ほどまでの点の五十倍ほどの濃さ、八十倍ほどの面積が黒く焦げ付いていた。誰が見ても分かるくらいしっかりと火炎玉がそこに着弾した、という形跡がついていた。

「このぐらいが当面の目標かな?これぐらいができれば他にも応用が利くし、しなくてもしばらくの間はこれだけで過ごせる…かな」

「…なんかヘコんだわ。さっきのオレのって…綿あめみたいなもんやないか…」

「そりゃ一応はゴールドなんで」とは言ったもののプレートごとのレベルが未だによく分からない。

 自分の実力はある程度は把握しているが、それがゴールドにふさわしいのかと問われれば分からない。

 おそらく岡田も三篠と同じくB1のはずだ。見てる限りでしかないが、二人がこの魔法を使えば驚くだろうが、不思議ではないと思う。この程度の魔法なら岡田でもできる、そう遠くないうちに。だからこそ目標に設定したのだ。一方的にだけど。

「…そやな!ほなオレもこの程度って言えるようにしてやるわ!」大声で宣言する立ち直りは早いようだ。やかましいけど。

「おおきにな!いい刺激になったわ!」

「いや、それほどでも」と返し、一瞬考えると僅かに口角を上げる。

「せっかくだからこれも見せとくわ。なんだかんだきちんと見てなかっただろうし」そう言うと右手を突き出し、一瞬力を込めると「はっ!」掛け声と共に先ほどまでの三倍はありそうな火炎玉を放った。

 それは何度か撃ちつけた箇所を含む壁の中心部分を覆うように接近していき、ボゴォン!!轟音が鳴り響き壁を破壊した。

 破壊された壁は支えを失ったかのようにボロボロと崩れていき、幾度もの攻撃に耐えたそれはもはやただの土の山に姿を変えた。

 貫志は今自身の目の前で起きた出来事が現実のものとは思えなく、衝撃的過ぎたせいか目も口も大きく開けてしまった。…これは夢なのか?

「これが今朝のやつだな。この壁だってそんなに大した強度にしてないからいずれは…な」含みを持たせ、意味ありげな視線を貫志に向ける。

「…ははっ!やっぱりすごいやっちゃなお前。こんなの見たことないわ」ようやく我に返った貫志は苦笑ともとれるような笑みを浮かべながら優斗に右手を出した。

「これからよろしゅうな」

 一瞬きょとんとするが、笑みを浮かべて貫志をしっかり見据えそれに応じた。

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