人外のことができるはずが、、、何かショボいな
「よしッ、明日は……!俺の 誕生日の5月17日なんて最高のスタートやな! まずは資金作り、俺の記憶から何をすればいいか……」
路地裏の湿ったコンクリート壁に背中を預けて、俺は一人で勝手に盛り上がっていた。22歳の軽い身体、ポケットのお金、そして未来を知る俺!!
脳内でアドバイザーに今後の方針でも伝えてやろうかと、思いを走らせた、その瞬間だった。
俺の頭が、唐突にフリーズした。
「えっと……」
待て。
「えーと……え?」
血の気が引くって、こういう感覚を言うのか?
2026年までの28年間、俺の人生は何だった? 大阪の介護現場で、ただひたすら実直に、他人の介助をして、介護記録計画の作成などの書類と毎日毎日格闘し続けてきただけだ。ギャンブルなんてパチンコすらやったことがない。経済の仕組みも、1998年にどの会社が伸びたかなんて、知らん。
「……詰んだか?俺」
手持ち金を握りしめたまま、1998年の夕焼けの下でガタガタと震え出す。俺の脳みそにあるのは「介護力と、役所への愚痴」だけだ。未来から戻ってきたところで、金儲けの具体的なデータなんて1ミリも持ち合わせていないことに、今更気づいた。
「アドバイザー! お前、さっき俺の記憶と行動を引っ張るって言うたよな……? 俺の記憶だけやったら、2000年の介護保険スタートまで何もできんよ!」
情けない声を出す俺の脳裏で、アドバイザーの声が響いた。
『――マスター。ご安心ください。私の能力は、単なる貴方の脳の補助だけではありません。2026年までの『世界の記憶』、そのすべてが私のデータベースに同期されています』
「えっと……俺だけの記憶では?」
『――いえいえ、後から付け足したように聞こえるかもしれませんが、正真正銘、このタイムリープによってもたらされた世界の記憶、歴史のデータそのものです』
「……なんと!」
一瞬で絶望から天国へ引き戻され、俺の顔がパッと跳ね上がった。俺がアホでも、このアドバイザーが2026年までの全知全能のデータを持っているなら話は完全に別だ。
「そこから、そこからお金を儲ける方法を考えましょう! アドバイザー、何か方法を教えてくれ。」「マスター競馬などはどうですか?」
アドバイザーの口から「競馬」なんて単語が出るのが不思議な感覚だったが、一番手っ取り早そうな気がした。だが、すぐにまた素人の浅はかな不安がよぎる。
「競馬って……あ、そうか。勝つのが最初からわかってたら絶対儲かるかー。でも、テレビで見たことあるようなレース、ジーワン(GⅠ)とかって、年末の有馬記念とかあっちの方なのでは? 5月17日に戻ってきたところで、そんな大金稼げんの?」
競馬新聞すら読めない素人の的外れな質問に、脳内の相棒はフッとすました声を返してきた。
『――マスター、それですが。競馬のGⅠが年末だけというのは、完全な誤解です。それに、大きなレースでなくとも全く問題ありません。勝つ馬が『最初からすべて分かっている』私たちにとっては、普通のレース日であっても、朝の第1レースから『続け様に』全額を転がし続ければ、わずか1日で数千万円から億の資産を稼ぎ出すことは十分に可能です』
「1日で、数千万から、億……!?」
『――はい。マスターがマ◯ドでお釣りに一喜一憂している間に、私は明日、5月17日に開催される全レースの勝馬と配当データの照合を完了しました。準備はよろしいですか? 汗水垂らして搾取されるだけの労働を永久にパスする、本当のハッキングを始めましょう』
アドバイザーの冷徹なデスマス調が、俺の脳髄を極上の興奮で焼き尽くしていく。
詰んでなんかいない。むしろ、ここからが本当の本番だ。
俺はポケットのお金を鳴らし、1998年の真っ赤な空に向かって、不敵な笑みを浮かべた。




