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リソマンサー〜Lux et Tenebrae〜  作者: 門間東吾
紅き月の狂想曲《ブラッディムーン・カプリッチオ》
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8/10

2-1.5【おまけ】

おまけ前置き


【おまけパートについて】

おまけパートには以下のような特性があります

・一人称視点である

・本編の補足である

・本編に直接関係はしない

・読まなくてもいい


あくまで本編や世界観を彩るための短編のような位置付けとして配置しているため、深く考えずお楽しみください。

2-1.5


 こんにちは! あたし、人間のリヴと申します。なんとこの度、憧れのリソマンサーの皆さんの本部で働けることになりました! しかも、住み込み! 今まで住む場所のなかったあたしには、願ってもみない超絶好待遇! いやー、人間生きてみるもんですね。命あっての物種ですなー。

 いえ、あたしのことはいいんです! 今までのクソッタレな経歴、この際水に流して! 何より、この超絶ウルトラ幸せな時間を! ぜひ堪能して! 行きたいと! 思います!!

 さてさて、そんなあたしですが……なんとなんと、憧れのおとさんに『サプライズパーティをやってみたい』と打診を受けてしまったのです!! ああ、なんてこと! おとさんのお力になれるのであればこのリヴ、なんだってやってみせようではありませんかっ!


 宝剣世界イリオトゥローピオ、首都ロドフローシティス『ジュエリーボックス』本部、待機室──

 こそこそ。こそこそ。

 そう……あたしは、旧世界の忍者と呼ばれるジョブに転身したのです。嘘ですけど!

 あたしは今、談話を続けるイケメン三人衆を観察しているのです。

 おとさんの考えるサプライズパーティに必要なものは、まずは軽食! リソマンサーの皆さんの好き嫌いを把握しておかねば。

 ソファーと丸椅子のテーブルセットに座るのは、それぞれシトリンのリソマンサーのしもみさん、アメジストのリソマンサーのかしゅんさん、ガーネットのリソマンサーのかすみさん!

 はわわ……眼福……イケメンがすぎる! い、いや、そんなことに現を抜かしている場合ではありませんよ、リヴ!

 ……とまあ、観察しているのはいいんですが。御三方はそれぞれ、ゲーム機をいじるなり本を読むなりで、話が盛り上がる雰囲気はナシ!

「……でさ、そん時のうの先輩のリソスがカッコよくてさ〜」

 1人でぺらぺら喋っているのはしもみさん、他2人は基本無視! 男の子ってそういうキザなところ……ありますよね。

「うのさん大丈夫かなー、体調崩して寝てるって言うけど」

「……リソマンサーでも体を壊すことがあるのだな」

「働きすぎなんじゃない? ここ、わりとブラックだし」

「ブラックダイヤモンドだけにー?」

「ダジャレじゃねーよ!」

 おお、ようやく喋り始めましたか! かすみさんは顔を真っ赤にしてぷりぷり怒っていますが、こう見えてこの方、リソマンサーの中では1番頭がいいのでは!? ……と、睨んでいるんですよねー。この方、エメラルドのリソマンサーであるじゅんさんとよくチェス勝負してるんですって! すごい!

「なー、かしゅー。その本面白いのかー?」

「読むか」

「いいのか!? じゃあ借りるぜ!」

 かしゅんさんが読んでいた本に栞を挟んで譲り受けると、しもみさんはパラパラと本を捲り始めます。……が、

「わかんねー……」

 すぐさま頭を抱えて唸り始めてしまいました。

「何その本」

「俺も知らん」

「は!? バカじゃないの」

 かすみさんが身を乗り出してしもみさんの本を取り上げると、早速本のカバーを外しました。すると、

「"光《ルクス》過剰照射症候群の起源と生活"──うっわ、医療の学術書じゃん」

「ガクジュツショ?」

「バカに説明したくないから自分で考えて」

「何だと」

 かしゅんさんとかすみさんが言い争いを始めてしまいました! この2人、仲がいいはずなんですけど、喧嘩もよくするみたいですねー。

「おいおい、ケンカすんなよ」

 そこは、3人組のリーダーっぽいしもみさんが仲裁に入ります。どうにもこの人は、人と人との和を大切にするような……そんな気がします!

「そもそもさー、こんな訳分かんない本を買って読んでるバカがいるのが悪いだろ、給料の無駄!」

「誰が好き好んで買うかこんなもの、拾ったものだ」

「え、拾った!?」

「放置しとけよそんなの……」

「ハハハ、かしゅーって面白いよな。それに、ゴミ拾いしてるなんて偉いぜ」

「感心してる場合かー!」

 なんだか色々ズレてる気がしなくもないですが……面白い3人ですね!

 しかし、致命的な問題が! こう、食事の話題とか出てこないんですか!? だって今、お昼ですよ! 地上はずっと明るいからわかりづらいけど、ただいまの時間は正午です。もうお昼ご飯の時間じゃないんですか?

 うーん、男の子だから何かに熱中してると周りが見えなくなるのかも。あたしの弟もそんな感じでしたし。

 他の人なら何か食べてるかもしれません、早速見に行ってみましょう。さささっ。さささささっ。


 宝剣世界イリオトゥローピオ、首都ロドフローシティス『ジュエリーボックス』本部、休憩室──

 ここは本部《ジュエリーボックス》における、憩いの場所。日々の戦いに疲れたリソマンサーの皆さんが、身も心も癒す場所! ……にしてはえらく貧相で、ベッドみたいなのと椅子みたいなのが並んでいるだけの超絶殺風景なお部屋! やけに清潔感があるのが更に殺風景感を加速させています!

 うーん、ここで働かせてもらってるし……ちょっと頑張って改装させてもらおうかな。いや、そんなことはよくて!

 どうやらあたしの調べによると、じゅんさんとひいなさん、そしてななよさんがいるみたいです。待機室と違って扉1枚だから、忍べない! 正面から行ってやりましょう!

「たのもーっ!」

 ババンと扉を勢いよく開く! 登場シーンとしては満点ぐらいのカッコ良さではありませんか!?

「……」

 が、想像以上に冷ややかな視線。ななよさんもじゅんさんも視線冷たっ! でも……そういうクールなところ、イイ!

「おおー、おぬしは……誰じゃったかのう」

 ひいなさんに至ってはあたしのことを覚えていないー! なんて冷たいの! でもヒーローってそういうところ、ありますよね。

「リヴです! 人間やってます!」

 とりあえず、敬礼をしておきますか。大丈夫かな、どきどき。

 真似してくれるひいなさんはともかく、ななよさんもじゅんさんも表情は変わりません。ななよさんはメガネをクイッとやって仏頂面だし、じゅんさんは張り付けたみたいな笑みで、モノクルの向こう側の目が怖い。

「ま、そんなところで突っ立ってないで、ほれほれ」

 ひいなさんが早く座れと手をやるので、それに続くことにしました。中央に置かれた円形のテーブルを囲んで3人は座っていらっしゃいましたが、そのうちの1つに座ることができました。

 どうやら食事などはなさっていない様子。やっぱりかー。

 何故だかは知らないんですけど、リソマンサーの皆さんって一緒にご飯食べないんですよね。そもそも落ち着いて食べる習慣がないって言うか。

「あのー、皆さんってご飯いつ食べてるんですか?」

 試しに尋ねてみたところ、しばらくの沈黙があってようやくななよさんが口を開きました。

「……食事は、基本しません。そんなことをせずとも、リソマンサーは生きていけます」

「え? あっ、そうなんですねー」

 まるで人間とは違うんだよ、なんて突き放すような言い方。もしかしてあたし、下に見られてる?

「あははは、ごめんなさいっ! 変なこと聞いちゃいました〜」

 笑って誤魔化してみるけど、気まずい空気は変わらない。助け舟を出してもらおうとひいなさんをチラチラ見るけど、目線が合わない。

 うーん、どうしよう。サプライズパーティをやるなんて口が裂けても言えないし、かと言ってこのまま引き下がる訳にも……。

「そ、そうだ。食事以外で……楽しいなぁ、って思うことってあります?」

「……」

 ななよさんとじゅんさんは顔を見合わせては黙りを決め込んでいます。とにかく目が怖い。なんか、怒ってる……?

「リヴさん」

「は、はいっ!」

 突然名前を呼ばれてびっくりしました! と、とにかくシャキッとしなくちゃ。背筋伸ばして、胸張って!

「あなたがこちらで働くことは許可しましたが、不必要な干渉は控えてください」

「え」

 な……なにそれ。不必要な、干渉?

「あ、あたし……なんか……ダメなこと、しちゃいましたかね」

「そうではありませんがねぇ」

 窘めるようにじゅんさんが首を振っています。それも、全く歓迎的ではなく。

「はっきり申し上げますと、我々はあまりニンゲンという存在に好意的ではありません。それは覚えておいてくださいね」

「……え?」

 なにそれ、なにそれ? 人間に対して……好意的じゃない……って、そんなこと、ある?

「なんじゃなんじゃ、ななよもじゅんも冷たいのう」

 ひいなさんがようやく疑問を口にしてお2人に働きかけますが、それすら無視しています。

「リソマンサーに対する憧れがあるなら、捨ててください。我々はあなたが想像するような、綺麗なものではない」

「な……なんでそんなこと言うんですか、リソマンサーってカッコイイじゃないですか! 強くて、頼りになって、みんなの憧れで!」

 ……確かに、地下《アンダーワールド》に住む人間の全てが、リソマンサーの皆さんを尊敬している訳ではありません。

 あたしだって"変"と言われるんです。

 あんな、"自分たちより強い力を持つ存在に守られることを、恐ろしいと思わないのか"──そう、言われるんです。

 でも、そんなのおかしい! あたしたちを魔物から守ってくれるのは、リソマンサーの人たちだけなのに!

「あたしを他の人間と一緒にしないでくださいよ!」

「……」

 つい口から飛び出してしまった言葉に、ななよさんもじゅんさんも固まってしまっていて。すごく、失礼なことを言ってしまったでしょうか……。

「全く、お偉いさんは頭が固いのう」

 重苦しい空気の中で、ひいなさんがそう漏らします。

「ニンゲンがなんだ、リソマンサーがなんだ……相容れないものではなかろうに」

「……」

 それとも、あたしのような人間は守られているだけで図々しいって思われてるのかな。

「おひな様は、記憶を失っても……変わりませんね」

「ええ」

 ようやく口を開いたおふたりは、なんだかとても寂しそうに……笑っているのか、悲しんでいるのか、わからないぐらいの微妙な表情を浮かべています。

 でも、引っかかることが。記憶を失う?

「ひいなさんって、記憶喪失なんですか?」

 いざ聞いてみると、タブーだったのかおふたりは更に顔を曇らせてしまった……。

「……あ、す、すみません、聞いちゃいけなかったですか」

「いえ」

 メガネを直しながら、ななよさんは俯いたまま喋り始めました。

「リソマンサーは、不死身の存在と言われています。傷付き朽ち果てても、宝石《ウィル》さえ残っていれば、再構成が可能です」

 知らなかった。死んでも、生き返る? それは確かに、化け物と言われても、恐れられても不思議ではないかもしれない……。

「しかし、その代償に……記憶を失ってしまう」

「!」

 記憶を、失う? それじゃまるで……生まれ変わったみたいな……そういう感じなんでしょうか……?

「我々も一度は死を迎え、記憶を失っているんですよ。そうでないのは、もはやブラックダイヤモンドのうのさんしかいない」

 ただ、記憶を失って生まれ変わる……それだけの事実ではないことは、あたしにもよくわかりました。

 例えばあたしに親友がいたとして、その親友がある日突然記憶を失って、あたしのことを忘れてしまったなら。それは、とても寂しいことだと……想像に難くありません。

 おとさんも、そういう寂しさを抱えているのかな。おとさんだけじゃない、ここにいる人たちはみんな……。

「こちらのおひな様は、つい先日命を落としました。再構成を受けたばかりです」

「んむ。だから、昔の記憶がなくてのう……何かこう、大切なものを忘れている気がしておる」

「……」

 言葉が出なかった。何か励ましたり、何か元気付けたり、そういうことは場違いだってよくわかるから。

「ごめんなさい……あたし、何も理解してませんでした」

 バカみたいだ。勝手に暴走して、勝手に美化して、あたしの存在は皆さんにとって不快だったのでしょう。

 あたしはバカだから。空気読めないから。ちゃんとした子じゃないから。だから、親にも捨てられた。

 謝るしかできなかったけど、あたし……ここにいられるでしょうか。いても、いいでしょうか。

「リヴさん」

「はっ、はい」

 顔を上げろ、と言われた気がして。周りを見ると、あたしに対して視線が注がれているのがわかって。

「それでも、我々を受け入れられますか?」

 ……受け入れる、だって? そんなの、そんなの……決まりきったこと。

「何言ってるんですか。皆さんがあたしのヒーローであることは、変わりないですよ」

 ちょっと怖くて涙目になっちゃったけど、言いたいことは伝わったかな。

 怖いのは、捨てられること。嫌なのは、忘れられること。

 それって、もしかして……リソマンサーの皆さんも同じなのかな。

「あたしは、ちゃんと覚えていますから。皆さんが、人間を守り続けてくれるカッコイイヒーローだって! だから、そのサポートができたら嬉しいかな、なんて」

 リソマンサーって、カッコイイ。憧れ。素敵。でも、実際のところどういう人達なのか、全然わかってない。

 覚悟が必要なんだと思う。

 受け入れるだけの度量が求められるんだと思う。

 難しい職場! でも、やっと憧れの世界に手が届いたんだから、負けてちゃいられない!

「お願いします! あたしを、これからもここにいさせてください!」

 椅子から立ち上がって、それこそ90度よりも鋭角に頭を下げた。ゴチン、とテーブルの面におでこをぶつけてしまったけど、頭を上げるわけにはいかない!

「……リヴさん、顔を上げてください」

「いいえ! 下げ足りないんです、頭!」

「お、お気持ちはわかりましたから」

 流石にななよさんが焦り始めたので、顔を上げさせてもらうことにした。

「試すような真似をして申し訳ありませんでした」

「……え?」

 試すって、何を? 頭がぐるぐるして呆然としているあたしの手を、じゅんさんが握ってくれた。

「我々がニンゲンにあまり関心がないのは事実ですが……あなたのことは、もう認めておりますよ」

「そ、そうなんですかっ!?」

 驚きすぎて声が裏返ってしまった。

「ですが、きっと……あなたのことも、いずれ忘れてしまう。我々はそういう生き物です。それでも、我々を支え続けてくれるなら嬉しいですね」

「も……もちろんですよっ! 地下《アンダーワールド》の奴らにも、リソマンサーの皆さんのことちゃんと理解してもらわなくちゃ!」

「あ、ニンゲンの皆さんには内密にお願いします」

「え」

 ……でもそうか、せっかくのヒーロー像が崩れちゃいけないし。

 何より。

 リソマンサーを嫌うようなクソッタレが、地下《アンダーワールド》にはうじゃうじゃいる。守られてる身分だってのに、それを快く思わないバカな連中が。

 そんな奴らに足を掬われてしまうかもしれないから、気を付けなくてはならない。

 ……別に、地下《アンダーワールド》にいい思い出なんかない。あたしの人生は、おとさんに救われたあの日から始まったんだって誓ったんだから。

「あたし、人間辞めます! 辞めてみせましょうとも!」

 そんな誓いを立てた。けど、皆さんよくわからないみたいで、ツッコミも特になく呆然とするだけだった。

 めっちゃカッコつけて口上を述べたのはいいものの、サプライズパーティに関する進捗はナシ! 状況が状況だったから仕方ないかもしれないけど、これじゃあおとさんに合わせる顔がないです……。

 ピンチ、どうしよう! 進捗ゼロ!

 リヴの未来、一体どうなっちゃうの〜!?


 宝剣世界イリオトゥローピオ、旧産業区ケフリンバーリ、第1102号工場跡──

「それでは研修開始!」

「はーい!」

 しぐれさんの号令にビシッと敬礼。つばめさんもやってくれた! 無口な人なのにノリがいいんだなぁ。

 さて、今回あたしは工場跡地に来ております! ここはケフリンバーリ、昔の人間が工場として使ってた場所なんですって。今は地下《アンダーワールド》の高層部に大手企業の産業区があるぐらい、かな。あたしの好きなガジェットは、深層部にいるような汚く髭を生やしたオッサンの作る、廉価品の基盤が安っぽいやつ。それをイジるのが楽しいんだよね。上手くいけば、企業が売ってるやつより性能がよくなったりするし、CPUの選び方は大事。……じゃなくて!

 ここケフリンバーリは廃工場が多くて、それらは"ダンジョン"と呼ばれるらしい! なんとまあ、魔物の巣窟なんですって。そんな危険な場所に、あたしは来ています! オパールのリソマンサーしぐれさんと、サードオニキスのリソマンサーつばめさんの2人も一緒です!

「ああ殺風景! まるで美的センスを感じない眺望! ワタシはこのケフリンバーリが嫌いだッ」

 なんだかしぐれさんのお気に召さなかったようで、ダンジョンに入るまでずーっと文句を垂れていました。芸術家さんなんですね。

「それ、暑いか?」

「はい、中すごくムレムレで汗だくだくです!」

 つばめさんは防護服を着た人間が珍しいらしく、しげしげとあたしの姿を眺めています。ちょっとセクシーなポーズを取ったりなんかしてみますが、反応はナシ。つまんないなー。

「リソマンサーの皆さんは平気なんですもんね、羨ましい〜」

 あー、暑い……。でも、リソマンサーの皆さんと一緒に働けるなら光栄の極み! と言っても、普段は危険ですから任務に同行したりはしません。今回は特別。

「では、ダンジョンに入るとしようか! 諸君、ワタシに続け〜!!」

「おー!」

 意気揚々とダンジョンに乗り込むあたしたち! 気分はピクニックです! ……おっと、油断してたら殺されかねないから黙っておこっと。

 ダンジョンの中に入るなり、周りの暗闇がどんどん晴れていきます。あたしたちの周りだけ、ってことは……よく見ると、しぐれさんたちの胸の宝石《ウィル》に吸い込まれているようです。そう言えば、胸元に付いてるように見えるけど、しぐれさんなんかはペンキで汚れた白いスーツの上に付いてるんですよね。

「……あのう、その石って……どうなってるんですか?」

「んー? コレかい」

 しぐれさんの胸元にキラリと光るそれ(ウィル)は、オパールと呼ぶらしいです。虹色の光が眩くて、見る角度によって光り方が変わるみたい。面白いなー。

「ソレ、服の上からくっついてるんですか?」

「いやー、ちょっと違うかな」

「?」

「この宝石《ウィル》がワタシらの本体でね。この肉体、服や装飾品も全て含めて"虚像"なのサ」

「虚像……?」

「幻だ」

 つばめさんはぶっきらぼうにそう言うけれど、触ったり傷付いたりするものが、幻であるはずがないと思う。

「よながクンが言うには、この体も宝石《ウィル》の一部で、宝石《ウィル》に刻まれたデータのようなものが形成されて、ニンゲンっぽい見た目になってるらしいよ!」

「なるほど?」

 よくわからないけど……つまりは、宝石《ウィル》が外見や能力の全てを司ってるってこと? うーん、知れば知るほどリソマンサーの皆さんって人間とは根本的に違う気がする。見た目はそんなに変わらないのに。不思議だなー。

「……ってあれ、よながさんって誰ですか?」

 聞いたことない名前だ。リソマンサーの人たちの名前は、知り合いになるまで知らなかったけど……。

「ここの……リーダーだった人だネ」

「リーダー?」

「ななよクンは知ってるでしょ、メガネで真面目なリソマンサー」

 ちょっと変な言い回しで笑ってしまいそうになる。堪えなきゃ。むむむ。

「そのななよクンの妹さんなんだよー」

「妹!」

 あのななよさんに妹が!? 初耳すぎる……。

「今は消息不明さ、前々回の終わりなき夜(エンドレスナイト)で、はぐれちゃってね。おそらく、生きてはいないと思うケド……」

「そうだったんですか……」

 よながさん、か。リソマンサーにもたくさんの人がいるんだな。たくさんの人がいて、色んな関係が生まれて、でも……死んでしまったら、リセット。

 命があるだけ幸せなのか、命があるから不幸せなのか。

 わかんないな、リソマンサーの価値観って。あくまであたしは人間だから……。

 妹さんが行方不明だって言うのに、ななよさんは心配する素振りも見せない。もしかして、再構成したから忘れちゃったのかな。それとも、本当は心配してたり?

 うーん……深く考えるのはよそう。あたしは外野の"人間"ですから。

「まあ、暗い話はやめにしよう! つばめクンも退屈だろ!」

「静かに。敵、発見した」

「おおう、そーれどころじゃなかったァー!」

 つばめさんの視線の先に、闇の中で蠢く何かがいる。目を凝らすと、輪郭が見えてくるような……。

「さあ、お立ち会い! プレイ・オブ・カラー!」

 あたしが闇の向こうを凝視しているところ、パンパンと手を打ち鳴らしたしぐれさんの元に虹色のキラキラが集まってきます。これが光《ルクス》ってやつですか! そして!

「これぞ美術の真髄! 赤は赤でも灯りになる赤はー?」

 さっきまでの虹色のキラキラが、今度は赤色になって集まってきてます!

「そう! 正解は……炎! 燃え盛れ、オパール・イグニッション!」

 ボウ、と着火した音がすると目の前には既に火の海が! ご、豪華すぎる……! カッコよすぎる……!

 猛火に包まれて光と消えていく魔物ですが、その数は衰え知らず! 流石ダンジョンってところですなー。すると待ってましたとばかりにつばめさんが登場! うおー!

「サードオニキス・ミラージュクロー……!」

 ミラージュ? 幻影? と思ってると、つばめさんがなんだか二重に見える! それは魔物も同じらしくて、どちらを攻撃しようか迷っている間に二重の爪撃《そうげき》が繰り出されるっ!! 砂煙のような赤褐色のキラキラが消えると、そこに蔓延る闇はなし! くーっ、かっこいー!!

 やばいやばいこれもう感涙モノ!! カッコよすぎて泣ける……やばい……尊み……

「だ、大丈夫かい、リヴクン……?」

「はっ!」

 天を仰いで尊さを味わっているあたしが変に見えたのか、しぐれさんがやけに焦った顔でこっちを窺っているではありませんか!

「さーせんしたーっ!」

 余計な心配かけない、これ大事! 自分の身は自分で守らなきゃ、ですしね。ああでもやばい、まだ感動残ってる。たまらなすぎる。

「怪我、ないか?」

 つばめさんが、傷の多い手を差し伸べてくれてる! と、取らなきゃいけないけど、いやいや尊すぎて触っていいのか億劫になるレベル!

「あ、ありがとうございます〜〜……でへでへ」

 我ながら気持ち悪い笑い方! でも、でも、仕方ないじゃん。尊いんだもん。

 つばめさんもつばめさんで、褐色の肌にネコミミにワイルドでアニマルな服装と要素モリモリテンコ盛りですからなー。いやー、いいよね。ウンウン。リソマンサーは尊み。

 そ、そんなことはいいんですよ。とにかく! えっと。何しに来たんだっけ……?

「そ、そう言えば、なんでこのダンジョンに来たんでしたっけ〜」

「忘れたのか」

「ハハハ、魔物を目にして緊張しちゃったかナ? 先に進めばわかるよ、おいで!」

 しぐれさんに手を引かれ、廃工場の更に奥へ。暗闇はリソマンサーの力(?)で消えていくから、怖いことはないんですが……魔物はつばめさんがすぐ蹴散らしてくれるし。

 しばらく進んで、ガッチリと封鎖された鉄製の扉をつばめさんにこじ開けてもらうとそこは──とても埃っぽいところでした。

「ここは?」

「宝の山、さ」

 しぐれさんはカッコつけてそう言うけれど、そこにあったのは鉄クズや廃材ばかり。埃っぽすぎてよく見えないし、ついつい咳き込んでしまいますよ!

「宝……と言うには、その……なんか、ゴミっぽいですよね」

「うん、世間一般にはそう言うのだろうけどね」

 しぐれさんはその辺に落ちていた、ネジのようなものを拾い上げてはしげしげと眺めている。

「こういうものを再利用して、新たに命を吹き込む。本部《ジュエリーボックス》に置いてる家具……あるよね? あれは、ワタシのお手製さ」

「そうなんですか!」

 あれはなんとも……奇妙と言うか微妙と言うか、トンデモナイ代物だったように思いますが。まさか、しぐれさんの創作だったとは! 手放しに褒められたものでもない気もしますが、芸術ってやつですよね? うーん。

「そうやって探り、研究し、開発するのがワタシの"娯楽"かな」

「娯楽……」

「そうサ、ニンゲンより楽しみの少ないリソマンサーであるにしても、彼らのように楽しんで生きてみたいでしょ」

「……そうでしょうか」

 あたしには、人間なんて生き物はよいものとは思えない。あたしもそうですが、生きることには手段を選ばないし、孤独な存在には厳しいし、力と欲に塗れて意地汚い。それでもその文化を愛してくれるんですか、リソマンサーの人は。

「我々も一概に表せるものではなくてね、ニンゲンを嫌う者もいるし、ワタシのように愛す者もいる。その筆頭はおひな様だったが……彼女はもう、どこにもいないからね」

「……」

 どこにもいない、としぐれさんは言った。しかし、それでもひいなさんは確かにいて、リソマンサーの皆さんの中に溶け込んで生きている。記憶も思い出も何もかも失って、不安じゃないんだろうか。目覚めてすぐに、魔物と戦えと強制されて、嫌にならないのだろうか。

 それに何より、思い出の全てを失った仲間を見て、辛くならないのだろうか。

「思い出……」

 熱心にゴミの山を漁って資材を回収しているしぐれさんを見て、思い付く。おとさんの提案した、サプライズパーティの準備を!

「しぐれさん、ありがとうございます!」

「ん?」

 しぐれさんには内緒のことだから、言ってはあげません。でも、答えは教えてもらえました。

「ニンゲン。しぐれ様、真似するな。ななよ、面倒に思っている」

「え、どうしてです?」

「しぐれ様、ゴミたくさん作る」

「……」

 あの謎の家具、ゴミ呼ばわりされてるんだ。それはちょっと可哀想だな……。しぐれさんの趣味でもあるんだし、認めて貰えるように働きかけないと。

「しぐれ様、芸術する時、楽しそうだ」

「そうなんですか?」

「おれは、悪くないと思う」

「そうですね!」

 つばめさんは、しぐれさんの部下か世話人かって感じでしたが、唯一の理解者なのかもしれません。いやゴミ呼ばわりしてたけど。

 とにもかくにも! サプライズパーティは、これに決まり!

 そう、"思い出"を作ること。増やすこと。

 忘れちゃう思い出なら、形にして残せばいい! そういうレクリエーションみたいなやつを!

 あたしは、ただのニンゲンですが。それでも、リソマンサーの皆さんの役に立ちたい。何より、おとさんに恩返しをしたい!

 リヴ、不束者ですが! これから頑張るぞー!

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