13話【勇者候補の魔紋】
「ぐぶっっ!!!」
男の腹に拳が突き刺さる。
既に20発近くは食らっている、口から血が滲んでいるのを見る限り男にそれほどの余裕があるとも思えない。
「エノワール、どこに、、」
男は痛みを感じていないのだろうか?
表情は暗いものの、その絶望はどうもダメージとは別ベクトルに働いているように見える。
魔物は、男の言葉から大体のことを理解していた。
この男にとって、さっきの小さいのは大事な存在なのだ、と。
親子とゆう概念を忘れるほど長く生きたこの魔物に、愛だのとゆう話は少し難しいが、それでも雰囲気は掴めるのだ。
なぜならこの魔物には理性があるから。
しかし、その上で「どうでもいい」と切り捨てられるのもまた、この魔物が理性をもっているからこそだろう。
「反撃、しないのか、? つまらないな」
魔物はそう呟きながらフラフラと定まらない足取りで何を目指すでもなくウロウロする無様な男に近づく。
「エノワール、エノワール、、」
もはや息子のこと以外を考えられなくなってしまったらしい哀れな男を、魔物は少しだけ尊敬していた。
これ程までに自分を顧みない愛を、魔物は数度見た事があった。
もともと人里を襲ったことも無ければずっと森で生きてきた魔物だ、見たと言ってもそれは魔物同士の愛だったはずだ。
しかし、魔物はそれが同種であると理解する。
そして、その想いが特に拳を鈍らせることは無かった。
「ビュオッ!!」
風を割くような音を上げて高速で振られた拳が、容赦なく男の顔面を捉える。
そう、捉えたのだ。
自然発散される魔力だけで瓦礫を融解させる程の高熱を生み出し、山をえぐる威力の突きをたった数センチの傷に抑える強靭な肉体を持ち、一撃が生態系に影響を与えるほどの衝撃波を産む、そんな魔物の一撃が、確実に男の顔面を捉えたはずだった。
今回のものは今までとは訳が違う、確実なトドメ、今までの環境に影響がない程度に抑えられたものだったやだからこそ男が死ぬようなダメージをうけづにいられた、今回は違う。
最強最速、最高熱の一撃。
それが男を捉えた瞬間、、
『触れたな?痴れ者』
ふと、そんな声が響いた。
気付けば拳は熱を失い、発生するはずだった環境破壊前提の衝撃波も発生しない。
魔物は声の元を辿り、それが男の口から出ているのに気付く。
冷静で、静かな、威厳を感じさせる、そんな声。
魔物は、何も理解しないままに何かを察している。
「だれだ、? 変な気配、見たことない」
『ふむ、理性が高い、か。 なるほど少なくとも2000年は生きてるな?』
「年とゆう、単位を知らない、けど。 結構長い」
『そうか、では残念だったな。まだまだ強くなる器だとゆうのに。 まぁ、この私の手で死ねるのだ。 悪い話でもなかろう。』
「死に、良いも悪いも、あるのか、??」
『ふっ、違いない』
心底退屈そうに笑うと、男は「語らいは終わり」とでも言うように剣を構える。
構えられた剣に纏わりつくのは、どこか神々しいオーラ。
金色の煌めきを持ち、漂うように揺らめくそのオーラが、ふと地面に当たった瞬間だ。
「ズゴッ!!!!」
オーラの圧力のせいだろうか?不自然に地面が沈む。
質量を持つエネルギーなのだろう、揺らめく金色に、魔物は面白いものを見たとゆう表情を向ける。
と言っても基本は無表情だ、少し口角が上がったか?とゆう程度。
「いい、うん。 ためしてみよう」
魔物は、そう呟くと同時に拳を握り込む。
握りこんだ拳に灼熱の魔力を集めた魔物はスっと上をむく。
「グルルルァルル」
静かな喉の唸りが静かに森を響く。
不自然なほど響き渡った声の後、魔物の拳は何かを纏っていた。
何かだ、色はなく、物理的な質量がある訳でもない。
しかし確実にそこにあると分かる何かが、拳を覆っていた。
『ほう、フレイムナックルか。 大した魔法でもないが、なるほど。 その魔力をもってすれば必殺に至るのは道理か。良かろう!打ち会おうか!!!』
「うん、打ち会おう」
フレイムナックル、本来は炎のグローブのようなものを生成し纏う魔法だ。
もちろん魔物が使ったフレイムナックルも、原理は同じである。
炎を拳に纏う魔法であることに違いは無い、違うのはその出力だろう。
出力の桁が文字通り3桁も4桁も違うとゆうはなし。
その高熱は炎から色を奪い、空間に極わずかな歪みを残す程度、しかしその熱は可視化された脅威として見える。
その高熱は、魔法とゆう範囲制限でその規模を押さえつけられ、辛うじて熱の形を拳に圧縮しているものの、そこから僅かに溢れた熱気が森を焼くのだ。
熱の風に触れた木が消し飛ぶ。
地面が黒焦げ、足元がガラスのようになっている。
核が落ちるのと同等の超高熱を単一生物が発生させる、その異常すぎる存在。
心做し、男の口角が上がる。
「ふっ!!」
「んっ!!」
合図は無い。
金色に輝く刺突と極熱半透明に包まれた拳が衝突する!!
、、衝突した瞬間発生した膨大な光に驚いて飛び立つ鳥の群れが印象深かった。




