7話【小さな命と恐怖】
オオカミの魔物は、恐怖していた。
突然現れた、小さな命に。
彼は、その見た目に騙されることはなかった。
本能が感じているのだ、アレに触れられるのはナシだと。
「見てたぞ、僕? お前だったよな?マシェル虐めてたの???」
「ギャルッ!?」
ふと、少年がオオカミの前にいた。
オオカミはその声を聞くまで、それと気付けなかった。
恐怖が、どこでどう移動したのか、それが分からずオオカミは混乱する。
少年の静かな声をオオカミは理解できない。
「お前は、あれだ、お預けだ。 そこで待ってろ、うん、」
少年と言うにもまだまだ幼く見えるその生き物の、あまりにも座った目に、オオカミは恐怖するのだ。
ふと、少年がオオカミの前足に触れた。
1見、ただ触れただけに見えるその行為は、オオカミにさらなる恐怖を植え付ける。
「ギャンッ!!」
オオカミの悲鳴が響く、それに気付き初めて残り3匹は少年に気付く。
その小さな存在を、彼らは警戒しない、ただ1匹を覗いて。
彼はオオカミは特別だった、最も若い個体でありながら、誰よりも恐怖が強い、そんな個体。
そして同時に誰よりも身体能力が高い個体だ。
そんな彼は知っている、この少年に触られてから、自分は可笑しいのだと。
オオカミは伏せていた。
頭を垂れ、震えているのだ。
「ギャルルルル、、」
か細い喉を震わすような声、抵抗しようとはしたのだ、彼は自由を失ったと直ぐに気づき、諦めてしまった。
「他の奴らは、あれだ。 殲滅だよ。うん」
少年の声を理解した訳では無いだろうが、1匹のオオカミがその少年の舐めた態度に憤る。
「グルルルアァアア!!!」
そんな雄叫びを上げて襲い掛かるオオカミ。
しかし、彼が少年にたどり着くことは無かった。
少年が低姿勢になったと思う瞬間、少年は姿を消している。
オオカミが驚愕した時には既に少年の姿はオオカミの振り上げられようとしていた前足にある。
少年が足に触れると同時、オオカミの体が回る。
何が起きたのか理解しないまま回り、背中から落とされたオオカミは耐え難い背の痛みに唾を溢れさせる。
そんな狼の頭を触る少年の姿。
「ばんっ」
小さな声、次の瞬間。
「ボンッ!!」
オオカミの頭が弾け飛んだ。
不思議と少年に血や油、唾なんかが当たることは無い。
既に絶命したオオカミをゲシゲシと蹴る少年は、目が飛んでしまっているように見えた。
そのあまりにも意味のわからない光景に絶句していた2匹のオオカミは、不意に振り返った少年を見据え心が冷え上がるのを感じた事だろう。
「せっかくだ、試させてくれ」
そんな少年の声が聞こえるか聞こえないかの数瞬、少年の姿は実に3mの高さがあるオオカミの頭の上を舞っていた。
恐らくジャンプでもしたのだろう。
小さな、小さな拳が握られている。
オオカミの頭、その真上に到達した少年は降下を始める。
直ぐにその頭に着地し、少年の拳は無造作に振り下ろされる。
「ほいっ!」
「グルッ??」
何も理解していない、そんな惚けた顔で固まるオオカミの頭に、拳はぶち当たる。
その瞬間、惚けた顔が湾曲し、、
「グベッ!?」
「ドパァンっ!!!」
悲惨な声を上げて弾け飛んだオオカミの砕けた頭蓋、弾けた肉片、飛び散る血潮、その中を落下したにも関わらず、残骸の海から現れた少年には、血の一滴も付着してはいなかった。
そして少年の目がもう1匹を見据える。
それが、見据えられたオオカミの最後の記憶。
「グルッ、?」
頭から地に向けて転がり、顔面を強打したオオカミ。
その目が埋まるほど地にふせたオオカミの頭。
頭を少年が殴ると、次はオオカミの全身が破裂してしまった。
気の真髄にたった4歳で到達した少年を、残されたオオカミは諦めの目で眺めるのだ。
振り返った少年は別に怒ってもいない。
それはそうだろう、これは消化試合だ。
無抵抗な仇を、ただ蹂躙するだけのショー。
つまらなそうな少年は、1歩1歩確かに踏み締めながら、仇に少しずつ少しずつ近付いていくのだった。




