6話【オオカミ型の魔物】
マシェルはシェルターに居なかった。
木刀も無い、クロは寝ているみたいだ。
分かりきっていた、マシェルがあの悲鳴を聞いて、飛び出さないなんて僕も思ってなかった。
マシェルは優しいから。
「なるほどね、」
ふとこぼれた言葉は、僕の意識を置いてけぼりにして出た、いわゆる脊髄反射のようなものだったんだと思う。
でもその声が嫌に冷静で、僕は自分の状態を客観視することが出来た。
僕は、意識するよりも前に家を飛び出していた。
田んぼの脇道、いつも組手もどきをしてるあそこを回れば例の柵が壊されたところに出る。
マシェルも、恐らくはこのルートを通ってるはずだ、それ以外のルートをいくつも知ってるとは思えない。
田んぼを突っ切る可能性もゼロではないけど、それにしてもまだ到着するには少し早いように思う。
とくれば、マシェルもまだどこかを走っているはずだ。
見回してみる、幸いにも障害物になるほど建物は多くない、見回せばそこそこ離れていても見通すことは出来た。
視線をめぐらせると、すごい速度で移動するオレンジ色の影が見えた。
オレンジ色に発光して見えるそれに、僕は見覚えがある。
あれはマシェルだ、マシェルが【地龍の気】を使った時に纏っている膜だ。
僕の想像通りマシェルはまだ向かっている途中みたいだった。
今ならまだ間に合う、そうゆう確信があった。
僕は最短距離を選ぶ、田んぼに飛び込み、その線上を疾走してマシェルに合流する、それが最善だと思ったんだ。
ーーーーー
「あった、! あそこかな!?たぶん!!」
マシェルは走っていた。
エノワールの木刀を何も言わずに持ってきてしまった事に罪悪感はある。
でも今はそれどころじゃない、とゆう想いがマシェルにはあった。
「わあっ!おっきいオオカミっ!」
マシェルは、遠目に魔物が見える距離まで近付いていた。
見えたのは大きな狼型の魔物、それが十数匹だ、民家がいくつか壊れている、人が襲われているかはまだ分からないが、マシェルは冷や汗を垂らす自分に気付いていない。
マシェルには、まだ恐怖とゆう感情は難しいのだ。
ただ本能は察している、アレは駄目だ、と。
無意識に木刀を強く握っているマシェルの手は、少しだけ血で滲んでいた。
「グルアァアッ!!!」
狼の1匹がマシェルに気付いたのは、マシェルがすでに倒壊した建物の上に飛び乗ろうとしている時だった。
神に祝福された存在を憎む存在、彼らの反応は通常の生物とは訳が違う。
幸い密閉空間では無いここでは数がいても大して個体が強化されるとゆうことは無いが、とはいえ高さ3メートルはあろうかとゆう個体だ、強化が無かろうと十分な驚異になり得る。
「うおぁああっ!!!」
マシェルの甲高い雄叫びが響く。
と同時に、マシェルは踏み込むんだ。
力いっぱい踏み抜かれた瓦礫が弾け飛び、同時にマシェルも弾けるように接近する。
木刀を振りかぶって接近するマシェルの速度は、実に100メートルを5秒で走り抜ける。
その勢いのままに木刀は振りかぶられ、魔物の前足に振り下ろされる。
「ガギイイインッ!!!」
魔物のスネからまるで金属がぶつかり合うような音が響く。
魔気で強化された木刀は重い、魔紋由来の魔気、それで作られた膜には重みがある。
この魔気は物質化するのだ、それこそが気に類する魔紋の、強みの1つでもある。
龍の中でも力の代名詞である地龍の力で殴られた魔物のスネはねじ曲げられ。
その重さで足が地面に沈んでいる事からも、その恐ろしさが分かるだろう。
「くっそ、かってぇ、!!」
「ガルァッ!!!」
「うわっ!!」
ぶっ壊すつもりで殴った足は、魔物の気合い、その一声とともに振り抜かれる。
埋まった部分ごと振り抜かれたもんだから地面の1部がマシェルの体を襲う。
それ自体は魔気の膜で遮られ問題は無いのだが、しかし落下のダメージは殺しきれない。
マシェルは3mほど上空に打ち上げられると無抵抗に落下した。
4歳児の体では到底耐えられるダメージでは無い、マシェルの口から溢れた唾液に血が混じる。
「グルアァアアアア!!!!!!!!」
「「「グルルルルッ!!!」」」
「う、ひぐっ、、なにこれ、なにこれ、!!怖いよエノっ!!エノ助けてよォ、!!」
マシェルを驚異と感じたんだろうオオカミ魔物の雄叫びに呼応して、さらに3匹の魔物たちが集まる。
さすがのマシェルもコレはやばいと分かるのだろう、霞む目で見上げる巨体に、小さな少女は初めて恐怖し、そして涙を流すのだ。
ふと出た名前がエノワールだったのがマシェルらしい、その声が届いたか、それは定かでは無い。
が、彼は現着した。
傷付いたマシェルに、彼は既に気付いている。
「マシェルっ!!!」
「あ、エノ、、」
安心したのか気絶してしまったマシェル。
駆け寄ったエノワールがどう思ったかは分からない。
ただ1つ、エノワールは、この世界で初めて、動揺している。




