5話【森の木製の木刀】
今日も今日とてマシェルと一緒だ。
昨日4歳になった僕は木刀を持っていた。
父さんが作ってくれたらしい、まあまあいい木を使っているようで魔気を多少通したくらいでは壊れなかった。
この村の南側から西側に向けて大きく広がる森林、そこの木がなかなかいいものでこの村の家はだいたいこれで作られていた。
その他にも母さんのダンジョンがある山と地続きの4つの山を超えた先、20キロほどのところにあるそこそこ大きな町と同じく山を超えた先にあるいくつかの村がこの木を使っていた。
山の手前側はかなり広いながらほとんど村がなく、1番近い村でも50キロはありそちらは別の森から木を使っている上に、友好関係にあるとはいえ、そこは他国の末端に位置する村であることから、村同士の交流に距離以上の制限をもたらしていた。
とは言ったものの、その国もそこまで大きな国ではなく、国同士の交易はわりと盛んに行われていると話には聞いている。
この街を経由しないため遠目に1団を見る事はあっても、特に関わりはなく僕は詳しいことまでは知らないんだけど。
この村を経由しない理由は簡単で、交易する時は国境付近の小さな関所で行い、関所から山越えした向こうの街まで行っても1日かからないのでこの村にわざわざ滞在する理由もないのであった。
ちなみにこの隣接する国の名前はガベスタン商業国といい、海に面した立地から海産物をよくこちらに売ってくれており、こちらからは都心部で作られている絹や装飾品、魔物から取れる魔石なんかを主に売り付けていた。
そんな資源として重宝された歴史のある森なのだが、何でも最近魔物が出てくることがままあるらしく、村人は近付くことを禁止されている。
父さんはその調査が主な仕事となってきていて、その時にこの木刀も作ったんだと思う。
このためただでさえ少なかった父さんとの時間が更に少なくなっているのだが、まあ僕はマシェルが居ればそこまで気にならないし、どちらかと言うとクロが負担に感じているらしいとゆう程度ですんでいた。
「マシェル、今日は木刀を使ってみるよ? できそう?」
隣を振り向きながら問いかける。
この頃雪がぼちぼち降るのでマシェルはモフモフの毛布にも見える上着を着ている。
寒そうにしているが、それでも僕といてくれるあたりマシェルは優しい。
「うん、やってみる、!」
「ん、えらいねマシェル! 寒いけど頑張ろうね」
「ん!まかせろ!!! 俺ちょっと体温まってきた!!」
「、、、うん!よかった!!」
マシェルは、最近少しずつ乱暴になってきている。
一人称も俺になって組手(?)をする時は犬歯をむき出しにして吠えるようになってしまったのだ。
たぶんずっと組手もどきをしててそうゆう方向に思考が行きやすくなっているんだと思う。
それはそれで可愛いのだが、なんだかなぁとゆう感じである。
「さ、はじめよっか」
「うん!! 木刀かして!!」
「はいマシェル、頑張ってね!」
「おう!!かっこいいか?エノ」
「うん!ちょうかっこいい」
「えへへ、だろ?」
そうこうしているうちに、いつも組手をしている田んぼ脇の広場に着いていた。
木刀をマシェルに渡して距離をとる。
マシェルは少しの間木刀に振り回されていたものの、直ぐに慣れたのか重心が安定してくる。
僕は少しだけ積もったそこまで薄い訳でもない雪を少し持つと、軽く固める。
「いくよマシェル!」
「んえっ!? おう!!こい!!」
マシェルは一瞬驚いたものの、直ぐに木刀を構え直し僕をみすえた。
その手が少し震えているのは、木刀が重いせいか寒さのせいか、はたまた武者震いなのか。
たぶん武者震いだな、と自嘲気味に笑うと僕は雪玉を再度握り、、
魔気を纏い強化された筋力で力任せにぶん投げた!!
「っ!! よっ!!ほっと!」
マシェルは握った木刀と共に魔気を纏う。
分厚い魔気の鎧が生まれ、マシェルと木刀を包み込む。
その力の1部を使いブンッと振られた木刀は、過剰な威力で雪玉を破壊するとその勢いとまま地面の雪を弾き飛ばしてしまった。
本当にいい力している、あんなのまともに食らったら気絶するなぁ〜などと思いつつ、僕は既に接近していた。
「マシェル、死角に注意だよ?」
「エノ!? あ!雪玉に隠れてっ!! ふんぬっ!!」
砕けた雪玉どころか地面が破裂したみたいに雪と土が舞い上がったんだ、隠れてすこし遠くから低姿勢で加速した僕を、マシェルはやっと認識出来なかっただろう。
認識してすぐ木刀に力を込めて引き抜こうとしてる。
嬉しいんだけど、少し遅いかなマシェル。
僕はもうマシェルの左下から迫っている。
張り手のように手をつきだす、狙うのはマシェルの頬っぺだ。
「うへっ!」
「あはっ!可愛い声! はい1本〜 マシェルは純粋だねぇ〜」
「んぐっ! バカにするなぁ!!エノのばかー!!」
「あはっ、ごめんごめんっ!」
当たる瞬間、速度を殺した僕はそのままマシェルの頬っぺをツンと触る。
冷たい指にびっくりしたのかマシェルが変な声を出すものだからツボに入ってしまった。
マシェルが怒るのが可愛くてたまらない。
怒ってブンブンと振り回マシェルが可愛いい。
マシェルが振り回す木刀をひょいひょい避けていると、、
「あっ!エノとマシェル! やっぱ外にいたんだな!」
「エノぉーーー!!!って、あっチャッパのおじさん!どしたの!?」
「チャッパさん?どうしました??」
ふと、話しかけられてしまった。
話しかけてきたのは近くの畑を管理してるエドソンさん。
茶髪に茶色の肌、茶色の服が好きで茶色に錆びた桑を持っているから村ではチャッパさんとゆう呼び名で親しまれている。
そんなチャッパさんが、どこか慌てた様子で話しかけてきた。
いつもおっとりした人だから珍しい、どうしたんだろう?
「やっぱり聞いとらんかったか! 今すぐ家に帰りなさい!」
「どうしたのチャッパおじさん??」
「どうしたもこうしたも、森にダンジョンがあるかもしれんらしい!いまエノんとこのお父さんが調査してくれてるけど、最近出てきた魔物がそこから出てきてる可能性が高いらしい!」
ダンジョン、なるほど慌てるわけだ。
ダンジョンマスターのいないダンジョンほど恐ろしいものはなかなか無い。
今でこそ身近なものだが、それでも恐怖は文化として残り続けるものだ。
チャッパさんも分かってるとは思うけど、父さんだけでどうこうなる話でもない。
「ダンジョンですか、? 街の騎士団は呼んであるんですよね??」
「ああ、いま村長と取り巻き共が街の方に応援呼びに行った。
けど、この雪じゃ山越えは少し時間がかかるだろうな、間に合うといいがもしもの事もある、家のシェルターに身を隠すんだ、分かったな?」
この村ら辺は雪がある程度積もるのも珍しくない、数ミリの今みたいな朝さならそう珍しくもない。
しかし風向の影響か山を超えた街にはなかなか雪が降らないとゆう不思議な気候をしているのだ。
それなのに今年は街の方にかなり降ったとかで嗜好品なんかもなかなか入らないと問題になっていた。
雪に慣れない人達に山越えはなかなか厳しいものがある。
スタンピードまで猶予があるならそれでいい、けど最悪のことも考えておけってことだよな。
チャッパさんが言うシェルターってゆうのは各家の下に掘られた小さな空間のことだ。
そこまで深くは無いが狭くもない空間が用意されていて、冷蔵庫モドキもあるから3日分くらいの水と保存食の硬いパンが沢山入ってるからギリギリ生き残れる程度の環境はある。
「わかりました!チャッパさんありがとうござます! マシェル行こ」
「あ、、うん、分かった」
「絶対村から出るなよ2人ともー!」
背にチャッパさんの声を受けながらマシェルと一緒に家に帰る。
改めて村を見て気づく、極端に人がいない。
なるほど、知らないのは僕達だけか。
まあ大人に隠れて出てきてるからな、仕方ない。
「マシェルの両親は多分村長と一緒だよね、家のシェルターにする?」
「、、うん!お願いする!」
「わかった、マシェルはクロとも仲良いからね。 行こっか」
マシェルの親は2人とも村長の取り巻きだ。
と言うと聞こえが悪いけど要はお母さんが秘書でお父さんが経理をしてるとゆう話だ。
実はマシェル、この村ではそこそこ偉いのである。
家に着いて、中に入るとクロが待っていた。
2歳の弟だ、寂しくて出てきたのかもしれない。
「クロ、シェルターいくよ」
「クロくん抱っこで行く?」
「、、? うん!!マー姉だっこ!」
「うん!じゃあ行こっかエノ」
「うん、ありがとマシェル」
マシェルにお礼を言うと僕は1度シェルターの戸を開ける。
シェルターの扉があるのは家の奥、台所がある、その下だ。
開けて、空気が通ってるのを確認する。
先に降りて下を確認して、問題が無いのを確認すると、マシェルに上からクロを下ろしてもらった。
そこまで高さがないからこの小さな体でも背伸びすれば受け渡しに不自由は無い。
2つある小さなベット、その1つにクロを寝かせる。
「マシェルは休んでて、マシェルもとなると食料足りるか分からないからマシェルの家から持ってくるけど、いい?」
「、?おう!待ってる!」
「ありがとマシェル。それじゃ行くね」
僕はそう返すと低いハシゴを上り台所に出る。
そのまま家を出て、マシェルの家に行く。
マシェルの家はすぐだ、シェルターの場所も知ってる。
慣れた手つきでシェルターに入り、目につく食料を持てるだけ持つ。
取り敢えず2、3往復もすればだいたいは持ち出せそうだ。
「「「うわぁあああー!!!!!」」」
片手に携帯食料、もう片手に水をいっぱいいっぱい持ってシェルターを出ようとした時、ふとそんな悲鳴が聞こえてきた。
聞こえたのは外からで間違いない。
そこまで遠くなかったような気がする悲鳴、悪い予感が駆け巡る。
マシェル立ちになにかあったかもしれない、!
マシェルはあんな可愛い悲鳴をあげるタイプじゃない、大丈夫だ、今はまだ大丈夫、でもそれで安心できるほどおちゃらけた性格もしていない。
僕は荷物を下ろすのも億劫だった、そのままハシゴを飛び越えて家を飛び出す。
チラと見た村の光景は、凄まじいものだった。
村を囲う低くは無い木製の柵、それを破壊しながら突入してくる魔物の群れだ。
数は言うほど多くない、が、被害は目で見てわかるほどに出ている。
壊された柵の近くに住んでいた人達が家ごと何人か吹き飛ばされたのを、僕の左目が捉える。
僕は走っていた。
早くマシェルにあって、安心したかったんだ。
マシェルの正義感を、故意に忘れようとしていたんだと思う。
そんな恐ろしい想像が現実になってしまった時、僕は冷静で居られない、それが分かっていたから。




