十七 遠征一日目
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少し時間を巻き戻す。
アンナプルナへ向かう車内——
なぜか空気がピリついていた。
原因はシンプル。
アリスとミナサが、ガン飛ばし合ってる。
白馬はその隣で、小さくなっていた。
(……逃げ場、ないんだけど)
「白馬」
「は、はい」
「何なのこの子。なんでそんな近いの?」
ミナサの圧が強い。
白馬はしどろもどろになりながら、昨日の経緯を説明した。
話を聞き終えたミナサは——
顔真っ赤。
ちょっと涙目。
「なんでそんな子拾ってくるのさ!僕じゃ不満なの!?」
(いやその比較おかしくない!?)
突っ込んだら死ぬやつだ、と白馬は悟る。
すると今度はアリスが口を開いた。
「ちょっと失礼ですね。私はビッチじゃありません」
ピシッと言い切る。
「処女ですし、キスも未経験です。確認します?」
「ちょっ、待って!?」
スカートをめくろうとするアリスを、白馬が慌てて止める。
「やめて!ここ車内だから!」
「……ふむ」
アリスは不満そうに手を止める。
「ちなみに幻覚系の能力持ってるので、見せ方はいくらでも調整できます」
「余計ダメだろそれ!」
白馬、心のツッコミ。
前の席から、傭推がちらっと振り返る。
「白馬君、なかなか面白い子連れてきたね」
「助けてくださいよ!」
視線で訴える。
——スルーされた。
「むぅー……」
ミナサはまだ不機嫌。
そしてなぜか——
アリスの胸を見る。
自分の胸を見る。
もう一度見る。
「……」
「……」
「ぴえん」
「!?」
泣いた。
「イジイジ……」
完全にいじけモードに入った。
(何この状況……)
そんなこんなで——
車は目的地へ到着した。
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白馬たちは、アンナプルナ第一峰へ向かう。
非戦闘員であるリナとアリスは待機。
出発前。
ミナサが白馬の腕にぎゅっと絡みつく。
そのまま——
アリスに向かって「べーっ」
(火に油じゃない!?)
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登山開始。
縮地を応用した歩法で、一気に距離を詰めていく。
……が。
(地味にキツい)
白馬は内心ぐったりしていた。
普段より疲れる。
足場も悪い。
空気も重い気がする。
山ってこんなもんだっけ……と不安になる。
気づけば一時間経過。
ちょっとバテてきたところで——
ハルが自然と隣に並んだ。
「こういう移動中って、暇ですよね」
「まあ……そうですね」
「じゃあ雑談でもしましょうか」
「雑談?」
「夢ってあります?」
「え、急に?」
白馬、素で困る。
「いきなり言われても……」
「ですよね。じゃあ質問変えます」
ハルは優しく笑う。
「目指したいものは?」
その言葉で、白馬の中で何かが繋がった。
バラバラだった考えが、形になる。
「……弱い人を守れる人になりたいです」
ハルは一瞬、目を丸くしたあと——
ふっと笑う。
「いいですね。すごく」
ぽん、と頭を撫でる。
「ちゃんと“主人公”してますよ」
「やめてください、恥ずかしいです」
白馬、赤面。
ハルはそのまま続ける。
「昔、ボスに聞いたことがあるんです。どうしてそんなに努力できるのかって」
「なんて言ってました?」
「努力してない、って」
「え?」
「夢のための工程を、順番にクリアしてるだけだって」
さらっと言う。
「だから、あの人は止まらないんですよ」
ハルは少しだけ遠くを見る。
「白馬君も、自分の道を進めばいいです。道は、進んだ分だけできるものなので」
そう言って——
「じゃ、私はボスのとこ戻りますね」
シュン、と消えるように加速。
あっという間に見えなくなった。
(速っ……)
白馬は思う。
(僕、まだ全然だな)
ただ強いだけじゃダメだ。
ちゃんと考えないと、進めない。
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さらに時間が経ち、開けた場所で休憩。
凪沙が小さなキューブを配る。
「白馬さん、初めてですよね」
ハルがキューブを地面に落とすと——
それが一気に巨大化。
立方体の建物になる。
「これ、簡易シェルターです」
「テント代わりですね」
中に入ると——
「え、ホテルじゃん……」
風呂、テレビ、トイレ、エアコン完備。
もう意味がわからない。
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夜。
凪沙が夕食を持ってきてくれる。
白馬は遊びに来たミナサと一緒にご飯。
テレビ見ながら、他愛もない話。
さっきまでの空気が嘘みたいに、穏やかだった。
「じゃ、おやすみ」
ミナサが帰っていく。
白馬は軽くトレーニングして、風呂に入り——
ベッドに倒れ込む。
(……疲れた)
目を閉じる。
すぐに意識が沈んでいった。
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その頃、山麓の待機地点。
簡易シェルターの一室で、リナとアリスは向かい合っていた。
テーブルには紅茶と菓子。
場違いなほど穏やかな光景。
「……こういうの、久しぶりです」
リナが小さく微笑む。
アリスはカップを傾けながら答える。
「私は初めてです」
「え?」
「こうやって、誰かと普通に座ってお茶を飲むの」
リナは少しだけ言葉に詰まる。
「……そう、なんですね」
「はい」
あっさりと頷く。
「今までは、そういう時間に“意味”がなかったので」
その言い方が、妙に引っかかった。
「お茶、苦くないですか?」
「ちょっと苦いですね」
「ですよね!」
少しだけ空気が和む。
だが——
「でも、嫌いじゃないです」
アリスはそう言って笑う。
「苦い方が、“生きてる感じ”がするので」
「……え?」
リナは戸惑う。
「甘いものって、すぐ慣れちゃうじゃないですか」
「でも苦いものって、毎回ちゃんと感じるんです」
「だから、好きです」
にこっと笑うアリス。
リナはカップを持つ手が少し震える。
「アリスさんは……怖くないんですか?」
「何がですか?」
「神殺しに入ること」
一瞬、沈黙。
そして——
「怖いですよ」
即答だった。
「でも、それ以上に」
アリスは微笑む。
「戻る方が、怖いので」
その言葉に、リナは何も言えなくなった。




