十五 終局
「じゃあ、反撃開始といこうか」
サヤは、久しぶりの戦場に高揚感を覚えていた。
大気程度なら、一人でも十分に倒せる相手だ。
そこにラストナンバーが四人。結果は——言うまでもない。
大気はすでに核が露出するほどに崩壊していた。
箒を構えた凪沙が、とどめの一撃を放とうとした——その瞬間。
「……」
わずかに目を細める。
次の瞬間、凪沙は軌道を変えた。
「——多重朽失」
無数の光槍が展開される。
「ガトリング・ランス」
万を超える槍が、大気を削り取るように撃ち込まれた。
暴風のような猛撃の中、大気は崩れ、ついに核だけを残して崩壊する。
維持を失った核が、地面へと落下した。
「大気程度じゃ、歯応えなかったな。
奈落落ちの残党狩ってくるわ」
すぐにサヤの剛腕による、悲鳴が轟く。
凪沙は静かに白馬の隣へ歩み寄った。
「白馬さん」
「……はい」
「あなたが核を破壊するのが妥当でしょう」
「僕が……?」
「ええ。能力を奪うのです」
その意図を理解し、白馬は小さく頷いた。
刀を振るい——核を断つ。
――――
『能力:大気操作/再生 取得』
『称号:《神喰い》を獲得しました』
――――
傭推は任務を終え、通信を試みる。
「……また寝てますね」
ため息をつき、踵を返す。
一方、サヤも通信を試みていた。
「ボス寝てるな……じゃ、帰るか」
その頃。
神殺しの居残り組は、観光を満喫していた。
帰路の途中、白馬たちは傭推と合流する。
白馬は隣を歩く傭推に、ずっと気になっていたことを問いかけた。
「傭推さんの目指しているものって何ですか?」
白馬の問いに、傭推は少しだけ空を見上げた。
「僕の目指していたモノは、世界最強だった」
「だった?」
過去形の言葉に、疑問を覚えた。
「うん、でもね。今は誰一人失う事の無いよう、
守れる強さを得る事かな。
昔の僕は死にたくてしょうがなかった。
でも、それ以上に生きる事に希望を持ちゃったんだ」
穏やかな声で続ける。
「明日はきっと良い日になるって。だけどね、現実はそんなに優しくはない。
不条理は当然で、挫けそうになるのが必然。どんなに努力をしても追い付けない。
でもね、頑張ってない人何て居ないんだ。
それがわかっているから苦しい」
言葉は静かだが、重かった。
「同じ夢を叶えたい同士はたくさんいる」
白馬は黙って聞いていた。
だけど、叶うのはほんのひと握りの人間だけ。
夢は叶わないから夢なんだ。それでも叶えたいから夢なんだ」
傭推は少しだけ笑う。
「誰も簡単に叶うモノを夢にはしない。
白馬君もそれでも夢を追いかけてくれると嬉しい。
少年少女よ、ロマンを抱け。
「世界は、思ってるよりずっと面白い」
白馬は強く頷いた。
やがて一行はカトマンズへ帰還し、盛大な歓声に迎えられる。
ミナサが駆け寄ってきた。
「良かった……無事で」
「ギリギリだったけどね」
白馬は笑い、ふと尋ねる。
「ボスはまた寝てるの?」
「今は会談中。それより——宴に行こう」
手を引かれ、会場へ向かう。
――――
宴の席は、賑やかな音と笑い声に満ちていた。
白馬はミナサに引かれるまま席につき、並べられた料理に目を奪われる。
そのとき——
静かに、一人の女がリナの背後に立っていた。
無駄のない立ち姿。
腰には一本の細身の剣。
その存在だけが、場の空気からわずかに浮いている。
「あの人は……?」
ミナサが答える。
「ララス。リナの側近よ」
楽しげな宴の喧騒、そのわずかな隙間を縫うように影が走った。
その直後——
空気が、揺れた。
キィン——
気づいた時には、剣は抜かれていた。
男の喉元に、刃が突きつけられている。
「……動くな。残党めっ」
低く、冷たい声。
次の瞬間。
「遅い」
男は崩れ落ちた。
傷はない。ただ、意識だけが刈り取られている。
「……今のは?」
「能力、“花留め”」
白馬はララスを見る。
その目は、ただ——
“守る者だけを見る目”だった。
――――
その頃、会談の席。
サノラムは深く頭を下げていた。
「お願いがございます」
「……便利屋じゃないぞ」
狂花は面倒そうに返す。
「娘、リナを引き取っていただきたい」
「理由は?」
「守れないのです。私では、
私たちでは守れないのです」
その一言に、狂花は笑った。
「いいだろう」
少しばかり思案すると、
あっさりと承諾した。
「ただし——見返りはもらう」
「豪華客船を一隻」
サノラムは苦笑しながら頷いた。
「……娘一人の価値と比べるなら、
安いものです」
安堵と溜め息を溢したサノラムと
満足そうに笑う狂花。
「明日には出る」
「今夜は最高のもてなしを」
――――
再び宴。
音楽と笑い声の中で——
白馬は思う。
この場所には、優しさも、狂気も、覚悟もある。
そして——
この世界は、やはり理不尽だ。
それでも。
「……悪くない」
白馬は、そう呟いた。




