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奥編 moglie 23:海月の恩返し(その2)Il ritorno da medusa:secondo

「“夏は夜、月の頃は更なり„ ですね」

 満月――インスタンス中は天文も別扱いらしい。

 第一夜刻から指定場所に待機している。

 “神宿る島„ の対岸、岩場に挟まれた小さな砂浜だ。

 確かにここから見る島は近い。しかし月影に浮かび上がる島影は不気味に感じる。

 第二夜刻の始まる頃、潮が次第に緩やかになる。潮止まりの時間は一刻くらい。渡る時間を考えたら帰りは急流を突っ切ることになりそうだ。それでもここで躊躇はできない。行くしかない!

 波間から白いものが顔を出す。

 ぴっ!

「クラちゃん!」

 ぴーぴぴっ

「待ってたわよ、よろしく運んでね!」

 ぴぴぴぴぴっ!

 クラちゃんの号令に合わせ、波打ち際に、うぞうぞと海月(くらげ)の塊ができる。

「大丈夫よね。クラちゃん!」

 足元危ないことこの上ないが、なんとか海月(くらげ)の集団に乗っかる。

 ぴっぴ~!

 号令一下、わさわさと動き始める。

 “神宿る島„ まで、潮が治まっている間に着いて欲しい。


 かなり難儀したが、何とか島まで辿り着いた。

 ぴっ! ぴぴっ

「クラちゃん、ありがとう。ここまででいいわ! 帰りは何とかするから」

 ぴーっぴぴぴぴーっ!

「えっ、付いて来るってぇ」

 ぴきぴきぴっ!

「男は最後まで責任を持つもんだ?」

 ぴぴっ!

「分かったわ、でも “干しクラゲ„ になっても知らないわよ!」

 普通に意思疎通出来てるけど、釈然としないのは何故だろう?


 ぴこっ!

「静かに、クラちゃん」

 ぴっ?

「どうやら、ボクたちより先客がいるみたいだね」

 ここは島の真ん中あたりの丘、草の間からそっと覗くと黒ずくめの男たちがいた。

「昼間の拷問会会長さんみたいだね」

「やっぱり始末しといた方が良かったですね」

 コーリの性格がだんだん分かって来たような気がする。

「やり過ぎるとPKになっちゃうからな。今回は狙われたんだから、やっちゃって問題ないとは思う」

「でも、ここでは魔法使えませんからねぇ。どうしましょう?」

 放置すると後々面倒になりそうだから、不意打ちでやっつけてしまおう。

「スリングショットで先制攻撃する。攻撃剤ポツィオーネ・アタッカンテで追撃して」

「クラちゃん、静かに付いて来てね」

 ぴ

 そろそろと近付くと、黒ずくめの男たちは三人のようだ。良く分からん組織も愛好会も動員力はなさそうだ。

 男たちは小声で何か話して、草の間を探り始めた。

 財宝への入口を捜しているのかな。良し、好機(オッポルトゥニタ)だ。

 コーリに合図を送って、スリングショットで狙う。

「クラちゃん、じっとしとくのよ」

 こくこくこく

 スリングショットの攻撃と同時に、コーリの麻痺剤ポツィオーネ・ディ・パラーリジが飛ぶ。

「ぐっ」

「ぐぇっ」

 一人はスリングショットで倒し、一人は麻痺したみたいだが、あと一人は?

 残った男が短弓(アルコ・コルト)の矢をコーリに放つ!

 しまった!

 ぴーっ!

「クラちゃん!」

 矢は飛び出してきたクラちゃんのど真ん中を貫く。

 スリングショットで反撃する。

地震(テッレモート)!」

 コーリの地魔法、何で発動する?!

「きゃぁあぁ~」

 足元の土が一気に落ちて行く。


「うーむ、はっ!」

 ここは?

 痛い~。洞窟の下に落とされたらしい。

 薄明るい魔法の光が洞窟を照らし出す。周囲は苔で覆われていてこれがクッションになったようだ。大した怪我はない。

「大丈夫ですか?」

 コーリの落ち着いた声がする。怪我がないようでホッとする。

「クラちゃんが庇ってくれました。私は何ともありません」

「えと、クラちゃん、大きな穴が開いてるんだけど……」

 ぴぴぴぴっ!

「クラゲだから穴ぐらいは平気だそうです」

 さすがに人間とは出来が違うみたいだ。

「むぅ」

 人のうめき声に気づいて調べてみると、全身黒ずくめの男がひとり

「こいつは拷問愛好会会長さん。さっきので一緒に落ちて来たのか」

「はっ! お前たちは? ここはひとつ拷問を」

氷の壁ムーロ・ディ・ギアッチョ!」

氷の柱コロンナ・ディ・ギアッチョ!」

 煩いから氷漬けになって貰いました。

「で、なんでここは魔法が発動するんだろ?」

「クラちゃんに聞いてみました。たぶんここは六芒星(エサグランマ)の中心なので、効果が打ち消し合っているのでは? とのことです。台風の目と同じですね」

 海月(くらげ)の知能について真剣に考え直す必要がありそうだ。


 あらためて洞窟を見渡してみると、ドーム状になっていて高さもかなりある。落ちてきた所は暗くて確認できない。

 両側は全て岩でかなり奥へと続いている。下側は明らかに人の手の入った石畳になっている。

(ルーメ)!」

 コーリの明かりで奥へと進む。直ぐに突き当りになっていて祭壇のようなものがあり、直ぐ横がプールのように水が入って来ている。確かにここで祈願祭が行われていたようだ。確かに祈願祭のとき魔法が使えないのは困るので、この場所を選んだというのは良く理解できる。

 プールは波が立っていて、舐めてみると塩辛い。外から潮が入って来ているに違いない。

 明かりの下で覗き込んでみると、下は割合浅い。

 そして――確かにあるある、波の下にキラキラ光るもの。

「コーリ、お宝みたいね」

「ふふふふっ! これで生活水準向上です。クラちゃん、手近なものを取って来てくれる?」

 ぴぴぴぴぴっ!

「え? 神様に捧げたものを横取りすると祟りがある」

 ぴっ!

「そうかもしれないわね。でも一つくらいなら……」

 ぴぴっ?

 しようがないという風にプールの底から何かを拾って来る。

 ぴぴっ!

「有難う。綺麗な腕輪(ブラッチャレット)ね。でもこの色って――ひょっとしてオリハルコン?」

 コーリの声と重なるように、地が揺れ、大きな振動で祭壇の横の壁が崩れる。

「何だこれは?」

「何か変ですぅ?」

 ぴぴぴぴぴぃ!!

 壁の奥から、堅い鱗に覆われた大型の蜥蜴が現れた。

 ポスかぃ!?

まだ続きます。

次回 「奥編 24:海月の恩返し(その3)Il ritorno da medusa:terzo」

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