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第五十話 神の加護

騎士たちが魔物を討伐した町を出てから、二人はしばらく街道を歩き続けていた。


秋の風が、二人の間をすり抜けていく。


道端には赤や黄色に色づいた葉が落ちており、歩くたびに乾いた音が響いた。


「だいぶ秋らしくなってきましたね」


「うん。朝なんて、結構寒くなってきたしね」


アルジェナは空を見上げた。


夏よりも高く感じる空には、薄い雲がゆっくりと流れている。


しばらく歩いていると、街道の先に小さな村が見えてきた。


木造の家が二十軒ほど並び、その周囲には畑が広がっている。


村の中央には小さな広場があり、その奥には白い壁の小さな教会が建っていた。


「今日は、あそこで休みませんか?」


リリアが教会を指差す。


「教会?」


「はい。旅の途中ですし、泊めてもらえるか聞いてみましょう」


「泊めてもらえるの?」


「小さな教会でも、旅の信徒を泊めるための部屋が用意されていることがあります」


「へえ」


アルジェナは少し感心した。


「じゃあ、聞いてみようか」


「はい」


二人は村の中を進み、教会へ向かった。



教会の扉を開けると、中には誰もいなかった。


祭壇の前には神を象徴する簡素な装飾があり、壁際には木製の長椅子が並んでいる。


「こんにちは」


リリアが声をかける。


しばらくすると、奥から一人の女性が現れた。


「はい。どちら様でしょうか?」


「セレフィア聖国へ向かって旅をしている、リリア・セレスと申します」


リリアは丁寧に頭を下げる。


「こちらの教会で、一晩泊めていただくことはできますか?」


女性はリリアの服装と聖名を確認するように見た。


「セレフィア聖国へ?」


「はい。神官になるための試験を受けるため、教会本部へ向かっています」


「そうでしたか」


女性は少し微笑んだ。


「それなら、空いている部屋を使ってください。簡素な部屋ですが、それでもよければ」


「ありがとうございます」


リリアが頭を下げる。


「アルジェナも一緒なのですが……」


「もちろん構いませんよ。旅の連れの方でしょう?」


「はい」


「では、二人で使ってください」


「ありがとうございます」


アルジェナも頭を下げた。


「助かります」



案内された部屋は、教会の奥にある小さな部屋だった。


ベッドが二つと、小さな机。


必要最低限のものしか置かれていない。


「十分だね」


「はい」


二人は荷物を置いた。



夕食の時間になると、教会の女性が簡単な食事を用意してくれた。


野菜のスープとパン、それに少しの肉。


「いただきます」


二人は並んで食事を始めた。


「こういうところに泊まるの、初めてかも」


「そうですか?」


「うん。師匠と旅してたときは、野宿することも多かったから」


「そうだったんですね」


リリアは少し驚いたように笑う。


「アルジェナらしいです」


「どういう意味?」


「なんとなくです」


「なんとなくって……」


二人は小さく笑った。



食事を終えると、二人は部屋へ戻った。


外はすっかり暗くなっている。


窓から見える村の明かりも少なく、静かな夜が広がっていた。


「明日は、朝に出ようか」


「はい」


「次の町までは、二日くらいだっけ?」


「そうですね。途中で休めそうな場所もありますから、無理はしなくて大丈夫ですよ」


「そっか」


アルジェナはベッドに腰を下ろす。


「じゃあ、今日はゆっくり休もう」


「はい」


二人は灯りを消し、それぞれのベッドに入った。


静かな夜だった。



――その頃。


村から少し離れた場所に、一人の人影が立っていた。


月明かりの下、その人物は村を眺めている。


しばらくすると、ふと顔を上げた。


「……ああ」


小さく声を漏らす。


「神の加護を感じる」


その人物は、目を閉じる。


遠く離れた場所にいるはずなのに、その力だけははっきりと感じ取れた。


「……こんなにも近くで」


しばらく黙ったあと、その人物は村に建つ小さな教会へ視線を向けた。


「誰だろう」


その声には、わずかな震えがあった。


「神の加護を持つ人間……」


そして――


「もしかしたら……」


一度、言葉を止める。


「戻れるかもしれない」


その人物の表情に、かすかな希望が浮かんだ。


「……会ってみよう」


そう呟くと、人影は静かに夜の闇へと消えていった。

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