第四十九話 旅の途中
騎士たちが魔物を討伐した町を出てから、二人はしばらく街道を歩き続けていた。
秋の風が、街道脇の木々を揺らしている。
赤や黄色に染まり始めた葉が、風に乗って二人の足元へ落ちてきた。
「……秋って感じがするね」
「そうですね」
リリアが足元に落ちた葉を見ながら微笑む。
二人はそんな景色を眺めながら、ゆっくりと街道を進んでいた。
昼を過ぎた頃、街道の脇に小さな川が見えてきた。
水は浅く、川底の石が透けて見える。
「少し休もうか」
「はい」
二人は川の近くで足を止めた。
アルジェナは荷物を下ろし、水袋の残りを確認する。
リリアも食料を確認していた。
「水はまだ大丈夫ですね」
「食べ物も問題ないよ」
「それなら、もう少し歩けそうですね」
「うん」
二人は川のせせらぎを聞きながら、しばらく休んだ。
風が吹くたび、水面に細かな波紋が広がる。
遠くでは鳥の鳴き声が聞こえ、時折、街道を荷馬車が通り過ぎていく。
騎士たちと行動した町での出来事も、少しずつ遠いことのように感じられてきた。
「……そういえば」
リリアが、ふと思い出したように口を開いた。
「私、もうすぐ誕生日なんです」
「誕生日?」
「はい」
「いつ?」
「もう少し先ですけど」
リリアは少し笑った。
「十七歳になります」
「……え?」
アルジェナがリリアを見る。
「リリアって、十六歳だったの?」
「はい」
「私、十四歳なんだけど」
「知っていますよ」
リリアは不思議そうに笑った。
「……じゃあ、リリアのほうがずっと年上なんだ」
「そうですよ?」
アルジェナは改めてリリアを見る。
小柄な身体。
柔らかな表情。
白を基調とした教会の服もあって、どうしても自分より年下に見えていた。
「なんとなく、私より下だと思ってた」
「そうですか?」
「うん」
リリアは少しだけ首を傾げる。
「私、アルジェナより二つ上なんですよ?」
「なんか意外だな……」
「ふふっ」
リリアが笑う。
アルジェナもつられて笑った。
――考えてみれば、二人で旅を始めてから、もうかなりの時間が経っている。
一緒に歩いて、食事をして、眠って。
困っている人がいれば、一緒に助けてきた。
それでも、リリアの年齢すら知らなかった。
アルジェナは、少しだけ不思議な気持ちになった。
結構一緒にいるのに、まだまだ知らないことがあるんだな。
そう思うと、これからもっとリリアのことを知っていくのも悪くない気がした。
「じゃあ、誕生日が来たら十七歳なんだね」
「はい」
「お祝いしないとね」
「え?」
「せっかくだし」
アルジェナは当たり前のように言った。
「旅の途中でも、何かできるでしょ」
リリアは少し驚いたように目を瞬かせ、それから笑った。
「……ありがとうございます」
「まだ先だけどね」
「それでも、嬉しいです」
二人は休憩を終えると、再び街道を歩き始めた。
夕方が近づくにつれて、空の色が少しずつ変わっていく。
赤く染まった雲の隙間から夕日が差し込み、街道に二人の長い影を落としていた。
「綺麗ですね」
「うん」
リリアが空を見上げる。
アルジェナも足を止め、しばらく夕焼けを眺めた。
「こういう景色、好きだな」
「私も好きです」
「旅をしてなかったら、こういうのも見なかったかもね」
「そうですね」
二人はしばらく、並んで夕焼けを眺めていた。
やがて日が沈み始める。
「そろそろ行こうか」
「はい」
二人は再び歩き出した。
街道の先には、夜の闇が少しずつ広がっていく。
その中を、二人の影が並んで伸びていた。
二人は、まだ知らなかった。
今こうして並んで歩いている時間が、どれほど大切なものなのかを。
そして――
この先に待つ運命が、二人の旅を大きく変えることを。




