第四十五話 リュネス王国の森
リュネス王国の領土を進み、二人はさらに街道を歩いていた。
街道の両側には背の高い木々が並び、その向こうには広い森が続いている。
ところどころ木々の間から小さな川が見え、川沿いには草を食む鹿の姿もあった。
遠くには緑に覆われた丘がいくつも連なり、街道はその間を縫うように伸びている。
アルディア王国で見ていた広い草原とは違い、ここでは森と山が身近に感じられた。
昼を過ぎた頃、街道の先に何人かの旅人が集まっているのが見えた。
その中には、武器を持った者の姿もある。
「何かあったのかな?」
アルジェナが足を止める。
「少し聞いてみましょう」
二人が近づくと、街道脇にいた男が声をかけてきた。
「この先で魔物が出たらしいぞ」
「魔物ですか?」
リリアが尋ねる。
「ああ。森から出てきたらしい。第五級程度だって話だ」
アルジェナは森の方を見る。
「第五級か……」
「騎士団も向かったみたいだから、もうすぐ片付くんじゃないか?」
男が言う。
アルジェナは少し考えた。
第五級なら、自分でも倒せる。
けれど――。
「……騎士団が行ってるなら、私たちが行く必要はないね」
「そうですね」
リリアも頷いた。
「困っている人がいるなら助けたいですけど、もう対応してくれる人がいるなら、その人たちに任せてもいいと思います」
「うん」
アルジェナは森へ向けていた視線を戻した。
以前の自分なら、魔物がいると聞いただけで向かっていたかもしれない。
けれど、旅を続ける中で少しずつ分かってきた。
自分一人で、すべてを背負う必要はない。
「じゃあ、私たちは予定通り次の町まで行こう」
「はい」
二人は旅人たちと別れ、街道を進んだ。
夕方になる頃には、目的の町が見えてきた。
小さな町だった。
町の入口には低い木の柵があり、その向こうに十数軒ほどの家が並んでいる。
二人が門を通ろうとした、そのときだった。
「……あれ?」
アルジェナが立ち止まる。
町の入口には、数人の町人が集まっていた。
その顔には、不安の色が浮かんでいる。
「どうしたんですか?」
リリアが近くにいた女性へ声をかける。
「さっき、騎士様たちが戻ってきたんだけど……」
女性は森の方へ視線を向けた。
「まだ、全員戻ってきてないの」
「え?」
リリアの表情が変わる。
「魔物の討伐に向かった騎士団が、ですか?」
「そう。何人かは戻ってきたんだけど……」
女性は言葉を濁した。
アルジェナは黙って森を見る。
昼間に聞いた話では、第五級程度。
騎士団も向かっているはずだった。
それなのに――。
「……まだ戻ってないんだ」
アルジェナが呟く。
リリアも不安そうに森を見つめる。
夕暮れの森は、昼間よりもずっと暗く見えた。




