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第三十七話 大都市グランセル

街道を進むにつれて、遠くに大きな城壁が見えてきた。


その向こうには、いくつもの建物が立ち並んでいる。


城壁はこれまで訪れた町のものとは比べものにならないほど大きく、街道の先には巨大な門が構えられていた。


門へ近づくにつれて、人の数も増えていく。


荷物を積んだ商人の馬車。


農作物を運ぶ荷車。


旅人を乗せた馬車。


そして、武器や防具を身につけた傭兵たち。


街道は多くの人で賑わっていた。


「……大きいですね」


リリアが城壁を見上げる。


「うん」


アルジェナも足を止めた。


目の前に広がる光景は、これまで見てきた町とは明らかに違っていた。


「ここがグランセルです」


リリアが言った。


「グランセル?」


「はい。この地方では、かなり有名な都市ですよ」


「どうして?」


「いくつもの街道がここで交わっているんです」


リリアは城壁の向こうを見ながら説明する。


「商人が集まりますし、遠くの町へ向かう人たちも、この町を通ることが多いんです」


「だから、こんなに人が多いんだ」


「はい」


「それに、傭兵も多いですよ」


リリアが街道を歩く傭兵たちを指す。


「商隊の護衛や荷物の運搬、魔物の討伐など……いろいろな仕事がありますから」


「なるほど」


アルジェナは改めてグランセルを見た。


商人が集まり、人が集まり、仕事も集まる。


それだけ多くの人が集まる場所だからこそ、騎士たちの姿も多かった。


「騎士も多いね」


「大きな都市ですから」


街道沿いには騎士の詰所があり、城門にも複数の騎士が立っている。


町の中で何か問題が起きたときにすぐ動けるよう、巡回している騎士の姿も見える。


「ちゃんと守ってるんだね」


「はい。グランセルは人が多い分、治安を守る人も必要ですから」


二人は門へ向かって歩いていった。


門の前では、数人の騎士が行き交う人々を確認していた。


荷馬車が通るたびに積み荷を確認し、商人には行き先や用件を尋ねている。


旅人にも簡単な確認を行っていた。


「止まってください」


二人の前に、一人の騎士が立つ。


「この町へは何の用で?」


「旅の途中です。セレフィア聖国へ向かっています」


リリアが答える。


「分かりました。何か問題を起こした場合は、町の規則に従ってください」


「はい」


騎士は二人を確認すると、道を開けた。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


二人は門をくぐった。


その瞬間、アルジェナは思わず周囲を見回した。


大通りが、ずっと先まで続いている。


道の両側には店が並び、パンや野菜、肉などの食料品を扱う店から、衣服、日用品、武器や防具を扱う店まで様々だった。


店先には商品が並べられ、商人たちが声を上げて客を呼び込んでいる。


通りの中央では荷馬車が行き交い、その間を買い物をする人々や旅人が歩いていた。


少し奥へ目を向ければ、二階や三階建ての建物も多い。


宿屋らしい大きな建物もあれば、酒場から笑い声が聞こえてくる。


さらに大通りの先には、町の中心へ続く大きな広場が見えていた。


そこには噴水があり、その周囲にも店や屋台が並んでいる。


「……すごい」


アルジェナが思わず呟いた。


「村とは、全然違うね」


「そうですね」


リリアも周囲を見回している。


「私も、ここまで大きな都市は久しぶりです」


「リリアも来たことあるんだ?」


「昔、教会の用事で一度だけです」


「じゃあ、案内できる?」


「……少しだけなら」


リリアは困ったように笑った。


「私も全部は分かりません」


「そっか」


アルジェナも笑う。


「じゃあ、一緒に見て回ろう」


「はい」


二人は大通りを歩いていく。


しばらくすると、大通りの先にひときわ大きな建物が二つ見えてきた。


一つは、白い石造りの建物。


高い塔の先には、剣を模した紋章が掲げられている。


「聖剣教会ですね」


リリアが説明する。


「グランセルにも大きな支部があるんです」


「聖剣教会って、聖騎士の人たちがいるところ?」


「はい。聖騎士の活動や、聖剣に関することを扱っています」


アルジェナは遠くから建物を眺めた。


その姿を見た瞬間、胸の奥に昔の記憶が浮かんだ。


聖剣を前にしても、選ばれなかった日のこと。


自分だけが、何も選ばれなかった日のこと。


「……懐かしいな」


「どうしました?」


「ううん。なんでもない」


アルジェナは視線を戻した。


そして、その少し離れた場所には――


もう一つ、大きな建物があった。


こちらも白を基調としているが、聖剣教会とは違い、穏やかな印象を与える造りになっている。


正面には、聖女教会の紋章が掲げられていた。


「こっちは聖女教会です」


リリアが言う。


「聖女教会にも、大きな支部があるんだね」


「はい。大きな町には、こうして教会が置かれていることが多いです」


「じゃあ、リリアが行くのもあっち?」


「はい」


リリアは聖女教会を見上げた。


「少し寄ってから、宿へ戻りますね」


「分かった」


二人はさらに歩いていく。


しばらくすると、武器を背負った集団が横を通り過ぎた。


全員が似たような装備を身につけ、何人かは盾まで持っている。


「傭兵かな?」


「そうだと思います」


「結構いるね」


「グランセルには大きな傭兵組合がありますから」


「大きな傭兵組合……」


アルジェナは少し考えた。


グランセルには、これまで見てきた町よりも多くの傭兵がいる。


それだけ多くの仕事が集まっているのだろう。


「……ここまで大きな町の傭兵組合って、どんな感じなんだろう」


少し気になった。


「ちょっと見てみたいかも」


「依頼を探すんですか?」


「ううん。どんなところなのか見てみたいだけ」


「なるほど」


リリアが笑う。


「私は聖女教会に寄ってきますね」


「じゃあ、あとで宿で合流しよう」


「はい」


二人は大通りの途中で別れた。


アルジェナは傭兵組合へ向かって歩いていく。


リリアは聖女教会の支部へ向かって歩いていった。


アルジェナは歩きながら、もう一度グランセルの街並みを見回した。


これまで訪れた町とは、何もかもが違って見える。


人も多い。


店も多い。


それぞれの場所で、それぞれの人が生活している。


「……大きな町だな」


アルジェナは小さく呟いた。


そんなことを考えながら、アルジェナは傭兵組合へ向かって歩いていった。

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