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第三十五話 それぞれの願い

村を出て一時間ほど歩くと、家々や畑はすっかり見えなくなっていた。


街道の両側には背の低い草が広がり、遠くにはなだらかな丘が連なっている。


「次の町までは、まだ少しかかりそうですね」


リリアが地図を見ながら言う。


「今日は野宿かな」


「そうですね」


しばらく歩いていると、街道から少し外れた場所に、小さな石造りの囲いが見えてきた。


その中央には、古い焚き火の跡が残っている。


屋根のついた簡素な休憩場所もあり、壁には風雨で擦れた跡がいくつも残っていた。


「ここ、野営する場所みたいですね」


「うん。旅人が使ってるんだと思う」


アルジェナが周囲を確認する。


「ここなら安心して休めそう」


「そうですね」


二人は、その野営跡を使わせてもらうことにした。



日が暮れる前に、アルジェナが薪を集め、リリアが食料を確認する。


「これだけあれば、今日は大丈夫そうですね」


「うん」


二人は古い焚き火跡を使い、火を起こした。


しばらくの間、薪が燃える音だけが響く。



「……アルジェナ」


「ん?」


「少し聞いてもいいですか?」


「いいよ」


リリアは少し迷ってから口を開いた。


「アルジェナは、どうして人を助けたいんですか?」


「どうしてって……」


アルジェナは炎を見る。


「昔、助けてもらえなかったからかな」


「……」


「私の村が魔物に襲われたとき、誰も助けに来なかった」


リリアは何も言わず、アルジェナの話を聞いている。


「だから、同じような思いをする人を減らしたい」


「それが、アルジェナの願いなんですね」


「うん」


アルジェナは少し笑った。


「リリアは?」


「私ですか?」


「うん。どうして神官になりたいの?」


リリアは自分の手を見つめた。


「……人を助けられる人になりたいからです」


「アルジェナと同じだね」


「そうかもしれません」


リリアは小さく笑う。


「教会では、たくさんの人を助けることができます。でも、私にはまだできないことも多いです」


「だから神官に?」


「はい」


「神官になったら、何が変わるの?」


「できることが増えます」


リリアは少し考えてから続けた。


「それに、教会で人を助けるためには、知識も必要です。怪我や病気について学んだり、人の相談を聞いたり……」


「大変そうだね」


「はい。でも、やりたいんです」


リリアはまっすぐに答えた。


「いつか、誰かが困っているときに、『私には何もできない』と思わない人になりたいんです」


アルジェナは少し驚いた。


そして、笑った。


「やっぱり、私たち似てるね」


「……そうですね」


二人は顔を見合わせる。


「じゃあ、これからも一緒に人を助けようか」


「はい」


リリアは嬉しそうに頷いた。



夜が深くなっていく。


「そろそろ寝ようか」


アルジェナが立ち上がる。


「でも、交代で見張りをしよう」


「はい」


「最初は私がやるよ。リリアは先に寝て」


「分かりました」


リリアは毛布にくるまり、横になる。


アルジェナは焚き火のそばに座り、周囲を見張った。


しばらくして――


「アルジェナ。交代します」


リリアが声をかける。


「うん」


アルジェナは立ち上がった。


「何かあったら、すぐ起こしてね」


「はい」


今度はリリアが焚き火のそばに座る。


アルジェナは毛布にくるまり、眠りについた。


小さな焚き火だけが、二人の間を照らしていた。


夜は静かに更けていった。



翌朝。


「おはようございます、アルジェナ」


「ん……おはよう」


アルジェナが起き上がる。


「何もありませんでした」


「そっか。ありがとう」


二人は荷物をまとめる。


そして、再び街道へ向かって歩き始めた。


まだ見ぬ町。


まだ見ぬ人々。


二人の旅は、今日も続いていく。

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