↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/73

第三十四話 届ける理由

町を出てしばらく歩くと、なだらかな丘の向こうに目的の村が見えてきた。


木造の家々が十数軒ほど並び、その中央には小さな広場がある。


広場の奥には、この村で使われている小さな教会が建っていた。


村の周囲には畑が広がり、麦や野菜などの作物が植えられている。


そのさらに外側には家畜小屋や納屋が点在し、村の先には低い山々が連なっていた。


「もうすぐですね」


リリアが村を見ながら言った。


「うん」


アルジェナも頷く。


「小さな村だね」


「はい。こういう場所にも教会があるんですね」


「どんな村にも、教会は必要なんじゃないかな」


二人はそのまま村へと入っていった。


教会の前まで来ると、リリアが一歩前に出る。


「では、届けてきますね」


「うん。私も持つよ」


「ありがとうございます」


二人で荷物を運び、教会の中へ入る。


中には、三十代ほどの男性が一人いた。


白を基調とした長い衣服を身につけ、胸元には聖女教会の紋章が刻まれている。


リリアの服よりも装飾が多く、彼が神官であることが分かった。


「こんにちは」


リリアが声をかける。


「はい。どちら様でしょうか?」


「セレフィア聖国の教会本部へ向かっている、リリア・セレスと申します」


「こちらの教会へ物資を届ける依頼を受けてきました」


「おお、それは助かります」


神官は安堵したように笑った。


「最近、薬が不足していまして……」


「薬が?」


アルジェナが尋ねる。


「ええ。怪我をした者もいますし、病気になった者もいますから」


「なるほど」


二人は持ってきた荷物を一つずつ運び込んでいく。


医薬品。


食料。


そして、生活に必要な日用品。


しばらくして、すべての荷物を教会へ届け終えた。


「本当にありがとうございました」


神官が頭を下げる。


「いえ。私たちも、この村に来る途中でしたから」


リリアが答える。


「助かりました」


「こちらこそ、ありがとうございました」


二人は神官に見送られながら教会を出た。


村の広場へ向かって歩きながら、アルジェナがふと口を開く。


「そういえば……」


「はい?」


「教会って、怪我を治したりできるんだよね?」


「はい。神の加護を持つ者なら、ある程度は」


「じゃあ、薬はいらないんじゃない?」


リリアは少し考えてから答えた。


「でも、神官だからといって、必ず神の加護を持っているわけではないんです」


「そうなの?」


「はい。神官になることと、神の加護を授かることは別なんです」


「じゃあ、あの神官さんも?」


「はい。加護を持っているとは限りません」


「じゃあ、リリアみたいに加護を使える人のほうが珍しいの?」


「そうですね」


リリアは頷いた。


「信徒の中にも加護を授かる人はいますが、強さには個人差があります」


「リリアの加護は?」


「私のものは、まだ小さなものです」


「小さい?」


「はい。軽い怪我を治したり、疲れを少し和らげたりするくらいです」


「なるほど……」


アルジェナは少し考える。


「じゃあ、どんな怪我でも治せるわけじゃないんだ」


「はい。病気や大きな怪我なら、薬や治療が必要になります」


「そっか」


アルジェナは納得したように頷いた。


そのときだった。


「……あれ?」


アルジェナが足を止めた。


「どうしました?」


リリアも立ち止まる。


アルジェナの視線の先には、畑があった。


その一角で、木で作られた柵が壊れている。


「柵が壊れてる」


「本当ですね」


アルジェナは近くに落ちていた木材を拾った。


「ちょっと直してくる」


「え?」


アルジェナは壊れた部分を確認すると、木材を組み合わせていく。


それほど大きな壊れ方ではない。


しばらくして――


「よし」


簡単ではあるが、柵は元の形に戻った。


「これで大丈夫かな」


「……本当に、どこへ行っても人を助けるんですね」


リリアが微笑む。


「そうかな?」


「はい」


アルジェナは少し照れたように笑った。


「私、傭兵組合にも登録したんだ」


「そうなんですか?」


「うん。でも、傭兵になりたいわけじゃないんだ」


「では、どうして登録を?」


「旅をしながら人を助けるなら、使えるものは使ったほうがいいから」


「なるほど……」


リリアは頷いた。


「アルジェナらしいですね」


「そう?」


「はい」


二人は顔を見合わせて笑った。


「今日は、いろいろお手伝いできましたね」


「荷物を届けるだけのつもりだったけど」


「でも、こういう旅も悪くないですね」


「そうだね」


二人は村を出て、再び街道を歩き始めた。


セレフィア聖国までは、まだ遠い。


それでも二人は急がなかった。


旅の途中で誰かが困っているなら――


その人を助けてから、また歩けばいい。


二人の旅は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。