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神に選ばれなかった勇者と神の真似事をする悪魔  作者: 粉末六茶
第一章 勇者を夢見た少女
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第二話 故郷の炎

夜の村を、炎が照らしていた。


アルジェナは父親に抱き上げられたまま、目の前の光景を見つめていた。


「……お父さん」


「見るな、アルジェナ」


父親はそう言いながら、娘を強く抱きしめていた。


村のあちこちから悲鳴が聞こえる。


逃げ惑う人々。


燃え上がる家々。


そして、その間を巨大な魔物が歩いていた。


灰黒い身体。


狼にも熊にも似た四足の獣。


異様に太い脚。


赤く光る目。


そして額から伸びた、一本の大きな角。


身体には、まるで大地そのものがひび割れたような黒い亀裂が走っていた。


「あなた!」


母親が叫んだ。


父親が振り返る。


「どうした!?」


「向こうに、まだ人がいる!」


母親が指差した先。


村の広場に、何人もの村人が取り残されていた。


昼間、アルジェナに焼き菓子をくれたおばさん。


畑で働いていた老人。


そして――


「アルジェナ!」


聞き覚えのある声。


一緒に遊んでいた少年だった。


「お母さん! 助けて!」


少年の母親が、必死に彼を抱きしめている。


アルジェナは父親の腕の中でもがいた。


「お父さん!」


「……」


父親は広場を見つめた。


そして、ゆっくりとアルジェナを母親へ渡す。


「アルジェナを頼む」


「あなた……?」


「俺が時間を稼ぐ」


父親は壁に立てかけてあった古びた剣を手に取った。


母親が息を呑む。


「でも、あんな魔物……」


「分かってる」


父親は魔物を見つめた。


「俺一人じゃ倒せない」


その言葉に、アルジェナが目を見開く。


「じゃあ……」


「だから、倒す必要はない」


父親は娘を見る。


「みんなが逃げる時間を作ればいい」


「お父さん……」


父親は笑った。


「昔から何度も言ってるだろ?」


「……?」


「兵士の仕事は、必ず敵を倒すことじゃない」


剣を握り直す。


「誰かを守ることも、兵士の仕事だ」


そして――


父親は走り出した。


「逃げろ!」


村人たちへ叫ぶ。


「村の裏手へ向かえ!」


「でも、あなたは……!」


「いいから走れ!」


父親が魔物の前に立つ。


巨大な魔物が、父親を睨みつけた。


「……こっちだ」


魔物が唸る。


父親は剣を構えた。


魔物が地面を蹴る。


巨大な爪が振り下ろされた。


父親は横へ飛ぶ。


地面が大きく抉れた。


「くっ……!」


すぐさま立ち上がる。


魔物が再び襲いかかる。


父親は攻撃をかわしながら、魔物を観察していた。


「……なるほど」


父親の目が、魔物の角へ向く。


「そこか」


魔物が突進してくる。


父親はぎりぎりまで引きつけ――


「そこだ!」


剣を振り上げた。


ガキィン!


剣が魔物の角へ叩きつけられる。


「グオオオオオッ!」


魔物が大きく頭を振った。


父親は吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


地面を転がりながらも、すぐに立ち上がる。


魔物の角には、一筋の傷が入っていた。


「……やっぱりな」


父親は息を整える。


「ただの角じゃない」


魔物の身体から赤い光が集まり始める。


父親の表情が変わった。


「……まずい」


魔物が大きく咆哮する。


「全員、逃げろ!」


村人たちが一斉に走る。


父親は魔物の前から離れない。


魔物の角に集まっていた赤い光が、さらに強くなっていく。


「こいつ……何か撃つ気か」


父親は剣を構えた。


魔物の角に、先ほどの傷が走っている。


その傷から、赤い光が漏れていた。


「なら――」


父親は剣を両手で握った。


「もう一度だ!」


魔物が突進する。


父親も踏み込む。


「うおおおおおっ!」


渾身の一撃。


剣が再び角へ叩き込まれた。


――パキッ。


小さな音がした。


角に、細かな亀裂が走った。


「……入った!」


父親は息を切らしながら笑った。


「これなら……!」


しかし。


魔物の身体が大きく震えた。


「グオオオオオオオオオッ!」


角から、凄まじい量の赤い光が放たれる。


「なっ……!」


父親は目を見開いた。


「まだ撃てるのか!」


次の瞬間。


魔物の角から、巨大な衝撃が放たれた。


父親は剣を構えた。


「――ッ!」


衝撃が村を飲み込んでいく。


建物が崩れる。


炎が吹き飛ぶ。


地面が大きく揺れる。


父親の身体も吹き飛ばされた。


それでも――


角に入った亀裂が、魔物の力を大きく削っていた。


本来なら村全体を吹き飛ばすほどだったはずの力が、途中で大きく散っていく。


「……やった……」


父親は地面に倒れながら、かすかに笑った。


「これで……少しは……」


その頃。


アルジェナと母親も、衝撃から逃げようとしていた。


「走って!」


「お母さん!」


「アルジェナ、こっち!」


母親は娘の手を引いて走る。


しかし――


突然、目の前の建物が崩れた。


「危ない!」


母親がアルジェナを抱きしめる。


「伏せて!」


「お母さん!」


母親はアルジェナを地面へ押し倒した。


次の瞬間。


大きな音が響いた。


アルジェナの視界が、真っ白になる。


「……お母さん?」


返事がない。


「お母さん……?」


アルジェナは母親に手を伸ばそうとした。


しかし、身体が動かない。


母親の腕だけが、アルジェナを守るように伸びていた。


「お母さん……」


アルジェナの声が震える。


「起きて……」


返事はなかった。


その直後。


別の衝撃が村を襲った。


アルジェナの身体は瓦礫と共に吹き飛ばされる。


「――っ!」


そして――


意識が途切れた。

誤字あったらおしえてほしんだ!

読んでくれてありがとなんだ!

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