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神に選ばれなかった勇者と神の真似事をする悪魔  作者: 粉末六茶
第一章 勇者を夢見た少女
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第二十一話 自分だけの剣

朝。


アルジェナは、いつものようにヴァルドと向かい合っていた。


「昨日のことだが」


「昨日?」


「お前は、俺みたいになりたいと言っただろ」


「うん!」


アルジェナは元気よく頷いた。


「だったら今日は、俺の戦い方を真似してみろ」


「分かった!」


アルジェナは木剣を構える。


足の位置。

身体の向き。

剣の握り方。


どれも、ヴァルドがいつもしているものだった。


「来い」


「はい!」


アルジェナが踏み込む。


だが――


「遅い」


ヴァルドの木剣が、アルジェナの肩を軽く叩いた。


「……っ」


アルジェナはすぐに距離を取る。


「もう一度!」


「いいぞ」


再び踏み込む。


しかし、結果は同じだった。


ヴァルドの剣が、先にアルジェナへ届く。


何度やっても、勝てない。


「……なんで?」


アルジェナは息を切らしながら呟いた。


「ヴァルドさんと同じようにやってるのに……」


「同じようにやっているからだ」


「え?」


ヴァルドは木剣を下ろした。


「俺とお前では、身体が違う」


「身体……?」


「ああ。俺はお前より大きい。腕も長い。力もある」


ヴァルドは自分の身体を見る。


「俺に合った戦い方と、お前に合った戦い方が同じとは限らない」


アルジェナは黙って自分の身体を見る。


「じゃあ……私には、私の戦い方があるの?」


「そういうことだ」


「……どうやって見つけるの?」


「戦いながら考えろ」


ヴァルドはそう言って、木剣を構え直した。


「お前が何を得意としているのか」


「どんな動きなら、相手より先に動けるのか」


「何を見れば、相手の動きを読めるのか」


「それを自分で探せ」


「……うん!」


その日から、アルジェナは自分の動きを意識するようになった。


力ではヴァルドに敵わない。


ならば、どうするか。


速さなら。


足の動きなら。


相手をよく見ることなら。


自分にもできることがあるかもしれない。


そして数日後。


森の中で、魔物と遭遇した。


第五級。


以前にも戦ったことのある危険度の魔物だった。


魔物が低く唸る。


アルジェナは剣を構えた。


すぐには踏み込まない。


魔物の足を見る。


呼吸を見る。


目の動きを見る。


――右。


そう思った瞬間、魔物が飛びかかってきた。


アルジェナは身体を横へずらす。


爪が目の前を通り過ぎる。


「今!」


魔物の横をすり抜け、そのまま振り返る。


剣を振る。


刃が魔物を捉えた。


魔物が地面に倒れる。


アルジェナは息を整えながら、剣を見つめた。


「……勝てた」


後ろから見ていたヴァルドが歩いてくる。


「どうだった?」


アルジェナは少し考えた。


「ヴァルドさんみたいに、力で押すことはできなかった」


「そうだな」


「だから、よく見た」


「それで?」


「魔物がどう動くのかを見て……先に動いた」


アルジェナは、自分の剣を握り直す。


「……私、ヴァルドさんみたいには戦えないんだね」


「最初から、そう言っている」


「うん」


少しだけ寂しそうに笑う。


けれど、その表情はすぐに変わった。


「でも……」


アルジェナは自分の剣を見る。


「これが、私の戦い方なんだ」


ヴァルドは静かに頷いた。


「そうだ」


「……私の剣」


「ああ」


アルジェナは剣を見つめる。


父から教わった基本。


ヴァルドから教わった戦い方。


そして、自分自身で身につけたもの。


それらすべてが、今のアルジェナの剣だった。


「……まだまだだね」


「ああ」


「もっと上手くなれるかな?」


「なるさ」


「じゃあ、もっと頑張る!」


アルジェナは剣を握り直した。


それは、誰かの真似をした剣ではない。


父から受け継ぎ、師から学び、そして自分自身で磨いていく剣。


アルジェナはまだ、そのすべてを理解してはいなかった。


それでも――


少しずつ、自分だけの剣を歩み始めていた。

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