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神に選ばれなかった勇者と神の真似事をする悪魔  作者: 粉末六茶
第一章 勇者を夢見た少女
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第十六話 擬聖剣選別

聖剣殿の奥にある一室。


そこには、選別を待つ五本の擬聖剣が保管されていた。


アルジェナは、その剣を見つめていた。


以前、ローディンが腰にしていた剣。


それと同じものだ。


「……これが、選別される剣」


アルジェナが呟く。


「そうだ」


ヴァルドが答えた。


「聖剣とは違う。だが、選ばれた者には力を貸す」


アルジェナは頷いた。


聖剣には選ばれなかった。


それでも、まだ道は残されている。


「では、始めます」


神官の声が響いた。


候補者たちが一人ずつ、擬聖剣の前へ進んでいく。


最初の候補者は、アルジェナより少し年上の青年だった。


緊張した様子を見せながら、一本目の擬聖剣の前に立つ。


柄を握る。


しかし、何も起こらない。


「次へ」


青年は静かに頭を下げ、次の擬聖剣へ向かった。


二本目。


三本目。


それでも反応はない。


青年は最後の一本の前に立った。


「……」


深く息を吐き、柄を握る。


その瞬間――。


カチッ。


小さな音が響いた。


鞘が、僅かに動く。


青年が目を見開いた。


ゆっくりと剣を引く。


今度は、抵抗なく抜けた。


神官が頷く。


「選ばれました」


青年は抜いた剣を見つめている。


その顔には、驚きと喜びが浮かんでいた。


アルジェナも、その姿をじっと見ていた。


「……選ばれるんだ」


「そうだ」


ヴァルドが答える。


「だからこそ、選ばれなかった者もいる」


次の候補者が呼ばれた。


今度は少女だった。


少女も順番に擬聖剣へ手を伸ばしていく。


しかし、どの剣も反応しない。


最後まで選ばれることはなかった。


少女は俯きながら、その場を離れていった。


アルジェナは、その背中を見つめる。


そして――。


「次」


神官がアルジェナの名前を呼んだ。


アルジェナは一歩、前へ進む。


最初の擬聖剣の前に立った。


柄を握る。


――何も起こらない。


アルジェナは手を離した。


「次へ」


二本目。


何も起こらない。


三本目。


反応はない。


四本目。


それでも、擬聖剣は沈黙したままだった。


そして最後の一本。


アルジェナは、その前に立った。


これが最後。


これを抜くことができれば――。


アルジェナはゆっくりと柄を握った。


「……」


力を込める。


だが。


抜けない。


アルジェナは、もう一度力を込めた。


それでも、鞘は微動だにしなかった。


「……」


しばらくの間、アルジェナはそのまま動かなかった。


やがて、ゆっくりと手を離す。


「……ありがとうございました」


神官の声が響いた。


アルジェナは小さく頭を下げ、ヴァルドのもとへ戻った。


「……聖剣にも」


アルジェナが呟く。


「擬聖剣にも、選ばれなかった」


ヴァルドは黙ってアルジェナを見る。


「……そうだな」


アルジェナは俯いた。


悔しい。


悲しい。


けれど、不思議と涙は出なかった。


ただ胸の奥が、重かった。


「……私」


アルジェナは腰の剣へ手を伸ばす。


「この剣で、いいのかな」


ヴァルドは答えなかった。


代わりに、アルジェナの剣を見た。


父から受け継いだ剣。


アルジェナがこれまで何度も振ってきた剣。


「お前は、その剣で何をしてきた?」


「……魔物と戦って」


「それだけか?」


アルジェナは少し考える。


「……人を守った」


「そうだ」


ヴァルドは頷いた。


「なら、その剣がお前にとって何なのかは、もう分かっているだろう」


アルジェナは剣を見つめた。


聖剣には選ばれなかった。


擬聖剣にも選ばれなかった。


それでも――。


この剣だけは、自分の手の中にある。


アルジェナは、ゆっくりと剣を抜いた。


「……うん」


その刀身を見つめる。


「私は、この剣でいい」


ヴァルドが僅かに笑った。


「そうか」


「私、人を守りたい」


アルジェナは剣を鞘へ戻した。


「聖剣じゃなくても」


「擬聖剣じゃなくても」


「この剣で、できることをやる」


その言葉を聞いて、ヴァルドは静かに頷いた。


その夜。


宿の部屋で、アルジェナは一人だった。


窓の外には、王都の明かりが見える。


アルジェナは、昼間のことを思い出していた。


聖剣。


そして、五本の擬聖剣。


どれも、自分を選ばなかった。


「……」


アルジェナは布団の上で膝を抱えた。


昼間は、泣かなかった。


ヴァルドの前でも、泣かなかった。


「私は、この剣でいい」


そう言った。


本当に、そう思っている。


それでも――。


「……勇者に、なりたかったな」


小さな声が漏れた。


頬を、一筋の涙が伝う。


アルジェナは慌てて袖で拭った。


「……だめだな、私」


また、涙が落ちる。


誰にも見られないように、声を押し殺した。


しばらくして、アルジェナは顔を上げた。


腰に置かれた自分の剣を見る。


「……明日からも、頑張ろう」


涙を拭い、アルジェナは小さく笑った。


聖剣に選ばれなくても。


擬聖剣に選ばれなくても。


自分の剣で、人を守る。


その決意だけは、変わらなかった。

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