第十五話 選ばれなかった少女
アルジェナは、ゆっくりと聖剣から手を離した。
鞘から抜けることはなかった。
「……ありがとうございました」
神官の声は、淡々としていた。
アルジェナは小さく頭を下げる。
そして、ヴァルドのもとへ戻った。
「……抜けなかった」
「ああ」
「……私、選ばれなかったんだね」
ヴァルドは、すぐには答えなかった。
ただ、アルジェナの顔を見る。
「そうだな」
短い言葉だった。
アルジェナは俯いた。
「……悔しい」
握った拳に、力が入る。
「私、ずっと……勇者になりたかったから」
「……ああ」
「お父さんが話してくれた勇者みたいに、人を守れる人になりたかった」
「分かっている」
ヴァルドは静かに答えた。
「だから、悔しがっていい」
アルジェナは顔を上げた。
「……いいの?」
「ああ」
「選ばれなかったことを、悔しいって思っても?」
「当然だ」
ヴァルドは聖剣へ目を向けた。
「お前は今日まで、そのために努力してきたんだからな」
アルジェナはしばらく聖剣を見つめていた。
あれほど憧れていた剣。
けれど、その剣は自分を選ばなかった。
「……じゃあ、私は勇者にはなれないの?」
その言葉に、ヴァルドは首を横に振った。
「聖剣に選ばれなかったからといって、お前が人を守れなくなるわけじゃない」
「……」
「それは、俺が何度も言っただろう」
アルジェナは黙って自分の剣に触れた。
父から受け継いだ剣。
ヴァルドとともに振ってきた剣。
「……うん」
その時だった。
別の神官が二人のもとへ近づいてきた。
「アルジェナさん」
「はい?」
「聖剣選別は終わりましたが、まだ選択肢は残されています」
アルジェナが顔を上げる。
「……選択肢?」
「聖剣に選ばれなかった者の中には、擬聖剣の選別を受ける者もいます」
その言葉に、アルジェナの目が僅かに開いた。
「擬聖剣……」
ヴァルドが静かに頷く。
「人間が聖剣を模して作った剣だ」
以前、ヴァルドから聞いたことがある。
聖剣そのものではない。
それでも、選ばれた者はその力を使い、人々を守っている。
「……私も、受けられるの?」
「条件を満たしていれば」
神官は答えた。
「聖剣に選ばれなかったからといって、そこで全てが終わるわけではありません」
アルジェナは、もう一度自分の剣を見た。
そして、ゆっくりと握り直す。
「……受けます」
ヴァルドがアルジェナを見る。
「いいのか?」
「うん」
アルジェナは頷いた。
「私は、人を守りたいから」
その言葉に、ヴァルドは何も言わなかった。
ただ、僅かに口元を緩める。
「……そうか」
聖剣には、選ばれなかった。
それでも。
アルジェナの道が、ここで終わったわけではない。
彼女はまだ知らない。
この先に待つ五本の剣が、自分を選ぶのか。
それとも――。
それすらも、叶わないのか。
アルジェナは、神官の後に続いて歩き出した。
その先にある、次の選別へ向かって。




