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神に選ばれなかった勇者と神の真似事をする悪魔  作者: 粉末六茶
第一章 勇者を夢見た少女
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第十話 聖剣の噂

ヴァルドのもとで暮らし始めてから、三年が過ぎた。


アルジェナは十一歳になっていた。


あの日、故郷を失った少女は、今では以前とは比べものにならないほど強くなっていた。


剣を振るう姿にも、迷いは少ない。


ヴァルドとの鍛錬だけではなく、何度か町へ足を運び、食料や生活用品の買い物を手伝うこともあった。


最初の頃は人の多さに戸惑っていたアルジェナも、今では町の道にもすっかり慣れていた。



「ヴァルドさん、これで全部?」


「ああ。食料も買った。あとは戻るだけだ」


「分かった」



買い物を終え、ヴァルドとアルジェナが町の広場を歩いていると、不意に人々の話し声が耳に入った。



「今年の聖剣選別、もうすぐらしいぞ」


「ああ。今回はどんな奴が選ばれるんだろうな」


「勇者が生まれるかもしれないってことか」


「そういうことだ」



アルジェナの足が止まった。


聖剣。


勇者。


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が強く反応した。



「……ヴァルドさん」


「どうした?」


「聖剣選別って……何?」



ヴァルドは一瞬だけ黙った。


そして、広場の人々へ視線を向ける。



「聖剣に選ばれる者を探すためのものだ」


「聖剣に……選ばれる?」


「ああ」


「じゃあ……選ばれたら、勇者になれるの?」


「そうだ」



短い返事だった。


アルジェナは、広場の向こうを見つめた。


聖剣に選ばれた者。


勇者。


かつて父が話してくれた、誰かを守るために恐怖を乗り越えて前へ進んだ存在。



「……聖剣選別って、誰でも受けられるの?」


「条件はある。だが、資格がある者なら受けることはできる」


「そうなんだ……」



アルジェナは自分の手を見つめた。


何度も剣を握ってきた手。


何度も魔物と戦ってきた手。


父から教わった剣。


ヴァルドから教わった剣。


その先に、勇者という道があるのかもしれない。



「ヴァルドさん」


「なんだ?」


「私も……受けてみたい」



ヴァルドはアルジェナを見る。


その目に、驚きはなかった。



「そう言うと思っていた」


「……反対しないの?」


「お前が決めたことならな」


「じゃあ……」


「ただし」


ヴァルドの声が少し低くなる。



「聖剣に選ばれることだけを目標にするな」


「……」


「選ばれなかったからといって、人を守れなくなるわけじゃない」



アルジェナは、その言葉を聞いて黙り込んだ。


それは以前、ヴァルド自身から聞いた言葉だった。


選ばれなかった騎士。


それでも、人を守ることをやめなかった男。



「……うん」


「分かったか?」


「うん」


アルジェナは顔を上げた。


そして、まっすぐにヴァルドを見つめる。



「私、聖剣選別を受ける」


「……ああ」


「勇者になりたいから」


そこで一度、アルジェナは言葉を止めた。


そして、静かに続ける。



「……人を守れる人になりたいから」



ヴァルドは何も言わなかった。


ただ、ほんの少しだけ口元を緩めた。



「なら、今までと同じだ」


「え?」


「剣を振れ。強くなれ。そして、人を守れ」


「……うん!」



町を出る頃には、夕暮れが近づいていた。


アルジェナは何度も振り返りながら、今日聞いた言葉を胸の中で繰り返していた。



聖剣選別。


聖剣に選ばれた者は、勇者になる。



その日から、アルジェナの中に新たな目標が生まれた。



いつか、自分も聖剣に選ばれる。


そして――


人を守れる勇者になる。



この時のアルジェナは、まだ知らなかった。


その願いが、いつか彼女自身の運命を大きく変えることを。

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