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四章 それでも、手を伸ばしてしまう

 青龍のことは嫌いではない。

 いや——むしろ、その反対だ。

 しかしそれは朱雀にとって、決して歓迎すべき事態ではなかった。

 玄武の唆しが始まってから、不本意に青龍を焼いてしまう回数は数え切れないほどになっていた。

 空中に逃げた朱雀は、両腕で自身の身体をそっと抱いてみせる。

 ふわり、と羽根が零れ落ちていく。

 青龍の言う通り身体を密着させるのは、確かに「気持ちいい」ことだ——それは嘘ではない。できることなら飽きるまで身体を合わせていたいとさえ、思う。

 それができないからこそ、燃え盛る炎を青龍が嫌ってくれればいいと、ついそう願ってしまう。

 なのに青龍は、こちらの気持ちなどお構いなしに、純粋な愛をぶつけてくるのだ。

 深いため息と共に、朱雀は空中に向かって両腕を伸ばした。

 羽根からは小さな火の粉が散っていく。

 まるで心のざわめきに共鳴するように、火の粉たちがゆらゆらと揺らめく。

 抱きしめたい。

 この炎で青龍を温めたい。

 その衝動は、官能にも似ていた。

 朱雀は、それが誰かを「愛する」ということだと記憶していた。

 これもすべて——玄武のせいだ。

「朱雀!」

「……っ」

 不意に名を呼ばれ、肩が跳ねる。

 声の持ち主が誰かなんて、見なくても分かっている。

「青龍……」

 逃げ場はない。

 青龍はいつだって、朱雀の熱を見つけてしまうから。

「朱雀、ぎゅーっ!」

「やめろっ! 離せ……と言ってるだろうっ!」

「や~だ」

 青龍は朱雀を抱いたまま、首筋へと顔を埋めた。

「はあ……いい匂い~」

「……っ」

 熱い息が首筋を撫でていく。

 こそばゆさに朱雀の羽根が揺れる。

 呼応するように、青龍の木のエネルギーが大きく燃え上がった。

 チリチリと炎が青龍の服と腕を焦がすが、気にすることもなくその手が身体を撫でていく。

 空中という最も無防備な場所で——身も心も裸になっていくような気分だ。

「朱雀……」

 青龍の熱くなった唇が近づいてきた。

 朱雀は咄嗟に目を閉じていた。

 ちゅっ。

 軽く食まれるように、唇を奪われた。

 角度を変えて何度も唇を味わっていく青龍に、じわじわと熱が広がっていく。おずおずと口を開くと、待っていたとでも言うように、青龍の舌が口内へと侵入してきた。

 煌々と燃え盛る炎が、青龍の顔を掠める。

 ジリッと音がして、小さな火傷の跡がついた。

 すぐに癒えて消えたが、朱雀は自分がつけた傷に胸がざわめいてしまう。

「ん、朱雀……もっと焼いてくれていいから……」

 互いの胸がくにゅりと合わさって、鼓動が共鳴していく。

 漸く唇が離れていく頃には、朱雀の息は絶え絶えになっていた。

 白い頬が、炎のように紅く染まりきっている。

「ふうっ! にしてもあついな~」

「……お前がしたんだろ」

「それもそうだなっ」

 青龍の手がゆっくりと伸びてきて、朱雀の頬を優しく撫でる。

 その手は炎で焦がされているが、全く痛みを感じていないようだった。

「なあ、朱雀」

 青龍は少し身体を離して、まっすぐに朱雀の顔を見つめた。

 その瞳に——炎が映り込んでいた。

「おれ、朱雀のこと、好きだ」

「……っ」

 それは青龍の口癖のようなものだ。

 何度も聞いてきた。

 だから朱雀は、いつも同じ言葉を返す。

「……わた、し…も……」


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