バレた
だけど別に、僕は佐紀さんを好きなわけじゃない。彼女は僕である燈弥を好いているはずだけど……。だけど僕は燈弥じゃない。考え出すと自分が誰にとっての何者なのか分からなくなる。
彼女は確かに笑顔が素敵で明るくて、気も使える良い人だ。燈弥も彼女を知ればもっと好きになるはず。
だけど僕は燈弥じゃない。佐紀さんが好きなのは燈弥であって僕じゃない。だけど今の僕は、佐紀さんにとって燈弥だ。
「手でも繋いでみますか? もし、よければ」
考えても分からなくて、燈弥のためにと思って誘ってみた。僕が好きなわけじゃないから、そこまで緊張はしなかった。佐紀さんは僕の方を見て、七匹の金魚を左手に持ち替えた。金魚は僕から離れて彼女は手を出した。僕の手と、佐紀さんの手が一瞬触れると静電気が走った時みたいに彼女は手を引いた。
そして花火が上がる方を見ながら聞いてきた。
「一つだけ、聞きたいことがあるの」
「どうしたの」と僕は聞いた。彼女は僕と触れた右手をお腹に当てていた。そして半歩僕から離れて言った。
「あなたはだれ?」
一気に背筋が寒くなって汗が湧き出るのが分かった。ジャングルジムのてっぺんから足を滑らせそうになった時みたいに。あなたが犯人です、とでもいうような確信のある問いだった。僕はなんて返そうかまとまらずに口だけパクパクと、勝手に動いた。
彼女からしたら金魚みたいに見えているかも、そんなのんきな考えもできるほど焦っていた。花火が上がった。
彼女は真っすぐ僕を見て瞬きすらしない。ただじっと、僕が何かを言うのを待っていた。
「誰って、トウヤだよ」
僕は答えた。
彼女の目つきは金魚すくいの時のように真剣だった。蛇に睨まれて動けない獲物の気分だった。彼女のポイから逃げ道を探すように目をそらした。花火は今は打ち上げられていなかった。
「そりゃそっか。映画じゃないもんね」と数秒の沈黙の後に彼女は言う。
「ドッペルゲンガーとかシェイプシフターじゃないもんね。なんか今日雰囲気違うなって思っちゃって。とは言っても遊ぶの初めてだもんね。まだお互いに知らないだけか」
「そうだよ。初めてのデートで分かりきるわけないさ。だけど今日で佐紀さんのことは良くわかった気がしたよ。明るくて楽しい人だってね」
それは良かった、と彼女は言った。そして下を向いてまた半歩、後ろに下がる。
「でもさ、今日が初めてのデートじゃないじゃん」
僕はまた言葉が詰まった。もう隠しきれない。そして彼女は追い打ちをかけてきた。
「それにさ、初めて会った時二人で写真撮ったじゃん。写真と黒子の位置が違うの。それはどういうこと?」
僕が彼女との距離を半歩詰めようと足を出すと、彼女は後ろに下がる。僕は出した足を引き下げて、元の位置に戻った。




