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ME TO SEX 僕は僕とセックスをする。  作者: 赤井獺京


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11/13

アイタ、ポイの穴

 本当だったらこの場に燈弥がいて、僕は家で一人だった。だけど佐紀さんからしたらここにいるのは燈弥で、燈真という人間は存在しない。僕は彼女にとって僕じゃない


 狙っていた金魚が近づいてきて、僕は急いでポイを水面に付けた。金魚はポイで揺れた波紋に反応して反対側に回避した。僕のポイは大きく濡れただけだった。もう一度狙いを付けて、ポイを沈めるとぽっかりと穴が開いてしまった。


 その穴に親近感のよう物を感じてしばらく、それを見つめてしまった。


 穴の開いたポイを上げて彼女をその穴から覗いてみた。佐紀さんはその穴から笑顔を見せた。そして大量の金魚もそこから見えた。佐紀さんは金魚を7匹も捕まえた。僕がどうするのそれ、と聞くとどうしようかと言って笑った。

 

 日が暮れ始めてくると、人波はもっと荒くなった。花火大会に向けてみんな移動を始めていた。僕たちはファミレスに入ってドリンクバーとパフェを一つ頼んだ。


 それを二人で分けて食べた。


「田口君、疲れてない?」


 彼女は僕を心配してくれた。僕は大丈夫だと伝えた。


「なんか、途中からボーとしてる時あるから、熱中症になってないかなって心配で、私去年ひどい目にあったから」

「ぜんぜん、大丈夫だよ」と僕は笑みを作った。


「少し考え事をね」


「悩みごと?今日誘っちゃって大丈夫だった?」


「そんなんじゃないよ。どこから花火が良く見えるかなって考えていただけさ。思ったより駅前は人が多いから」

 彼女はそれなら任せて、とスマホをいじった。そしてリンク送ったよ、と僕に言った。急いで燈弥に連絡をした。


『やばい、リンク送れ、早く』と。


 三十秒くらいでリンクは送られてきた。だけどとても長い三十秒だった。「ちょーとまってねー」と変な時間稼ぎをしてしまった。


燈弥から送られてきたのは、河川敷の住所だった。駅から離れたところにある場所だ。何度か通ったことがある。候補の一つにはあったけれど、僕は知らないふりをした。


「ここで毎年、花火を見てたの。人も少なくて静かに見れるのよ」と彼女は言った。


「へえ、穴場なんだね。そこにしようか」と僕は彼女に賛同した。


 花火が打ち上げられる時間まで一時間くらいは余裕があった。日も沈み始めて、涼し気な風が吹き始める。佐紀さんの提案してくれた河川敷まで歩いて三十分くらい、彼女にバスで行こうかと気遣って聞いた。


「私は陸上部よ。まだまだ余裕で歩けるわ。それにバスは混んでいそうだし」


 彼女は下駄を履いて歩きにくそうにしていたのに、陸上部のプライドか全然平気なふりをした。僕は歩こうかと、河川敷に向けて歩き出した。


 駅を反対の改札口まで歩いて、大きな橋を渡った。そこを抜けて河川敷を歩く。目的の場所は川を上流へ登ったところにある。


 目的の河川敷が近づくに連れて人も減ってきて、聞こえるのはセミとカエルの歌声くらいになった。人ごみだと周りがうるさくて、会話が途切れても気まずくは無かったのに、今は二人きりで、歌声だけだと何か話さなくてはと気持ちが焦る。


だけど彼女はそんなこと無いよと言うように、鼻歌を歌い始めた。


僕も知っている曲で、だけど曲名は思い出せなかった。数年前に流行った曲だ。僕も一緒に鼻歌で歌って目的の場所まで歩いた。


「やっと着いたー」と佐紀さんは伸びをした。七匹の金魚はそれと一緒に急上昇した。


「疲れたね、でも金魚が驚いちゃうよ」


 僕は彼女に持ち上げられた金魚袋を指さした。彼女は慌てて下ろして透明な袋の中に詰められた七匹の金魚を見た。

「よかった、大丈夫そう」彼女はほっと息を吐いていた。


 花火の打ち上げまで後十分ほどだった。花火を待っている人たちは何組かいて、家族ずれと、手を繋いだり頭をくっつけたりしているカップルだ。


僕たちは付き合っているわけではないけれど、初めてのデートにしてはいい距離感だと思う。


燈弥に文句を言われることは無いくらいにだ。それなら手を繋いだり、頭を寄せたりするべきだろうか。

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