デートって感じのデート
夏祭りの会場は当たり前のようににぎわっていた。いつもは車の走る道路を封鎖して両脇に屋台が道路に沿って並んでいる。人の流れは車と同じく左車線側を奥へと流れる。反対車線の屋台を見るには奥から帰ってくる時じゃないと見に行きづらそうな感じだ。僕は重原さんの歩くペースに合わせてゆっくり歩いた。
話す話題はお互いの話をしてしまうと矛盾が出てきそうで、お祭りの話題ばかり話しかけた。金魚すくいで持ち帰った金魚を用水路に放したららカラスにパクっと食べられた話や、好きな屋台は何かって話。僕は大判焼きが好きで、彼女は綿あめが好きだと言った。その屋台を見つけると足を止めて、大判焼きを二つと、綿あめを一つ買って歩きながら食べた。クリームと、あんこの大判焼きを半分に割って重原さんにあげた。彼女は綿菓子を千切って僕にくれた。手は砂糖でべたついたけれど、デートって感じがした。
僕は彼女を重原さん、と何度か読んでいると『重原さん』はやめてよ、と言われてしまった。
とはいえ、佐紀、と急に呼び捨てにするのも偉そうな気がしてしまうから、無難に佐紀さんと呼ぶことにした。
「田口君はお祭り好きなんだね。誘ってよかった」
僕がお祭りの話をするばかり、佐紀さんは僕をお祭り好きな人間だと思ってしまったらしい。さすがにこれ以上は他の話題を探さないと、何を話題にしようか考えながら歩いていると佐紀さんはお手洗いに行ってくると言った。公衆トイレ近くの木陰は熱さから逃れようとする人で密集していた。僕は仕方なく、陽の当たるフェンス沿いを指さして、あの辺りで待つと言って別れた。
段差があってそこに腰を掛けてスマホを見ると、燈弥からのメッセージが届いていた。
『調子はどう?』
『ばれてない?』
大丈夫とだけ返事をしてスマホをしまった。トイレは混雑していて時間がかかりそうだった。彼女はこっちを見ていて目が合う。彼女は列を指さして、口を何度か開けて閉じた。きっと、混んで時間がかかりそうと言っているのだと思う。僕は右手を上げて、了解の意味で親指を立ててグットマークをだした。
佐紀さんが戻ってくると今度は入り口に向かって、反対車線側だった屋台を見て回った。こっち側には金魚すくいや射的、食べ物以外の屋台が多く並んでいた。
金魚すくいでもやって見る? と彼女に聞くと、いいけど今度は用水路に流さないでね、と笑いながら言った。
金魚すくいのおじさんに二人分の料金を払ってポイを二本受け取って佐紀さんに渡す。彼女は浴衣の裾をまくって腕を肘まで出した。彼女の腕もこんがりと焼けた色になっていた。
佐紀さんは真剣なまなざしで金魚の泳ぐプールを見ていた。目の黒い玉が、金魚を見て動いている。猫が獲物をじっと、狙っているのと同じだった。彼女は素早く、ポイを水中にいれてさっと引き上げた。すると華麗に、綺麗な赤い金魚が彼女の器に入った。ポイは少しだけ、濡れただけだった。
僕も泳ぐ金魚を見つめた。
金魚が右へ、左へ泳ぐのを追った。そして人ごみの騒音がざわざわと聞こえてきて集中するのを妨げてくる。騒音と一緒に思考が集中を邪魔した。




