7匹の金魚
「わ、悪気があったわけじゃない……」
僕がそういうと、彼女は驚いた顔をして言った。
「あなた本当にトウヤ君じゃないのね」
「はい……」僕は白状した。
バーンと音がして最初のより大きな花火が上がって辺りが明る照らされる。今度は僕が近寄っても、彼女は下がらなかった。
佐紀さんに近づいてまずは自己紹介をした。僕たちは花火に目もくれなかった。
佐紀さんは僕に嘘をふっかけたのだ。本当は今日が初めてのデートで写真も撮っていないと言う。ただ彼女は燈弥の右えくぼにある黒子を覚えていた。佐紀さんも右えくぼに黒子があって、お揃いで運命だと思っていたと言った。
だから今日会った瞬間からおかしいとは思っていたようだ。だけど同じ顔、黒子は勘違いだと思うことにしてデートをしていたという。だけどメッセージ上では佐紀さんと呼んでいたのに、僕が最初重原さんと呼んでいたことや、あいつは左利きなのに、僕が右手でスマホをいじっていたりするのに違和感を感じずにはいられなかったという。
僕が双子の兄弟だと説明すると彼女はあからさまに残念そうな顔をした。それから彼女が燈弥じゃないと気が付いた理由を教えてくれた。彼女はオカルトが好きで、僕の正体がドッペルゲンガーとかそのようなものだと期待したらしい。だから嘘をふっかけて、僕はまんまとハマった。彼女は騙されたことなんかどうでもよくて、僕がただの双子だったということにショックをうけているようだった。
「もうすっごい、ワクワクしてたのに。ドッペルゲンガーとデートしてるって」
彼女のがっかりしている原因に関して、僕は悪くないはずだった、だけど一応ごめんなさいと彼女に言った。花火は終わって河川敷にいた人たちは帰っていく。僕たちは動かなかった。
「トウマ君は私とデートしてどうだった?」
「悪くはないと思ったよ」
「私も、なんだかんだデートしてるなって気分だった」
「でも本当はトウヤが来るはずだった。トウヤならもっと楽しかったはずだよ」
「私は今日のデートが、トウマ君でよかったよ。そりゃ、ドッペルゲンガーが一番良かったけど」そう言って笑う。
「それってどういう?」
彼女は僕の手を握って、僕の頬にキスをした。
「今日のデートは楽しかった。それでいいと思うの」
彼女は帰ろうかと言った。
僕は送るよという。彼女と手を繋いで、僕たちの手には七匹の金魚がぶら下がる。
「聞いてもいいかな?トウマ君は好きな人いるの?」
僕はいるよと答えた。
「好きな人がいるのに私とデートをしたの?」
「僕が好きな人は誰でもないんだ。うまく言えないけれど、そういうことなんだよ」
彼女はそっか、とそれだけ言った。歩いていると用水路が出てきて、僕たちはフェンスに指をかけて水面を見つめた。
「用水路に金魚を流して食べられたんだよね。初めてのデートでその話するかな」
「うん、初めてのデートでする話じゃなかったね。一応だけどこの用水路じゃないよ」
「私の家、金魚鉢無いのよ」
「僕も無いよ」
彼女は七匹の金魚を月明りにかざした。キラキラとした光が袋の中で光る。
佐紀さんは何も言わずに、フェンスの隙間にそれを入れて袋を逆さまにした。静止していた水面に波紋が広がる。すると、ボコボコっと水面の下から大量の何かが浮いて出てきた。それはすぐに静かになった。きっと用水路に放された鯉が餌と勘違いして浮いてきたんだろう。
僕たちは驚いて、そして笑い合った。




