174、魔技の真価
「なんと見事な投げであるか!」
「己が腕を投げるとは…感服致した!」
「流石はヒスイ先輩どのだっ!」
「すぐに回復を!」
自らの片腕と槍を犠牲にして、強敵を倒したヒスイに皆は惜しみなく賛辞を送る。
「あぁ麗しの竜人姫、血だらけの貴女も美しい…」
クワンはうっとりと熱っぽい視線をヒスイに注ぐ。
その男には一瞥もくれずにヒスイは注意を促す。
「私の治療よりも骨魔人の骨を浄化するのだ!
ここはもうダンジョン
復活してしまうぞ!」
「おぉ、確かに」「そうであったな」
ヒスイの言葉を受けて団員たちは聖水がかけられた瓦礫を構える。
「はっ?これはっ!?」
団員は魔技を発動させようとした時に異変に気付いた。
「どうした?」
「この骨はさっきの骨魔人ではない…」
「なんだとっ?!」
角が生えた歪な頭蓋骨を持ち、腕が三本もある骨魔人は一目でそれと判別できる。
ヒスイに胸部を砕かれて、崩れ落ちている骨はいつの間にか一般的な普人族の骨にすり替わっていた。
「きタねェなァ」
「ほンとキたナい」
「あっ!下にいやがるぞ!」
「なにっ!?」
慌てて城壁下を覗き込むと、不死の王に囲まれた鏡映しのような2体の骨魔人が並んで立っていた。
「“身代わり”…?」
「もしくは“空蝉”か」
「不死の王を操り、入れ替えることができる能力…」
「…まるで不死の王の主だな」
「こんな無尽蔵にいる不死の王にホイホイ入れ替われたんじゃ、仕留めることなんてできやしねーぜ!」
「…やってらんねぇ」
「終わった」
テンゲイン・チルドレンが悪態をつく。
確かに追い詰めたとしても入れ替わられてしまえば振り出しに戻る。
こちらが消耗するだけのイタチごっこだ。
チルドレンたちは絶望し、戦うことを放棄する者も出始めた。
「諦めるな
手はまだある」
ヒスイは投げ放った腕を拾いながら静かに告げる。
彼女は柄だけになってしまった愛槍も大事そうに回収した。
「不死の王ごと全て叩き潰せは良いのだ」
「はあ?出来るわけねぇだろ!」
「それに…」
「それに?」
「骨魔人は魔物であり適応種ならば、魔技や魔術を無制限に使える筈はない」
「…!、入れ替えには回数制限があるんだな?」
「あの千手はもちろん、独楽のような回転斬りも…」
チルドレンたちには一筋の希望の光が見えた気がした。
一般的な魔術魔技はその階位において最大回数は9回であることが多い。
あの双子の骨魔人がここに来るまでに戦闘を経てるならば、もしかしたら残り使用回数は少ないのかもしれない。
「我らがやるべきことは、ただ粛々と投げ続けるのみだ」
団員たちは既に覚悟を決めている。
投げ回数を積み上げるのみだ。
団員たちが発現させた“告死無想”は最大使用回数の9回を超えてもHPと引き換えに使用できるという反則的な魔技だ。
団員たちが投げを放って自らの命を削りきるのが先か、それとも骨魔人たちの使用回数が尽きるのが先か。
「大丈夫だ
投神先生が来て下さるまで城壁を守れば、我らの勝ちだ」
「「「おお!投神様!!!」」」
「投神様がおられる!」
「投神様ならきっと倒して下さる!」
「コイツらやべぇな…」
「どんだけ投神を信頼してんだよ…」
投神の名を聞くだけで奮起してしまう団員たちにある種の恐怖を感じるチルドレンたち。
「まぁ、俺たちにとっての勇者様がたみたいなもんか?」
「それならわからんでもない、な…」
「これはお父さんお母さんの弔い合戦じゃねぇか!
女神様のもとにおられる二人に良いとこ見せようぜ!」
「「「おー!!!」」」
それぞれが信じるものを掲げ、アルター攻防戦はさらに激化していく。
団員たちは瓦礫を投擲して不死の王の数を減らし、チルドレンたちはそのサポートと骨魔人へ嫌がらせのような遠距離攻撃をかける。
骨の橋を架けられるのを牽制しているのだ。
分が悪い消耗戦のようではあるが、投神が来てくれさえすれば状況は好転すると信じている。
彼らに焦りはなく、与えられた役割をこなしていく。
仲の悪い軍人と冒険者が奇跡的に上手く協力し合えていることに、各自が小さな驚きと希望を見出すのであった。
「だルぃィ…」
その時、見えかけた希望の光を踏みにじるように現れたモノがいる。
聞き取りにくい言葉だが異様に響く声が城壁上にまで届いた。
「骨魔人…!」
南側から長大な刀をぶら下げた骨魔人が現れた。
気だるそうに骨の足を引き摺っているが、ただならぬ強者の威圧感を発している。
「やッてルぅ?」
「…ハぁモゥいヤ」
「こっちからも!」
「さらに二体…!」
「適正レベルの戦場じゃねぇ…」
「EXダンジョンか、ここは」
「…今度こそ、終わた」
北側からやってきたのは奇っ怪で無駄な動きをする戦士系装備の骨魔人と、絶望するように項垂れている魔術師系の装備をした骨魔人だ。
5体の骨魔人は集合し、パーティーを結成する。
フルパーティーには1体足りていないが、パーティーの強みを熟知している冒険者たちは完全に諦めてしまった。
まるで自分の実力を把握していない新入りが調子に乗ってダンジョンの奥に踏み込んだような、“詰んで”いる状態なのだ。
「…ダるィんダがッ【カブトワリ】」
気だるそうな骨魔人は長大な刀を大上段から豪快に振り下ろした。
不死の王ごと吹き飛ばして衝撃波が迫りくる。
「やべっ!避けろ!」「退避っ!」
衝撃波は城壁に当たり、轟音を立てる。
大地震のような揺れが襲い、人々は姿勢を低くして床や壁にしがみついた。
「城壁が…割れた…」
「あり得ねぇ、たった一発の魔技で…」
揺れが収まり、状況を確認した団員や冒険者が呻くように呟いた。
城壁は上から下まで真っ二つに切断されてしまっていた。
数人が一度に通れる程の通路ができたのだ。
「人類を守る盾が…!」
「とうとう“女神の加護”が切れたか…」
「兜どころか、城壁割りじゎねぇか!」
「やっば魔人に人類は勝てねぇんだって!」
城壁は街の“三条件”である、城主・ギルド・教会が正しく機能していると、女神の加護によって強固なものになる。
元魔人とはいえ、たった1体の魔技攻撃で城壁は切断できるものではない。
しかしこの街はひっくり返った。
支配の移行期間となっており、加護の空白時間がきたのだ。
この城壁はもはや女神に祝福された“城壁”ではなく、粗悪なレンガと土でできた脆い壁でしかない。
「本格的に魔人領となってきたか…」
「それにこの魔素量…
そろそろ魔術をぶっ放せるぞ」
魔人の支配地域はダンジョンを含めて魔素が満ちる。
人類側も魔素を利用するが、魔人の使う魔法は文字通り奇想天外な効果を発揮する。
元魔人のアンデッドたちも魔素を使ってどんな攻撃を仕掛けてくるのかは不明であり、対策がたてられない。
「……【竜爪撃】!!!」
鮮やかな翡翠色の竜が天より突撃する。
ヒスイだ。
片腕と愛槍を失ってもなお、予備の槍で攻撃を仕掛けたのだ。
自分たちの優位性の拠り所であった城壁を切られ呆然としていた人類を尻目に、ヒスイは攻撃の為に飛び上がっていたのだ。
「うェい☆」
ヒスイは技後硬直中の長刀を持つ骨魔人を狙ったのだが、やたら軽快な骨魔人に迎撃されてしまった。
「ぐはっ」
魔技から発生する三条の斬撃を三本の腕に持った小剣で相殺し、残る一本の腕の小剣で斬り返したのだ。
「「ヒスイ先輩どの!」」
「行くぞっ!」「「「おおうっ!」」」
ヒスイは予備の槍を咄嗟に翳して致命傷を免れたが、槍は大きく弾き飛ばされてしまった。
ヒスイを救うべくただの壁と化した城壁から飛び降りる団員たち。
「あ〜麗しの竜人姫が!アイラっ、お前も助けに行け!」
「なんだと!?」
「誰でも良い、さっさと行け!」
チルドレンたちを蹴落とすように城壁下に向かわせるクワン。
「ヤっテるゥっ♪」
四本腕に握られた小剣をクネクネと動かしながらヒスイに追撃する骨魔人。
片腕を失い、武器も手にしていないヒスイの命は風前の灯にみえた。
「先生の与えしこの技…
まだまだこんなもんじゃないぞ」
ヒスイの残された手元に現れるのは燃え盛る槍。
彼女が唯一使える黒魔術【炎之槍】だ。
第三階位の火系単体攻撃魔術がディレイ状態で発現されている。
「【告死【炎之槍】無想】」
ヒスイは炎の槍を投げた。
第三階位とは思えない強烈な炎の尾を引いて光線のように長刀を持つ骨魔人を貫き、文字通り消し去った。
炎の槍の余波を受けた四本腕の小剣を持つ骨魔人も業火に焼かれて転げ回っている。
「これは…複合魔技?」
駆けつけた師団長シャオスの声は震えている。
告死無想の真価を見せられた衝撃は彼自身にもよく分からない感情を掻き立てられていた。
ステータスの告死無想の詳細欄を確認するシャオス。
「…そういうことか!」
「これが先生の与えし力だ」
投げ終わった姿勢を保ち、ヒスイは高らかに宣言する。
「投神先生はこんなもんじゃないぞ
骨どもよ怯えて待つがよい!」




