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3.彼女のプロローグ

三話目、最終話です。

「う、ん……。ここは……?」

「学校の保健室だ。ちなみに時間は昼休みだな」


 目を覚ましたメリーエステルは、付き添っていた夏目の声を聞いて意識が覚醒していった。

 そして思い出す。


「……私、負けたんですね。魔力を大して持たないやつに」

「富城は魔力こそ持たないが、ウチの実技成績一位だ。気に病むことはない」


 言われてメリーエステルは黙り込む。

 その顔には不思議と険がなかった。


「……不思議。昔に負けた時はもっと悔しかったのに、今はなんでかすっきりしてる。もちろん悔しさはあるけど、重い荷物をやっと下ろせた気分」


 ずっと、勝てば才能のおかげと言われてきた。

 魔力を高めるために重ねてきた血統のおかげだと。

 努力を認められることはなかった。

 それどころか、勝つほどに「これが才能か」と言われ、勝つことで努力を否定しているような気持ちになっていた。

 けれど今日。大した魔力も持たない、天才と言われない少年に敗北した。

 才能が全てではない、努力は報われると。

 そう、言ってもらえた気がした。


「……そうか。気分がいいなら何よりだ」


 夏目が予想以上の効果に表面上はうっすらと、内心ではにちゃあと笑っていると、がらっと保健室の扉が開いた。


「もう起きたのか」


 富城武臣である。パンをかじりながらメリーエステルに近付き、ベッドの傍らに立つと同時に飲みこんだ。


「気分はどうだ? かなり思いっきり蹴飛ばしたけど」

「……悪くないわ、不思議とね」

「そっか。後遺症がないなら何よりだ。……パン食う?」

「いただくわ」


 差し出されたジャムパンをかじるメリーエステル。イチゴジャムの程よい酸味は寝起きでも無理なく食べられた。

 ふたりがもそもそパンを食べているうちに夏目はいなくなっていた。

 あとは若いもんに任せて、保健室のすぐ外で聞き耳を立てていた。


「それで、どうしたの? 負けた私を笑いに来た?」

「そんなに性格悪く見えるか?」

「見える」

「……そうか」


 ちょっと傷付いた様子の武臣。はあ、と溜め息をついてうつむいた。

 けれどすぐに顔を上げた。


「ちょっと言いたいことがあって来たんだよ」

「言いたいこと?」

「ああ、よく聞いとけ」


 にやりと笑い、武臣は自慢げに言うのだ。


「安心しろ、お姫様。ここには才能がどうとかくだらないことを言うやつは存在しない。存在したけど、そういう連中は一年もたずに落伍した。

 今在学してるやつらの共通認識は『勝ったやつが強い。負けたやつが弱い』だ。才能がないやつは知恵と努力で補って当たり前。できないのはそいつがヘボいから。負け惜しみを言う暇があったら訓練なり復習なりして次に備えろってことだな。それが無理ならさっさと辞めてヨソへ行けって話。

 ほら、才能ないくせに努力もしないなら、いるだけ邪魔だろ?」


 手ひどくも、メリーエステルには優しいことこの上ない言葉を。

 メリーエステルは目に涙を溜めていた。

 感動していた。


 武臣の言葉の続きを聞くまでは。


「ここには努力する天才と苦境を望む秀才しかいない。才能があっても努力が足りなきゃ及ばない。才能がなければ血を流して補う。そういう場所なんだぜ、ここは」


 びきっと顔が引きつった。

 武臣がすっごく邪悪な表情をしていたから。


「あらためまして、だ。

国立魔導機士育成高等学校じごくへようこそ、お姫様」


 嘘も誇張もまったく感じられない口調で言われ、メリーエステルは袖でたまった涙をぬぐった。

 無理をして、牙を剥くような攻撃的な笑顔を作った。


「いいじゃない、上等よ! 私の力、見せてあげるわ!

 そ、それと。お姫様って呼ばないで。メリエでいいわ。特別に、そう呼ぶことを許してあげる!」


 メリエの留学生活は、ここから始まる。








―――

蛇足な話



「そっか、じゃあメリエ。お前が試合前に言ってた下僕がどうのって話なんだが」

「!?」

「邪魔だからいらない。道具とか勝手にいじられたら困るし」

「じゃ、邪魔!? 言うに事欠いて邪魔!?」

「うん。同級生でライバルだし」

「……ら、ライバル。ならしょうがないわね」

「それと寮のことなんだけど――」


 なんて言っていると武臣の携帯電話がヴーと鳴った。

 会話を断ち切って電話に出る。


「もしもし、武臣です。はい、ってことは……はい。ありがとうございます。じゃあ明日から……あ、今日からオッケーですか? 助かります! はい、またあとで御挨拶に伺います。はい、失礼します」


 ぷつっと通話を切った。

 武臣は晴れ晴れした顔で、


「こないだこっちに引っ越してきた親戚的な人が、部屋空いてるから使っていいって言ってくれたから、俺は寮を出るよ。快適な一人部屋ライフを満喫してくれ」

「!?」

「ちょっと待て!?」

「!!??」


 武臣の発言に驚くメリエ。がらっと保健室のドアを開ける夏目。さらに驚くメリエ。


「こっちはお前にお姫様の世話をさせようと思っていたんだぞ?」

「俺の知ったことじゃないですー。頼まれてないですし。ていうか王女様と同室って絶対面倒事のオンパレードじゃないですか。ていうかイーゴス王国に知られたら大問題と違います?」

「お前ならうまく隠し通せるだろ!?」

「ヤですよめんどい。俺は特待生を維持するために勉強と訓練しなきゃいけないんです。余計なことにかかずらってる暇なんかありません」

「よ、余計? めんどい? ……私、仮にも王女なんだけど。扱いひどくない……?」


 先ほどとは別の意味で涙目のメリエをほっぽって、武臣と夏目の戦いが始まった。



お付き合いいただきありがとうございました。


もう一話投稿してありますが、ばーっと考えてある設定をのっけただけです。

もし続きを書くとき用のおぼえがきです。

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