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2.決闘

 一時間もしないうちに決闘準備は完了。

 聞きつけた連中が校門前で面白おかしく言いふらしたため、全校生徒の大半は決闘のことを知っており、決闘場に集っていた。

 決闘場は小型のコロッセオといったふう。ドーナツ状に並んだ観客席と、真ん中に戦場。

 この戦場。すばらしく都合がいいことに、結界を張っている最中に中でした怪我は結界解除と同時にすべて治る。骨折しようが死のうが元通りの御都合ワールドである。超便利。


 決闘場。戦場には三人の男女。

 富城武臣とメリーエステル・フォン・イーゴス。そして審判を務める夏目貴美鳥である。

 うおおおお、と大歓声に包まれていた。


「よく逃げずに来たじゃない」

「テンプレ台詞をアリガトウ。ちなみに俺が逃げてて待ちぼうけ喰ったらどうするつもりだったんだ? 決闘に関する法律なんてこの国にはないから、あんたが付けた条件にも法的な拘束力なんてないぞ?」

「うるさい! あんたのホームで戦ってやるんだから、四の五の言うんじゃないの!」

「……ホーム?」

「大層な人気者じゃない。この大歓声!」

「いやいやいやいや、よく聞けよ」

「……は?」


 言われてメリーエステルは耳を澄ませた。


「富城てめえお姫さんの半裸みたとかうらやましいぞクソが! 負けろ!」「いつまでも実技一位を独占してんじゃねえ、負けろ!」「そんなやつ叩き潰してメリーエステル殿下!」「姑息に戦うんじゃねえぞ富城、負けろ!」「いつも小細工しすぎなんだよ、芸達者! 負けろ!」「ばーかばーか!」「手の内さらせバカ!」「やっちまえお姫様!」


 8:2の割合で、武臣への罵倒:メリーエステルへの声援だった。


「うっせえバカ共! 負けたくないなら頭使え!」

「使ったら使ったでそれを利用するだろうがクソ富城! ぶっ殺すぞ!」

「できるもんならやってみやがれザーコザーコ!」

「てめえ次の個人戦は覚えてろよ!」

「覚える価値がある試合をしてくれたら覚えてやるよ!」


 唖然とするメリーエステルに構わず、罵声に罵声を返す武臣。慣れっこなので今さら怯んだりしない。

 ヒートアップした観客が武臣目がけていろんな者を投げつけた。


『観客のみなさん、物を投げないでください!』

「そーだそーだ、観戦マナーを守れ!」

『富城が投げられたものを利用してなんか仕掛ける可能性が高いです! 不公平ですので富城に利する行為はやめてください!』

「そっちか!?」

『夏目先生、フィールドの掃除を要求します!』

「よろしい、許可する」


 ノリノリな放送部の連中が放送を流すとピタッと物を投げる手が止まった。

 数分で掃除係によって綺麗に片された戦場で、改めて武臣とメリーエステルが向かい合う。


「それじゃあ気を取り直して始めますか」

「そうね。こんなくだらない騒ぎ、さっさと終わらせましょう」

「始めたのはあんたじゃなかったっけか」

「うるさい」


 メリーエステルは柄と刀身の腹の部分が機械化した剣を構える。


「《プロミネンス》起動なさい」


 そう唱えると刀身から炎が奔る。

 学校支給品ではない、メリーエステルの専用魔導機 《プロミネンス》。膨大な容量メモリと絶大な変換、強化効率を誇る最高級の魔導機ギアである。推定価格10億円。


「……? どうしたの、あんたも構えなさい」

「え、構えてるだろ、ほら」

「構えてるって、素手じゃない」


 武臣は魔導機を見せることなく、格闘技っぽい構えをとっていた。


「あれだ。お前ごとき、魔導機を使うまでもないってことだ」

「……言うじゃない!」

「お姫様! 気を付けろ! そいつ、左手あたりにこっそり魔導機仕込んでるぞ!」

「………………」

「……だそうだけど?」

「いきなりネタ晴らしすんなバーカ!」


 観客の声に怒鳴り返す武臣。その左手首には小さなブレスレットが付けられていた。


「ついでに言うと富城はもうひとつ魔導機持ってるぞ!」「学校支給のやつ!」「そいつの糸には見えるものと見えないものがあるから気を付けろ!」


「……だそうだけど?」

「戦う前に人の手の内ばらすんじゃねーよアホ!」


 ホームのはずなのに武臣が完全にアウェーである。自分の情報をガンガンばらされている。


「さっきも仕掛けるとか言われてたし? その糸で姑息に罠を仕掛けて戦うのかしら?」

「それもするよ畜生め。さっさと試合始めてよ夏目先生」

「おお、じゃあ試合開始」


 適当に試合が始まった。


「焼き払え《プロミネンス》!」


 開幕早々猛火を放つメリーエステル。

 魔導機は変換器である。人間の持つ魔力を、仕込まれた式に従い魔法という形で放つのだ。

 メリーエステルは膨大な魔力を持つ。それを活かしたぶっぱである。フィールドの半分、武臣がいた側が炎に包まれた。


「この火力を受けて無事でいられるはずがないわ。レジストもできなかったみたいだし、この程度か」

「いやホントすごい火力だな。当たってたら死んでたわ」

「!?」


 隣から聞こえたのほほんとした声にメリーエステルは目をむいた。

 武臣である。平然と生きていた。


「あんた、どうやって!?」

「どうやっても何も、普通に走った避けただけだけど。あと部分的にレジストした」


 メリーエステルは猛火で自分の視界を塞いでいたため気付かなかったが、武臣は最小限の防御魔法を使って炎の勢いが弱い場所を走ってきたのだ。


「……今、あんたは私に攻撃できたはずよ。しなかったのはなんで」

「いやさ、何が起きたかも分かってない相手をボコッたところで敗北感なんて与えられないだろ? イカサマだー、とか言われたら腹立つから、全力出させて倒そうかと」

「言うじゃない」


「おい、イカサマ師がなんか言ってるぞ」「普段なら油断してるところをこれ幸いと叩くくせに」「なんか企んでるんじゃね?」


「うるせーよ外野! イカサマなんかしてねーっつの! ルールを破らない範囲でいろいろやってるだけだっつの!」

「うるせえ努力マン! 試合に集中しろ! そして負けろ!」


 試合が始まっているのに自分そっちのけで観客と言い合う武臣を見てメリーエステルはぷるぷる震える。


「いいわ。本気でやってあげる。後悔なさい……!」

「おお、来い来い」


 先ほどよりも範囲を絞った猛火を放つメリーエステル。

 炎で牽制し、近寄って剣を振るう。魔力による身体強化も相まって、その剣は速い。

 武臣は下がったり横に体をずらしたりして攻撃を回避。隙を見計らってメリーエステルに薄く緑色に発光する糸を伸ばす。

 メリーエステルは糸を焼き払う。


「これが例の糸ってわけ? ……なるほど、こっちが見えない糸」


 剣をもう一振り。体に絡みつこうとしていた、目を凝らさなければ見えないほど色の薄い糸を斬った。


「タネは割れた。格闘術が優れてることは認めてあげる。でも、それだけ。いいわよね、この程度で優秀者って言われて、努力を認められるなんて」

「努力を認められてることは認める。でも、それがなんだって言うんだ」

「大した魔力がないから姑息に戦って、それが上手くいけば『よく頑張った』。簡単に認められる。それが恵まれてるって言ってるの」

「まあ、そうかもしれないけど。その口ぶりだとあんたは認められたくて強くなってるように聞こえるんだが?」

「違う! 強さを認められたいんじゃない! 私の努力も知らずに天才天才って言うやつに腹が立つって言ってるのよ!」

「努力を認められたくて戦ってる、と。あはは、くだんねー」

「ッ!」


 メリーエステルの感情の高ぶりを示すように炎が爆発的に膨れ上がった。


「くだらない、くだらないですって!?」

「あ、悪い。俺の価値観を押し付けるようなことを言った。俺は、自分が認められてるのは結果を出したからだと思ってるだけ。あんたの大事なものをくだんねーって言ったことは謝る」

「……もう謝ったところで許さない。焼き尽くしてやる」


 剣から放たれた炎が鳥を象る。

 初手のぶっぱをはるかに上回る超高温。相手を焼き殺すための轟炎。

 明らかな殺意を放っていた。


「終われ。それなりに強かったことは認めてあげる」


 完成した炎鳥が武臣目がけて飛び出した。


「……たまに思うんだけどさ。こうして形に拘る意味ってあんの? 無駄に魔導機の容量食うだけじゃん。発動にも時間かかるし」


 武臣は左手をくいっと動かした。

 するとメリーエステルがバランスを崩した。


「なっ!?」


 足を引っ張られる感覚。メリーエステルは見えない何かに捕まっていた。

 そのまま手繰り寄せられ、炎鳥の前に放り出される。


「っ、消えろ!」


 このままでは直撃する。メリーエステルは炎鳥を消した。

 全身に炎をまとい、武臣に付けられていた糸を焼いた。


「……これが本当の見えない糸だったってわけ」

「ご名答。さっきあんたが見えない糸と思ってたのは、頑張れば見えるよう調整しただけの見える糸。こっちが本命の見えない糸」


 接近戦をした時にメリーエステルの足に、本当の見えない糸を絡ませておいたのだ。

 メリーエステルにはわざと見やすくした糸と、目をこらさなければ見えないよう、目をこらせば見える程度に出力を調整した糸を見せた。見えない糸のことを誤解させるためである。


「さて、お次はどうする? 俺はそろそろ飽きて来たんで終わらせたいんだが」

「……いいわ。なら私も本気を見せてあげる」


 メリーエステルは後ろに跳んで距離をとる。

 武臣はそれを黙って見ていた。


「はああああ!」


 矢継ぎ早に放たれる炎の矢。武臣はそれをちょこまかかわす。

 光魔法の幻術を使い、自分が走る無数の像をメリーエステルに見せることで攪乱する。


「くそ、鬱陶しいわね……! なら、これでどうだ!」


 メリーエステルは特大の業火を放つ。

 まるで津波のような炎は渦となりフィールド全体を焼き払った。


「これなら、かわしきれないでしょう……?」

「かわすのは無理だったな。当たらない場所に居たから当たってないけど」

「!?」


 武臣は光魔法の幻術で『走って攻撃をかわす自分』を投射しながら、自分の姿が見えづらいよう光魔法を使ってこっそりメリーエステルに近付いていたのだ。

 ちなみに。投射したのは最初のぶっぱの時に記録した炎の中を走る自分の姿である。

 フィールド全体を焼き払うと言っても自分を焼くわけにはいかない。メリーエステルの近くは安全圏であると予想して。


「じゃあ、終わりだ」

「私には魔力の鎧があるわ――! あんたの攻撃力で破れると思わないで!」

「破らないから問題ないよ」


 慌てて離れようとしてバランスを崩したメリーエステルは魔力の鎧を展開する。

 武臣は構わず、その側頭部に上段回し蹴りをくれた。

 つま先に鉄を仕込んだ靴。蹴りは過たずコメカミを打ち抜く。

 魔力の鎧と言っても衝撃まで完全に殺せるわけじゃない。

 頭をピンポイントで激しく打たれたメリーエステルは脳震盪を落として昏倒した。


「勝者、富城武臣!」

「圧倒的勝利」


「ぶー!」「お姫様に蹴りくれてんじゃねー!」「ぶーぶー!」「真っ向戦ってみやがれ、そしたら俺でも勝てるから!」


「うるせえバーカ!」


 勝ち名乗りを受けて拳を掲げた武臣はブーイングを受けた。


次で終わり。

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