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1.出会い

一万字程度の勢いで書いた話。

今日中に残りの話も投稿します。

『昨日17時、イーゴス王国からメリーエステル・フォン・イーゴス王女殿下が――』

『メリーエステル王女殿下はその魔力と技量から天才と呼ばれており――』

『留学に――』


 早朝。そんなニュースを流すテレビを消し、富城ふじょう武臣たけおみは寮の自室を出た。

 学校指定のジャージを着こんで走り込み。

 国立魔導機士育成高等学校の朝にはありふれた光景である。

 朝から激しい訓練を行う者もいるが、武臣は体を温める程度に留める。朝から全力で動くよりも一日通して鍛える方が武臣には合っていた。

 三十分ほど走ったところにある公園で軽く体操をし、寮に帰る。

 帰りは行きよりもペースを速め、出発から合計一時間程度で寮へと帰ってきた。

 カードキーでドアロックを解除。ドアを引く。

 するとそこに。


「……は?」

「……へ?」


 深い緋色の髪を腰まで伸ばした、麗しい少女がいた。

 髪よりさらに鮮やかで澄んだ宝石のように赤い瞳。普段は凛々しいはずの表情も、今は驚きで年相応の隙を見せていた。

 肌は絹のように白く、なめらか。胸元はほどよく膨らみ黒い下着を押し上げている。腰から尻にかけてのラインは蠱惑的と言うほかない。控えめなフリルで飾られた黒い下着はなるほど、彼女の魅力の邪魔をせずに肌の白さを引き立てるベストな選択である。


 そう。彼女は下着姿だった。


「き、きゃ――――」

「!」


 国立魔導機士育成高校(通称マッキー)の制服で胸元を隠し悲鳴をあげようとする少女に、武臣は猛然と踊りかかった。

 顔面狙いの掌打はフェイク。そちらにひるんだ隙にもう片手で鳩尾を殴る。


「かッ――――!?」


 殴られた拍子に酸素を吐き出し姿勢を崩した少女にそのまま突っ込んだ。

 腕の関節を極めて少女の体を裏返し、押し倒す。対応される前に首に腕を回し、頸動脈を圧迫する。

 しばらくジタバタもがいていたが、十秒ほどでクタリと力が抜けた。

 少女は登場からに十秒足らずで酸欠で気絶したのである。

 そして、気絶させた武臣は。


「……? この部屋に不法侵入できるやつにしては弱すぎるな。窓や出入口に無理やり開錠した様子はなかったし。どうやって入ったんだ? ……とりあえず寮監に連絡するか」


 自室で倒れた半裸の美少女にイタズラなんてすることなく、


「その前に拘束だけしておくか。ベッドに寝かして四隅それぞれに四肢を縛り付けて……」


 なのにものすごく犯罪的な絵面を作ってから、武臣は不審者を捕まえたと寮の先生に連絡したのだった。


―――


「……ありえません。友国に留学に来た王女になんたる仕打ちをするのですか!」

「も、申し訳ありません! ほら、富城くんも謝って! 頭下げて!」

「えー」


 寮の応接室。スーツ姿の女性が必死に頭を下げていた。

 相手は武臣がサクッと締め落とした紅色の髪をした少女である。

 一方。スーツ姿の女性の隣に立つ武臣は謝れと言われて嫌っそうな顔をしていた。


「だって、俺悪くないじゃないですか。昨日この国に来たばっかの王女様が自分の部屋にいるなんて、よっぽどな妄想癖の持ち主じゃないと思いつきませんよ? 連絡だって口頭でもメールでももらってませんし。学校側の不手際であって俺の責任じゃありません」

「……あなた! 人の裸を見ておきながらその態度は何なのですか!?」


 平然と抗弁する武臣に少女――イーゴス王国王女、メリーエステルが噛みついた。


「裸じゃなくて下着姿でしょう。ていうか、あんな生活感タップリの部屋に通されてすぐに服を脱ぐ方がおかしい。ナニ考えてたんですか?」


 武臣はひるむことなく返した。

 武臣の部屋には各種家財に勉強道具の他、魔導機を整備するための工具類も置かれている。部屋に入って『利用者がいない』と考える方が不自然である。

 メリーエステルが外交で優位に立つため下着姿で待ち構えていたのでは、とすら考えていた。


「っ、もうすぐ投稿する時刻だから制服に着替えようと思ったんです! ルームメイトがいるとは聞いていましたが、普通は女子寮に通されたものと思うでしょう!?」

「それは、たしかにごもっとも。でも、それは俺も同じなんですよ。ウチは男女で寮が分かれてないと言っても男女別室が基本だし、これまで一人部屋だったところに女の子がいきなりいると思わないでしょう? ……ていうか、ルームメイト? 夏目先生、説明を」


 促されたスーツ姿の女性、夏目貴美鳥きみどりが顔を上げ、渋い顔をして口を開く。


「殿下のご希望では、切磋琢磨できるような学園でも最上位の使い手との相室を、とのことでしたので、こちらの富城武臣と同室していただくことにしました。性別まで指定されていませんでしたし」

「「あなたは馬鹿ですか」」


 武臣とメリーエステルの台詞が被った。

 ただし声のトーンはまるで違う。

 武臣が呆れを多分に含んだものであるのに対し、メリーエステルは顔を真っ赤にしてありありと怒っていた。


「だって、他の成績上位者はもうルームメイトいるし。総合成績二十位以内で、部屋を一人で使ってるのなんて富城だけだし」

「だからって一国の王女サマを思春期真っ只中の野郎と相部屋にするとか正気ですかアンタは」

「まったくです! 何かあったら国際問題ですよ!?」

「富城なら思春期でもみだりに女に手ぇ出したりしないっていう信用だよ」


 最初の恐縮した態度がだんだんと剥がれ落ち、夏目の対応がぞんざいになっていく。


「そりゃ手なんか出しませんけど。めんどいし」

「……ずいぶんな言いようですねえ、富城武臣。人の下着姿を見ておきながら」

「……メリーエステル・フォン・イーゴス王女殿下。不注意から下着姿を見てしまったこと、心よりお詫び申し上げます。なにとぞ、平にご容赦を」


 さきほどとは打って変わって武臣はしっかりと頭を下げた。

 だんだん面倒くさくなったのである。

 部屋には秘密道具がワンサカ転がっていて、さまざまなトラップをしかけ鉄壁の寮のセキュリティをさらに強化している。そこに侵入した相手だからと言って問答無用で昏倒させてしまったのは確かによくなかったかもしれない。冷静に考えてみれば、普通に鍵をあけて入った可能性に気付いてしかるべきだった。

 自分にもまったく非がないとは言いづらい。

 なのでさっさと頭を下げて場を丸く収める方向にシフトした。


「ふん、はじめからそうして頭を低くしていればいいのです! まったく、こんな男が本当に成績上位者? 魔力量もたかが知れていますし、この学校のレベルが疑われますわね!」


 シフトしたのだが。

 その発言を聞いてちょっとカチンときた。

 視線を夏目にやると、ニヤリと笑っていた。

 夏目が武臣に向けた視線を言語化するとするなら、その内容は『やっちまえ』。

 初めからそのつもりだったのか、と武臣は内心溜め息をついた。

 けれどまあ、構わない。夏目の思惑なら乗れば何がしかの手当があるはず。武臣自身、むかっ腹が立ったのは事実なのだ。


「王女さま、今の発言は取り消していただきたく思います」

「ふぅん? 大した魔力も持たないくせに自尊心は一丁前なのね」

「ああ、取り消してもらいたいのは俺の魔力量のことじゃない。この学校のレベルのことだ」

「はい?」

「お前みたいなやつが舐めていい場所じゃない。レベルを疑うと言ったのを取り消せと言っているんだ」


 武臣は顔を上げ、冷たい視線を向けた。

 メリーエステルは不快感もあらわにする。


「取り消せ? 誰に命令しているのですか、学生風情が」

「残念、話は聞いたよ。ここにいる限り、あんたもその『学生風情』だ」

「……大きな口を。こんな極東の田舎で優秀な成績をとった程度でずいぶんと調子に乗っているようですね」

「こんな極東の田舎に留学させられたあんたの程度が偲ばれるな。さっきから自分の品位を貶めるのが好きなのか? 変わった趣味だな」


 ぎりっとメリーエステルが歯を食いしばった。

 怒りを通り越して殺気すら放っている。

 武臣はそれを鼻で笑って受け止めた。

 すると、メリーエステルの表情が一変した。

 怒りの形相が、嗜虐的な笑みに変わったのだ。


「それだけ大きな口を叩くのですから、証明する覚悟はあるんでしょう? 私たちは形が変われど騎士。騎士のいさかいに決着をつける手段は、昔から決闘と決まっているわ」


 言ってメリーエステルは手袋を外し、武臣に投げつけた。

 手袋を投げて相手にぶつける。それは古来より伝わる決闘申し込みの作法。

 武臣はそれを、反射的にすいっとかわした。


「…………………」

「……………ぷっ」

「……………あ、悪い」


 メリーエステルが顔を真っ赤にして、夏目が失笑した。武臣は申し訳なさそうに落ちた手袋を拾った。

 びきっとメリーエステルのコメカミに血管が浮いた気がした。


「……それを受け取った以上は決闘を受けなさいよ! 絶対だから! 負けた方が相手の奴隷よ、死ぬまでこき使ってやるんだから! あんたは部屋から追い出して通路で生活させるから!」

「勢いで誤魔化そうとしてるぞ、こいつ。ていうか相手が決闘を受けてから条件をつけるとか卑怯くないか」

「ああ、ついでに口調もがっつり崩れてきたな」

「~~~~~~~~~!! うるっさい! 決闘はこのあとすぐよ! 異論は認めないから!」


 タッ、といたたまれなくなったメリーエステルは応接室を飛び出した。

 それを見送った武臣と夏目は、


「ってことになりましたけど。これがあんたの狙いですよね、夏目先生」

「実にグッジョブ。あの子、天才って言われ続けていろいろこじらせてるみたいでね。せっかく留学してきたんだからそのへんをどうにかしてやろうと思ってな。ほら、私は先生だから」

「魔力量なんて俺の十倍はありそうですし。君は強いな、でも才能だけじゃないんだな、とか言ってやればいいんですか?」

「いや、完膚なきまで叩き潰せ。才能もクソもないことを、物理的に思い知らせてやれ」

「……了解。今回の決闘騒ぎ、手当てとか出ます?」

「お前は手の内を一部公開するわけだからな。といってもあのお嬢ちゃんはお前の研究をしていない。既存の手札だけでいけるだろう? 食券五千円分でどうだ」

「いやいや、一国のお姫様に関わるなんて特大の厄ネタを引き受けたんですよ? せめて三万くらいは」

「喧嘩を売ったのは半分くらいお前の意思だろう。六千円」

「つってもそっちが促さなきゃ――」


 手当は食券一万円分で手を打つことになった。

 夏目の財布がちょっと貧しくなった。


「っと、そうだ。一応連絡だけしておくか」


 武臣は応接室を出る前に携帯電話を操作した。


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