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第41話 本当の真実は、フルムーンと共に


 大妖怪で最強の奉公屋だった輝龍、その強さを疑う者はいなかった。

 けれど、七区ななくの大頭ギュウジャッガンと、その妻ワカチカとの戦いで命を落とした。《封印》が、彼女の限界だった。爝火は、妻を裏切った最低な夫を演じて七区を滅ぼすーーーーーという筋書きを思い付いたのは、輝龍の一番弟子、無敵怪盗である。これには、訳があった。


 輝龍は、確かに大苦戦していた。

 お盆の森が、風の荒海になっていたくらいだ。

 悪名高く、地獄の鬼より質が悪い、卑劣な連中の親玉は、予想以上に強かった。

 ギュウジャッガンが放った、最後の地獄の牙を、はね返せぬ程に、輝龍は疲弊していた。

 あわや、という絶体絶命の大ピンチに、抜群のタイミングで出没したのが、ジェラルディンである。


 「どうして、ここに?」


 背に庇った師匠の不思議そうな顔を見て、ジェラルディンは、にこっと笑った。


「弟子が、師匠を助けるのに、理由がいりますか?私は、あなたの一番弟子ですよ」


 肩には、文鳥のセーシュも乗っていた。

 セーシュも、青みがかった銀色の、美しい羽を揺らして笑った。


ガラスたちが、知らせてくれました。微力ながら、お助け致します」


 羽もないのに、自由自在に空を舞う。 

 大胆不敵で予測不能、絶対無敵の怪盗に、盗めないものは何もない。

 夜風も星々も、闇でさえ少女の味方だ。


「少し休んで下さい。後は、私が、引き受けます」


 ジェラルディンがそう言うと、夜風が輝龍を包み込み、そのまま空へ昇って星空に留まった。

 それを見届けて、ジェラルディンは、七区ななくの大頭ギュウジャッガンと、その妻ワカチカに向き合った。

 

「この森は、特別な森なんだ。随分と勝手をしてくれたね。何より、私の最愛の師匠を傷付けた。その罪、その死で償って貰う。よくも輝龍さまを!!」

  

 ジェラルディンが放ったのは、時の満月だった。

 満月に直接触れた者は、一瞬で寿命を迎えてしまう。

 それなので、ぶつけるだけで十分だった。

 しかし、最愛の師匠が、ボロボロになっている痛ましい姿を見た時、ジェラルディンは激怒した。


「ジェラルディン!!駄目よ!!当たった樹々を殺してしまう!!森が、なくなるわ!!」


 それは、一瞬の出来事で、文鳥のセーシュが、止める間もなかった。

 本当は、満月の一部を千切って投じるだけの予定だった。

 それで十分だったが、ジェラルディンは、片手でぶん投げてしまったのだ。

 二人の鬼は、一瞬で消滅したが、巨大な満月は、森を消滅させるほどの威力だった。


「あああ!!御盆の森があああ!!」


 セーシュが、目を瞑って羽で顔を覆った瞬間、ボッボンッという爆音が、森中に轟いて、森を覆い尽くす程の炎が一気に燃え広がった。


「え?」


 セーシュが、恐る恐る目を開けると、彫刻のように美しい大妖怪、爝火が、泰然と空中に留まっていた。


「全く、考えなしの一番弟子だ、困ったものだよ」


 燃え盛る炎は、時の満月を焼き尽くせるほどの大きさで、赤く輝き続けた。

 そして、燃やし尽くした後の炎を、風の龍が、吹き消した。


「遅いじゃないか。ガラスたちが、応援を呼んでくれた筈だけどねえ」


 星空から舞い降りた愛妻の不機嫌な顔を見て、爝火は、言い訳した。


「いや、もうちょっと早く来る予定だったんだけど、所用があって。でも、一番弟子が、間に合ったでしょ?ガラスたちに頼んだのは、僕だよ。ジェラルディンに知らせるようにって……」

 

 言い終える前に、無数の星の龍が、爝火を襲った。


 「うわああっ、それは、なしだって!!」


 爝火は、何とか避け切ったが、ジェラルディンの怒りは、凄まじかった。

 それを鎮める為に、爝火が謝罪して宣言したのだ。


「ちょっと、待って!本気で待って!悪かった!何でも言う事聞くから!!」


 その結果が、ジェラルディンの筋書き通りに動く事だった。

 とどのつまり、妻の大ピンチに駆け付けなかった夫への嫌がらせである。


 それを知らない者たちは、悲しみ振り回される事になったが、真実を話す時が来たので、魔女ばあさんは、瀬奈たちの作戦に付き合っていた。


 龍絵とランが戻って来た時には、瀬奈は、この真実を、すっかり聞かされていて、トイと春人の昼食は、魔女ばあさんに化けた輝龍の胃袋に治まることに決まっていた。


「おやまあ、本当に美味しそうなお寿司だね」


 大妖怪が、顔を綻ばせてぱくぱく食べている間に、龍絵とランは、瀬奈から真実を聞いて、大声で万歳三唱した。

 瀬奈も、改めて喜びを噛み締めた。

 三人は、涙を流しながら、がっしりと抱き締め合った。


「輝龍さんが、生きてた」


「ことりお兄ちゃん、喜ぶね」


「皆が喜ぶよ」


 魔女ばあさんに扮した輝龍は、上機嫌で、米粒一つ残さずに平らげた。


「あー美味しかった!あんたたちが言うだけのことはあったよ」


 それを聞いて、龍絵が、一番ほっとした。


「さあ、戻るかねえ」


 呟いた瞬間に、魔女ばあさんの醜い顔は、美しい顔に変わり、とんがり帽子が消えて、花魁のような派手な頭が現れた。


 ローブは、漆黒の留袖に変わった。

 模様は白椿で、袖の部分は、左に金の登り龍が、右に赤い桜が散っていた。

 銀色の帯には、葵の花が咲いている。

 金の帯締めで、見る者を、あっと驚かせるような見事なバラの形に結んでいた。

 雅な立ち姿は、見惚れるほどだ。歳は四十そこらに見えるが、当てにはならない。


 三人は、言葉を失って見惚れた。

 その様子を見て、輝龍は、口元に優し気な微笑を浮かべて言った。


「さあさあ、惚けてないで、お盆の森に帰るよ」



 






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