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第40話 スーシ―ランドへ行くルート


 西野小チームは、『嘘付きは、魔女ばあさんに食べられる』ことを詳しく聞いたが、現在のスーシ―ランドの状況は、春人たちにも分からない。


「小菊さんに確認し忘れたけど。でも、おうちに帰れた子供が食べた鯉は、本物だと思う」


 龍絵が言うと、春人も頷いた。


「残りの五人は、静花さんたちだったから間違いない。今、池に鯉はいないよ」


 ランは、龍絵にピタリとくっついて、スーシ―ランドの話を、最初から最後まで聞いた。聞きながら、何度か身震いした。


(なんて恐ろしい場所!私、行きたくない。おうちに帰って、かあさまに謝ろう)


 ランは、持ってきた手さげカバンを、きつく握り締めた。


 スーシ―ランドへ、どういうルートを通って行くか、八人の子供が、知恵を出しあっていた時、ランの頭上に何かが、ぽとりと落ちた。


(何かな?) 


 掴んでみて、ランは、悲鳴を上げた。


「きゃあああっ、クモおおおっ!」


 ランは、仰天して放り投げたが、天を切り裂くような悲鳴を聞いて、子供たちも驚いた。


「ランちゃん、大丈夫だよ」


 瀬奈が、ランを落ち着かせようと両手を差し出した瞬間、パニックに陥っていたランが思い切りジャンプして、瀬奈の頭に飛び乗った。


「え?」


 過去へ通じる道が、開いてしまう――慌てた瀬奈は、思わず龍絵の髪を掴んだ。


「あっ!」


 他の子供たちは、目を見開いて立ち上がり、めいめい両腕を伸ばしたが、手遅れだった。

 ランと瀬奈、龍絵は、忽然と消えた。

 後に残った子供たちは、三十秒ほど物も言えなかったが、その後、口を揃えて絶叫した。


「ええええええっ!」


 けれど、春人だけは、初めから腰を上げていなかった。

 唇をきゅっと結んで、赤い小箱を見つめていた。

 何か強い想いを、揺るがない両目に宿して。


(この先、一生、洩らさない。トイの遺言は、重すぎる)


 春人は、トイから小箱を受け取った時、真実を内に秘めようと決意したのだ。


 

 ランたちの一メートルほど先に、校庭の半分ほどもある大きな池があった。

 しかし、今度は、鯉が一匹も見えなかった。龍絵は、立ち竦んで絶望した。


「スシ・ポンド」


 龍絵の一言で、瀬奈とランも、自分たちが、スーシ―ランドに来たことを理解した。


「わたし、食べられるよぉ。家出したから鯉にされるよぉ」


ランは、丸まって、がたがた震えながら、龍絵の足下で泣き出した。


「ランちゃん、泣かないで。食べられるとしたら、私だよ。魔女ばあさんに、意地悪なこと言ったのを、ずっと後悔していたから。それで、戻って来たみたい。ごめんね」


 龍絵が、謝ると、瀬奈は、ブンブン首を横に振った。


「違う!悪いのは、あたしだよ。あたしが、皆に嘘付いて騙したから!」


 各々が自分の非を認めていたので、自分のせいだと言い合ったが、突然、不気味なしわがれ声が聞こえた。


「いーひっひっひっ、こりゃまた、美味そうな子ぎつねが迷い込んだね。全く昨日は酷い目にあったよ。わしは、すっかり腹ぺこだ。しかし運がいいね。上等な子ぎつねと、昨夜の生意気な子供に、そっちの子供はパワーたっぷりで、いきがよさそうだ。よだれがでるわい、いーっひっひっ」


 とんがり帽子を被った魔女ばあさんの顔つきは、それはもう恐ろしくて怖くて、ランは、息が止まりそうになった。

 銀色の尻尾までカッチコチに固まって、泣くことも出来なくなった。

 瀬奈もすっかり怯えていたが、龍絵は違った。


「魔女ばあさん、ごめんなさい」


 心から謝って頭を下げたが、魔女ばあさんは、謝罪を拒否して、意地悪い顔で笑った。


「ひっひっひっ。今ごろ謝ったって遅い遅い。今度こそ、帰してなんかやらないからね!おまえたちを鯉にして、丸焼きにして食ってやる!」


(ああ、食べられちゃう。かあさま、ごめんなさい)


 ランは、気を失いかけたが、龍絵が、赤い手さげカバンに気付いた。

 真っ白い前足は、しっかりそれを握っていたのだ。

 龍絵がランを抱き上げると、手さげカバンから、手天の飴玉と、天代のチョコレートが、ぱらぽらと零れ落ちた。

 龍絵は、素早く拾うと、この場を切り抜ける算段を瞬時につけた。

 成し遂げる為には、ランの力が必要だ。龍絵が、そっと耳打ちした。


「ランちゃん、帰る方法を思い付いたよ。気絶しないで」


ランは、はっとして、背筋をしゃんと伸ばした。


「わかった。私、頑張る」


 小声で答えた。


「ねえ、魔女ばあさん。魔女ばあさんは、とっても可哀想な魔女なのね」


 龍絵は、囁くように呼び掛けた。

 低くか細い声には、憐れみの念がこもっていた。

 それを感じ取って、魔女ばあさんは、ギロッと龍絵を睨みつけた。


「わしが可哀想だって!そりゃ、どういうこったい?」


 龍絵は、蔑んだ目つきで話した。


「奉公屋さんが握るお寿司を、一度も食べたことがないんでしょう?ああ、何て可哀想な魔女かしら!」


 龍絵の会話から、瀬奈はその意図を読み取った。


(なるほどぉ、やるわね、タエちゃん!)


「私は、毎週食べるわ。うちには、『おすしの日』があるの。宅配サービス専門の奉公屋さんが、銀色の器に入れて、わざわざ持って来てくれるのよ。舌がとろけそうなくらい美味しいお寿司を、届けてくれるの。本当に、とっても、とぉーっても美味しいの。『銀のうつわ』っていうお寿司屋さんよ」


 瀬奈とランも、賛同して口早に喋った。


「あたしも大好き!すっごく美味しくて、ほっぺがおっこちるほど美味しいから!銀のうつわのお寿司を食べたら、もう二度と他のお寿司を食べられない。ああ!食べたくなった!」


「わたしも!だって、脂がのってて新鮮で一度たべたら病み付き!お腹いっぱい食べちゃうから、かあさまに叱られるの。『食べすぎですよ』って。でも、美味しくて止まらない!」


 龍絵と瀬奈、ランの会話を聞いて、魔女ばあさんは、心を動かされた。


「へー、銀のうつわ……そんなに美味しいのかねえ……」


 あともう一押し!龍絵は提案した。


「私、過去に戻って、お寿司を取って来てあげる」


「何だって!さては逃げるつもりだね!そうはいかないよ!」


 途端に魔女ばあさんは怒ったが、瀬奈が、熱心に頼んだ。


「あたしは残るわ。あたしが人質になるから、タエちゃんとランちゃんを行かせてあげて!必ず美味しいお寿司を持って、戻って来てくれるから。帰って来なければ、あたしを食べたらいいでしょ?魔女ばあさんだって、さっき言ってたじゃない。あたしのこと、パワーたっぷりで、いきがいいって!今日のあたしは、『能力最上・パワー200%ミントジュース』を二杯も飲んだから、パワー400%なのよ!」


「うーん、まあ、そうだねえ」

 

魔女ばあさんは考え込んだ。


「そういう約束なら………確かに、おまえ一人で、残りの一人と一匹分のパワーがありそうだ。ちょっとくらい、奉公屋が握る寿司を、食べてみていいかもしれないね。よし、いいだろう。おまえたち、ちゃんと戻って来るんだよ!」


 魔女ばあさんに睨まれても、ランは、平ちゃらだった。

 これでうまくいく!龍絵とランは、勝利を確信した。


「いつに戻るの?」


 ランが聞くと、龍絵が答えた。


「昨日のお昼、アキくんち、お寿司の時間よ」


「じゃあ、イメージしてね」


 魔女ばあさんは、他にも何か言おうとしたが、ランと龍絵は消えていた。



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