第42話 お盆の森と、赤目守りと、奉公屋の子供たち
お盆の森の入り口で待っていた木の葉たちは、四人の登場に腰を抜かした。
ことりは、初め、小菊が化けているのだと思ったが、瀬奈が、両手を広げて高らかに言った。
「死んでなかったの!本物の輝龍さんだよ!」
「魔女ばあさんが、輝龍さんだったの!」
龍絵が言うと、ランが、その横で、ぴょんぴょん跳ねて言った。
「お寿司おごったんだよ!」
理由を聞かされた木の葉たちは、なるほどと頷き合って、筋書きを考えたジェラルディンを、誰も責めなかった。
むしろ、結花と知世、木の葉と奏と春人は、爝火に関して呆れたし、ことりは、ジェラルディンと同じく激怒した。
「何が所用だよ!!バカじゃないの!?ジェラルディンが間に合わなかったら、本当に死んでたのに!!この次会ったら、絶対ぶん殴る!!」
肩を怒らすことりを、輝龍は、ぎゅっと抱き締めて言った。
「大きくなったね」
ことりは、声を上げずに泣いた。
それは、木の葉と奏と春人も同じだった。三人につられて、瀬奈と龍絵も、また泣いた。
ランだけが、嬉しそうに、ことりを見つめていた。
「ことりお兄ちゃん、良かったね」
ランが、呟いた時、赤目守りが、険しい顔をして森から現れた。
「輝龍さん、おかえりなさい」
「ああ、帰ったよ。森を潰したいんだって?」
輝龍は、微笑んでことりを放した。
赤目守りは、仏頂面のままだった。
「うん、私は、成仏したいんだ」
赤目守りが、そう言った時、春人が、赤目守りに近付いて聞いた。
「もし、人間になれるとしたら、どうする?」
赤目守りは、びっくりして、春人が、差し出した赤い小箱を見つめた。
「人間に!?」
「どういう意味だ!?」
二人の会話に、思わず、木の葉が口を挟んだが、それは、皆の疑問でもあった。
「喋っていい事だけ言うよ」
そう言って、赤い小箱をぱかりと開けた。
皆は、黙って見守った。瀬奈でさえ、息を詰めていた。
春人が、取り出したのは、金色の目玉だった。
「うわあああっ!!!」
子供たちは、一斉に絶叫したが、輝龍は、悲し気に目玉を見つめて聞いた。
「それの持ち主は?」
「トイの伯母さんだった。トイは、七不思議の天鬼没塔に関する情報、古新聞に記載された秘密と交換に、これを受け取った。最高奉公屋だった伊庭左中が、最後に奪った鬼の目だ。この目を使えば、お盆の森の中でだけ、成仏せずに人間でいられる。トイは、成仏せずに済んだんだ。でも、あいつは、赤目守りを救いたいって言って、自分が消えた」
肩を震わせる春人を、木の葉が抱き締めた。
「話してくれて、ありがとな」
ことりたちも皆が、頷いて、赤目守りに目を遣った。
「人間になって遊ぼうよ。僕たち、お盆の森に、毎日行くから」
ことりが言うと、全員が、力強く頷いた。
それでも、躊躇う赤目守りに、輝龍が告げた。
「昔は違ったけどね、今あの祠には、トイ君のご両親が、奉られてあるんだよ。私が間に合わなかったせいで、二人を死なせてしまった。あんたが、成仏したい気持ちは、痛いほど分かるけどね。この子たちが、立派な奉公屋になるまで、一緒に遊んでやっておくれ」
「それが、輝龍さまの願いなら、お引き受け致します」
赤目守りが、ぺこりと頭を下げた途端、わっと喚声が上がって、ことりたちは、赤目守りを取り囲んだ。
「僕たち、絶対、遊びに来るからね!」
ことりの一言に、瀬奈たちは、うんうん頷いて笑ったが、一人だけ神妙な面持ちで断言した人物がいた。
「これまで悪かったよ。次は、ちゃんと、本物の牡丹餅、持って来る」
木の葉の謝罪を聞いて、一番驚いたのは、赤目守りだった。
「楽しみに待ってるよ」
赤目守りが、人間になった事で、小守寮で手渡される小豆色の小冊子の一ページ目は、こう変わった。
『赤目守り―― 赤い目をした女の子。
おかっぱ頭で、ニコニコ顔。
目は、くりくりと愛らしい。しかし、お歯黒だ。
もしも森で出会ったら、笑って話し掛けなさい。
そして、とびきり美味しい牡丹餅を、祠に供えて手を合わせなさい。
そうしなければ、奉公屋の子供たちが、どこまでも、どこまでも追い掛ける。
その速いこと速いこと。
あっという間に捕まって、反省するまで森から出られない。』




