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第22話 嘘付きは、魔女の腹の中へ落ちる


その時、魔女ばあさんが、にたあ~と笑った。


「うちに帰れるのは、五人までさ。ひっひっひ。あの子らは、良い行いをしたから、スーシーランドへ来られた。でも、おまえたちは、違う。おまえたちは、鯉になるんだよ。消えた鯉の代わりにね。いっひっひっひひっ」


 トイの推理は、当たっていた。すしネタは、やはり子供たちだった。


 子供たちは、「きゃー」と悲鳴を上げて、「いやだよー、おうちにかえりたいよー」と騒ぎ始めた。すると、魔女ばあさんは、にらみつけた。


「おまえたちは、お母さんに嘘をついたね?これはバチさ!」


 魔女ばあさんは、不気味なしゃがれ声で喋った。


「嘘つきは地獄におちる。嘘をつくのは、一番悪いことだ。鯉にされて当然さ!わしに食われる日まで、池の中で泳ぎ続けるんだ!」


 子供たちは、めそめそ泣き出した。

 龍絵は、可哀想に思って、一生懸命考えた。


(何とかして助けてあげられないかな。どうすればいいの?)


 トイと春人も、必死に頭を悩ませた。しかし、思惑は、それぞれ違った。

 春人は、脱出する方法を真剣に考えたが、トイは、魔女ばあさんを倒す作戦を練った。


「一回嘘をつくと、その嘘を隠す為に、また嘘をつく。そうやって、嘘は、増え続けるのさ。そうすると、嘘ばかりつく子になって、嘘をつくのが、平気になる。どんどん善し悪しが分からなくなって、人を騙すのが、当たり前になる。悪いことをするのが苦でなくなって、自分を見失う。心は闇に呑まれて、罪を犯す。ひっひっひ、死後に逝く先は、地獄さ!」


 魔女ばあさんの目付きは、実に刺々しいが、一つ一つの言葉は、子供たちの胸にこたえた。

 龍絵も、守衛さんに嘘をついて学校に入った事を反省した。


「だが、安心おし。おまえたちは、鯉になって、わしの胃の中で消化される。嬉しいだろう?わしは、地獄のエンマの遣い。哀れな子らよ、地獄では、毎日体を燃やされる。槍で突かれて、針の山に落とされる。その繰り返しだ。永遠に死ねぬ場所よりも、腹で溶けるが、よかろうよ。いーひっひっひ、エンマさまの優しさだ。感謝おし。嘘付きは、地獄に落ちるって?いーや、違う!わしの腹の中へ落ちるのさ!いーっひっひっ」


 子供たちは、押し黙ったが、龍絵が信じられない行動に出た。


「ばか!行くな!見つかれば、俺たちも食われるぞ!」


 春人が、叫んだ時には遅かった。


「タエちゃん!戻るんだ!」


 トイも、声を張り上げたが、龍絵は、クラス一足が速いのだ。

 龍絵は、震える子供たちの前に進み出た。

 そして、魔女ばあさんに声を掛けた。


「もう絶対に嘘をつかないって、約束すれば帰してくれますか?」


  魔女ばあさんが、ぎろりと龍絵を見た。


「何だい、おまえは?どこの子だい?さては、おまえも、嘘をついたんだね。嘘つきは、スーシーランドに迷い込むのさ。帰してなんかやらないよ。わしは、一人残らず鯉にして、刺身で食ってやるんだからね!」


 魔女ばあさんは、意地悪く言った。

 龍絵は、声が震えないように、両手を握り締めた。


「じゃあ、この池を埋めてやる!」


 龍絵の言葉に、春人とトイだけでなく、子供たちも仰天した。


「こんなに大きい池を埋めるだって?」


 魔女ばあさんも、一瞬驚いた顔をして、龍絵を見つめた。

 しかし、おかしそうに笑い始めた。


「いっひっひっひひっ。何を言い出すやら、おまえは、人間の子供だろう?威勢だけは、立派かい?ひっひっひ、いっひっひっ」


 龍絵は、怯まずに、ズボンの右ポケットから、紫色の飴玉を取り出した。


手天ててんのカティくんから貰ったの。特殊な製法で固めた飴玉よ」


 手天の飴と聞いた途端、魔女ばあさんが、青ざめた。

 その反応を見て、龍絵は、続けた。


「これを池に落とせば、立ち所に水が無くなる。火の神さまが、池の水を飲み干して下さるから」


 トイが、春人を見ると、春人は、冷汗をかいていた。


「あいつ、何で持って来てんだ」


「手天って、東の山に棲む化け狐の一族?」


 トイが、心配そうに聞くと、春人が答えた。


「ああ、誕生日プレゼントに貰ったんだ」


 それを聞いて、トイが、右ポケットから緑色のチューブわさびを取り出した。

 

「ちょっと待て!」


 春人が、トイの左手首を慌てて掴んだ。


「何で、そんな危ないもん持って来てんだよ!瀬奈さんがくれたやつだろ?ミステリー・スイーツ園芸部で育てた毒草を使ってるよな?奉公屋の力を駆使して作った【地獄わさび】だよな!?」


「妖怪殺しの一品だよ、魔女にも効くでしょ」


 トイは、春人の右手を振り払った。

 春人に聞きたいことはたくさんあるが、龍絵を助けるのが先だ。


「まさか、殺す気か!?」


 春人は、信じられない思いだった。


「妖怪を殺して何が悪いの?」


 トイの冷淡な言葉、冷たい目に春人はたじろいだが、絶対に阻止しなければならないと思った。


「人と妖怪の、命の重みに差を付けるな!殺せば犯罪だ。戦うなよ。戦いの先にあるのは、命の終わりと憎しみの始まりだ。何の価値もない因果を、自分でつくるな!そんなもんに振り回される人生を選ぶなよ」


 春人の熱い眼差しを見て、ほんの一瞬トイは躊躇ためらったが、衝撃的な事実を告げると、龍絵のもとへ突っ走った。


「僕の母さんと父さんは、妖怪だ。二人は、僕が一年生の時、妖怪に殺された。とっくの昔から、僕は振り回されてる。大事な命を奪われたことがあるから、妖怪を殺すのに罪の意識なんて生まれない。僕は、妖怪の子なんだ!」


 春人は、トイの背中を、ぼうっと眺めた。


(そうか、だから叔母さんと暮らしてるのか。出生地を隠した理由は、これか)


春人は、胸が痛んだが、今するべきことは、龍絵とトイを止めることだ。


「トイ、やめろ!!タエ、おまえもだ!!」


 大声で呼びながら走ったが、春人は、トイと違って、本当に足が遅い。


(くそッ、トイのバカッ!騙してたのか!)


 かけっこ四番は嘘だ、これでは、龍絵を抜いて一番だろう。

 龍絵も、窮地に陥ると本領を発揮する。

 面倒なコンビのお守り役を、春人は常に引き受けているが、今夜は最悪だった。


 手天の飴玉と知って、魔女ばあさんは尻込んだ。

 その隙を見て、龍絵が、紫色の飴玉を池に放り投げたが、実は普通の飴玉だった。

 魔女ばあさんが、パニックを起こしている隙に、子供たちを連れて逃げようと、龍絵は考えたのだ。

 しかし、トイと春人に教えず来たのが悪かった。


「わしのスシ・ポンドがあああ!!!」


 魔女ばあさんが叫ぶと同時に、緑色のわさびが如意棒のように伸びて、魔女ばあさんの大口へ飛び込んだ。

 地獄わさびは、あますところなく絞り出された。


 魔女ばあさんは、身の毛がよだつ甲高い奇声を発して、細長く鋭く伸びた爪で、血が滴るほど喉を搔き毟った。

 そして、ぱたりと地に伏した。


 無慈悲な最期を間近で見届けて、龍絵は硬直した。

 子供たちも、あまりにもむごたらしい死に様を目の当たりにして、棒立ちになったが、トイは、したり顔だった。


「タエ!!」


 春人は、龍絵が、ぐらりと倒れる瞬間には、何とか間に合った。

 両腕で抱き留めると、龍絵は、気絶していた。

 意識を失ってくれたおかげで、発作は起きなかった。

 春人は、胸を撫で下ろしたが、悲しみ哀れむような顔つきで、トイを見た。


「俺たち全員で知恵を出し合えば、助かる道は他にもあっただろ」


 切ない声音は、トイの心に全く響かなかった。

 


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