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第21話 《おすしマジック・スーシーランド》本日開店


「て、天鬼没塔てんきぼっとうって、な、な七不思議だったの?し、知らなかった」


龍絵の喋り方がおかしな事に、春人は気付いた。呼吸が浅くなっている。


春人は、慌てて龍絵の両肩を掴んだ。指先に震えが伝わる。

小さな体が、小刻みに揺れ始めた。春人は、即断した。


「トイ!その新聞、リュックに詰めろ!読むのは帰ってからだ。ここから出るぞ!」


時刻は、既に午前一時を回っていた。

 こんな人気がない場所で、龍絵の発作が起きては事だ。

発作が起きて一番苦しむのは龍絵だが、こんな悪天候で、龍絵を背負って帰る春人自身も辛い。


最悪の場合は、守衛に真実を打ち明け、家に電話しなければ帰れない。 

 そうなったら、確実に大目玉を食う。


「持って帰ったら、泥棒になるよ?それに、バレたら」


トイは、驚いて春人を見た。けれど、春人は、きっぱりと言った。


「緊急だ!新聞は、後で、こっそり返せば問題ない。バレたら、俺が先生に謝る。いいな?」


 有無を言わせぬ問い方だったが、トイは、黙って頷いた。

 春人が、緊急と言う時は、必ず理由があるからだ。

  そして、そんな時は、春人に従って間違いない事も、経験から分かっていた。


「わかった」

 

 トイは、急いで頷くと、防水加工のリュックサックから、ビニール袋を取り出して古新聞を入れた。

 春人は、龍絵の目を見て、ゆっくりと言った。


「七不思議なんて、所詮は作り話だ。暇な人間が考えた作り言だ」


 春人の柔らかな物言いで、龍絵は、大分落ち着いた。


「詰め終えたよ、さあ帰ろう」


 その一言で、龍絵の震えは、随分と弱まった。

三人は、再び、階段を、ぎしぎし鳴らせながら昇った。


 地下室から上がると、床を元に戻して、理科室を後にした。

 そして、三人は、昇降口を目指して急いだ。

 その頃には、龍絵の震えは治まっていた。


 暗闇の渡り廊下を走って新校舎に入ると、廊下を少し歩いて右に曲った。

 保健室が見える筈だが、行きと様子が違った。


「あれっ!?おかしいね。何だろう、これ」


 青い立て看板を見つけて、トイが、驚きの声を上げた。


 春人も、瞬きをして首を傾げた。


看板には黄色い文字で、こう書かれてあったのだ。


《おすしマジック・スーシーランド》本日開店


 すっかり回復した龍絵の目が輝いた。


「いいなあ、おすし食べたい」


 龍絵が、そう言った途端、三人は光の霧に包まれた。

 眩しくて、何も見えなかった。

 ようやく目が開けられるようになると、三人の目の前に、屋内プールほどもある大きな池があった。


「うわあ、おっきな池!」


 龍絵だけ、目を見張って喜んだ。


「でかいな、こんな池あったか?」


 春人とトイは、しかめっ面をした。


「大き過ぎるよ、こんな池があったら、校庭の半分はプールだよ。第一、ここは校舎の中だよ……多分」


 自信なさげに、トイが言った。


 三人が見渡すと、池の傍に、二年生くらいの子供が、十人立っていた。

 そこへ、尖り帽子をかぶった魔女ばあさんが、風のように現れて、しわがれ声で言ったのだ。


「スーシーランド本日開店!誰でも満足!おすし食べ放題!池の中を見てごらん」


 子供たちが覗き込む姿を、初め、春人たちは黙って見ていた。

 そのうち、そろそろと近寄って、そおっと覗いた。


 池の中で、赤、白、黄色、朱色の鯉が、尾ひれを揺らして、気持ちよさそうに泳ぎ回っていた。

 子供たちは、三十センチほどもある丸々と太った鯉を、熱心に見つめた。


「これが、おすしの材料さ!」


 魔女ばあさんが、杖を掲げて、へんてこな呪文を唱えた。


「スーシー・マジック!シースー・マジック!スーパッパ!ランド・ラウンドなれなれマグロ!」


 すると、一匹の赤い鯉が池から踊り出て、マグロのおすしに変わったのだ。


「わー、すごーい!」「おいしそう!」等と、子供たちは大喜びした。


 春人たちも、目を丸くして感嘆した。「すげえな」「すごい!!」「すごいね」


 魔女ばあさんが、三人に気付いているか分からなかったが、子供たちを見て言った。


「さあ、おまえたちも呪文を言ってごらん」


 初めに、坊主頭の男の子が、真似をして唱えた。


「スーシー・マジック!シースー・マジック!スーパッパ!ランド・ラウンドなれなれイカ!」


 白い鯉がイカのおすしになって、男の子の片手に乗っかった。

 男の子は、嬉しそうに、イカのおすしを食べた。


「いただきまーす!」


 食べ終わった瞬間、男の子は、煙のように消えてしまった。


「おすしを食べると、うちに帰れるのさ!」


 それを聞くと、子供たちは張り切って、鯉をおすしに変え始めた。


「スーシー・マジック!シースー・マジック!スーパッパ!ランド・ラウンドなれなれ玉子!」


 おかっぱ頭の女の子が唱えると、黄色い鯉が玉子のおすしになった。


「スーシー・マジック!シースー・マジック!スーパッパ!ランド・ラウンドなれなれサーモン!」


 おだんご頭の女の子が言うと、朱色の鯉が、サーモンのおすしに変わった。

 隣で見ていた女の子も、真似をして、サーモン寿司に変えた。


「スーシー・マジック!シースー・マジック!スーパッパ!ランド・ラウンドなれなれイクラ!」


 赤い鯉を、イクラのおすしにした子供もいた。

 おすしを食べた子供たちは、「おいしかった~」と満足してうちに帰って行った。

 それを見ていた龍絵のおなかが、ぐぐっぎゅるるっと鳴った。


「ねえ、ハルくん、私たちも食べようよ。すっごくおいしそう!」


「あいつら、どこから来たんだ?どこから入ったんだ?守衛に黙って入れたのか?」


春人が気になるのは、その点だった。


トイは、子供たちの様子を静かに観察していたが、赤毛の少女に目を止めた。


「あの子、どうして呪文が、かからないのかな。何度も唱えてるのに」


 鯉は悠々と泳ぐばかりで、女の子は、心底困っていた。


「下手クソなんだろ。龍絵も絶対出来ねえぜ」


 春人が馬鹿にすると、龍絵は、顔を真っ赤にしてムキになった。


「何よ、出来るわよ!見てなさい!」


 怒って一歩踏み出そうとした時、トイが、慌てて龍絵を止めた。


「待って!生垣まで走るんだ!」


 池から三メートルほど離れたところに、樹高が三メートルを超している赤いサツキが、十本ほど並んで、生垣を造っていた。

 花は、あらかた散っていたが、緑が美しかった。


 トイが指差したので、春人は、龍絵を引っ張った。


「食べたかったのに~」


 龍絵が不平を言うと、すかさずトイが答えた。


「逆に食べられちゃうよ」


三人は、青葉の茂みに逃げ込んで、様子を窺った。


「スーシー・マジック!シースー・マジック!スーパッパ!ランド・ラウンドなれなれエビ!」


赤毛の子は、相変わらず苦戦している。

朱色の鯉に狙いを定めて、何回も何回も言っている。

けれど、鯉は知らんぷりを決め込んで、失敗は、これで十回目だった。


「あいつ、大丈夫か?」


 さすがに、春人も心配になってきた。龍絵も、はらはらして見守った。


「ねえ、ハルくん、あの子たち、もしかして誘拐されてきたのかも」


他にも四人、魔法を使えない子供がいた。うちに帰れた子供は、五人だけだ。


トイが、強張った表情で言った。


「子供は、十人いた。池に、鯉は十一匹しかいなかった。魔女ばあさんが、一匹食べた。それから、五人が食べた。残りの五人が食べたら、鯉はゼロになる。おすしのネタは、どこから誰が、調達してくるのかな」


 龍絵の髪に引っ掛かった赤い花びらが、はらりと落ちた。

 トイは、春人が屈んで拾うのを見た瞬間、最悪の結末が始まったのだと確信した。


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