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第14話 森の樹々は、お洒落で気分屋


「君、良い妖怪だね。妥協してくれて、ありがとう」


 ことりは、つくづく感謝して、赤目守りに御礼を言った。

 もうすっかり打ち解けて、話を続けた。


「でも、どうして御供えの餅が、牡丹餅になったの?」


 赤目守りの方でも、ことりを気に入って親し気に喋った。


「牡丹餅は、戦前、妹の大好物だった。もともと体の弱い子でね、戦後すぐに死んだよ」


 赤目守りの悲しげな表情を見て、ことりまで切ない気持になった。


「病床で最後に食べたいと言ったのが、牡丹餅だった。『お姉ちゃん、牡丹餅おくれよ、ほっぺがおちる牡丹餅おくれ』か細い声で、こけた腕を精一杯伸ばして言ったんだ。食べさせてやりたかった。でも、日々の食べ物にも事欠いた。牡丹餅だなんて、とてもじゃないけど、手に入らなかった。薬さえ買えなかったんだから、無理な話でね」


 赤目守りは、すっと森の奥を指差した。


「この先に、妹のお墓がある。祠の隣で、父さん母さんも眠ってる。あたしだけ成仏できなくて、おばば様が妖怪にしてくれた。その時に、餅を牡丹餅に変えて貰った。おばば様が、お墓にも供えていいって言ってくれたんだ。いつになったら御供えがいらなくなるのか。いい加減、母さんたちに会いたいよ」


ことりは、言葉に詰まって何も言えなかった。


(それで、幽霊と妖怪なのか………)


謎は解けたが、後味は悪かった。


(僕たち、先に会っちゃったな………)


「戦前ってことは、かなりの歳だよね、いくつだったの?」


 聞いてから、あ!と思った。女性に、しかも妖怪に歳をたずねるなんて、無神経だった。ことりは後悔した。


「あの、悪くとらないでね。君、童の格好をしてるから。それで、戦前て聞いて、あれ?って、ちょっと気になっただけで。それで、あの、どうして若いのかな?とか、ほんの少し疑問に思って」


 必死に言い訳をすることりを見て、赤目守りが笑った。


「あはは、分かった、分かったよ。本当に面白い子だね。こんな質問、初めてされた。あたしの格好は、妹に似せたんだ。おばば様に、どんなナリになりたいかと聞かれて、あの子が思い浮かんだ。あたしは生前九歳だった。今は、六歳だよ。年は取らない。すべて、あの子に似せて貰った。でも、あたしを見たら、あの子は嫌がるだろうね。黄色いチョウチョ模様が入った、桜色のべべを着たいと言っていた」


 ことりは再び、あ!と思った。


(やっぱりあの子だ。でも、健康そうに見えたのにな。 髪の毛も長くて、綺麗だった。成仏したら好きな格好が出来るのかも。天国は幸せな場所なのかな)


「この森、天国みたいだね!季節は関係ないみたいだし。ペットの霊も来る。色んな木があるよね。大きくてびっくりした!花も咲き乱れてるし、洒落っ気がある森だね」


 嬉しそうな顔をして話すことりを見て、赤目守りが腹を抱えた。


「あははははは、洒落っ気のある森?そんな単語があるのかい。そうだね、この森の樹々は、お洒落で気分屋さ。お化粧好きでね、最近は《スベスベファンデーション》に凝ってるようだ。枝を使って、毎日樹皮に塗ってるよ。《つるつる乳液》とか言うのも流行りらしい。奉公屋の連中から貰うんだ」


 滑々だった幹の理由が分かって、ことりは納得した。


「草花は、好きな時間に花開いて、その日の気分で枯れる。真冬に、朝顔が、一カ月以上咲き続けることもあるんだよ。どの樹も、もとは小さかった。おばば様が、余所から連れて来たんだよ。剪定されない森や林の奥には、大きく育たない木々がある『太陽を浴びたい』『高く伸びたい』『自由が欲しい』と、すすり泣く声を耳にして、そんな子たちを森に根ごと持ち帰る。日照不足の街路樹や公園樹、庭に植えられて世話されないまま忘れ去られた花々も、色んな理由で、やってきた。この森の土は、特殊なんだ。元気にすくすく育ったよ」


 楽しそうに話す赤目守りを横目で見ながら、ことりは、つい不満を口にした。


「僕は、育ち過ぎだと思うけどね。我儘が叶う森なんだね。土に妖力が宿ってるの?」


「おや、辛辣だね。おばば様の妖力が宿ってる。四季は、御褒美みたいなものだよ。樹々や草花は、森を守ってるんだから。あんたたちみたいな、無作法な奴らからね」


「うっ……」


 事実なので、ことりは言い返せなかった。


「樹々や草花が、その日の気分で、好きな季節を欲しがって、土が、願いを叶えるんだ。各々が望む季節の風を呼ぶんだよ。そうすると、バラバラな季節が来る。春、夏、秋、冬、あちこちに自由な四季が訪れる」


 季節の謎も解けたが、ことりは、むっとなった。


(無作法は言い過ぎじゃないかな)


「さあ、行くよ!森の入口まで送ってあげる」


 牡丹餅さえ献上したら帰してくれるし、道に迷ったら助けてくれる。

 赤目守りは、本当に親切な妖怪だった。


「あの子の言う通りだ。小冊子の内容、一部は誇張だよね。それに、スマホが使えるとか、親切な事書ことがきがあっていいと思う。影の事が記載されてないのも、大問題だよ!」


  ことりが、小声でぶつぶつ言っていると、木の葉が横に来て、小声で言った。


「へへっ。意外と話が分かる奴だろ?」


  呑気に笑った木の葉を、ことりは思い切り小突いてやった。


「あの大樹たちは、本気で殺気立ってたよ!どれだけ怒りを買ってるの?」


「死にはしねえぜ、多分。脳心頭おこすか、骨折するか、目が潰れるか、そんくらいなもんだろ。俺は慣れてるけど、おまえは初めてだもんな。俺、最初の時は打撲したぜ。右足を打たれて全治一カ月、懐かしいな」


 たははっと笑った木の葉に、往復ビンタを食らわした。

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