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第13話 ツケの常連


 森が静まり返ると、ことりと木の葉は、あっさり捕まった。


「牡丹餅おくれ、ほっぺがおちる牡丹餅おくれ」


 赤目守りは、両手を出して待っている。


「もう終りだ……」


 哀愁を帯びる声音で、ことりが呟きをもらした時、木の葉が信じられない事を言った。


「スマホで連絡とるので、ちょっと待って貰えますか?友達に、美味しい牡丹餅を二つ届けて貰います」


「スマホ?」


 ことりは、ぽかんと口を開けて呆気に取られたが、じき我に返って、物凄い剣幕で木の葉に食ってかかった。


「何それ、ありなの!?そんな裏技あるなら、逃げる必要あった!?何度も死にかけたよね!?そもそも、謝って済む話だったの!?今更、敬語って何!?スマホ持ってるなら早く言ってよ!!」


「牡丹餅をくれるなら、どんな手段でもいい」


 赤目守りは、実に寛大だった。


「逃げて、ごめんなさい」


 木の葉が、しおらしく謝ると赤目守りが苦笑した。


「いつまでたっても懲りないね」


 この森は電波が届くらしい。現代は、妖怪も角が取れたに違いない。


「あ、かなで?美味い牡丹餅を二つ、持って来てくれ。ああ、うん、ことりの分も。そう、一緒にいる。ああ、怪我はしてない。え?二つでいいかって?入っただけだぜ。は?反省しろ?うっせえよ!あ、ごめん、反省しときます。持って来て下さい」


 木の葉を横目で見ながら、ことりは思った。文明の利器は素晴らしい、と。


「あの子、持って来た試しがないんだよ。全然懲りない。だから、もう諦めてる」


 いつの間にか、赤目守りが、ことりの右隣に立っていた。


「あんた、新入りだね。可哀想に、巻き込まれたんだよ。あの影たちは、本来なら大人対策でね。あの子は、ツケの常連だから怒られてる」


 ツケの常連と聞いて、ことりの怒りは更に増したが、気に掛かったので尋ねた。


「大人対策って、木の葉みたいな大人は多いの?」


「まさか!そうそういないよ」


 赤目守りは、即答して、ことりに説明した。


「大抵、入口で二つ貰う。入る分と出る分だ。二度手間は、嫌いでね。森の奥に祠があって、牡丹餅を供える。大昔は餅を供えてた。聞いた話だけどね、餅を献上するでもなく、盗んで食べた大人たちがいて、森は怒り狂った。その時、おばば様が森に術をかけて、カラスの群れは号令係になった。そして、森の大樹たちが罰する役目をになった。餅を献上しない者は、皆、死にかけた」


 ことりは、話を聞いている間ずっと口の両端がピクピクしていた。

 酷く引き攣り、青黒く変わった悲惨な表情を見て、赤目守りは同情した。


「そう怖がらなくても大丈夫だよ。牡丹餅さえくれたら、子供の場合は生きて出られる」


 木の葉がスマホを持っていて本当に良かった。ことりは、その点だけは感謝した。


「どうして影なの?」


「だって、あんな巨大な枝に当たったら、確実に死ぬよ。単なる脅しだけど、常連くんには厳しい。容赦がなかっただろ?怪我の一つでもさせてやろうって、大樹たちは思ってる。今日こそは取っちめてやろうって、張り切ってたらしいね。今日は、特に賑やかだった。カラスたちも、いい加減、生意気な不届き者を退治してやろうって、躍起になってたんだよ。あの子は、慣れたもんだけど、あんたは初だろ。ケガ一つなく逃げ切ったなんて、これも初だ。たいした子だね」


 赤目守りが、感心してことりを見たが、ことりは複雑な気持ちで沈んでいた。

 木の葉に助けられたのは事実だが、木の葉と一緒だったせいで被害をこうむったのも又、事実である。


「あんた、名は?」


 赤目守りは、ことりの心中を推し量って、気の毒に感じた。

 

「ことり」


 ことりが正直に答えると、赤目守りは心の中で、おや?と思った。


「ことり?漢字は?」


「平仮名。小さい鳥だと、平仮名よりも、画数が悪くなるんだって。小が三画で、鳥が十一画だから。足して、十四画になるからって」


 ことりが、母親から聞いた話をすると、赤目守りが、赤い目をパチクリさせた。


「おや、面白い話だ。妖怪が画数を気に掛けるなんて。あんたの両親は妖怪だろ?」


 ことりは、静かに頷いた。


 「あたしはね、赤い目を、おばば様に頂いた。森を守る為だよ。迷子になる人間もいる、夜道に迷う妖怪もいる。親と逸れる子狸も、悪人に狙われる子ウサギも、しょっちゅういる。だから、森中を監視してる。この赤い目で見つけてね、助ける。だから、赤目守り」


 ことりは、大いに納得したが、不思議だった。


「そっか。でも、どうして僕が妖怪だって気付いたの?匂いで分かった?」


「あはは、そんなの簡単だよ」


 赤目守りが、朗らかに笑った。


「匂いもそうだけど、あんたが本当に奉公屋の子供なら、大怪我の一つや二つするもんだ。その身体能力が妖怪の証だ。人間の血が混ざってないんだろ?奉公屋と違って、本物の妖力だ。ことりって名付けるくらいだから、十中八九、あんたの両親は、空飛ぶ妖怪だね?親の力も受け継ぐものだよ」


「空か」


 ことりが、ぽつりと呟いた。


「育ちがでるよ。あんたは逃げなかった。あの子を見捨てれば、飛べただろうに。あんた、度胸があるね」


「度胸なんてないよ」


 ことりは、首を横に振って答えた。


「木の葉を巻き込んだのは、僕だから。責任は取らなくちゃいけないと思って」


「ふふっ。じゃあ、今度はちゃんと、あんたの牡丹餅おくれ」


 ことりは頷くと、固く決心した。


(木の葉とは、二度と一緒に森に入らない!)


「これで五十回目。ちょっとは成長して欲しいね」


赤目守りが、ボソッと呟いた。

これを聞いて、ことりは、心に決めた。


(寮に戻ったら、絶対に部屋替えを願い出る!同室は耐えられない)





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