第160話 権力と横暴と便宜と義理
遺跡の攻略を進めようと思っていた矢先、トライデント国王から緊急の連絡があった。
詳細は直接会ってからとのことだったので、口外できる内容ではないのかも知れない。
急いでリネアとユウリを連れ、王宮へと向かったのだが、そこで思いもよらない話を聞くことになる。
...
「カノン、何か忘れていないだろうか」
国王は静かに口を開いた。
「いや...思い当たる節は...、そもそも国王様からの呼び出しじゃないですか」
緊急の呼び出しと言うのだから、てっきり救援関連の依頼と思っていた俺達は、国王の口ぶりを不思議に思ったのだ。
「カノン...余を舐めるでない。...余は知っておるのだぞ?」
「ええっと...具体的には...」
何か俺の秘匿している情報が洩れてしまったのであろうか。正直、いくつも言えない話を抱えている俺は、口を濁しそう言った。
すると国王は鋭い眼で俺に言い放ったのだ。
「マグロじゃ!マグロ!」
呆然とする俺達をよそに国王は続ける。
「余は聞いたのだぞ!なんでもマグロという素晴らしい食材を、エルフィオーレの村で食しているそうではないか!」
「...お父様...」
リネアがそう呟く。
「まさか余への献上を忘れたわけではあるまいな?今日持ってきたのだろう?」
「いえ...緊急だって言うので...。」
「そうですわお父様!それであれば緊急の連絡の時にそう言ってくださいませんと!」
「ぬぬぅ...。そんなこと言伝できるわけもなかろうが...」
それはその通りである。
「ゴホン...。では一体どうするつもりなのだ」
正直、そんなことを考えていなかっただけに、俺達も言葉に詰まってしまう。それよりどこでその情報が入ったのだろうか?...まさか間諜ってやつか?いやそういえば最近王宮から派遣された給仕が、ひと通り食材やレシピを確認したところで呼び戻されたような記憶がある...。
「ええっと...考えておりませんでしたが...。どうしましょうか?」
「お父様!無理を言わないでください!マグロは鮮度...そう鮮度が命なんですの!」
リネアが魚屋の大将っぽいセリフを言った後、しばらく沈黙が続く。
「よし...わかった。使いをだそうではないか」
国王の提案はこうだ。要するにどうしてもマグロが食べたい、食べたいがエルフィオーレの村まではちょっと行けそうもない。だから使いを出す。なんとかしろ。
これまで足の早い海鮮関連は、俺の魔法「ゲート」を非公開としていたため、食の運用はしていなかったこともあり、それはそれで仕方ないと放って置いたのである。
「カノン様!使いの方がわざわざ来られるのであれば、氷魔法でマグロを凍結させてはいかがでしょう」
ユウリが機転をきかせてそう言った。
「おぉ!それだ!それでいくとしよう!」
眉間にしわを寄せていた国王の表情がほころぶ。
(冷凍便か...そうだな、それであれば対応できるかもしれない)
「わかりました。ではどうなるかわかりませんがそれでやってみましょう。ただし高い食材ですので献上は一回までです!後はちゃんと買ってください!」
「むむぅ...。流石カノンだ...。まぁ、当然であるな...わかった!そうしよう!」
本当は仕入れ値はタダで、管理と流通コストしかかからないのだからボロ儲けなのだが、いただけるところからはちゃんと頂いておこう。
...
リネアは実の父の横暴ぶりに溜息をついていたが、このことをきっかけに「エルフィオーレの村の新鮮お魚便」がスタートすることになる。
何度かの実験の結果、一度凍らせてしまえば、そこそこの日数を凍結させたまま運べることがわかったので、エルフィオーレの村では、氷属性魔法の深淵の絶対零度:(アブソリュート・コキュートス)+★5 永続:(コンティニュー)を施した、大型冷凍専用庫を設け運用を開始した。
魔法とマジックリングの使い方は完全に間違っていると思うのだが、村に大きな利益をもたらす期待が高かったこともあり、仕方のない事なのだと割り切ることにした。
せっかく王都までの道のりに、ラクレットとルミナーゼ、テレシアを通ることもあったので、エルフィオーレの村の中から御車や販売員を出すことになり、道中の品質管理担当に氷属性魔法を使えるエルフを配置するという徹底ぶりを発揮、エルフィオーレの村や人材にも、お金が入るようにした。
王宮への配送分は確保しつつも、しばらく魚を届けられていなかったテレシアやルミナーゼでは、爆発的な売れ行きとなり、エルフィオーレの村の宣伝効果としても素晴らしい効果を上げることになったのだ。
だが、予想以上の売れ行きは、軽く問題を引き起こすことになる。
そう...圧倒的な品薄状態である。
エルフィオーレの村には十分な漁獲量があるのだが、とにかく氷漬けのマグロが「重い」のである。「重い」から一辺に運べないのだ。
新鮮お魚冷凍便とは言っても、冷凍機能のあるトラックで運ぶわけではないので、道中での保存状態の維持のためマグロや鯖などの魚を海水ごと凍らせる必要もあり、その凍った海水の分、重量が増すのである。
当然、一台の馬車で運べる量が少なくなる。簡単に言うと馬車が足りないのだ。
しかしこの問題はお金の力で解決された。国王から馬車がまとめて十台届いたのだ。もちろん馬付き。
当初、国王の力の入れぶりに若干ひいたのだが、結果的に言うとそれでも馬車は足りなくなった。この辺りは様子をみつつ調整が必要であろう。
しかし新鮮お魚便はメリットも大きい、王都からの帰路で空になった馬車に大量の物資が乗るようになったのである。これにはルメリオさんと商業ギルドも噛んでいるのだ。
帰りは王都で仕入れた物資を、テレシア、ルミナーゼの順で商店に卸していく。手数料や配送料をいただくことで、新鮮お魚便の運用コストを減らすことにも成功する。
結果的にエルフィオーレの村、ラクレット、ルミナーゼ、テレシアは、馬車の行き来が増え、更に賑やかになったし、この便の護衛なども兼ねて、エルフィオーレの村に派遣された兵士達の配置換えや、給仕達の配置換えなども頻繁に行われたのだった。
護衛については、お魚便の拡大に伴い、兵士の配置換えによるついでの護衛だけでは足りず、冒険者ギルドに依頼し、冒険者も集まることになり、その冒険者はエルフィオーレの村でお金を落とすようになる。
また、給仕達の配置換えによって、王宮を始めにして、貴族、そして一般人まで食文化の急激な変化も起こるようになったのであるが、ここでも軽い面倒が発生する。
給仕の派遣は国で管理しているのだが、貴族達は派遣のスケジュールに自分達の給仕を早く捻じ込もうと、直接手土産を持って、俺を訪ねてくるようになったのである。
こういうことをしてくる貴族達なので、国の給仕管理担当者にも圧力や賄賂的なことが発生している可能性もある。貴族達の面子のために名は伏せたまま、リネアから国に出来事の報告と注意を促しておいた。
しかし、貴族達の気持ちがわからんでもないこともあり、救済措置的に、俺が持ち込んだ料理で普通に手に入る食材の料理については、給仕向け、一般向けに料理教室的なことも開催し、小銭も稼ぎつつ不満の解消も図った。講師はエルフの女性陣である。
また、暫く立つころには給仕を辞めて、エルフィオーレの村に居を構え、移動販売的な飲食店の経営を始める強者が出たことが軽い問題にもなったのだが、この元給仕はナージャと恋仲であったため、俺の独断により国側の問題提起を闇に葬りさり、不問としたのだった。
職業選択の自由だし、わけわからん奴が突然居を構えて飲食店を開くより、よっぽど健全であり安心である。ナージャもこれまで頑張ってくれていたので特別扱いが当然だろう。店を構える時には全力でいい場所を斡旋したいものである。
これは決して権力を振りかざしたり、圧力をかけているわけではない。あくまでも「義理に厚い」だけであることは理解願いたい。
ナージャと恋仲の元給仕は第115話でナージャが想っていた給仕さんです。第146話でエルフィオーレの村に給仕として派遣されたことをきっかけに、二人の仲は深まっていったということですね。
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