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その日の深夜。
日が変わるよりも少し早い時刻に明かりを消す。最後ののんちゃんからの「おやすみ」は、聞くだけで痛ましくなるほど弱々しかった。
いつもは早く眠りにつく体質だけど、今日ばかりは眠ることなんて出来なかった。
隙間なくぴったりと並べた隣の敷布団では、のんちゃんが私と反対側を向いて寝ている。のんちゃんは猫のように体を丸めて眠る。それは今日に限ったことじゃなくて、特別な何かが起こった日はいつもこうだった。
仰向けになり目を瞑った。
どうすれば「ひーちゃん」になって「のんちゃん」に愛してもらえるだろうか。
何分あるいは何時間経ったか分からない。しかし十二時はとうに過ぎていたであろう頃、隣からもぞもぞとシーツが擦れる音がした。
バレたら少し恥ずかしいいから、起きていることを悟られないよう慌てて寝息を立てるふりをする。すー、はー。
「瞳、寝た?」
のんちゃんの息が顔にかかる。
気配からして、私の体に当たらないように馬乗りになっているようだ。
吸気の中に彼女の成分が混じる。やっぱり甘くて、心地が良かった。
「好きだよ」
知ってる、と心の中で呟いた時だった。
私の唇に、柔らかい何かが触れた。
「……ごめんね。おやすみ」
「すー、はばっ」
夕方の私が言った『そういうの』が実際にお出しされた。
のんちゃんの「好き」って『そっちの』だったの!?
「瞳?」
「すー、はー」
いやいや、普通女の子同士で恋愛なんてありえない。姉妹同士でもありえない。
『なにがおかしいんだよう。別にいいでしょ、キスぐらい』
彩瀬が言うには、女同士は別にいいらしい。
『下心とか普通はないよね。ごめんね……』
今になって、引っかかっていたその言葉に合点がいった。
私の抱くのんちゃんへの想いは、恋愛感情なんかじゃなくて、家族への愛だと誓って言い聞かせた。
のんちゃんの抱く私への想いは、恋愛感情だった。
明日から私たちは、白木院希と藤原瞳という部活の先輩後輩、つまり他人同士の関係になる。
のんちゃんは、私が他人の女性から性的な愛情を受け入れられないという前提で、「好きになっちゃう」とか「傷つけてしまう」とか言ったってこと?
……何が「幸せになる資格がない」だ。
ごっこ遊びで留まっていた私は、のんちゃん更には彩瀬にも置いて行かれている気がした。
急いでのんちゃんとの柔らかいスキンシップを思い出す。
怒りと焦燥とは別に、のんちゃんへの想いが熱で膨張した。体積の大きくなった気体がやがて液体に姿を変えるように、私の愛の形が変わる。
勝ち逃げされた気がした。一方的に好きになって、私の気も知らずに別れを切り出して、私を振り回す。
でも彼女のそんな所が―――
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