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瞳視点で、希がお花見部で居眠りをした日に戻ります。
『「私はどんなのんちゃんに何をされても絶対に離れない。だから……ずっと私だけを見ていて」』
我ながら恥ずかしい言葉を口にした。
それ以外にも、私がのんちゃんの愛情を受け入れて優しい言葉をかけたり、一緒に暮らす中で家事やのんちゃんの身の回りの世話を抵抗なくできているのは「ひーちゃん」という人格のおかげだ。
私は「ひーちゃん」になると、ズレているなと思うことでも強気に行動できる。その結果、のんちゃんだけでなく彩瀬の前でも堂々と振る舞えるようになった。
梅雨が明け、季節は夏の真っただ中。のんちゃんと暮らし始めて一か月と半月が経とうとしている。
一学期の期末テストを控えたある日の放課後。今日のお花見部の活動は、彩瀬の提案で期末テストの勉強をしようということになった。部長ののんちゃんはまだ来てなくて、先に二人で決めてしまった。
そういえばのんちゃんが勉強をしている所を私は見たことがなかった。部室では図書室で借りてきた本を読んでるし、家では、私が渋々学校の宿題をしている横でテレビを見ている。
元々は家に置いてなかったけど、少しでも娯楽が欲しくて私が購入した。
テレビを通して社会と繋がった分、二人だけの空間の密度が減ってしまった気がして、少し後悔している。ラジオやテレビが普及する前の当たり前の生活ってどんなものだったのだろう。
「瞳、どの科目からやる?」
「暗記系は夜の寝る前にやるといいんだって。テレビでやってた」
「だったら、数学か理科かな」
「彩瀬はどっちがいい?」
「瞳がやりたい勉強をやりたい」
「何それ」
彩瀬は割と私との距離感が近い。お花見部の和室にある机で勉強しようとしてるけど、向かい合ってではなくわざわざ私の隣に座り、スクールバッグを開いて参考書を取り出す準備をしている。
「じゃあ、数学?」
「おっけ。瞳は数学得意?私は全然なんだけど」
「どうだろ」
のんちゃんが小さく「好きになってしまう」と呟いた日から、のんちゃんの前で彩瀬と親しげに話をしたりボディタッチがあったとしても、暴力を振るわれることはなくなった。
のんちゃんとのスキンシップは柔らかいものになった。
家に帰ってすぐのハグの時間が伸びた。
食事中に私に「あーん」を求める回数が増えた。元々多かったけど、今はほとんど私が食べさせてあげているんじゃないかってほど。
お風呂から出た後に、のんちゃんの長い髪にドライヤーをかけるようになった。以前は濡れっぱなしでも構わないと言っていたけれど。
寝る時につなぐ手は、重ねるものから絡める形になった。
一方で、着替える時は私に「恥ずかしいから見ないで」と言ったりする。あと、私の名前を言い間違えることが何度かあった。「ひとちゃん」とか「みーちゃん」とか。
こんなのは、ひーちゃんにではなく、彼氏でも作ってそいつにやってもらいたい。
のんちゃんとひーちゃんの関係はもっと刺激的で、瞳にとっては異常なものであってほしい。
今の感じだとなんだかこそばゆくて、時々体の中で熱膨張が起こって頭の中で何かが弾ける。
数学の勉強に取り掛かろうとすると、和室の戸が開きのんちゃんが入ってきた。
「こんにちは、瞳さん、彩瀬さん」
「ちわー」
瞳さんと言われ体の熱が冷める。急いで自分の思い描く、のんちゃんと出会う前の藤原瞳に切り替えた。
「お疲れ様です白木院さん」
「ん。二人とも今日はテスト勉強?」
「はーい」
「そのつもりです」
それを聞いたのんちゃんは異を唱えることなく、壁にもたれ掛かって腰を下ろし、バッグから文庫本を取り出した。




