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のんちゃんは病んでいて、ひーちゃんは壊れてる。  作者: れも
4章 希が瞳をアイするまで
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藤原瞳ふじわらひとみ…「ひーちゃん」に生まれ変わって、希に愛されたい。希と同居している。



白木院希しらきいんのぞみ…のんちゃん。瞳を妹ではなくパートナーとして意識しだした。



深森彩瀬みもりあやせ…瞳の友達で、中学時代は光梨の友達。誰よりも光梨の死を受け入れられない。


白木院光梨しらきいんひかり…ひーちゃん。先日事故で亡くなった希の実の妹。真面目で素直、しっかり者で面倒見がよかった。




ここから白木院希のんちゃん視点になります。


 母に首を絞められながら、私は幸せにはなれないだろうなと思った。

 その分、私の背後で泣きじゃくっている妹だけは、守って、守り抜いて、私が幸せにしてあげたいと思った。確か、小学校に入学する少し前のことだ。



 私が一歳のとき、妹の光梨が生まれ、父が姿を消した。

物心がついた頃、母に父のことを尋ねると、母は何も答えなかった。何度か繰り返していると、ある日蹴り飛ばされてしまったから、それ以降は聞いてない。


「ひーちゃんは私が守るから」


 そう妹に伝えると、安心したように笑顔になった。

 そう母に宣言すると、妹の代わりに私が二人分の制裁を受けた。

 そう私に言い聞かせると、辛いことでも耐えられた。



 私が小学六年生のとき、母が姿を消した。

 最後の躾はひーちゃんと二人で受けた。



―――



「お母さん、いつ帰ってくるのかなあ」

「母さんなんかいなくても。ひーちゃんは私が守るから」

「ありがとう」


 二十一時には家に帰ってくるはずだけど、日を跨いだ今の時刻になっても玄関の戸は開かない。


 小学校のクラスメイトに、「うちのマンションの玄関は内側からも鍵を閉めることができて、母の持っている鍵がないと外に出られない」と伝えたら、信じられないような顔をされた。

 あいつなんか帰ってきてほしくないけど、開けようのない扉を目にすると、私たち子どもの力では何もできないことを思い知らされて、母を頼る以外の生き方がなかった。


 夕食は家にあったカップ麺をひーちゃんと二人で分けた。

 母が帰ってくる前に寝てしまうと、何の意味もなく叩いて起こされるから、限界まで目を開ける。だけど本能には逆らえない。先に眠ってしまったひーちゃんを抱きしめ、私の背中を部屋に入り口に向けるよう位置を調整する。

 これで部屋に入ってすぐに蹴られるのは私だ。固いフローリングの上で私も眠りについた。




「のんちゃん、のんちゃん」

「うん、ん?」


 目が覚めると朝になっていた。薄手のカーテンが日光をぼんやりと通し、部屋全体を明るく包み込んでいる。

 ベランダの戸にも鍵がしてあって直接朝の陽ざしを受けることはできないけど、久しぶりに自然と目を覚ますことができたから、外を見るだけでも気持ちがよかった。早く学校へ行きたいと、普段よりもより一層感じられた。

 ひーちゃんが息を潜めて私に話しかける。


「お母さん、帰ってきてないかも」

「違う部屋で寝てるんじゃないの」

「見に行く?」


 私たちにとって自宅は安心できる場所じゃない。二人で手を繋ぎ恐る恐るリビングを横切って移動し、隣接する和室の引き戸に手をかける。


「ひーちゃんは下がって。私が先に入るね」

「のんちゃん、たまには私がやるよ」

「ダメだって。むこうに母さんがいたら、ひーちゃんが殴られる」


 ひーちゃんは手を離してすうっと息を吸う。拳を握って体全体に力みが増した。


「たまには!私にものんちゃんを守らせてよ!」

「シッ。声が大きい」


 耳が痛くなるほどの大声だった。もし隣室に母がいれば、確実に目を覚ましていただろうけど、残ったのは静寂だった。


「ごめんなさい」

「い、いいよ。朝ごはんにしよっか」


 結局この日も母は帰ってこなかった。朝の一件でひーちゃんと気まずくなり、せっかく私たちを遮るものがなかったのに、あまり話すことはなかった。



 その次の日、家にある食料がなくなった。


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