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彼女から生気がなくなり、立つこともままならなくなった。ふらふらとわずかに揺れ動き、やがて床に座り込む。
「どうかした?」
「う、あ」
私もしゃがんで、のんちゃんの顔を窺う。目が合うと、一瞬で彼女の悲哀が伝わってきた。泣き出すのと同時に、まるで女児のような幼さを纏って、彼女は叫ぶ。
「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!っっっっああああああああああ!!!!」
「のんちゃん!」
両手で頭を掻きむしりながら、顔を振り回す。勢いのままに立ち上がり、自発的に壁に頭を打ち付け始めた。見ていることができず、後ろから羽交い絞めにして彼女の制止を試みる。打ち付けた反動で彼女の後頭部が私の鼻頭に直撃する。独特の不快感の後、血液が体外へ流れ出る。
「許して。許して許して許して許してっ」
「わかった!わかったから!怒ってないから!」
「ううううう!」
のんちゃんの自害が収まると、今度は床にうずくまって、小さく「ごめんなさい」と呟き続けた。時折、「また傷つけた」とか「もうしないから」とか「私のせいで」とか「いなくならないで」とか、そんな感じの言葉も混じっていた。
憶測だけど、のんちゃんの謝罪は目の前にいる私ではなくて、亡くなった光梨に向けられていると思う。
それは、少し、いや、全然面白くない。怒りの感情が湧いてくる。
「昔、ひーちゃんと何があったの?」
「……教えられない」
お互いに姉妹だということを忘れ、希と瞳という他人同士の会話になる。自己嫌悪と嫉妬と恥じらいと、その他諸々の感情を全開にする。
「教えてくれるまで、許さない」
床に伏せたのんちゃんが顔を上げる。泣きはらした赤い目が開かれて、驚きを表していた。強張ったその顔は、のんちゃんでも、白木院さんでもない、希という少女のありのままを写していた。今日の部室でのんちゃんに殴られ、私が気を失う寸前に見た類のものだった。
「ごめんね、それはまだ言えない」
そう言われて、私は安心していた。
さっきは熱くなって、藤原瞳に戻っていた。ひーちゃんという居場所を捨てかねない言動をしていたからだとすぐに気づいた。
ほっと肩を撫で下ろして、ひーちゃんとして笑みを作る。
「待ってるね。いつか向き合うことができる、その時まで」
「こんな私と、まだ一緒にいてくれるの?」
希は瞳に話しかける。
「私はひーちゃんだもん。ずっとあなたのそばにいるから」
ひーちゃんは希に答える。
「ひーちゃんには」
「なに?」
「ずっと私の見える所にいてほしい」
彩瀬の顔が思い浮かんだ。そもそもの発端は、私に彩瀬という友達ができたことに、のんちゃんが焼き餅を焼いたことだった。
私がのんちゃんの目の届く場所にいるためには、学年が違うことがネックだなと思った。のんちゃんが留年して同じクラスになれば実現するのだろうか。いやいや、この場合文字通りの「見える」じゃないよね。
「これ以上のんちゃんの知らないところで友達は作らないようにするね。今は彩瀬以外に友達はいないから安心して」
「うん」
「私はどんなのんちゃんに何をされても絶対に離れない。だから……ずっと私だけを見ていて」
私たちは姉妹で、たった一人の家族だ。きっと明日からは元通りになっている。のんちゃんがひーちゃんに、私に甘えて束縛して利用する。
だけど今、のんちゃんは顔を赤くして、伏せた目をちらちらと泳がせている。
「のんちゃん?」
「ただの……だったのに、こんなの」
一度目を瞑ったのち、両の目から涙が零れ落ちた。
「好きになっちゃう」
「……」
『私は私のことが嫌いだ。何をやっても、何かズレているような気がして。
ただそれだけのことで、漠然と、理由もなく藤原瞳という人生に価値がないように感じて』
お願い、のんちゃん。白木院さん。…………希さん。どうか、ひーちゃんを愛して。こんな私を好きにならないで。
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