第百十五話「別れの連鎖」
いつものようにベルナールは、ギルドの前でセシールたちを待つ。最初は珍しがってその姿を見ていた冒険者たちも、今は飽きたのか気にもしない。
そしてバスティたちのパーティーがやって来る。いつも自由勝手に行動しているので、会うのは夕刻がほとんどであった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。珍しいな、朝からギルドに来るなんて」
「はい」
メンバーの少女たちはバスティに目配せしてから、微笑んで中へと入っていった。
「そろそろ王都に帰ろうかと思いまして」
「そうか……」
「残念ですが、もうずいぶん予定を過ぎていて……」
「うむ。この街も寂しくなるな」
バスティには貴族としての生活もある。憧れだけで永遠に冒険者は続けられない。自分とは運命が違うのだと、ベルナールは思った。
「今度王都にも遊びに来てくださいよ」
「遊びか――、戦いになら行くがな」
「あはは、そうですね。王都もこの事件の影響を重く受け止めているでしょう。同じような事態になるのでは、と……」
「そうだな。ただアンディクたちに任せるさ。しかし必要ならば俺を呼べと伝えてくれ」
「はい、お世話になりました」
バスティは少し照れたような表情をして、ギルドに入って行った。
続けて二人の弟子とセシールもやってきた。魔境大解放の騒ぎも収まり、学校は平常を取り戻している。今日から冒険者稼業を再開するのだ。
「師匠! また今日からよろしくお願いします」
アレットはずいぶん大人びた気がする。
「よろしく~」
ロシェルは――。まあ、相変わらずだ。ベルナールは日常が戻ったと微笑む。
「ああ、こちらこそよろしくな」
「さぁ、ベルさん。また稼ぎましょう」
「まあ、ほどほどにしとこうか」
「もう……」
と、セシールは頬を膨らました。ベルナールも微笑する。
受付カウンターには、いつぞやのようにエルワンが座ってベルナールを見ている。
「何か話があるみたいだな。行ってくるよ」
「ええ」
セシールに耳打ちして、ベルナールはギルドマスター殿の元へと向かった。
「朝っぱらから何かあったのか?」
「ギスランの移送が決まりました。明日の朝早くにこの街を立ちますよ」
「そうか……。分かった」
本当にこの街も静かになる。
続いてベルナールは掲示板を眺めているセシールたちの元へと戻る。
「今日はどうしましょうか?」
「そうだなあ、森の訓練で良いだろう。どこも、さほど獲物はいないさ」
新ダンジョンのレ・ミュローにはレディス、アルマたち騎士団がいた。開口封鎖の最終仕上げに入っているはずだ。
他のダンジョンにも冒険者は大勢いるだろう。皆、最後の稼ぎと戦っているのだ。
サン・サヴァン全体が平常に戻りつつある。
ベルナールたちは森に入った。小物の数はいつもより多い。良い訓練日和だった。
アレットもロシェルも街の危機を経験して、少し精悍な顔つきになった気がする。こと戦いに望めばだが。
若い者の成長は早い。もう少し経験を積めば一人前の冒険者になるであろう。
◆
そして夜、ベルナールはいつものように、ギーザーのカウンターにいた。
「王都の連中が引き上げ始めたよ。もっと居てくれりゃあいいのに。気が利かないな」
「店は儲かったんだろ?」
「まあな。一時はどうなるかと思ったけどな」
ゴースト騒ぎのおり、酒場のほとんどは閉店に追い込まれていた。しかし特別種が討伐されてから、王都から来た若い兵が堰を切ったように夜の街に溢れたのだ。
ギーザーも大いに売り上げた。古女房と娘たちを手伝いに呼んで、店の外に屋台とテーブルを出して酒を提供した。
今夜はもう遅い時間なので、若い兵が二人テーブルにいるだけだ。夜の三交代警備を終えた、飲み始めのようである。
「俺たちの帰還隊に元冒険者の大物がいるんだってな。知ってるか?」
「ああ、反乱とかの容疑らしいな」
「こっちの兵も少ない。大丈夫か?」
「何だよ……」
「仲間の冒険者たちが奪還しようって、襲ってくるとか……」
「冗談じゃないぞ――、あっ、マスター。ビール二つお代わりで」
「はいよ」
マスターは笑いそうになりながら、ビールをついでテーブルに運ぶ。
「まさか、そんなことないですよねえ?」
「当たり前だよ。なんでまたそんな心配を――」
「王都を出る前に、この街の冒険者たちと一戦あるかもって噂があったんですよ」
「そうそう、俺ら輜重隊も戦闘訓練したしな」
「どうなんだ? この街のベテラン元冒険者さん?」
マスターはベルナールに話を振る。
「まさかだよ。王都には化物みたいな強いヤツが大勢いるんだ。冒険者は負ける戦いはしない」
「だってさ。安心して帰りな」
ギスランのパーティーメンバーだった者たちはジェリックがうまくまとめている。そんなことは万が一にも起こらない。
この街の冒険者たちは皆、新しき道へ向かって進み始めている。そしてベテランの元冒険者は再び忘れられた存在になりつつある。王都へ帰還する車列を襲う者などいない。
「そうだよな。この街には勇者はいないし、王都には筆頭騎士がいる」
「だけど今の筆頭騎士なんて見たヤツはいないんだぜ。本当にいるのか?」
「いるよ。戦いには出ている。騎士団以外は近づけないような戦場で戦っているんだ。当然だろ?」
かつてブラッドリーが筆頭騎士を務めていた。勇者と互角に戦える戦力だ。久しぶりの大戦は、昔を思い起こさせてばかりだった。そろそ帰って寝るか――、とベルナールは思う。
「マスター! もう一杯だ」




