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第百十六話「復活の冒険者」

 ベルナールは街から少し離れた街道筋の傍に立つ。朝もやの中、王都に帰還する輜重隊の先頭が見えてきた。


 こんな時間にこんな場所にいる冒険者ふうのおっさんに、馬車の操者たちは訝しい視線を送る。無理もない。


 ベルナールにとって懐かしい魔力が感じられた。それは堅物で慎重で、そして不器用な魔力であった。間違えるはずもない。こんな状況でも、抑え切れない何かが発散している。ベルナールだからこそ気づける腐れ縁だ。


「悪いがちょっと乗せてくれるか? うしろの荷物に用事があるんだよ」


 その馬車に歩きかけながら話しかける。相手はベルナールの顔を思い出したような表情だ。


「あんた――」

「昔馴染みさ。そう、俺は昔アンディックとパーティーを組んでいたこともあるんだ。頼むよ」


 ここはコネでも何でも使うべきだ。魔導師様の名前を出せば――。相手は運良く昨夜ギーザーにいた若者だった。まさか奪還組とは思わないだろう。


「まさか勇――」

「違うよ……。乗るぜ」


 ベルナールは荷台に飛び乗った。荷物に混じってギスランが座っている。


「ベッ、ベルナー、ル……」

「久しぶりだな。ギスラン」

「何しに来やがった!」

「なに――、昔話さ」


 予想したとおりギスランは目をむいた。意外と元気そうでベルナールはホッとする。魔導の手(かせ)足枷につながれていても目はギラついていた。ベルナールは向かいに座る。


「俺様を笑いに来やがったのか?」

「相変わらずひねくれてるな。元冒険者が元冒険者を笑ったりするかよ」

「これを見てみやがれっ!」


 ギスランは両手を突き出し、鎖がジャラリと音をたてた。アンディックたちの仕事は完璧だ。まだ頭に血が上っているのだろう。自分が何をやったのか冷静に理解出来ていないようだ。


「こんなふうに二人で話すのはいつ以来かな?」

「A級のミノタウロスを討伐した時以来だ……」

「そうか、そうだった。よく覚えているな。感心するぜ。三日も追い続けていた獲物を、お前が横からかっさらったんだよなあ。してられたと思ったぜ」

「文句があるのか? あの時、俺は三日も待った。その間に仕留められなかったお前が悪い」

「別に怒っちゃいないよ。たいしたもんだって感心してたんだぜ。あの場所で待ち伏せしていたんだからな。そう、確かそうだった」


 もう一昔以上前の古い話だ。その時、ベルナールはまんまと出し抜かれた。


「だから何しに――」

「さあなあ。俺にも分からん」

「バカに――」

「だからそうじゃないって。ジェリックも王都に行くらしい。アンディックが言ってた」

「あいつめ……」

「仲間に恵まれたな。羨ましいぜ」

「バッ、バカにしやがって……」

「じゃあな。またそのうち会おう」


 ベルナールは荷台からふわりと飛び降り、古い知り合いに背を向けたまま片手を上げる。そしてサン・サヴァンに向かって歩き始めた。後続には何台もの馬車が連なっていた。



「あっ、ベルさんっ」


 それはバスティの叫びであった。ベルナールは立ち止まり振り返って声を張り上げる。


「無理はするなよ。強くなりなっ!」

「はいっ!」


 そしてパーティー全員が身を乗り出して手を振る。良い仲間たちだ。剣闘士(グラディエーター)のアレク。魔導闘士(ソーサエーター)のイヴェット。魔法使い(ウィザード)のリュリュ。


 ベルナールは昔、キラキラと輝く瞳で自分を見上げていた少年を思い出す。


 本当にこの街も寂しくなる。そして仲間たちの車列が見えなくなるまで見送った。


   ◆


「ベルさん! いましがた王都から通達が来ました!」

「何だよ。それがどうかしたか?」


 ギルドに戻ると、エルワンは見るからに興奮していた。ほとんどの冒険者たちは狩り場に散っていたが、馴染みの顔ばかりがたむろしている。


「読みます! 戦力外通告に特例措置を設ける。同ギルド内でAクラス以上の冒険者三名の推薦があれば現役復帰とする! です」


 以前レディスが言っていた噂話が本当になったのだ。


「そうか……。しかしだな――」

「ベル。私の冒険者登録は今もこの街のままなのですよ」

「それに私でしょ。これで二名よ」


 アンディックとセシリアが続けて言った。


「ああ、だがその先がないんだ」

「デフロット!」

「なっ、なんだよ……」


 エルワンが一段高い声を上げてデフロットを名指しする。


「新階層でのA級種の共同、単独討伐。続いての魔境大解放ダンジョン・クライシスでの活躍によりパーティーをAクラス、リーダーのデフロットもAクラスとする!」

「なっなんだと――、そうなのか?」

「さっき中央ギルドの評議会で決まったんだ。他のメンバー、ステイシー、ドルフィル、ローレットは共にBクラス昇格だ」


 名前を呼ばれた者たちはハイタッチを交わす。


「そうか、俺しだいなのか……」


 皆がそれぞれの表情を見せながらデフロットを伺う。ベルナールは少し緊張して、ステイシーは少しニヤニヤとしながら、アルマは当然と言った顔で。


「元冒険者のヘルプに勝ったって面白くないぜ! おっさんには現役に復帰してもらわなきゃあなあ……」

「ふふっ、そうか?」

「やりますか? 俺、負けませんから」

「冒険者同士でやるかよ。金にならん……。それに、普通に俺が勝ってもつまらないだろ?」


 ベルナールは苦笑し全員が笑った。



 第三章「街を守る男」

 〈了〉


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