第百十話「驚異の行方」
「偽じゃねえのか?」
自身をより強力に見せる能力を持つ魔物もいるが、しかし……。
「間違いないな。SSS級だ……」
「マジかよ、どうすりゃいいんだよ」
「知れたことだ。戦うんだよ」
「冗談じゃねえぞ……」
「あれだって魔物だ。そして俺たちは冒険者だ。ただ、それだけだ」
デフロットにしては珍しい弱音を、ベルナールは正論でいさめる。一戦も交えず、逃げる選択肢などありえない。
「くそっ!」
せいぜい戦えばいいのさ、とそれほど心配はしない。それが冒険者、ベルナールの流儀なのだ。
「せめて、街の人々を避難させるとか……」
「そうですよ!」
バスティの意見にエルワンは同調する。中間管理職としては、まずは中央ギルドに報告をあげたいのだろう。魔境大解放の封鎖に失敗した場合は、速やかなる街の全避難である。
バスティも出自が分かる反応だ。領民を守ってこそ貴族なのである。
「どこに逃げるっていうんだ? あいつはおそらくゴーストの支配下にあるぞ」
「ああ……」
エルワンは頭を抱えた。まずはベルナールたち冒険者を始末して街を焼き払い、そしてこの国と世界に存在を知らしめる。そんな計画が頭に浮かぶ。
「動くぞ!」
更に魔境は大きく揺れた。ドラゴンの羽ばたく波動が、大小の落石を粉々に粉砕し、揺れはいっそう激しくなる。
「まずいな。一気に地上に引くぞ……」
「中の冒険者たちも待避させましょう。落盤の危険性があります」
ここにいる冒険者たちにとっての、未知の脅威はゆっくりと上昇を始めた。伝説が活動を開始する。
「全員待避だ――いや、地上であいつを迎え撃つ……」
「ここは撤退だ! 急いでっ!」
ベルナールの言葉に呼応してエルワンが叫ぶ。
皆が後方へ向かって駆け出した。しかしレディスは歯噛みして一歩ホールへと踏み出す。アルマとオーウェンもその姿に気をつかって動けないでいた。
「よすんだ。街の揉め事は俺たちの範疇だぞ」
「……」
レディスは振り返ってベルナールを睨む、いや、その表情は哀願へと変わっていた。
「あれはゴーストでもありますが、ドラゴンでもありますね。なあに、あいつらを追い出しますから、レディスはそのあと存分に……」
「……はい……」
そして目を伏せて、しぶしぶではあるがアンディックに従う。アルマたちは安堵した表情になった。
全員が上を目指して全力で走る。
「そういえば最近ドラゴンが多かったなあ。あいつの影響だったのか?」
「あの卵は必要な魔力を集めていたのかもしれませんね。自分が喰うために……」
ベルナールとアンディックは殿を務めながら状況を分析する。
「かろうじて喰われなかったのが、ドラゴンに実体化して外に出ていたのか。他の魔物も取り込んでいたな」
「それはエサでしょう。三体のゴーストも中に入っています」
「ちっ、SSSのドラゴンでゴースト? 本当に冗談じゃないぞ……」
途中下層への道を押さえていた冒険者たちと合流し、全員で地上を目指す。
「奥の手はどうですか?」
「どうかなあ? いけると思うぞ」
そんな脅威を目の当たりにしても、ベルナールの胸には複雑な寂しさが去来する。この旅も終りが近いと。
楽しんでいた遊びが終る時はいつもこうだった。次は何が待っているのかと、胸を弾ませる歳でもないのだ。
侵入した陥没跡に出て地上への傾斜を登り切る。一行をジェリックが出迎えた。
「新たな口が開きつつあります。全冒険者に距離をとらせつつ、周囲の魔物を掃討中!」
「それでいい。大物が出るぞ!」
息を切らせてロッティが走って来た。
「一体何が始まるのですか――?」
「楽しいショーの始まりさ」
新開口からは岩石と土砂が断続的に吹き上がっていた。驚異の圧力が地上に現われる寸前だ。
最初は二翼の突起が見え、そしてその羽ばたきと共に一気に地表が削られる。長い首、胴体、漆黒の巨体が現われ、作られた周囲の障壁が開口の岩盤を破壊する。
「これって……」
「SSS級のドラゴンだよ」
さすがにジェリックは一瞬で看破する。それを見上げるロッティに告げた。
「全員森の近くまで引かせろ。俺たちでケリをつける」
「はっ、はいっ!」
「他の魔物をあいつに近づけさせるな。吸収される」
「任せて下さい」
ロッティ、ジェリック共に自分の仕事をよく分かっていた。二人は後方に下がり、ベルナールたちは前に出る。




