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第百八話「最下層」

 そこは巨大なホールであった。魔核が光る天井は三、四階層上までに高い。ここもまた落盤の可能性がある。


 目の前には巨大な障壁が張られ、先は見えない。魔物たちはその先にいる。


「念の入ったことだな」


 魔物をけしかけることも出来るが、そうしないで何を今更守るのかとベルナールは呆れた。それこそがゴーストの目的である。このメンバーならば、それ(・・)が何であったとしても打ち破れるであろう。


「よしっ、セシール。弓を射りなさい!」

「私? ロシェル、やってみて」

「はい~」


 セシリアからの振りを、セシールはロシェルに振る。まずはこの障壁の強度を試すのだ。


 そして放たれた矢の力強さにベルナールは驚く。弟子たち成長は著しい。しかし障壁に変化はなく、矢は簡単に弾かれた。


「次は私ね」


 続けて放たれたセシールの更に強力な一撃も、壁にさしたる変化を与えなかった。


「だめだわ。これ、なんて障壁なのよ……」

「さてさて、ここで私の出番ね。よく見てなさい――」


 真打ち登場とばかりに、セシリアは聖弓ディアメネシスを引き絞る。


「――この力を、力でねじ伏せてこその勇者……」


 ベルナールは制御で、アンディックは魔法で、そしてセシリアは力――、魔力で神器(じんぎ)を使いこなすのだ。


「それっ!」


 放たれた矢が障壁に突き刺さる。そこから解放された魔力が、稲妻のごとき紋様で広がり火花を散らす。面全体に浸透しつつ破壊を続けた。


「さあーて、どこまで耐えるのかしら?」


 そこかしこで障壁の一部が割れ始め、弾けるように光の粒に変化して、地面に降り注ぎ消滅していく。


「上手くいったな――」


 破壊された場所から蠢く魔物の影が見え隠れする。


「――来るぞ! 備えろ!」


 ベルナールのかけ声に全員が武器を構え直す。障壁の消失と同時に多数の魔物が襲い掛かって来る。全員で剣を振るい、矢を射り魔法の攻撃を加えた。


「やっと暴れられるぜっ!」


 圧力をものともせずデフロットが前に出、パーティーの仲間たちもアシストしつつ続く。


「俺たちも行くぞっ!」


 負けじとバスティも前に出、アレクは苦笑いしながら援護した。若者たちの戦いに、ベルナールは少し遠慮をする。


「二人共下がって! アレットと援護するからロシェルは矢を――」

「はいっ」

「はい~」


 セシールは弟子の二人を守りつつ後退し、ロシェルは矢を放ちアレットは接近する魔物に剣を振るった。


「私たちも負けてられん!」

「競争じゃないんだから……」


 強敵を選んで向かうアルマを、オーウェンは牽制しつつ援護する。


「うわっ」


 戦いに巻き込まれそうになったエルワンをかばいつつ、ベルナールも後退した。


「乱戦になるから下がっていろ」

「そうさせてもらいます」


 狭い空間で敵味方入り交じった戦いでは、むやみに神器(じんぎ)の力は使えない。セシールは隙をついて力を抑えた矢を放つ。


 魔物の壁に空間が開いて先が見えた。巨大な球体が鎮座し、魔物はまるでそれ(・・)を守っているかのようだ。


「あれか……」


 ベルナールは全員の戦いに目配せしながらも、その最終目標を観察する。


 それは巨大な卵のように見えた。透明な殻の向こうへと、魔物らが次々と吸い込まれていく。。そして、その中心では黒い影が渦巻いていた。


「吸収しているだと?」


 アンディックが戦いながらベルナールに背中を合わせる。


「あれが本命です」

「ああ、一気に殲滅しよう。あんなモノは見たことがないぞ!」


 ベルナールの中であれ(・・)は危険との信号が点滅した。殻の中に籠もり魔物を吸収する渦巻き。それは驚異以外の何者でもないであろう。


「セシリア! 狙えるか?」


 ゴーストの目的の殲滅を急がねばならない。


「任せて!」


 セシリアは場所を移動しながら、聖弓に矢をセットする。アンディックはその位置を睨みながら、魔撃を何発か群に打ち込んだ。回廊が形成されセシリアはその隙を見逃さない。


「それっ!」


 二人の連携で矢は謎の物体に命中する――と思われたが、卵から発した光に弾かれる。


 群の中で虚しくも魔力爆発を引き起こし、魔物を何体も切り裂くが、その細切れさえも殻の中に飲み込まれていく。


「くそっ! 攻撃が通じん!」


 卵の殻自体が自動で防御障壁を張っていた。ベルナールはどうしてやろうかと考え、後方の一段高い場所に動く影に気が付く。


「あれは……」


 三人の黒い人形(ひとがた)が現われる。その頭部に人間の顔が浮かぶ。ゴーストだ。


「おおおおぉぉ――っ!」


 すぐさまレディスが反応し、跳び上がって魔物の壁を越えようとする。しかし卵から発した光に襲われ、自身が作り出した防御障壁ごと弾き戻された。その体をベルナールは受け止める。


「一人で無茶するな。俺たちもいる……」

「す、すいません……」



 《人間ごときが越えられるモノではないわ……》


 しゃがれた声が、ここにいる全員の頭に響く。ヒュドラの姿をしていたゴーストだ。


 《これがゴーストの究極体よ》


 この声はワイバーンである。


 《世界を支配する力だ……》


 そしてサイプロクス――。これがゴーストの仕掛けなのだと、ベルナールは歯噛みする。



 卵の上部がまるで開花のように開き、三体のゴーストたちは黒い霧となりそこに吸い込まれていった。ゴーストが吸収したのか、それともこの卵に吸収されたのかは分からない。


 これはゴーストの合体だ。他の魔物たちも、その中へと一気に吸い込まれていった。


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